CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
審判の門から、瘴気の炎が完全に消えた。
「終わったの?」
ミュゼはツバサの手を離さない。ガイアスも、また。
(アーストさんとミュゼさんの手、あったかい。お父様とお母様に抱き締められた時みたい)
『終わったよ。君たちは「審判」を超えた』
「待ってください! 君『たち』って」
ジュードが身を乗り出した。
『これはツバサ個人への審判であると同時に、君たちへの審判でもあったんだよ。ミラを救うにも、ヴィクトルを救うにも、魂の橋なしでここへ来るにも、ツバサの魔法頼みだった君たちが、一人の傷ついた女の子に手を差し伸べられるかのね』
ミュゼの手がツバサから離れた。
「先に脅しておいて。あまりいい趣味じゃないわね」
「先に目の前の利益を優先した貴様らに言われる筋はない」
ジュードがツバサの前にしゃがんだ。
「ごめん。たくさん助けてもらったのに、肝心な時に力になれなくて。さっき君の手を取るのが正しい選択だったのに。僕にはそれができなかった」
ツバサは微笑んで首を横に振った。
「オリジン。この審判の結果はどうなったのだ」
『ツバサは合格だ。けれど他とは、もう少しだけ付き合いが長くなりそうだ』
「構わない。最初から承知の上で再審申立をしたんだ。今度は超えてやる。俺たち自身の力で」
ルドガーがはっきりと答えた。
ツバサは不思議と確信していた。「再審」はそう長い歳月をかけずに決着がつくだろう、と。これも母譲りの第六感が知らせる予感かもしれない。
『僕も君がくれた
続いてオリジンはヴィクトルとミラを向いた。
『君たちはどうする? 正史世界に留まってもいいし、ここで魂の循環に乗るなら迎え入れよう』
エルがミラとヴィクトルの間に入り、二人と手を繋いだ。行かないで、と翠の瞳が訴えている。
ヴィクトルがしゃがんでエルと目線の高さを合わせた。
「エル。私がエルのそばにいようと思えば、私としてではなく、ルルとしてになる。守ってやることも、二度と料理を作ってやることもできない。それでもいいか?」
「そうしないと、パパ、消えちゃうんでしょ? だったら、いいって言う。もうパパとはなれたくない」
「エル……」
ヴィクトルとエルは強く抱き合った。そのような場面を見せられると、どうしても父親を思い出してしまう。ツバサもエルのように、父に抱き締められて「おかえり」を言われたい。
「ミラも」
「――私がそうしたくても、あなたのパパみたいに器がないんじゃしょうがないわ」
「その器なら、私が提供できるかもしれない」
ミラ=マクスウェルが言ったことに、ミュゼとジュードが焦ったように彼女を呼んだ。
「先代のマクスウェルは魂の循環のために自分の分体を精霊界に置いていた。分体は同一存在と見なされていなかった。同じように、私の分体に彼女の魂を宿せば、消滅のルールを免れるかもしれない。どうだ、クロノス」
「それを我に問うか」
「一番詳しいだろう?」
「――精霊の分体はあくまでその精霊の『一部』と見なされる。ゆえに消滅はしない」
驚きをあらわにするミラに、エルが「やったあ!」と抱きついた。
(これでみんな大丈夫、だよね)
ツバサは立ち上がった。消耗してはいたが、ガイアスが肩を支えて立てるよう助けてくれた。
改めてガイアスを見上げた。
面映ゆい言い方になるが、ガイアスは木之本つばさの初恋の人だった。
肩に添えられた大きな掌から、そっと離れた。
「クロノスさん。無理を承知でお願いです。わたしを元の世界に帰してくれることはできませんか?」
魔法を頼みにせず進もうとするルドガーたちの近くに、魔法使いのツバサがいてはいけない。
それに、今や帰ることはツバサ一人の問題ではない。ツバサはカードたちを連れて帰り、本来の主である母に再会させてやらねばならない。
『それが君の選択なんだね』
「はい」
ふり返る。誰もが惜しむ顔、悲しむ顔をしてくれていた。行くな、と言われるよりずっと嬉しかった。それは皆がツバサの意思を正しく汲んでくれている証だから。
オリジンがクロノスに一声かけると、クロノスはツバサに向けて手をかざした。
ツバサ一人がちょうど入れる円柱状の立体魔法陣が展開した。
ツバサは魔法陣の壁に両手の平を当てた。
(もっとみんなと色んなことをしたかった。色んなとこに行きたかった。みんなのこともっと知りたかった)
俯いた。泣き顔を見せては、ここにいる人たちは優しいひとばかりだから、最後に心配させてしまう。それは嫌だ。だからツバサは下を向いて、顔を見られまいとした。
「泣くな」
顔を上げた。
ガイアスが真正面に立って、魔法陣の外側からツバサと手の平を重ねた。
「お前の笑っている顔が、俺は、嫌いではなかった」
「アーストさん――」
ツバサは乱暴に目元を拭い、震える唇で笑みを結んだ。
「そのほうがずっといい」
魔法陣の中から、薄い壁一枚を隔て、自分が世界から消えてしまうまで、ツバサはガイアスと重ねた手の平を離さなかった。
………
……
…
ホワイトアウトした視界が晴れていく。
(ここ、うちの中庭?)
伸ばした手の先には誰もいない。つばさはその手を強く胸に押し当てた。
「つばさ」
はっとしてふり返った。中庭に出て来た人たちは、つばさが会いたくて会いたくて堪らなかった人たちの――
「っ……ただいま! お父様、お母様!」
~Fin~
これにて「CCさくら×テイルズ」第2弾を終了とさせていただきます。
エクシリア編ではとにかく死亡キャラを出すまいと書き続けて、気づけば(作者的には)こんなに大量になってしまいました。
最後までご都合主義満載でした。
それでも読んでくださった方、ブクマしてくださった方、コメントを下さった方。
本当に本当にありがとうございます。
発つ鳥跡を濁しまくりますが、実はまだこのシリーズ、続きます。
第3弾は小狼似の長男で、グレイセス編です。