CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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視えない敵

 顔を上げると同時、突如として川に巨大な竜巻が発生した。

 泥水を巻き上げ、勢いよく回転する水。あんなものを食らっては、確かに橋も落ちようものだ。

 

「逃げろっ!!」

「命令だ! 早く!」

 

 アリーシャの喝に、兵士と旅人たちはこけつまろびつしながらその場から走り去った。

 

「どうするんだよ。相手は竜巻だよ」

「いいや、違う」

 

 アリーシャは槍を出して構えた。スレイも儀礼剣を抜いた。

 

「あの中に巨大な蛇の憑魔がいる。コタロー、君の力も貸してくれ」

「蛇? そんなのどこに……」

 

 言いかけ、コタローは自分が、天族や憑魔を知覚できないことを思い出した。

 

「――了解。おれなりに頑張らせてもらうよ」

 

 アリーシャらがそれぞれの武器で竜巻に対し、踏み出した。

 

 コタローはコートの内ポケットから、星の鈴のキーホルダーを出した。

 

「星の力を秘めし鈴よ。真の姿を我の前に示せ。契約の下、虎太郎が命じる。封印解除(レリーズ)!」

 

 コタローは星の鈴を掴むや、さくらカードを一枚、宙に放った。

 

「竜巻を狙って射てくれ! 『(アロー)』!」

 

 星の鈴を掲げた。カードから開放された「(アロー)」は、1本の矢を竜巻の上へ向けて放った。

 矢は空中で無数に分裂し、竜巻に降り、刺さった。これでコタローは矢を目印に戦うことができる。

 

「『(パワー)』!」

 

 腕力、脚力、膂力、全てを強化し、コタローもアリーシャらの戦列に加わった。

 

「たぁぁ!!」

 

 矢を目印に、竜巻を二度打ち、蹴った。

 すると竜巻は、怒ったようにコタローにその身をぶつけてきた。軽いコタローはあっさりと吹っ飛ばされ、地面に転がった。

 

「大丈夫か!?」

「平気! アリーは前に集中して!」

 

 アリーシャもスレイもためらいや恐れを見せず竜巻に斬りかかっている。彼らにはコタローには視えない、ちゃんと実体を持つバケモノの姿が映っているのだろう。

 

 コタローは起き上がり、竜巻に向けて走った。

 

 攻撃してくる時であれば、殺気で位置がわかる。

 コタローは竜巻の側面を回り込んで走りながら、暴風を跳んで避けた。竜巻の後ろ側、アリーシャらからは向き合う側に立ち、

 

「どりゃあ!」

 

 竜巻を全力で締め上げた。

 

「コタロー!」

「おれが押さえてられる間に少しでもダメージ入れて! 早く!」

「くっ……おおおおおお!!」

 

 スレイとアリーシャの斬撃だけではない。時には熱や冷気を感じた。戦っているのだ、天族の二人も。

 

 次第に竜巻の威力が強まっていく。「(パワー)」で強化しているのに。

 

 ついにコタローは竜巻に吹き飛ばされた。

 アリーシャの呼ぶ声が悲鳴じみている。それが、ここで自分が傷つくわけにはいかない、という意地をコタローの中に呼び起こした。

 

 コタローは壊れた橋の隅に手をかけ、ぎりぎり川に落ちずにすんだ。

 

 腕力だけで橋によじ登り、叫んだ。

 

「導師さん! トドメ、お願いします!」

「任せろ! 『フォエス=メイマ』!」

 

 ライラの神依で変身したスレイは、炎をまとった聖剣で竜巻を横一文字に斬り裂いた。

 

 竜巻はぶわりと散り、消えた。

 

「やっつけた……?」

「ああ。バッチシ」

 

 スレイの姿が元に戻った。スレイは手の中で儀礼剣を半回転させ、鞘に納めた。

 

 ――少しは役に立てただろうか。

 

 コタローがスレイに声をかけようとしたちょうどその時、スレイは何もない空間に向かって話し始めた。

 忘れていた。彼もコタローのきょうだいと同じ、「異なる視界」を持つ者だと。

 

 コタローは挙げた手を引っ込めた。そして、兵士らに事情を話しに行ったアリーシャのほうへ歩き出した。




 カードだけ視えればいいとアリーシャには言いつつも、やはり「視える人」に対してはどこか複雑なものを感じてしまうコタ君なのでした。
 アリーシャも視えるは視えるのですが、コタローにとって「友達」であるアリーシャはカウントされません。

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