CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
ストラタに入国したシューイらは、道中、ロックガガンに呑み込まれるなどのハプニングを体験しつつも、どうにか首都ユ・リベルテに到着した。
「……死ぬかと思った」
「同感だわ……」
ユ・リベルテの宿に入って、フロントの席の一つに落ち着いてからの、シューイとシェリアの第一声である。
「しかし、砂漠の中にこんな大きな街が街として機能してるなんて、何度来ても信じられないよ」
「ストラタは古くから
「マリクさん、やっぱり詳しいですね」
「オレはウィンドル軍に入る前にはストラタにもいたことがあったからな」
「あたしはストラタ初めて~。あっつかった~」
パスカルはソフィと二人して、宿の玄関に置かれたプチ雪だるまの前で涼んでいる。あのプチ雪だるまがこの国で言うところのエアコンである。
ちなみに、なぜ彼らが宿のフロントにいるかというと、アスベルを待つためだ。
アスベルはヒューバートから預かった信書を頼りに大統領に面会を求めた。
面会の許可自体は下りたが、連れであるシューイらは大統領に会うのを断られた。そのため、先に宿へ行き、アスベルを待ちがてら休憩中なのだ。
「――ねえ、シューイ」
さくらカードをテーブル上で混ぜていたシューイに、隣に座るシェリアが耳打ちした。
「セイブル・イゾレの塩の塊。あれ、しょっぱかった?」
――セイブル・イゾレ。下船して直近の街で、世界最先端の煇術研究都市。そこには「ウソツキが舐めると甘く感じる塩」があった。せっかくだから記念に、と全員で塩の塊を舐めてみたのだが。
「そう聞くってことはシェリアにはしょっぱくなかったんだな、アレ。ちなみにおれは甘かった」
「シューイにはお見通しね。ええ、私も甘かったわ。……嘘なんてついてないのに」
「隠し事も、嘘とカウントされたかな」
ううっ、とシェリアは眉根を寄せた。
シューイが知る自分とシェリアの共通点など、好きな相手に「好き」だという気持ちを隠しているくらいしか思いつかなかった。
「ところでさっきから何してるの?」
「占い。さくらカード専用のやり方だから的中率は高いぞ。おれは9割方これに頼ってさくらカードを発見できた」
シャッフル&カットを終えたさくらカードを横一列に並べた。シューイは並んださくらカードから一枚を引いて表にした。
――「
「難関突破。諦めかけたことも実現できる。そんな意味だったか。現状、難関と言えるのはヒューバートの件だな。ヒューバートはそもそもなぜラント総督を更迭されようとしているか――」
「ストラタ本国の意向に沿わないからだろう?」
マリクが当たり前のことを当たり前のように答える。
「どのように意向に沿わないんですか?」
「
「でもそれっておかしくない?」
涼しさを堪能したからか、パスカルが席まで戻ってきた。ソフィも一緒だ。
「ストラタにも
「そうね。
「これはずばり、
パスカルは得意げに人差し指をびしっと立てた。
「で、その難関は、超えられないものじゃないと、カードたちは言うわけだ」
シューイは「
「ああ、いた。みんな、ただいま」
玄関からアスベルが宿の中に入ってきた。
「おかえり」
ソフィが一番にアスベルを出迎えに行った。
邪魔などしようものならソフィの表情が曇るのでできないのが悔しい所だ。さらに悔しいことに、アスベル関係でソフィが浮かべる表情は、とてもチャーミングで、シューイ自身も見たいと思ってしまう。
「大統領ってどんな人だった?」
「すでに会ったことのある人だった。ほら、セイブル・イゾレの街とロックガガンの所にいた」
「ええ!? あの人が?」
「只者ではないと思ったが、やはりそうだったか」
答えながらアスベルはシューイらのいるテーブルに着いた。
「すごいんだ。一国の大統領が自ら『ヒューバートのことは信頼している』と言ったんだ。……ただ、今のままでは更迭は免れないって」
「弟のラント進駐がストラタの
「あ、ああ。よくわかったな」
