CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
“まだ足りない、のか? 力が必要、なのか? 君と、僕の、理想のために……君は、何者なんだ?”
“このままだと僕はアスベルやソフィを……違う、彼らは、僕を裏切ってなんかいない。友達……なんだ。ともだち……く、ううウウウ、うああああアア!”
…
……
…………
最悪の目覚めだ。
シューイは重い気分で体を起こした。
(えーっと、確かフェンデルに潜入するために、ライオットピークに行って、ストラタの密偵と落ち合うんだったっけ)
ライオットピーク。またの名を闘技島。三国のどこにも属さない自由地域の小島だ。
行くのは久しぶりだ。他ならぬその場所から、シューイの、さくらカード集めは始まった。
正確には、シューイがエフィネアで初めて降り立った地が闘技島だった。
島のてっぺんに着地するなり、まさか同じ境遇の「ある男」と出会うことになるとは思わなかったが。
(で、ライオットピークに行くためにユ・リベルテから船に乗って、ここがその船の上で。ああ、くそ、頭が痛い。夢にまで出てくるなよ。嫌でも心配になるだろうが)
シューイは未だ重い頭を揉みながら甲板に出た。
「人の話を聞いてください!」
この声はヒューバートだ。激昂しているようだ。
声がしたほうへ行けば、船の穂先に近い場に、ヒューバートとアスベルとパスカルがいた。
「大体あなたは、なぜ
「ああ、あれ? 一言で言うと……勘、かな」
「勘であんなことがわかるわけないでしょう!」
「パスカルはアンマルチア族なんだよ」
この辺で明かしておかないと、ヒューバートはいつまでもパスカルを信用しない気がした。
「――盗み聞きとは悪趣味ですね」
「たまたま聞こえたんだ。『たまたま』なんだからしかたないだろう」
「『この世に偶然はない。あるのは必然だけ』と言った人の台詞とは思えませんね」
「じゃあ訂正だ。おれがお前たちのやりとりを聞いて、割って入るのは必然だった」
「……アンマルチアと言いましたね。大陸の各地に遺構がある謎の高技術集団のことですか。それが彼女だと?」
「そう、それ。でも、それだけで
「おお。意外に認められてたんだ、あたし~」
ヒューバートはシューイとパスカルを睨み、その場を去った。
「雪解けまではまだ遠いか」
「だね」
「すまない、二人とも」
「あたしは別に気にしないけど」
「兄貴が得体の知れない連中とつるんでるんだ。弟としては当然の心配だ」
姉がいいも悪いもヒトもヒトでないモノも惹き寄せる人だったので、同じ「弟」として、ヒューバートの気持ちは大変よく理解できるシューイである。
「得体が知れなくなんてない。シューイもパスカルも何度も俺たちを助けてくれた」
「そういう台詞を照れもせず言える辺りが大物だよな。お前って」
アスベルは困ったように後ろ頭を掻いた。自覚がない辺りも、大物である。
(ソフィが心を開くのも当然、か。本当に、雪解けまでは遠いな)
船はそれなりに長い時間をかけ、ようやく闘技島に入港した。
(このざわつきやピリピリした空気。久しぶりだ。好きにはなれないけど、ここに来ると、帰って来たって気持ちになれる)
「ここの雰囲気、私、なんだか苦手だわ」
「この闘技島は、世界中から腕に覚えのある者が集まってくる。その名が示す通り、戦いのためだけに存在する地で、ここでは力のみが掟となる」
「争うことが手段でなく目的になっているなんて、私にはちょっと理解できません」
人の傷を癒すのが生業だったシェリアとは水が合わないのも当然だ。自分の感想は伏せておこう、とシューイは密かに決めた。
「例の人物は、まだ来ていないようですね」
ふいにパスカルが輪を抜け、階段下で話すフェンデル兵に駆け寄った。
会話の内容から、支給された新型兵器の
「へ~? そんなことができるようになったんだ。見せて見せて」
