CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
シューイらがストラタ兵の向かうほうへ流されるまま行けば、まさに彼らが侵入した門周辺で、ストラタ兵とウィンドル兵が戦っていた。
響き渡る、鋼がぶつかり合う音。兵士の雄叫び。
こんなことが二度とないように、リチャードは王位を取り戻したのではなかったのか。
「弟君を説得できたかい?」
戦場の中を、そこだけ別空間であるかのように、リチャードは優雅に歩いて来た。
「どうしてこんなことを!」
アスベルが拳を作って踏み出した。
「すでに伝えてあっただろう? ラントを攻めると。それにこれは君のための戦いでもあるんだよ。故郷を取り戻してあげると約束したじゃないか」
「俺はこんなこと頼んでない!」
「君が頼まなくてもラント侵攻は実行したよ。僕に逆らう者は容赦しない。思い知らせてやらないとね」
危険だ。
今のリチャードを真っ向から相手にしてはいけない。
母譲りの第六感がシューイの心で警鐘を鳴らしていた。
(リチャードの注意がアスベルにだけ向いている今なら、シェリアたちを逃がしてやれる。けれどそれは、アスベルを囮として
シューイはソフィをふり返った。ソフィもアスベルやヒューバートと同じようにリチャードを厳しく睨んでいる。戦意を、敵意を、向けている。
「――シェリア。戦いが本格化する前に、領民を逃がしたほうがよくないか」
「そう、だけど、でもアスベルとヒューバートはっ」
「戦場が市街地にもつれ込んだら兵士でもない一般人が傷つくぞ。いいのか」
「っ……わかった。ソフィ、いらっしゃい」
「ここに残る」
「だめよっ。シューイ、お願い」
シューイはソフィの腹に腕を回し、軽い体を肩に担ぎ上げた。
ソフィは当然、暴れる。それでも意地に懸けて落とさずに運んでみせる。
マリクとパスカルを促し、シェリアに肯き、シューイはソフィを担いだまま走り出した。
広場に出るなり、シェリアは領民に避難するようにと叫ぶ。
領民は最初こそ戸惑っていたが、一人、また一人と西門の方向へ走り出した。
不穏な気配を察して家から出てきた人々も、まだ続くシェリアの懸命な呼びかけで事態を知り、逃げる人波に加わった。
一方でシューイは、戻ろうとするソフィを羽交い絞めにするので精一杯だった。
か弱い少女の外見をして、ソフィは力が強かった。
「いやっ、戻る! アスベルのとこに戻るの!」
「大人しくしろ! あっちは危険地帯なんだぞ!?」
その時、東の空に緑色が光った。
シューイがその閃光に気を取られた瞬間、ソフィはシューイの腕から抜け出し、元来た道を走り出した。
「お前らは避難しておけ!」
シューイは言い残してからソフィを追いかけたが、ソフィは速い。避難する人波に揉まれたこともあり、シューイはソフィを一度見失った。
とにかく急いで東門へ向かったシューイは、見た。
街道で、拳に白い炎を宿したソフィと、憤怒もあらわなリチャードがぶつかり合っていた。
「守る。あの時のようにはさせない!」
リチャードの剣とソフィの白く燃える拳が再びぶつかった。
競り負けたのはソフィのほうだった。ソフィが吹き飛ばされ、土の上に転がった。
(何か。何でもいい。彼女をサポートできるカードは)
迷い、焦る間にも、リチャードはソフィに歩み寄っていく。
そして、ついに剣を逆手に持ち、ソフィに突き立てようとした。
「死ねぇ!」
「やめろおおおおお!」
飛び出したのはアスベルだった。
アスベルはリチャードとソフィのもとへ駆け、居合抜きでリチャードの横腹に斬りつけた。
――その一斬が、リチャードの中にきつく張られていた最後の一線を、断ち切った。
「裏切ったな……」
リチャードは血のにじむ腹を押さえて後退していく。
「僕を、裏切ったなあああああっっ!!!!」
咆哮を合図にしたかのように、ソフィとは真逆の赤黒い気がリチャードから噴き出した。
ソフィは起き上がると、両腕を交差させ、白いエネルギーを放出した。
白光はドームを形成し、赤黒いドームとなったリチャードの気とぶつかり、拮抗した。
(このままじゃ先に根負けしたほうがやられる)
これまでのソフィの思い出が高速で頭を巡る。ほのかな笑み。細い両手。動くたびに揺れるツインテール。幸せそうに料理を食べる顔。不安だとウォーターブリッジで打ち明けた声――
シューイはコートの内ポケットから、手持ちのさくらカードを全て取り出した。
出したさくらカードの束を額に当てる。
(身勝手だけど、頼む、お前たちの力を貸してくれ。おれが初めて『守りたい』と思った女の子なんだ)
シューイは全てのさくらカードを投げ放った。
「全てのカードよ、その力を解き放ち、かの者の助けとなれ!」
カードが魔力に還元されて輪郭を溶け崩し、白いドームへ次々と飛び込んで行った。
白いドームがさらに膨らみ、赤黒いドームを押し返した。
リチャードは衝撃で吹き飛ばされ、門に背中をしたたかにぶつけ、土の上に転がった。
シューイはその場に膝を突き、両手を突いた。
息切れが、動悸が、激しい。苦しい。
(四大元素に高位カードの全開一気発動となると、さすがにおれ自身もこの魔力消費ってわけか。でも、いい。少しでも彼女の助けになれたなら、それで)
汗だくの顔に浮かぶのが笑みだと、シューイ自身が気づかなかった。
ウィンドル軍が撤退していく。総大将のリチャードがあれでは戦闘続行は不可能だと判断したのだろう。
これ以上は力を出せそうにないシューイとしては、助かった、というのが本音だ。
安堵の脱力に任せ、シューイはその場に大の字に転がった。
空だけだった視界を、ふわりと、極彩色の線が舞った。
手を伸べれば、それらは桜色のカードとなってシューイの手の平に落ちて束となった。
「――わたし、思い出したの。小さな頃の、みんなのこと、思い出したの」
頭だけを、声が聞こえてきたほうに向けた。
ソフィが、笑っている。アスベルを見つめ、笑っている。
「また……逢えたね」
ソフィは今までに一度も見たこともない貌を、アスベルとシェリアとヒューバートに向けた。
(おれにはない。あいつらとあの子みたいな特別な繋がりなんて、おれとあの子の間には何一つない。今みたいにおれが頑張っても、あの繋がりを超えることは一生ないんだ)
胸に風穴が開いた気がして、シューイは胸にきつくさくらカードの束を当てた。
間を開けてすみません。あいるびーばっくです。
ソフィのためになると思えばアスベルたちをリチャードの前に置き去りにもできる。
根っこのとこが冷たいのがシューイというキャラクターなのだと、自分も再発見しました。