CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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「水」よ、刻め

 アスベルがストラタ大統領にパスカルの絵を見せた結果、アスベルは大統領から大煇石(バルキネスクリアス)調査の許可証を得ることができた。

 

 勇んで宿に二度(ふたたび)戻り、立役者のパスカルに礼を言った。

 

「いいよいいよ。あたしだってストラタの大煇石(バルキネスクリアス)が見られるの楽しみだしね」

 

 本当に気持ちのいい人が仲間になってくれた、とアスベルは心から思った。

 

 問題の大煇石(バルキネスクリアス)に向かうためにまた砂漠越えしなければいけないことは……もはや文句は言うまいと決めたアスベルだった。

 

 熱砂と太陽光が服の下を灼く。暑さから気を逸らそうとして、アスベルはソフィを向いた。

 

「さて問題。大統領って何か知ってるか、ソフィ」

「みんなで選んだえらい人なんでしょう? シェリアがね、ウィンドルとは違うんだよって教えてくれた」

「ウィンドルは王政だからな」

「でも、どうして大統領や王様がいないといけないの?」

 

 

 

 

 ――どうして大統領や王様がいないといけないの?

 

 歴史のテストにその問題を出されたら、シューイの答案は確実に白いまま提出だろう。

 暑さのせいか、そんな益体もないことをシューイは考えた。

 

「みんなを守るためだ」

 

 アスベルは即答した。

 

 シューイはぽかんとしてから、納得した。

 現代にいた頃にはテレビの向こうの政治家や官僚を特に考えず非難していたが、その存在意義までは考えたことがなかった。アスベルに対する心証が上がり――

 

「……リチャードは? 王様なんだよね。だったらどうしてみんなを傷つけるの?」

「それは……何か理由があるんだよ」

 

 ――上がりかけて落ちて、元の値に戻った。

 

 ソフィがアスベルから離れてから、シューイはアスベルの横に並んだ。

 

「なあ」

「何だ?」

「さっきの。理由があれば、マリクさんたちやラントの民を傷つけても許せるのか?」

「っ、そういうわけじゃない。ただ、あのリチャードが悪意であんなことをやってるわけがないと思うから」

「悪意でも善意でも、被害を受けた側には関係なしだぞ」

 

 ラントへのウィンドル軍侵攻で、ソフィはリチャードと戦って傷ついた。リチャードがどんな美談を動機として語っても、シューイには許す気などさらさらなかった。

 

「――うして」

 

 アスベルはシューイに対して眦を吊り上げた。

 

「どうしてそこまで言われなきゃいけないんだ! お前はリチャードのこと、何も知らないじゃないか!」

 

 これにはシューイも返す言葉に詰まった。リチャードと共に過ごした日など片手の指で数えきれる。シューイはリチャードを知らないと言われれば、全くその通りだった。

 

「ケンカ、だめ」

 

 誰も口を挟まなかった両者の睨み合い。間に入った勇者はソフィだった。

 

 ソフィが出て来ては、シューイも矛を納めざるをえない。

 

「わる、かった。言い過ぎた」

「いや……俺も、すまなかった」

 

 そこからは気まずい無言のまま進み、彼らは無言のまま大煇石(バルキネスクリアス)の調査現場に着いた。

 

 

 

 

「すごーい! これがストラタの大蒼海石(デュープルマル)なんだね。初めて見たよ。でもちょっとくすんでるね」

 

 パスカルがいの一番に喜びの声を上げた。……決してアスベルとシューイの気まずい空気を変えようなどとは思ってもいないだろうが。

 

 アスベルが許可証を衛兵に見せる間にも、パスカルは大煇石(バルキネスクリアス)を様々な角度から観察する。

 

「シューイ」

「何だ」

「リチャードは今でも俺の友達だ。もしもあいつ一人ではどうにもならないことになっているなら、一緒になって悩んでやりたい」

「一緒に悩んだって解決するわけじゃないぞ」

「でもそれさえやめてしまったら、俺は本当にリチャードの友達じゃなくなってしまう」

「……好きにしろよ」

 

 シューイはパスカルのいるほうへ歩いて行った。藍色の背中からは感情を読み取れなかった。

 

 

 

 

 シューイは、大煇石(バルキネスクリアス)の根元の一ヶ所でしゃがむパスカルの近くへ、歩いて行った。

 あれ以上、アスベルの横にいると、暗い感情に沈没する気がした。

 

「パスカル。どうだ」

「う~ん。見るからに壊れてるとこがあるから、ここが変に干渉してるんじゃないかな~。だったらこれを」

 