パスカルの近づき方はあまりに不用意だった。
「ふんふん、
シューイは溜息一つ、パスカルのもとへ行って彼女のマフラーを引っ張った。
「ぐぇ」
「連れが失礼して申し訳ありませんでした」
頭を下げ、フェンデル兵が何を言う間も与えず、パスカルを引っ張って輪に戻った。
「軽率な行動を取らないでください。目をつけられたらどうする気です」
「この人の悪い癖なんだ。大目に見てやって……」
「あの機構、誰が造ったんだろ。おかしいなあ。もう一度見てこよっと」
パスカルは忍者のようにシューイの手から抜け出て、階段を駆け上がって行った。
「――大目に見るのは今だけでいいから、次からガツンと言ってやってくれ」
「言われなくてもそのつもりです」
「すまん」
しばらくは段取りをつけてくれるという密偵を待ってその場を動かなかった一行だが、いくらなんでも遅すぎる。
アスベルやシェリアは不安を、ヒューバートは焦りを浮かべ始めた。
たったかたー
そこに、今ある空気をぶち壊すように平然と、パスカルが階段を駆け下りて戻って来た。
後ろに、フェンデル兵を2名ほど従えて。
――パスカルよ、一体彼らに何をした。
一番にソフィがパスカルとフェンデル兵の間に入り、兵の一人を掌底で吹き飛ばした。
シューイは内心慌ててフェンデル兵と彼女たちの間に割って入った。
「何するんだ」
「この女が、我々の武器を持ち去ろうとしたのだ!」
「もっかい見せてって頼んだだけだよ」
さすがのトラブルメーカー。今回も見事にやらかしてくれた。
シューイは溜息をついた。
「パスカル。あの武器、間近で見たくないか?」
「へ? そりゃ見たいけど」
「ここは飛び入り参加もありだったな。――あんたら。ライオットピークでおれたちと勝負しないか? おれたちが勝てたら、その銃含むフェンデル軍の兵士の装備一式、くれよ。ここにいる連れの人数分な」
「黙って聞いていれば勝手なことを!」
「勝てる自信がないならいいんだぞ? 無理に受けなくても。もっと実入りのよさそうな奴を探せばいいんだから。あんたたち、弱そうだし」
あえて最後を強調すると、面白いくらい目論見通りに、フェンデル兵はシューイらとの「勝負」を受けると宣言した。
(いい大人のくせして煽り耐性なさすぎだろ。おれらが負けた時の条件つけずに行っちまった。まあ、言わないけどさ)
「あんなこと言って大丈夫なの? シューイ」
「手引き役が来られないなら自力でフェンデルに入るしかない。フェンデル兵の格好をしておけば、少なくとも船を降りてすぐは疑われないだろう」
「見通しが甘い気がしますが、今できることとしてはまあまあですね」
「甘くて悪かったな」
シューイはロングコートの裾を捌いて階段に足をかけた。
「どこ行くんだ?」
「
再び階段を上がろうとすると、強い力でロングコートを引かれて、危うく転がり落ちそうになった。
怒鳴ってやろうとふり返れば、シューイを引き留めたのはソフィだった。怒鳴る気が一息にゼロになった。
「シューイが行くならわたしたちも行く」
「わたし」ではなく「わたしたち」という言い回しに、心にトゲが刺さった心地がした。
「ソフィの言う通りだ」
アスベルが言葉でソフィに加勢した。
「フェンデルに行きたいのはシューイだけじゃない。俺たち全員だ。それをシューイに任せきりにするのはおかしいだろ。俺たちも、いや、俺たちみんなで闘おう」
こういう時にアスベルはするっと自ら難題に立ち向かえる。
シューイはやはりアスベルへの嫉妬を抱かずにはいられなかった。シューイならアスベルのように言えないと自覚しているから。
「ならさっさと上の受付に行って
「ああ!」
ソフィを見下ろす。ソフィはロングコートを掴んだまま、こくこく、と肯いた。
かわいいと素直に感じた。
――結論から言うと、シューイらはフェンデル兵に快勝した。
