CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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腐れ縁

 ウォールブリッジに着いてから、アスベルとリチャードは頭を抱えている。

 ――ウォールブリッジとは名の通り橋がそのまま砦になった関所。たかだか4人で砦を突破するのは難しい。別ルートについては、リチャードは王都経由でなければ行けないと言う。

 

 シューイは別のことに考えを致していた。

 

 通り抜ける方法なら、ある。「(イリュージョン)」のさくらカードでこちらを視えなくして、透明人間状態になれば兵士に気づかれずにウォールブリッジを越えられる。

 

(けど、魔法を特定の誰かのために対価なしで使うのは、魔術師としては偏った行為だからよくないって、エリオル師、言ってたんだよな。でもさっき『(サンダー)』使って、結果的にはこいつらを助けた形になるから、今さらそんな制約、気にしても遅いんじゃ――)

 

 

「ぐぼはあ!」

 

 ……女声なのに色気や可愛げの一つもありはしない悲鳴がした。

 

「どうした! 何があった!」

 

 アスベルが真っ先に、岩の裏側にいたソフィに声をかける。

 

「あの人が、触った」

 

 ソフィの見つめる先で、一人の女性が尻餅を突いて放心していた。

 女性の顔を見て、シューイは本気で頭痛がした。

 

 歳より幼く見える愛くるしい顔立ち。白から赤へのグラデーションヘア。活動的な服装。普通の杖とは一味違うデザインのロッド。

 

「……ウィンドルに来てまで何してるんだよ、パスカル」

「シューイの知り合いなのか?」

「ああ。一応な。今でも知り合ったことを後悔する程度には知り合いだ」

「へ、へえ」

「おー! 誰かと思えばシューイじゃん。ひっさぶり~! カードくんたちは元気? あれから増えた?」

「3倍になったよ、おかげさまで。残りは3枚だ。だからって分解はさせないからな」

「分解?」

「おれの持ってる特別な触媒の仕組みに興味があるって言って分解しようとしたんだ。もちろんさせなかったがな」

 

 

 ――その頃のシューイはエフィネアに降り立って間もなくで、占いでさくらカードの居場所を突き止めては、世界中を渡り歩いて着々とカードを封印していく生活をしていた。

 この時にフェンデルにも行き、パスカルと会った。

 さくらカードに興味を持ち、解体しようとするパスカルを慌てて追い払い、以来、追いかけ回されている仲だ。

 

 

「ねえねえもっかい触らせて~。何ならあたしを触っていいからあ」

 

 シューイは空かさずソフィを背後に庇った。

 

「嫌がってる。その辺にしておけ」

「いやー、まさか本物に会えるなんて思わなくてさ。ついはしゃいじゃった」

「本物?」

「ほんのついさっき、その子の幻を見たんだよね。うーん。口で説明してもわかんないんじゃないかな~。実際に見たほうが早いと思うよ。すぐそこだし」

 

 たったかたー

 

 パスカルは軽い足取りで、ある円盤の上に走って行った。シューイにも見覚えがある。他でもないパスカルと共に似たような「遺構」に入った経験があった。

 

 シューイは背後にいるままのソフィをふり返った。

 

(確か話だと、この子、記憶喪失なんだっけか。幻ってのは多分プロジェクターが映し出す立体映像のことだろうから、この子の過去の記録がこの中にはある)

 

 シューイは無言で、円盤に立つパスカルに並んだ。

 

「おりょ。シューイ、行くんだ。前は『めんどいから』って言ってなかなか来なかったのに」

「その時と今じゃ事情が違う。――ついでに中からウォールブリッジを抜けられないか見て来る。お前らは少しでも休んで」

「俺も行く」

 

 珍しく他人に厚意を働かせたのに3秒で無視された。

 

「俺だってソフィの幻のことは気になる。それに、二人より3人のほうが心強いだろ」

「アスベルが行くなら僕もそうしようかな」

「わたしも」

「じゃーみんなで潜るってことでおっけー?」

「ああ」

 

 おれの厚意を返せ。

 シューイはそう言う代わりに、大きく肩を落として溜息をついた。

 

 

 

 

 全員で詰めて装置に乗れば、地下遺跡にはすぐ移動できた。自分たちは動いていないのにどうやって、とリチャードがパスカルに尋ねたが、パスカルは適当な擬音で答えたのですっかり伝わらなかった。

 

「遺跡を作ったのは大昔のアンマルチア族だからね。あ、アンマルチア族っていうのは、こうやって世界各地に残ってる遺跡を作った種族のことね」

「詳しいんだね。もしかしてパスカルさんは考古学者なのかな」

 

