CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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暖の取り方

 ライオットピークで得たフェンデル兵の扮装をしていたため、フェンデル行きの船には問題なく乗船、下船できた一同。

 

 そしていざフェンデルの地を踏むなり、マリクを除く全員が、その極寒に震えた。防寒仕様の兵士服をまとっているにも関わらず、だ。

 

「ソフィ、大丈夫?」

「平気」

 

 訂正。ソフィとマリクを除く全員が、であった。

 

「あがが~、寒い~。ソフィにくっついて暖を取ろうかな~」

 

 パスカルの台詞を聞いてソフィが隠れたのはアスベルの後ろ――ではなく、シューイの後ろだった。

 その事実に気づくまで二拍置き、それからシューイは全身が沸騰しそうになった。フェンデルの寒さが何のその、である。

 

「――ソフィを湯たんぽにしようとするな。ほら」

「ん? コート?」

「貸してやる。あんた、この中で一番薄着だろう。それ着ていいから、ソフィに触るな」

 

 パスカルはさっそくシューイのロングコートを着た。そして、辟易した。

 

「重い……」

「符やら占術の道具やら色々入れてるからな。世界に一着しかない特注品だ。大事にしてくれ」

 

 母の親友が作成してくれたコスチュームだ。収納だけでなく、寒暖両用の布地や、シューイが好む中華風のデザインなど、様々な工夫が凝らされた、シューイ専用のオンリーワン。

 ……もっともたった今「オンリーワン」ではなくなってしまったが。

 

「シューイは上着貸して寒くないの?」

「まあ、な」

 

 ソフィがそばにいる限り、シューイの体温は右肩上がりなのだ。

 

「やっぱいい。返す。寒さより重さで倒れそう」

「そうか」

 

 パスカルが押しつけてきたロングコートを有難く返してもらった。

 

「密偵の事前の報告によると、大煇石(バルキネスクリアス)の所在は帝都ザヴェートからそう離れた所ではないようです」

「ザヴェートまでは遠い。まずはこの先にあるベラニックの街を目指すのがいいだろう」

 

 ヒューバートがマリクを睨んだ。疑心を隠せていないまなざしだ。大方、マリクがフェンデルの地理に詳しいから不信感を抱いたのだろう。

 

 

 

 

 アスベルらがベラニックという街へ向かう道中では、もちろん魔物(モンスター)が出現することもあった。

 事前にライオットピークという場所で鍛えたためか、魔物(モンスター)自体は呆気なく撃退できたのだが。

 

「お。ストラテイムの角じゃん。ゲット~」

 

 パスカルは倒した魔物(モンスター)の角を拾って直接ウェストポーチに突っ込んだ。

 

「毛皮や蹄ならともかく、角なんか何に使うんだ?」

「ストラテイムは煇石(クリアス)のかけらを食べる魔物(モンスター)で、角には摂取した煇石(クリアス)のかけらの原素(エレス)が蓄積するんだ。フェンデル国内の辺境の街では、燃料代わりにもできる貴重な品なんだ」

「燃料用の煇石(クリアス)は流通していないんですか?」

「この国は煇石(クリアス)の産出量が少なく、そのほとんどを帝都に住む富裕層が独占している。辺境の民の暮らしが困窮しているにも関わらず、な。それがフェンデルの現実だ」

 

 煇石(クリアス)が手に入らない。アスベルが暮らすウィンドルでも、おそらくストラタでも、考えられない光景だ。

 

 フェンデルについては「敵国」という曖昧なイメージしかなかったが、こうして現実を突きつけられると、胸が塞いだ。

 国なのだから、民がいて、その中には女子供や老人など様々な人がいて、中には苦しい生活をしている者がいることもありえるのに、アスベルは今まで全く想像もしなかった。

 

「せっかくだ。ストラテイムに当たったら、角を拾いながら行くか。今日の宿でストーブが使えなかった時の保険に」

「とか何とか言って~。シューイってば、煇石(クリアス)のかけらが集まらなかった宿の人のこと心配してんでしょ~?」

「――そういう意味じゃない」

 

 シューイは不機嫌そうにパスカルから顔を逸らした。

 

「シューイ、優しい」

「っ、は、早く行くぞっ」

「ちょ、シューイ速い! ソフィも合わせなくていいから! ていうか久しぶりだなこのやりとり!」

 

 そこからの道中は、シューイの言うように、ストラテイムを見つけるたびに撃退後に角を回収した。

 ベラニックに着く頃には、角は合わせて5個集まっていた。

 

 

 

 

 

(ほとんど仮設住宅っぽい造りなのも、初めて来た頃から変わらないな)

 

 ベラニックに着いてすぐのシューイの感想である。

 

 ベラニックは、雪国にしては防寒仕様の建物が少ない、そんな村だった。

 家々の木材は雪という水分の侵食で色褪せ、黴が生えているものもある。加えて木材と木材の隙間を埋める処置も間に合わせに板を打っただけの民家も多く、隙間風に住民はさぞ寒い日々を過ごしているだろう。

 

「教官」

 

 ソフィがマリクに声をかけた。

 

「昔のこと考えてたの? 昔のこと考えると、苦しい?」

「……そうだな。成すべきことを成せなかった己の弱さのせいで、この今があると思うと……」

「なすべきことを、なせなかった」

 

 マリクたちが村に入っていく。

 ソフィは俯き、胸を押さえて立ったままだ。

 

「大丈夫……じゃなさそうだな。どうした?」

 