対戦相手のフェンデル兵が二人だったので、こちらからはアスベルとヒューバートの二人が出た。
万が一を考えてさくらカードを隠しつつ構えていたシューイだったが、出番はなかった。あの兄弟は半端なく強かった。
ソフィ、シェリア、パスカル、マリクがステージ下までアスベルとヒューバートを迎えに行くべく客席を立った。
「シェリア。ナイフ1本くれないか? いつも使ってるのでいいから」
「いいけど……何に使うの?」
「まあ、ちょっと」
シェリアは訝しさを隠さず、袖の隠しナイフの一本をシューイに差し出した。シューイはナイフを受け取り、あらかじめ用意した紙をナイフに結び付け、ロングコートの胸ポケットに入れた。
ステージ下までアスベルとヒューバートを全員で迎えに行った。
会場の拍手喝采はいまだ鳴り止まない。
アスベルは無意識にだろう笑み、ヒューバートのほうも満更ではない様子だ。
シューイは壇上に上がり、アスベルとヒューバートの間に立ち、フェンデル兵と向かい合った。
「さて。おれたちが勝ったんだ。約束通り、あんたたちの装備一式、頂くぞ」
「くそ……こうなったら!」
二人のフェンデル兵の内、一人が銃剣をシューイに向けた。
下からマリクが声を上げる。
「やめろ! 決着がついた後で再び武器を構えるのはここの掟に反する。そんなことをすれば」
「もう遅いようですよ」
ヒューバートが言い終えるが早いが、黒い影が翻った。
直後にフェンデル兵たちは舞台に倒れ伏していた。
冷静なヒューバートと裏腹に、アスベルは黒い影――黒衣の男の身のこなしに釘付けになっていた。
「ライオットピークの番人。ここでルール違反をした人間に制裁を与える者ですよ」
――シューイはこっそり口の端を上げた。「彼」の出現をこそ、シューイは待っていた。
「黒衣の!」
シューイは番人を呼ぶなり、番人に向けてナイフを投げた。
番人は体をわずかに逸らすだけでナイフを躱し、その上でナイフを掴んだ。そして、黒衣を翻して跳び去った。
「ナイフに何か結びつけてあったみたいだが、あれ、何だったんだ?」
「古典的だけど、手紙を。矢文ならぬ投げ文だ」
「黒衣の番人と手紙を送るような仲なんですか?」
「あの人はおれの恩人なんだ」
――エフィネアに渡り来て初めて会った人間が「彼」だった。
エフィネアのルールや常識になじめず心細さを感じた時は、同じ境遇の「彼」会いに行った。「彼」はそのたびに嫌な顔一つせず迎えてくれた。
「あの人と『約束』をしたんだ。その『約束』の期限を延ばしてくれって書いた手紙がさっきのアレだ」
「本当にそれだけですか? そもそも黒衣の番人と何を『約束』したんですか?」
「黒衣の番人はどの国にも属さない。この世界中で最も公平だ。お前も知ってるんじゃないか」
「……そうですけど」
「『約束』の内容は言えない。誰にも教えちゃいけない決まりなんだ。ここに『約束』を果たしに来る日に、実際にその目で見てくれ」
「その時まであなたがぼくたちの仲間であればそうしましょう」
シューイはアスベル、ヒューバートと共に舞台を降りた。
そこでマリクがシューイに待ったをかけた。
「さっきはあのフェンデル兵が掟を破ったから番人が出て来たが、何も起きず番人が出て来なかったら、どう手紙を渡すつもりだったんだ」
「自分で反則でもしておびき出す算段でした。こいつらが舞台を降りた後、一人で残るとかして」
マリクが苦い顔をして頭を抱えた。
「……独断専行を大目に見るのは今回で最後だぞ」
「Sir,Yes Sir」
長らく放置した上に長い一話ですみません。
さくっとさくらカードで八百長する気満々だったシューイでした。
本当は全員で舞台に上がってもらう予定でしたが、尺を縮めるためにラント兄弟のみにしました。他のメンバーの活躍を期待してくださった皆さん、申し訳!
そして黒衣の番人の正体を知る方々は、シューイとの「約束」が何かわかる人もおいでになるのではないでしょうか?^m^