CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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病床の少女にぬいぐるみを 2

 

 ここ数日、ソフィはとても不思議で、けれども決してプラスではない感情を抱えていた。

 

(シューイ、最近、わたしがいなくてもララのとこに行くことが増えた)

 

 ソフィがいない時を狙ってシューイは出かける。ソフィが「一緒に行く」と行っても、シューイははぐらかして、決してソフィを連れて行ってはくれない。

 

「ねえパスカル、シェリア。シューイはわたしがキライなのかな」

 

 宿屋での夜。同室の二人に思いきって打ち明けてみた。

 

「どうしたの、急に」

 

 ほどいたツインテールをブラシで梳いていたシェリアが、手を止めた。

 

「あのね。なんだか最近、シューイがわたしを避けてる気がするの」

「あ~。そういえば、ララだっけ、その子んとこに通ってんだったね」

「うん。何してるの? って聞いても、『出来上がってのお楽しみだ』としか答えてくれないの。ララに聞いても、『ひみつ』って」

 

 シェリアとパスカルが顔を見合わせ、彼女たちは同時に笑顔でソフィを見やった。

 

「大丈夫よ。シューイがあなたを嫌うはずないわ。現にそうやって何かを贈る準備をしてるじゃない」

「おく、る? 誰が? 誰に?」

「シューイが、ソフィに」

「何を?」

「そこまでは私にも分からないけど。けど、隠すってことは、きっとその贈り物に驚いて、喜んでほしいのよ。他でもないソフィにね」

 

 贈り物なら貰ったことがある。小さな頃のアスベルがくれた、クロソフィの花一輪。その一輪はシェリアにあげてしまったが。

 あの喜びをまた貰えるのだろうか。アスベルでもヒューバートでもシェリアでもなく、シューイから。

 

「シューイはララとは何もないからソフィは心配無用ってこと」

 

 ララとは何もない。そのフレーズはことんとソフィの胸に落ちて、ふわりと安心感を広げた。

 

「そっか――」

「安心した?」

「うん。した」

 

 するとパスカルもシェリアも意外そうな顔をした。そんな顔をされる覚えのないソフィは首を傾げた。

 

 

 

 

 まるでソフィの不安を払うように、翌朝、シューイのほうからララの見舞いに行かないかと誘われた。

 ソフィはもちろん「行く」と答えた。

 

「あ、でも、ぬいぐるみ、もうない」

「いいんだよ。お前は手ぶらで来ればいい」

「シューイが持ってるから?」

 

 ソフィはシューイが抱えた小さな紙袋を指した。

 

「……ま、そんなことだ」

 

 ソフィたちは宿を出てララの家に向かった。

 

 ララの家に着いて、ソフィは一番にドアノブを掴んだ。

 だが、ドアノブはガチャガチャと鳴るだけで回せない。ドアを開けられない。

 

「おねえちゃん」

 

 ふり返る。そこには防寒着を着たララと、見覚えのない女性が立っていた。

 

「お母さん。ソフィおねえちゃんとシューイおにいちゃんだよ」

 

 女性は深々と頭を下げた。

 

「ララの母です。今日まで娘に良くしてくださってありがとうございました」

「おねえちゃんが、ぬいぐるみをたくさんくれたから、心が元気になったの。だから、行かなきゃ。ともだちになってくれてありがとうね、ソフィおねえちゃん」

「――やっぱり霊魂だったんだな。ララ」

 

 シューイの台詞に対し、ララは泣きそうな顔で笑った。

 

「レーコン?」

「もう死んだ人の魂だけが現世に留まってたんだ。死んだことが理解できず彼岸に往けない者、現世に強い未練があって留まる者。それがララだったんだ。ララも、ララのお母さんも、本当は何年も前に死んでるって街の人が言ってた」

 

 愕然とする、というのがどういう心地なのか、ソフィはこの日初めて知った。

 

「シューイ、知ってたの? ララが、本当はいない、って」

「知ってた。おれは家系的にそういうのが視える体質だから」

 

 シューイはわずか俯いたが、すぐ顔を上げてララに微笑みかけた。

 

「ララ。そっちにおれのお祖母さんとひいひいお祖父さんがいるから、よろしく伝えてくれるか?」

「どんな人?」

「天使みたいに美しい女性と、とても穏やかで優しいご老人だよ」

「わかった。シューイおにいちゃんもありがとう」

「手作りくまさん、間に合わせてやれなくてごめんな――それじゃあ、さよなら。おやすみ」

 

 ララは母親と手を繋いで、空気に透けるように消えた。

 消えるまで、ずっと、手を振り続けて。

 

「――ねえ、シューイ。手作りのくまさんって、なに?」

「おまじないだよ。『自分の名前をつけた手作りのくまを好きな人にプレゼントしたら、その二人は一生両想いでいられる』。ララと一緒に作ってたんだが、やっぱりどうしても、大人と子どもとじゃスピードが違って、おれのほうが先に完成した」

 

 シューイは抱えていた紙袋からぬいぐるみを取り出した。茶の毛並みで、花柄のリボンを巻いたくまだ。

 

「シューイはくまさんあげる人、いるの?」

「…………」

 

 シューイはそれなりに長い間を置いて、ソフィにくまを差し出した。

 

「わたし?」

「元々お前にやるつもりだった。名前は『シューイチ』だ。可愛がってくれると有難い。別に両想いになりたいとかじゃなくて、おれの自己満足だから。いらないならシェリアあたりにやってくれ。ララの家に置いてきてもいい。――さ、宿に帰るぞ」

 

 シューイが歩き出した。

 ソフィはすぐにその背を追うことができなかった。

 

(シューイチ。シューイの本当の名前。これ持ってたら、わたしとシューイ、両想いになっちゃうのかな。両想いって、シューイがわたしをスキで、わたしがシューイをスキになるってことだよね。そうなったら、どうなっちゃうんだろう。今の関係は、崩れたり、しないのかな……? 少し、怖いよ、シューイ)

 

 ソフィはくまのぬいぐるみを胸に抱いた。

 心に芽吹いた感情に、上手く名前をつけられないまま。




 一度はやりたかった、手作りのくまさんネタ。
 ララのサブイベントを知り、ここしか投入のしどころはないと思いました。
 聞き込み調査は長引いたのだと解釈いただければ幸いです。

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