CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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隠し路の再会

 バロニア港から王城へ向かう道すがら。並んで歩くソフィとアスベルに着いて行きながら、シューイは自分の行動に自分で戸惑っていた。

 

(何であの子を見てると、こう、落ち着かない気分になるんだ。もしかしてあいつの治療でミスしておれに風邪が感染ったか。だとしたらこの熱さも納得がいく……いやいや、ない。あの程度の魔法で失敗するなんてありえない。エリオル師が教えてくれた初歩の魔法だぞ。ああ、でも、だったら本当に何で)

 

 考えながら、ソフィの薄い背中から、揺れる薄紫のツインテールから、目を逸らせない。

 

 後ろから人が尾けてくる気配に気づかなければ、ずっとそうしていただろう。

 

「おい、お前ら」

 

 呼びかけると、二人が足を止めてふり返り、彼らもまた気づいた。

 

「バロニア城へ行くつもりかな」

 

 顔を隠した騎士が二人、彼らの後ろに立っていた。

 

「こいつら、ラントを出た時に襲ってきたっていう奴らか」

「意外にしつこいな」

「リチャード殿下に会いにいくつもりか」

「そうだと言ったら?」

 

 船の上で、アスベルはリチャードという人物にソフィを匿ってもらうつもりだと言った。リチャードが友人の一人だとも。だが、そのリチャードが「殿下」と呼ばれる立場の人間だとは聞いていない。

 

「死んだはずのリチャード殿下にどうしたら会えるというのだ? アスベル・ラント」

「死んだ……? リチャードが!?」

「猿芝居をしても無駄だ。お前がとぼけているのは百も承知だ。さあ、お前の知っていることを話してもらおう」

 

 他人の話に耳を貸す気がない人間は面倒だ。それにこのままでは、アスベルの危惧した通り、ソフィにも類が及びかねない。

 

 右手に集中すれば、剣はすぐに現れた。

 コートの内ポケットから取り出すのは、一枚のさくらカード。

 

「何だ、お前は!」

「我らの姿を隠せ。『(イリュージョン)』」

 

 ふわ。やわらかい波動がシューイら3人を包んだ。

 

「な、何だ!?」

「急に消えたぞ!」

 

 成功だ。これでこの騎士たちにはシューイらが視えなくなった。

 

「シューイ、今の」

「一時的におれたちの姿を見えなくした。音までは消せない。静かにこの場を離れるぞ」

「……よくわからないが、とにかく見えてないんだな。わかった」

 

 シューイはソフィ、アスベルと共に、忍び足でその場を離れた。そして騎士が見えない場所まで来て、「(イリュージョン)」を解いて走り出した。

 

「俺を治した時といい、シューイってとんでもない奴だな!」

「王子が友達のお前のほうがよっぽどとんでもない! ――この後どうする。宛てはあるのか」

「子供の時、バロニア聖堂に忍び込んで隠し通路を見つけたことがある。とりあえずはそこへ行く。あそこなら人目に付かずに移動できる」

「了解した」

 

 聖堂に着いたはいいが、扉は閉ざされていた。

 シューイは「(シャドウ)」で内側から影を操って鍵を開けようとした。しかし、その前にソフィがパンチ一発で扉を叩き壊してしまった。

 これにはシューイもアスベルもあっけ、である。

 

「また扉を壊したのか」

「また?」

「あ、いや、そうじゃないか。ごめんごめん。間違えた」

 

 ソフィは一つ首を傾げたが、先に聖堂に入って行った。

 

「『また』っていうのはどういうことだ?」

「昔、あの子と同じ姿の子と会ったことがあるんだ。名前も同じ」

「その子は」

「死んだ。7年前。俺たちを守って」

「……そうか」

「悪い。暗くなる話して。さ、ソフィを追いかけないと」

「ああ」

 

 7年前というと、アスベルはせいぜい10歳程度だろう。そんな子供の目の前で人が死んだ。心の傷として残っていてもおかしくない。

 

(何を言ってやれっていうんだ)

 

 聖堂の中に入り、アスベルが噴水の横の壁をいじると、人一人が通れそうな空間が開いた。

 

 中に入る。案の定、暗闇だ。

 

「灯りになる物、持ってるか。ロウソクとか」

 

 ソフィもアスベルも首を振った。

 

「昔はどうやって進んだんだ」

「子供なりに夜目が利いたみたいで」

 

 アスベルは頭を掻きながら苦笑した。

 

 シューイは溜息をついて、剣を召喚した上で、さくらカードを取り出し、宙に投げた。

 

「木之本桜の創りしカードよ、その魔力を剣に移し、我に力を。『(グロウ)』」

 

 さくらカードを剣先で突いた。

 

 ふわ、ふわ、と落ちてくる、光る綿雪。蛍とは異なる。「(グロウ)」が出す灯りはこのような形をしている。

 

「光るフワフワがいっぱい。これなあに?」

 

 ひょこんとソフィがシューイを覗き込んだ。シューイはのけぞった。

 

「……魔法だ」

「魔法?」

「煇術の変形版だと思え」

「シューイすごい」

 

 だめだ。やはり顔が熱くなる。ここが暗い洞窟でよかった。

 

「は、早く行くぞ!」

「ちょ、シューイ!? 速い速い! ソフィも同じ速度で追わなくていいから!」

 

 てんやわんやし、時には魔物(モンスター)と戦いながらも、シューイたちは洞窟を着実に進んでいた。

 

 行く手に、いかにも貴族らしいマントを着た金髪の青年がいたことで、彼らは足を止めた。

 

 

 アスベルが顔色を変えて真っ先に青年に駆け寄り、しゃがんで青年の肩を揺さぶった。

 

「リチャード! リチャード、しっかりするんだ!」

「君は……」

「アスベルだ! アスベル・ラント」

「アスベル……? 本当に君なのか」

 

 しゃがみ込んでいた時にはそのまま気絶しそうに見えたほど顔色が悪かったのに、リチャードは相手がアスベルと知るや、血色が良くなるほどの歓喜を浮かべた。

 

「それはこっちの台詞だ! お前が死んだと聞いて驚いたんだぞ」

「僕が、死んだ……」

「あ……無事で、本当によかったです。お立ちになれますか、殿下」

 

 アスベルがリチャードの腕を自身の肩に回させ、立ち上がる介助をする。

 リチャードはそのままアスベルの肩を借りて歩き出した。彼らをソフィが追いかけ、そのソフィをシューイは追いかけて歩いた。

 

「アスベル。君は本当に僕を助けに来てくれたんだね」

「はっ。間に合ってよかったです」

「そんな他人行儀な話し方をしないでくれ。僕と君の仲じゃないか」

「しかし、立場がございますので」

「僕がこうやって頼んでもかい?」

「……わかった。それなら昔の通りにする。それでいいか?」

「ありがとう。やはり君にはそうやって話しかけてもらうのが一番しっくり来るよ」

 

 人の良さそうな王子様。

 それがシューイの、リチャードへの第一印象だった。

 

 印象を覆される出来事がこれから山ほど起こるなど、この時のシューイは想像さえしていなかった。




 まだまだソフィへの気持ちを分かりかねている柊一ことシューイなのでした。
 これからシューイがもだもだする姿を読んで皆様に2424していただければと思います。
 この子の「エリオル師」についてはもうしばらく種明かしをお待ちください。
 今は、虎太郎に苺鈴がいたように、柊一にはエリオルがいたとお思いいただければ。

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