CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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変わりゆくリチャード

 ウォールブリッジでやるべきことは二つ。

 一つ。南橋を下ろして南門を開ける。もう一つ。北橋を上げて敵方の増援を絶つ。

 

 北橋を上げて南橋の仕掛けのある部屋を目指して、中央棟の部屋を通過しようという時だった。

 

「! 誰かいる」

 

 ソフィが真っ先に気づいた。

 

 とっさに左右を見渡したが、これが失策だった。敵兵は上から飛び降りてリチャードを大剣で斬りつけた。

 飛び散る血しぶき。崩れ落ちるリチャード。

 

「ソフィ、パスカル、あいつを捕まえろ! 応援を呼ばれてしまう!」

 

 ソフィとパスカルは急いでその敵兵の両腕をがっちりホールドして動けなくした。

 

 アスベルが血相を変えてリチャードに駆け寄る。

 シューイも走り、しゃがんでリチャードに治癒の魔法を施術し始めた。

 

「リチャード、しっかりしてくれ、リチャード!!」

「頼むからこんな志半ばで死んでくれるなよ……後味悪いだろうがっ」

 

 治癒が効いてきたのか、リチャードの下に広がるばかりだった血溜まりが止まった。これなら――

 

 

 ――どくん

 

 

「え?」

「リチャード……?」

 

 リチャードは幽鬼のように立ち上がり、ソフィとパスカルが捕まえた兵士へと向かって行く。そして、その兵士の首を両手で掴んで投げ飛ばすや、その上に立って剣で何度も斬りつけ始めた。

 

 あのパスカルでさえ強張った顔で、ソフィが見ないようにと目隠しをする。

 

 シューイは突然始まったリチャードの凶行にただ呆然としていた。

 

(止めるべき、なのに、体が竦んで動かない。さっきの王子の、あの目の禍々しさが焼きついて、離れない)

 

「やめろ! もういい、リチャード!」

「僕に命令するなっ!!」

 

 その時、ふ、とリチャードが剣を止めた。

 

「僕は……一体……っ、すまない、アスベル! 僕は、君にそんなことを言うつもりは……う!?」

 

 リチャードはふらつき、壁まで行って身を預けて胸を押さえた。

 

「胸が苦しいのか!?」

「平気だ……それよりも急いで南橋に向かおう」

「ああ……だが、さっきの傷は」

「僕なら何ともない。思ったより浅かったようだ。シューイが何かして治してくれたみたいだしね」

「そう、か。ありがとう、シューイ」

「ああ、いや……」

 

 ありえない。確かに治癒魔法は使ったが、それとて傷を半分塞げたかどうかという段階でリチャードは起き上がった。

 

(ソフィが不安がるわけだ。さっきの行動といい、王子は明らかに何かがおかしい)

 

 南橋を開放するために部屋を出ていくリチャードを目で追い、それからソフィに視線を送った。

 案の定、ソフィは不安でいっぱいの顔でシューイを見返した。

 シューイは強く肯き返し、彼らの後を追った。

 

 

 

 

 南橋を開ける仕掛けを動かしてすぐ、大勢の歓声が聞こえた。グレルサイド民兵を引き入れることに成功したらしい。

 一応は加担した身として、シューイも安堵した。

 

「あとは兵たちの仕事だ」

 

 仕掛けのある部屋を出て、あとは砦を去るだけという時だった。

 鉈のような形をした剣が飛んできて、シューイらの行く手を遮った。

 

「この武器は……!」

「物事は完全に終わるまで油断してはならない。オレはそう教えていたはずだ」

 

 彼らの前に飛び降りたのは、鉈剣を肩に担いだ厳つい男。

 

「マリク教官!」

「――誰だ」

「俺の騎士学校時代の教官だ……っ」

「少人数で砦の内部に侵入し、扉を開けて味方を引き入れる。そこまでの手際は見事だった。だが最後の詰めが甘い。ここでオレがお前たちを倒せば、戦局は一気に逆転する。――そうですね、リチャード殿下」

「僕が誰かを知ってなお刃を向けるつもりか」

「それが私の今の仕事です。騎士団は、新国王陛下の下に入りましたので」

 

 アスベルがリチャードの前に立った。

 

「殿下に敵対するつもりなら、例え教官といえども戦うしかありません」

「……それでいい、アスベル」

 

 アスベルとマリクの剣がぶつかり合い、それを合図に師弟対決は始まった。

 

 シューイは剣を召喚すべきか迷い、召喚しなかった。

 

「おれたちは動かないでいよう」

「「シューイ?」」

「ここはあいつに任せたほうがいい。元は師弟なら、互いの癖も間合いも熟知しているだろう。他人が入ると集中が乱れるかもしれない」

「じゃあ、あたしたちは応援団ってことで。がんばれ~、アスベル~!」

「だから! 集中を乱さないために静観するんだから黙ってろ」

「アスベル……」

 

 ソフィがアスベルを見つめる姿は不安げだ。シューイは見ていられず、ソフィから顔を逸らした。

 

 十合と切り結ばずして、アスベルとマリクの戦いには決着がついた。軍配はアスベルに上がった。

 

「はあっ…俺の…勝ち、ですっ」

 

 アスベルの剣はマリクの鼻先に突きつけられていた。

 

「強くなったな、アスベル」

「っ、教官……!」

 

 マリクは鉈剣を捨て、その場にあぐらを掻いた。煮るなり焼くなり好きにしろと言わんばかりだ。

 

「往生際だけはいいようだな。感心だ」

 

 これまで黙っていたリチャードが前に出るなり、剣を抜いてマリクに突きつけた。

 今にもその剣で首を刎ねかねない――そんな時、リチャードは突然頭を押さえて剣を下ろした。

 

「違う……僕は……っ」

 

 リチャードは踵を返し、伝令に来たグレルサイド民兵にマリクの拘束を命じ、デールの所へ行くと言って怪しい足取りで歩き去った。

 

 マリクもグレルサイド民兵に連行されていき、シューイらだけが場に残された。

 

「シェリアが下にいる」

 

 唐突に、いつのまにか下を覗いていたソフィが呟いた。

 

「シェリア? 誰だ」

「俺の幼なじみだよ。下に行って確認してみよう」

 

 アスベルは近くの階段を急ぎ足で下りていった。続くパスカル。シューイはソフィに声をかけ、ソフィを先に階段に行かせてから、自身は最後に降りた。


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