CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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安らぎの「闇」、希望の「光」

 シューイたちが砦を下りると、バラ色の髪をツーサイドアップにした少女が、治癒術を兵士に施している所に出くわした。

 

「アスベル!? どうしてここに」

 

 シェリアというらしい少女はソフィに駆け寄り、優しくソフィの両肩に手を置いた。

 

「よかった。あなたも無事だったのね。一緒にラントを出て行ったって聞いて、心配していたのよ」

 

 そこでシェリアは、少し離れていたパスカルとシューイに気づいた。

 

「あのう、あなた方は?」

「あたし、パスカル! よろしく、シェリア」

「あ、はい。よろしく」

「ほおら、シューイも」

 

 パスカルが肘でシューイの脇をつついた。

 

「……シューイ・リーだ」

「シェリア・バーンズです。よろしく」

 

 シェリアが手を差し出したので、シューイは応じて握手した。

 その瞬間だった。

 

 ぶわ、と漆黒が溢れ返り、全てを呑み込んだ。

 

 

 

 

「な、なに? 何が起きたの?」

「さくらカードの気配……こんな時にっ」

「アスベル! ソフィ! パスカル!」

「無駄だ。多分、素質のある人間以外は弾かれた」

 

 シェリアはまじまじとシューイを見返した。

 

「あなた……何者なの? 何を知ってるの?」

「ちょっとばかり特殊な煇術を使う流れ者だ」

「この闇は、その『特殊な煇術』のせい?」

「ああ。多分『(ダーク)』のカードだ。安心しろ。近くにいる『(ライト)』を見つければ、すぐに封印できる」

 

 それにしても、とシューイはシェリアを見た。

 「(ダーク)」の作り出した闇に囚われないということは、シェリアは魔法使いとして相当に素質が高い。

 

(でも素質だけで『(ダーク)』に囚われないなんてことがありうるのか? 父上だって昔は囚われたって。この子、もしかして)

 

 シューイはシェリアの正面に立った。

 

「『(ライト)』。お前、その子の中にいるのか?」

 

 シューイの言葉に応えて、シェリアの胸の中心に白金の光が燈り、明滅し始めた。

 

「え、ええ!? なに、何なの、これ。いつもの光と違うっ」

 

 シェリアは自分の胸から生じる光にあたふたしている。

 

「さっきの『特殊な煇術』だけどな、おれの故郷では魔法って呼ぶんだ。おれは魔法を操る魔術師。そして」

 

 コートの内ポケットから、さくらカードを出して広げてシェリアに見せた。

 

「魔法の元になるのがこいつら。さくらカード。封印が解けて世界中に散ったさくらカードを集めるのが、おれの使命。そのさくらカードの内1枚、『(ライト)』って奴が、お前の心の中にいるんだ」

「『(ライト)』……私の、心」

 

 シェリアは困惑しきった様子で胸に両手を当てた。

 

「『(ダーク)』! 『(ライト)』は見つけたんだ。姿を現してもいいだろう」

 

 “いいえ。まだです。今度はあなたが『私』を見つける番です”

 

「お前はここら全体に広がる闇そのものだ」

 

 “はい。ですが、それだけでもないのです。どうか『私』を見つけ出してください”

 

 それっきり「(ダーク)」は沈黙し、シューイが問いかけても答えなくなった。

 

「今の声が『さくらカード』?」

「の、内1枚。変だな。母上は『(ライト)』を見つけて即封印できたのに。『(ライト)』みたいに『(ダーク)』もどこかに隠れてるのか……」

 

 シューイはシェリアに断りなく歩き出した。

 

「ちょ、ちょっと待って。どこ行くのよ」

「『(ダーク)』を探す。じっとしていても見つからない」

 

 シェリアが追いかけてきてシューイの横に並んだ。

 

「付いて来るのか?」

「まさか女の子を真っ暗闇に一人残そうなんて思ったの?」

 

 シューイは軽く考えた。

 

「置いてこうとしたわね」

「これはおれの問題だ。お前が無理に付き合うことはない」

「『(ライト)』とかいうのが私の中にいる時点で、私だって当事者よ」

「ひょっとして……お前、一人になるのが怖いのか?」

 

 シェリアの表情が固まった。図星だったようだ。

 

「それは、気づかなくて悪かった。そういうことなら一緒に行こう」

「え? あ、ええ」

 

 シューイはシェリアと改めて並んで歩き出した。

 

 

 

 

 道なき道を、隣のシェリアの胸に灯った「光」を頼りに歩く。

 果てのない「(ダーク)」の闇を歩いても意味がないとしても、変化が訪れるのを待つよりずっと建設的だ。

 