 シューイは屈んでソフィと目線の高さを合わせた。赤面しない程度の距離を空けて。

 

「――わたしも。昔に何かをしようとしていた気がする。もっと大変な、何かを」

 

 その時、ソフィがまるで遠くへ行ってしまうような気がして。

 シューイは反射的にソフィの頬に手を伸ばしていた。冷たかった。

 

「昔は昔だろ。今は今。アスベルたちといるソフィが、おれにとっては『ソフィ』の全てだ」

「――そう、かな。そうだね。うん。ありがとう、シューイ」

 

 ソフィはふわりと微笑んだ。

 この表情がシューイは好きだが、同時に苦手だ。どうしても心臓が早鐘を打つから。

 

「行くぞ。遅れたって知ったら、あいつらまで心配しかねない」

「わかった。行こう」

 

 シューイはソフィと、先に行ったアスベルたちを追いかけた。

 

 

 アスベルらと合流すると、道端で煇石(クリアス)のかけら探しをしている幼い兄妹の近くにいた。

 どんな話に転がったか知らないが、パスカルがストラテイムの角を幼い兄妹に渡した。

 幼い兄妹は礼を言って、シューイとソフィの横をすれ違って去った。

 

「あ、ソフィにシューイだ」

 

 パスカルが一番にシューイらの到着に気づいた。

 

「ごめんなさい。遅れてるとは思ったけど。ソフィ、もしかして体調が悪くなった?」

「う、ううん」

「何もなかったよ。おれが見てた」

「シューイがそう言うなら安心ね。あ、そうだわ。ストラテイムの角。さっきの、宿屋さんの子どもたちに渡しちゃったけど、よかったかしら」

「何でおれに聞くんだ?」

「角を集めようって言い出したのはシューイでしょ? 勝手に譲ってよかったかしらって」

「いいさ。そもそもそういう事態も想定して集めようって言い出したんだし。それよりさっきの子たち、宿の子なんだろ? 今なら格安で泊まれるかもしれないぞ」

「……アスベルといいヒューバートといい、男の子ってどうしてそう小金に拘るのかしら」

 

 シェリアが呆れたように肩を落とした。後ろでは首を傾げるアスベルと、むっとしているヒューバート。

 

(小遣いの値上げ交渉に未だに拘ってたり、魔物(モンスター)退治の時に実入りが少ないとか言ったりすれば、シェリアにそう思われても当然だって自覚しろ、兄弟)

 

 ――宿に行く前に、シューイらは廃屋で隠れてフェンデル軍の軍装を脱いでいつもの格好に着替えた(もちろん男女別に)。兵士が泊まるなどと言い出しては、宿の経営者を驚かせてしまう。

 

 そして、いざ例の宿屋へ入った。

 

「まあまあまあ、あんたたちだね。うちのチビたちに貴重なストラテイムの角を譲ってくれたのは」

「たまたま持っていただけです。どうか気にしないでください」

「本当にありがとう。大切に使わせてもらうよ」

「あの、お嬢ちゃんの具合はどうですか?」

「ああ。だいぶ落ち着いてきたよ。あんたたちがうちの子を早く帰してくれたおかげさ。お代はいいから、うちに泊まっていっとくれ。うちの子の恩人にささやかなお礼だよ。大したものはないけど、腕によりをかけて料理するからね」

 

 宿のおかみがカウンターの奥に引っ込んだ。

 

「One who is kind to others is sure to be rewarded.」

「?」

「情けは人のためならず、って意味だ」

「シューイってたまに不思議な言葉を使うわよね」

「留学先の言語が染みついてて。たまに出てくる」

「留学先、ねえ」

「おれが元いた世界でだから、いくら詮索しても情報は出てこないぞ」

 

 ヒューバートは隠しもせずシューイを睨んだ。

 

「シューイさん、率直に聞きます。あなた、ここに来たことがあるんですか」

「あるぞ。例によって、さくらカード探しで。ここには多かったな……『火』(ファイアリー)『地』(アーシー)『迷』(メイズ)。3枚もいたから、なかなかザヴェートを出られなくて」

 

 シューイはロングコートの内ポケットから、今言った3枚のさくらカードを出して見せた。

 

「寒いのは苦手だったから、とにかくさくらカードを急いで掻き集めて、ラントへ入って、ソフィやアスベルと会ったんだっけ――」

「ちょっと待ってください。あなた、フェンデルとラントの境界の砦を越えたんですかっ?」

『幻』(イリュージョン)で姿を消して通った。大体の国境や領境はこいつに頼ってるんだ」

「あの妙な映像を映し出したカードですか。あんなシロモノを何枚も持ってるなんて。本当にあなた、何者なんです」

「異世界人って言っといたはずだ」

「信じられません」

「きっぱり言うな」

「ぼくは隠し事をする人は昔から嫌いなんです」

「ヒューバート。そのくらいにしておけ。せっかくもてなしてくれるんだ。今はあのおかみさんの厚意に甘えよう」

 

 シューイに向けたものより鋭く、ヒューバートはマリクを見据えたが、すぐにやめて食堂へ向かった。

 

 やはり雪解けはいまだ遠い。




 パスカルとシューイの暖の取り方、そしてフェンデルそのものの暖の取り方でした。

 香港人は寒さに弱いらしいのは、アニメ版で小狼&苺鈴で描写されていたので、シューイも、弱いというほどではありませんが、寒いのは苦手という描写にしてみました。
 ただし香港人は暑さには強いとどこかで聞いた気がするので、ストラタの砂漠ではケロッとしていたという脳内設定です。

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