CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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「わからない」だらけ

 グレルサイドに入るなり、シューイらは門番の兵士に止められた。だが兵士らはリチャードが王子と気づくなり、血相を変えて公爵に知らせに走った。

 

「へえ、リチャードって王子様なんだ。偉かったんだねえ」

 

 フェンデル人のパスカルが知るはずがないのも当然だが、どうしても脱力させられた。

 

「リチャードは王子。なら、アスベルは何?」

「俺は……今の俺は、何者なんだろうな」

 

 その表情が、声が、あまりに自嘲と哀愁を帯びていたから。

 

「リチャード王子だけの騎士。あるいは王子の剣。それでいいんじゃないか」

「シューイ……すまない。気を遣わせた」

「別に」

 

 シューイは内心動揺していた。

 

 シューイにとってアスベルは決して仲良くしたい相手ではない。そんな相手を励ます言葉を自分はかけた。

 

(なんか、調子狂うな、こいつらといると)

 

 兵士が戻ってきて道を開けられてから、シューイらは一直線にこの街の領主・デール公の屋敷へ向かった。

 

 

 

 

 屋敷に入るなり、デール公自身がリチャードを出迎え、恭しくリチャードの無事を喜ぶ言葉を連ねた。

 

 デール公は彼の執務室にシューイらを案内し、地図を広げてセルディク大公の動向や、ラント領とストラタ軍の現状を説明した。

 それらをリチャードとアスベルが真剣に聞くのは理解できたが、気紛れであれパスカルが聞いているのには多少驚いたシューイである。

 

 ちなみにシューイは窓際に立ち、部屋の骨董品をじーっと見るソフィを見ていた。いつパスカルが襲撃してきてもいいように。

 

 作戦は、遺跡からウォールブリッジに潜入し、砦の門を開放して味方の兵を引き入れるという形に落ち着いた。

 

 シューイ、アスベル、ソフィ、パスカルは、リチャードの伴ということで公爵邸への滞在を許された。

 

 そして、夜はあっというまに帳を下ろした。

 

 

 

 

 夜も更けた時刻。シューイは目を覚まし、屋敷の外へ出た。

 

 いつもは良くて宿屋、ほとんどが野宿だったので、公爵邸の柔らかいベッドでは寝苦しかった。

 

 グレイル湖を望む橋へ上がり、シューイはとっさに回れ右をしそうになった。

 橋の真ん中でソフィが手摺にもたれて一人立っていたからだ。

 

 落ち着け、おれ。

 

 言い聞かせ、深呼吸して、ソフィに声をかけた。

 

「こんな夜中に外にいると冷えるぞ」

「さっきまでアスベルとリチャードがここにいたの」

 

 決戦前夜の気持ちの整理といった所だろうか。アスベルもリチャードもわかりやすく動揺している。

 

「なぜかな。リチャードから目が離せない。アスベルとリチャードが一緒にいるのを見ると、不安になるの。アスベルとリチャードは、友達、なんだから、リチャードがアスベルに悪いことをするはずないのに。心配で、堪らなくなるの」

「そんなことを考えてたのか」

 

 肯きに合わせて薄紫のツインテールが揺れた。

 

 一蹴して笑い飛ばしてやるべきか、その意見に寄るべきか――

 

「わかった。じゃあおれも王子とアスベルからなるべく目を離さないようにするよ。王子がアスベルに何かしないように」

 

 ソフィは弾かれたように顔を上げてシューイを見、やがて、ふわりと笑んだ。

 

 シューイはソフィから顔を逸らした。

 

「明日は早い。もう休め」

「うん」

 

 ソフィはぱたぱたと橋を下りて行った。

 

(彼女はまっさらな赤ん坊みたいなものだ。おれに相談したのだって、たまたまおれが声をかけたからだ。なのに何でこんなに落ち込んでるんだ)

 

 シューイはすぐにはそうしなかった。この胸の重さをなくすまで、誰とも顔は合わせられない。

 

 

 

 

 翌朝。グレルサイド領の広場にて、この領の民兵団の全てが結集し、整列した。

 シューイはアスベルらと共に、少し離れてその様子を見守っている。

 

「これはウィンドル王国を我らの手に取り戻す正義のための戦いだ。兵士諸君の健闘を期待する」

 

 リチャードが剣を抜き、高く掲げた。

 

「剣と風の導きを!」

『『『剣と風の導きを!!』』』

 

 兵士らが行進し、グレルサイド領を出発した。

 それからシューイらも例の遺跡に戻るために、グレルサイドを出た。

 

 前を行くのはアスベルとパスカル。真ん中にリチャード。後ろにソフィとシューイという布陣だ。

 これなら前後どちらから刺客があっても対応できる上に、シューイが全体を俯瞰していればさくらカードで左右も対応できる。

 ……ついでに、パスカルとソフィを離しておくという目的もあるのだが。

 

 それにしても驚かされるのは、パスカルの知識と技術だ。

 武器を改造したり修理したり、野菜の知識を披露したり。先に彼女がアンマルチア族だと説明しておいて本当によかったとしみじみ思う。

 ちなみに事あるごとにソフィに触ろうとした点は、シューイが間に入ってガードした。

 

 そんなこんなでウォールブリッジ地下遺跡に入った頃には、事が事なのに、すっかり和気藹々とした空気が生まれていた。

 

「俺と!」

「僕と!」

「わたしの前に」

「「「敵はない!」」」

 

 魔物(モンスター)との戦いを制して決めポーズをするアスベル、リチャード、ソフィ。

 

(これでいいのか反乱軍)

 

「どうしたんだ、シューイ」

「いや……ちょっと自分が何しに来たか忘れそうになっただけだ」

「?」

 

 こんな空気のまま遺跡へ潜り、地上に出る前にリチャードからの作戦確認。その後、パスカルが装置を起動して、彼らはついに外へ出た。




 ちょっと文体が事務的になったカナ?

 確かこんなかけあいがあったと記憶しているのですが。
 自分はアスベルの「揃わなくても泣かないし」三角座りが一番好きです。

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