「ねえ。あなた、アスベルたちとはいつ会ったの?」

「3日くらい前だ。まさか謀反だの何だのに巻き込まれるとは思わなかった。お前は? アスベルとは知り合いなんだろう」

「幼なじみよ。同じラントで育ったの。アスベルは領主のアストン様の息子で、おじいちゃんがアストン様の執事をしてる縁で、アスベルとヒューバートの遊び相手だった」

「ヒューバート?」

「アスベルの弟よ。養子に出て、ストラタの軍人としてラントに帰って来たの。アスベルの代わりに、今はヒューバートがラント領を守ってくれてる。私が救護団としてここに来たのも、ヒューバートが勧めてくれたからなの」

「人助けついでに、アスベルに会えれば儲け物、ってとこか」

「……そうね。どこかで、逢えないかって期待はした。傷ついた人を助けたい気持ち以上に。救護団員失格ね」

 

 シェリアがシューイの顔を下から覗き込んだ。

 

「あなたは? どうしてアスベルたちに付いて来たの?」

「それは……なりゆきで」

 

 言えない。ソフィにただならぬ感情を抱いたから、などと。

 

「なりゆきで?」

「見てて危なっかしいと思って付いて行ったら、巻き込まれた」

「ふうん。本当にそれだけ?」

 

 女子のこの手の詮索好きにはほとほと参る。シューイは早々に白旗を上げることにした。

 

「ソフィって子から目が離せない。すぐ別れたくない。そう思って今日まで付いて来た」

「それって……あなたまさか、あの子のこと……」

「自分でも初めてで、どういうことかわからないんだ。ただ、あの子が悩むのを見るとやりきれない気分になるし、心配事があるならどうにかしてやりたいって思う」

「そこまでわかってるなら、もう答えは出てるようなものじゃないかしら」

 

 初めてソフィと会った時から今日まで。様々なソフィを思い返す。

 この時初めて、シューイは自身が抱くソフィへの感情に向き合った。

 

「……お前の言う通りだ。おれ、ソフィが好きだ」

 

 するとシェリアは頬を赤らめた。

 

「何でお前が赤くなるんだよ」

「だ、だってそんなきっぱり言い切るとは思わなくて。聞いてるこっちが照れちゃったのっ」

 

 ようやく暗かった心の迷路に光が射した。シューイはそんな気分だった。

 

 そこで、ふと、シューイは自身の胸を押さえた。

 

「もしかして、あの子のことで悩んでたおれの心の闇が、『(ダーク)』の隠れ家なのか?」

 

 シェリアの胸の前にあった光がシェリアから離れ、豪奢な白い女の姿を象った。

 同じく、シューイの胸から黒真珠のような物が浮かび出て、黒い女の姿を象り、白い女に寄り添った。

 

「『(ダーク)』、お前、おれの中にずっといたのか?」

 

 “はい”

 

「おれの心はそんなに真っ暗なのか……」

 

 “ちがいます。あなたの心の闇は安らぎの夜の帳。他者を優しく包む揺り籠です”

 

「褒めてくれるのは有難いが、おれはやっぱり人の心がわからない冷血漢だってことに変わりはない気がするよ。お前の言うような『安らぎ』になるのは、まだまだ先のことだと思う」

 

 手に剣を召喚した。

 「(ライト)」と「(ダーク)」はいつでも一緒。封印する時も二体揃ってでないといけない。

 

「封印する。離れてろ」

 

 シェリアは素直にシューイから距離を取った。

 

「あの子のこと、頑張って。応援するわ」

「シェリアもあいつのこと、頑張れよ」

 

 シューイは剣の先を、「(ダーク)」と「(ライト)」に向けた。

 

「汝のあるべき姿に戻れ、さくらカード!」

 

 「(ダーク)」と「(ライト)」がそれぞれに魔力へとほどけ、2枚のカードの形を成していく。

 やがて二人の女の図柄のカードが2枚、シューイの手に舞い降りた。

 

「母上のカード……また、取り戻せた」

 

 ホワイトアウトしていた風景が色を取り戻していく。

 そこはたった先までいた現実世界。ウォーターブリッジの砦だった。

 

「戻った!」

「さっきの出来事は当事者のおれたちしか気づいてない。あまり騒ぐなよ」

「そうなの。わかったわ」

 

 とことこ。ソフィがやって来て、大きく首を傾げた。

 

「二人ともどうしたの?」

「別に。ね、シューイ」

「ああ。特に何ともない」

 

 さらに不思議そうにするソフィに対し、シューイもシェリアも、程度の違いはあるが、苦笑を浮かべた。




 「光」と「闇」の封印回でした。
 グレイセスで「光」が宿るキャラがいるとしたら誰か。グレイセス全体を見て、シェリアが最適な気がしました。ですがそれでは原作の真似っこ。ここで変化球に、「闇」にも心に隠れてもらいました。

 今回の件からシューイとシェリアはすっかり距離を(友情的な意味で)縮めたのでしたとさ。

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