 パスカルは荷物の中からドリルを取り出し、剥き出しの回路にどすっと一発。回転させた。

 技師泣かせ、ここに極まれり。

 

「最後にガッとね」

 

 トドメといわんばかりに、巨大なハンマーを回路に叩き落とした。

 

 見上げれば、大煇石(バルキネスクリアス)は泉の水が湧くように青い輝きを取り戻し始めた。

 

「Good Job. お疲れさん」

「適当にいじっただけなんだけどね」

 

 シューイが手の平を上げると、パスカルはにかっと笑って、ハイタッチに応えた。手の平同士がぶつかり合う音が軽やかに鳴り渡った。

 

(これでヒューバートの首も繋がるはず。そいつが片付いたら、あとはリチャード、か)

 

 

「て、敵襲!」

 

 この場へ通じる遺跡のほうから、ストラタ兵のものであろう悲鳴が聞こえた。

 全員がふり返り、瞠目した。

 

「リチャード!? なぜここに」

 

 骨格剥き出しの鳥の魔物(モンスター)に乗ったリチャードが現れたのだ。

 視える。ラント侵攻の時のリチャードと同じだ。あの、赤黒い瘴気。

 

「おい、返事をしてくれ!」

 

 アスベルが駆け出す。

 リチャードは何ら感慨を浮かべず剣を抜いた。剣先に集中するエネルギー。衝撃波の前兆だ。

 

「ばか野郎!」

 

 シューイは慌ててアスベルを追い、アスベルを抱えて横に転がった。

 つい先ほどまでシューイとアスベルがいた位置を衝撃波が穿ち、煙を上げている。

 

「く……すまない」

「いや。けど、今のは」

 

 リチャードが抜いた剣から放った魔力――この世界では原素(エレス)と呼ぶそれは、ラント侵攻の時とは異なり、風の属性のものだった。

 

 シューイが魔法理念とする五行思想に「風」を制するエレメンツはない。

 さくらカードにも「(ウィンディ)」がいるが、同じ「風」でも「(ウィンディ)」は捕縛カードだ。

 

(同盟国であるはずのストラタへの急襲。さっきの風の魔弾。ここは大煇石(バルキネスクリアス)がある場所。まさかあいつの狙いは)

 

 シューイは立ち上がってロングコートの内ポケットからさくらカードを出し、右手に剣を召喚した。

 

「かの者を地に落とせ。『(ウォーティ)』!」

 

 水の原素(エレス)が強いこの場所なら、「(ウォーティ)」は高い力を揮うことができると読んでの選択だった。

 

 剣で突いたさくらカードから「(ウォーティ)」が具現化し、水の刃を、リチャードが乗る骨鳥に向けて乱舞させた。

 しかし、リチャードは剣を揮い、剣から放たれた風属性の斬撃で水の刃を相殺した。

 

「嘘だろ……? 母上とエリオル師が創ったカードだぞ!?」

 

 愕然とするシューイにお構いなしに、リチャードは「×」字状に斬撃を放った。

 あんな攻撃を正面から食らえば、さくらカードであってもダメージは免れない。本がないここでは、さくらカードがケガをしてもシューイでは修復してやれない。

 

「カードに戻れ! 『(ウォーティ)』!」

 

 「(ウォーティ)」の本体が水となって崩れ落ち、カードの形を結び直してシューイの手に戻った。

 「(ウォーティ)」は傷ついていない。シューイは安堵の息をついた。

 

 リチャードを乗せた骨の鳥が飛ぶ。

 骨の鳥が大煇石(バルキネスクリアス)の頂上に近づくと、リチャードは大煇石(バルキネスクリアス)に手をかざした。

 

 青い息吹がリチャードの手に吸い上げられていく。

 

「あああ!? こんな馬鹿な! 大煇石(バルキネスクリアス)が、か、か、空っぽに!」

「だめです! 全ての計器が残量なしと出ています!」

 

 ストラタの技師たちがどう叫んでも、シューイにさえ一目瞭然だった。

 

 リチャードは大蒼海石(デュープルマル)の中の膨大な原素(エレス)を全て抜き取ったのだ。




 たまにシューイの台詞には英語が混ざります。
 コタロー編で触れたのですが(覚えていないと思いますが(^_^;))シューイにはイギリス留学経験があります。英語が混ざるのは英国暮らしの名残なのです。

 今んとこ作者の中では さくらカード四代元素<ラムダの力 でございます。

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