 リチャードは一見して世間話のように尋ねているが、目が笑っていない。パスカルの素性を怪しんでいるのが見え見えだった。

 知人がスパイや刺客の冤罪を被るのは気分がよくないので、シューイはさっさと言ってしまうことにした。

 

「考古学者も何も。こいつがそのアンマルチア族だよ。服装から生活様式が全然違う技術体系で成り立ってるの、わからないか?」

「そうなのか!?」

「驚いた……まさか実在していたなんて」

「別に吹聴して回ることじゃないでしょ~」

「おれたちは緊迫した状況なんだ。連れの素性は細かく知っておきたい」

「ああ。よからぬ目的がないか腹を探りながら一緒に歩くのもしんどいしな」

「じゃあ乙女の秘密を暴露してあげたってことで、お礼に触らせて!」

 

 パスカルは満面の笑顔でソフィに両腕を伸ばした。シューイは慌ててパスカルとソフィの間に立った。

 

「む~、けちんぼめ~」

「この人のことは無視して先に進んでいいぞ」

「あ、ああ」

 

 シューイらはパスカルを案内役にして遺跡を奥へ奥へと進んだ。

 

 時に魔物(モンスター)が現れもしたが、そこはアスベルとリチャードが、7年も会っていなかったとは思えないコンビネーションで斬り伏せてくれた。

 

 むしろシューイにとっての脅威はパスカルだった。

 事あるごとにソフィに触ろうとするものだから、間に入るのが大変だった。

 

 ようやく遺跡の最深部に着いた頃には、シューイは普段にはない妙な消耗を味わった。

 

「だ、大丈夫か?」

「平気だ。それよりお前、この子の保護者ならパスカルから守れよ。さっきとか、お前と王子が話し込んでるもんだから、この子、逃げ込む先なくて困ってたぞ」

「そうだったのか……ごめんな、ソフィ」

「いいよ。シューイが隠してくれたから」

「そ、そうか。ところでそのパスカルはどこに」

 

 シューイは無言で指差した。

 パスカルはすでに装置の前に立ち、タッチパネルを軽やかに打つ作業中。

 

 しばらくして、台座の上に少女の立体映像が投影された。

 確かに見た限りではソフィそっくり、いや、そのものだ。

 

 装置はすぐに止まり、ソフィの映像も消えた。

 

「ソフィ。今の幻を見て、何か思い出したりしたか?」

 

 アスベルの問いに対し、ソフィは無言で首を横に振った。

 

「ここんとこに書かれてる文字も消えちゃっててほとんど読めないんだよね。辛うじてわかるのが……“ラムダ”って書かれてるとこだけど」

「ラムダ――」

「シューイ、どうかしたか。心当たりがあるのか?」

「――いや、何でもない。探索はここまでにして、そろそろ上に出ないか。お前らはともかく、王子はあまりこういう場にいないほうがいい。持病があるんだろう?」

「すまないね。気を遣わせて」

 

 

 

 

 地上に出ると、そこはグレイル湖の対岸だった。本当に遺跡が湖を跨いで広がっていたことに、シューイは内心で感心した。

 

 予定通りグレルサイドへ向けて歩き出したシューイら――の後ろから、さも当然の顔で付いて来るパスカル。

 

「……聞きたくないけど聞いてやる。何で付いて来るんだ」

「ソフィと『なかよし』になりたいから!」

 

 なかよし。母がよく、さくらカードとカードの守護者たちに対して使うフレーズ。

 

 シューイはとっさのことで固まってしまった。

 

「ねえ、ソフィ? あたしとアスベルとリチャードとシューイなら、誰が一番好き?」

「アスベル」

 

 無表情の下で凄まじいショックを受けたシューイである。

 

(待て待て待て。おかしいだろ、おれ。別に彼女が誰を好きになろうとおれが口出しできることでもないじゃないか。なのに何でショックなんか受けるんだよ。ああ、くそ。パスカルが変な質問したせいだ)

 

「むぉ~くやし~! 仲良くなりたい、ソフィと仲良くなりたいよ~!」

 

 そこでリチャードが脱力したように苦笑した。

 

「この人は……悪い人ではない気がするよ。一緒に行っても平気じゃないかな」

「……そうだな。もうしばらくこのまま行こうか」

 

 パスカルを信じたというより、疲れた色合いの濃いアスベルの返事であった。




 前回が男3人パートナーを次々切り替えたので、今回はヒロインこそソフィですがパスカルとシェリアとの絡みが多くなる予定です。もちろん友情的な意味で。

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