「例によってパスカルが答えを出した。それで。お前はどうするんだ」
「何もせずに諦めたくはない」
――「
「それじゃあ全力でやるしかないな」
「あれ、意外~。シューイが珍しくヤル気だ」
「きょうだいのため、なんだろう? だったら協力は惜しまない。それだけだ」
「シューイはお姉ちゃんも弟くんも妹ちゃんも大好きだもんねえ」
パスカルはシューイの肩に肘を載せて、くっくと笑った。
「シューイ、いっぱいきょうだいがいるの?」
「あ、ああ。姉と弟と妹が一人ずつ」
ソフィからの問いかけだったので、少しどもった答えになってしまった。
「どんな人たち?」
「……姉はおれたちの中の誰より優れた魔法使いだよ。本当ならここにいるのはおれじゃなく姉上だった。それを無理を言って代わってもらったんだ」
おかげでソフィと出会えた――とまでは言えなかった。
エフィネアに散ったさくらカードは、四大元素をはじめ高位カードばかりだった。長男で、将来は李家をしょって立つ身となるであろう自分なら、それらのカードの回収くらいできなければならない。そう気負ってこの世界に降り立った。
「双子の弟は逆に魔法はからっきしだったけど、体術が頭一つ抜きん出ててな。おれは運動面はさっぱりだから、腹の中にいる間にそういう才能取られたんじゃないか、って妹によく言われたよ。妹は、才能はあるとはいえ、中身は普通の女の子だから、ちょっと心配か」
「心配?」
「けど、同じくらい信頼してもいる。姉上やあいつらなら『絶対、大丈夫』だ」
「信じてても心配、なの?」
「そういうもんなんだよ。家族って」
思い出せば郷愁が胸に込み上げた。
それを悟られないよう、シューイはぎこちなく苦笑して見せた。
「そういうもんなんだよ。家族って」
――その表情は、騎士学校時代の自分とよく似ている、とアスベルは思った。
「ここはやっぱりパスカルの
シューイは珍しく不敵な笑みを浮かべ、パスカルを向いた。
「出番だぜ。アンマルチア一の知恵者どの」
「げ。シューイがあたしをおだてた」
「? 何か悪いことなのか?」
「シューイがあたしを持ち上げる時って、大抵めんどいことやらせようとしてる時なんだよね~」
「今回はあんたの知的探究心も満たされるだろ。――」
「あ~。――、――」
シューイとパスカルは何やら難しい話を始めた。自分の頭脳が及ばないのか、彼らの知識が高度すぎるのか、アスベルはちっとも会話に付いて行けなかった。
こっそり窺えば、他の皆もそうらしく、密かに安心した。
やがて話はまとまったようだった。
シューイが襟の高いロングコートから紙を出してパスカルに渡した。パスカルはそれらを受け取ると、テーブル備え付けの羽根ペンで紙に何かの絵をスピーディに描きつけた。
「はい。これ持ってって大統領に見せてごらんよ」
「これは、
「悩んでるなら、詳しい仲間がいるから診てあげますよって」
アスベルも納得した。叡智を謳うアンマルチア族であるパスカルなら、本当に
ヒューバートの先行きに光明が見えた。
アスベルは受け取った絵を握り締め、パスカルに礼を告げてからすぐに宿を飛び出した。
くいくい。ロングコートの裾を引かれた。
ふり返ればそれはソフィで、心臓が一つ大きくなった。
ソフィとのコミュニケーションに慣れてきてはいても、不意打ちだとどうしてもこうなってしまう。
「ねえ。わたしも描いてみた」
ソフィが紙を広げた。
「上手く描けてるな、このバナナ」
「
「う゛」
ソフィは明らかに消沈している。
「いいの。シューイがバナナだと思うなら――」
「いや!
今の自分はさぞ滑稽な姿だろう。顔は真っ赤だし、フォローに説得力がないし、ソフィがシューイを見返す目はぽけっとしているし――
「シューイは優しいね」
ソフィがふわりと笑むものだから、シューイは一層赤くなり、心拍数も増した。
最後のソフィとのやりとりをやりたいがために書いた回だったりします。
オリ主×ソフィは忘れておりません。
ロックガガン編を期待してくださった方がいらしたら申し訳ありません。さくっとスルーしてしまいました。