CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
――あれが当主の次男の「魔力のない子」?
――そんなこと言わないの。かわいそうじゃない。
――双子の兄のほうは今、イギリス留学中なのよね。西洋魔法を学びに。
――兄弟なのに魔法の才能は天と地の差ね。
――李家じゃ一番簡単な符を使った魔法も使えないんですって。
――当主は11歳で本家一番の魔力の持ち主だったっていうのに。
――母親だって、「あの」クロウカードの主になったっていうじゃない。
――親のいいとこ、1個も受け継がなかったのねえ。
知っている。産まれた時のほんの少しの差で、人生は大きく変わってしまうことを。
知っている。陰で隠れて泣いてばかりいた己の弱さを。
知っている。そんな
だから、よく似た彼女に出会った時、虎太郎は自分にできることなら何でもしてあげようと、想ったのだ。
…
……
…………
器たる清水の氷を聖堂で溶かし、司祭と、竜巻から元に戻った天族を引き会わせて(と言っても司祭に天族は視えないのだが)、レディレイクの加護は無事復活した――らしい。
されど、喜びの場に水を差す者がやって来た。
ハイランド王国の内務大臣・バルトロからの使者だ。
使者はスレイに封蝋をした手紙を渡し、バルトロの私的な食事会への案内をスレイに告げた。
案内というより、ほとんど脅迫だと思ったコタローは決して間違ってはいまい。
かくて彼らはラウドテブル王宮へ行き、スレイだけが食事会に招かれ、コタローはアリーシャと客間待機というのが現状である。
「コタロー」
「えっ、あ、なに、アリー」
我に返って前を見れば、正面のソファーに座ったアリーシャが、険しい顔でコタローを見ていた。
「怒ってる?」
「おれが? 何で」
「何で、って……そんな顔してる気がしたから」
これにはコタローもすぐに否定を口にできなかった。
先ほど兵士が来て、アリーシャにマーリンドの街に行けという指令――バルトロの命令を伝えた。
聞く限りでは、マーリンドでは酷い疫病が流行っているらしく、死にに行けと言っているようなものだ。
しかも、それを、よりによってアリーシャに。
怒るな、というほうが無理だ。
「怒ってるよ。でもアリーにじゃない。アリーをそんな目に遭わせる奴らにだ」
すく。コタローは立ち上がった。アリーシャが困惑してコタローを見上げてくる。
「アリー。
コートの内ポケットをアリーシャにも見えるように広げた。
コートの内ポケットには、星の鈴のキーホルダーと、今日までに集めたさくらカードが収まっている。
「私なんかの、ために?」
「君のためだからこそ」
若草色の瞳が潤んだ。だが彼女はすぐに袖でそれを拭った。そして、大輪の花のような笑みを浮かべた。
ゴーサインには、充分過ぎた。
「ほい、終了っと」
しゃらん。数十条もの紙垂を翻し、星の鈴を掲げた。
円卓の間に行くまでの廊下、そして玄関ホールには、木の蔓に巻かれて床から離れ、身動きが取れない兵士がざっと30人。
全てコタローが「
「ありがとう。『
草木を擬人化した乙女は、コタローの言に笑顔で肯いた。
「王宮に武装兵団を配するとは――」
やはりというか。アリーシャはスレイが特別心配らしい。友人としては少しばかり悔しい。星の鈴を肩に担いで、こっそり溜息をついた。
アリーシャは自分のマーリンド行きなど忘れたように、肩を怒らせて円卓の間のドアを開け放った。
中には、円卓とは程遠い細長いテーブルと、席に着く3人の老人。
そして、まさに席を立った直後のようなスレイがいた。
「スレイをどうするつもりだ、バルトロ卿! 今すぐ兵を退かせろ!」
身を乗り出したアリーシャを止めたのは、当のスレイだった。
「王宮の見学は終わったよ。アリーシャ。コタロー。行こう」
スレイはバルトロらに背を向け、言った。
「自分の夢は自分で叶えるよ。オレも、アリーシャも、コタローも」
「! ああ、もちろんだ!」
「……そういうことさらっと言えるからスゴイと思うんですけどね」
兵士は全て「
彼らは悠々と円卓の間を出て、王宮を後にした。
――その直後に、円卓の間に「風の骨」なる暗殺ギルドが忍び込んだことを、コタローもアリーシャもスレイも知らない。
風の骨にはここで遠慮してもらいました。ロゼとの本格的な絡みはまた後日。
本当はここ、ちゃんと逃走劇があって、遅れたアリーシャをスレイがお姫様抱っこするという展開を用意していたのですが、不発に終わりました。
絶対どこかでやってやる。スレイがアリーシャを抱き上げるシーン!