CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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××たい、なんて

 大煇石(バルキネスクリアス)から原素(エレス)を全て吸い上げたリチャードが、憤怒を隠しもせず見下ろしたのは、ソフィだ。

 

「貴様の顔を見ると、虫唾が走る。貴様がいる限り、安息の時が訪れることは、ない……! いずれ決着をつけてやる。覚悟しておけ」

 

 リチャードを乗せた骨鳥が羽ばたいた。骨鳥はリチャードを乗せて砂漠から飛び去った。

 

「待って! ……う!?」

「ソフィ、どうした!?」

「ソフィ!」

 

 シューイは慌てて、膝を突いたソフィの肩を持ち、支えた。

 

 ソフィは胸を両手で押さえて呟く。

 

「だめ……リチャードはともだち……だめ……みんな、悲しむ、もの……リチャードを」

 

 

 ――殺したい、なんて。

 

 

 そのソフィの声を聞いたのは、近くにいたシューイだけだっただろう。

 

「はあ……っ、もう、平気」

「そうか……」

 

 ソフィは顔を上げた。苦しさの余韻が残る顔で、それなのに、微笑んで。

 

「さっき『ソフィ』って呼んだ?」

「え……あ! いや、その、あああれはとっさで、つい!」

「初めて。シューイがわたしの名前呼んだの。なんだか嬉しい」

 

 あんな大事件が起きた後なのに、シューイは自分に向けられたソフィの微笑みに見惚れてしまった。

 

「アスベル。リチャードのことだけど。このまま放っておいたらいけない気がするの。でも、リチャードは友達。戦うなんて、いけないよね。なのに、わたし、戦おうとして……ごめんなさい」

「ソフィ、俺たちも同じ気持ちだ」

 

 アスベルがソフィの前に片膝を突き、ソフィの顔を覗き込んだ。

 

「戦う前に、何故あんなことをしたのか確かめないと」

「しかし、一体何が起こったというのだ。リチャード陛下が、大煇石(バルキネスクリアス)の力を吸い取った?」

「お手上げ」

 

 大煇石(バルキネスクリアス)の調子を見ていたパスカルが肩を竦めた。

 

「こうなったら、あたしにもどうにもできないよ」

 

 一度は大煇石(バルキネスクリアス)を直したパスカルに、ストラタの技師たちは期待と不安のないまぜになったまなざしを向けていたが、それはパスカルの返事で落胆へと一気に変わった。

 

「リチャードはどうしてあんな真似を……」

「ちょ、ちょっと待って。それより、リチャードがここまで来たってことは」

「! ラントが危ない!? あいつは、ヒューバートは無事でいるのか!?」

「二人とも落ち着け!」

 

 慌てふためくアスベルとシェリアを、マリクが一喝した。

 

「オレたちがやるべきことは、陛下やお前の弟を心配することではない!」

「そんな……」

「教官、しかしっ」

「自分を見失うな。まずは、一刻も早く大統領に報告するぞ。ラントはその後だ」

「起きたことをありのまま伝えたら、こっちの心証が悪くなりませんか?」

 

 保身を考えないマリクの方針に、シューイはつい異を唱えたが。

 

「事は大煇石(バルキネスクリアス)だ。隠しておくなどできん。大煇石(バルキネスクリアス)がないと、人々の生活は立ち行かないのだからな」

 

 

 

 

 シューイらはユ・リベルテに戻り、大統領府に一直線に向かった。

 すでに面会許可は出ているので、衛兵はシューイらを咎めることなく執務室まで通してもらえたのだが。

 

「今度はわたしたちも入っていいの?」

「みたいだな。もう大煇石(バルキネスクリアス)の報告が届いて尋問でもされるか――」

「…………」

「そ、そうなっても、お前に」

「ソフィ、だよ」

「……ソフィ、や、みんなには非はないって、おれは言うから」

 

 先頭のアスベルが大統領執務室をノックし、「失礼します」と前置いて入室した。シューイはソフィに肯き、アスベルらに続いて執務室に入った。

 

 室内には、アスベルが前に言った男、つまり大統領――と、何と、ヒューバートの姿が。

 

「ヒューバート!? お前、どうしてここに」

「状況が変わったんです」

 

 ヒューバートはさらりと答えた。

 

「ラント周辺に展開していたウィンドル軍が、全て王都に撤退したそうだ。その理由がまた不可解なのだが。先に君たちの報告を聞こう」

 

 アスベルが肯き、本当にありのまま、リチャードが大煇石(バルキネスクリアス)原素(エレス)を吸収して行ったことを、大統領に報告した。

 

「やはりそうでしたか」

「やはり?」

「それがウィンドル軍の撤退理由です。リチャード国王が大煇石(バルキネスクリアス)びエネルギーを全て吸収、失踪したためだと」

「リチャード陛下はなぜこのようなことをしている? 心当たりはないか?」

 

 アスベルは首を振った。他の面々も答えられずにいる。シューイも、その答えは持ち合わせていなかった。

 

「二つの大煇石(バルキネスクリアス)がこうなった以上、最後の一つも狙われると考えるのが自然です」

 

 ヒューバートが重い空気を刷新するかのように口を開いた。

 

「リチャード国王は次にフェンデルへ向かう可能性が高いでしょう」

「アスベル君に頼みがある。リチャード陛下の追跡を引き受けてくれないだろうか。もちろん我が国は全力をもって君たちの行動を支援する」

「――わかりました。私たちとしても、陛下や大煇石(バルキネスクリアス)のことは気がかりでなりません。閣下のご提案を受け入れます」

「そして、ヒューバート。君もアスベル君と行け」

 

 この言葉にはアスベルもヒューバートも、ほぼ同じ表情で驚きを示した。

 

(確かに兄弟なんだな、こいつら)

 

 ラントを案じる兄弟に先んじて、大統領はラント総督の後任はヒューバートに一任すると念押しした。

 

 ひょこ、とソフィがヒューバートの前に行って、ヒューバートを見上げた。

 

「ヒューバート、これからはいっしょ?」

「閣下のご命令ですから仕方ありません。一緒に行動するのにいささか不安がありますが」

「不安?」

「ソフィはこの人たちといて苦労しませんでしたか?」

「苦労はしてないけど、ロックガガンに食べられたりした。でも、お守りの中のコショウでロックガガンがくしゃみして、外に出られたの」

 

 あの時ほど、先にさくらカードを回収しておいてよかったと思う時はなかった。もし「(シールド)」がお守り袋に憑いたままであれば、袋の口が開くことはなく、シューイらは一生ロックガガンの腹の中だっただろう。

 

「あのお守りのおかげで助かった。ありがとう、ヒューバート」

「あれは元々あなたがくれた物です。要らなくなったから返しただけです。勘違いしないでください」

「それでも、俺は嬉しかったんだがな。まるでお前が助けてくれたようで」

「……そういう甘い考えは嫌いです。だからあなた方と行くのは不安なんですよ」

「ならば君がしっかり監督すればいいだろう?」

 

 大統領にまで言われては、ヒューバートも意地を張りきれなかったようだ。

 

「ああ、もう、わかりました。よろしく頼みますよ…………兄さん」




 シューイの心中では区別のために名前呼び捨てでしたが、実は今回が初めてソフィを声に出して呼び捨てにした回だったりします。
 シェリアやパスカルはさくっと呼び捨てにしたのにね。
 つまり女子組の中でも、シューイにとってソフィは特別枠なのですよ。

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