CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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もう一つの「審判」

 ツバサは晴れ渡る空を微笑んで見上げていた。

 

 オリジンの審判は「現在」を尊び、「現在」を救うという形で一つの終わりを迎えた。

 

 あくまで一つの終わりで、これは新しい試練の始まりでもある。

 

 断界殻(シェル)を開いたジュードたちを許さないアルクノアがいるように、ルドガーの今回の決断を認めないクルスニクもいるだろう。

 そんな非難や批判を受けるのも呑み込んだ上で、ルドガーはこの「決断」をしたと、ツバサは知っている。

 

(ルドガーさんたちはすごくがんばった。今度はわたしの番)

 

 ツバサは星の長杖を握り、ルドガーたちの輪を出た。

 

「ツバサ?」

 

 呼びかけるジュードたちをふり返らない。ふり返ったら、決意でどうにか立っている足が萎えてしまう気がした。

 

「ルドガーさん、あなたの中の『(ドリーム)』を封印させてください」

 

 ルドガーははっとした顔をして、次いで厳しい顔つきでツバサを見下ろした。

 

「いよいよなのか」

「はい」

「わかった。今日までありがとう」

 

 ツバサは星の長杖をルドガーの胸の中心に向けた。

 

「汝のあるべき姿に戻れ。さくらカード」

 

 ルドガーから抜け出し、姿を現す「(ドリーム)」のさくらカード。

 星の長杖を立てると、星飾りの上で像がほどけ、カードの形へと変わった。

 「(ドリーム)」のカードがツバサの手に舞い降りた。

 

 これでエレンピオスに散った全てのさくらカードがツバサの手に集った。

 

 ツバサはレッグホルダーのさくらカードを全て出し、「(ドリーム)」のカードも含めて、無造作に宙に放った。

 カードは一枚も地面に落ちることなく、蛍火を灯してツバサの周りを漂った。

 

「木之本桜の創りしカードたちよ。汝らの(あるじ)たることを望む者がここにいる」

 

 ツバサの足元に、星をモチーフにした魔法陣が展開した。

 

「名を、つばさにして、李(イー)(ファ)。我が真に汝らの主にふさわしいか。(あるじ)が選びし『審判者・オリジン』よ、我に最後の『審判』を下せ」

 

 

 

 

 

 「(ドリーム)」のカードをツバサが封印した時点で、ガイアスはすでに違和感を覚えていた。

 

 ツバサはさくらカードを封印するにつけ、謝った。この世界にさくらカードを散らばらせた責任は自分にあるからと。

 

 そのツバサが、ルドガーには謝らなかった。

 

 そして、今のこの状況だ。

 

「最後の、審判?」

『この世界にツバサの世界からさくらカードが迷い込んだことで、もう一つの「審判」を行う必要が生まれた。さくらカードを全て集めたツバサに課される審判。僕はさくらカードの主からその審判者を頼まれた』

「……ごめんなさい」

 

 ツバサはふり返らない。

 

「わたし、必ず勝ちますから。『この世の災い』なんて起こさせませんから」

 

 それが追い込まれた者の発する声だと、ガイアスは知っていた。

 

『審判のルールは僕に任されている。僕が任意で決めていいね?』

「……はい」

『今から瘴気の封印を緩める。外に溢れた瘴気を、さくらカードを使って消せたら合格だ。「この世の災い」は食い止められる。外野の手出しは無用だよ。クロノス、君もツバサの邪魔しないこと』

 

 オリジンが片腕を上げた。

 

『始めよう』

 

 とたん、ぶわりと。審判の門を囲んで炎が広がった。

 

 ツバサは迷いなく、浮かぶさくらカードから1枚を選んで星の長杖をかざした。

 

「『(ウェイブ)』!!」

 

 水のないはずの審判の門に大波が起き、広がる炎を覆い、消火した。

 しかし、瘴気の炎は消えたそばから燃え上がる。そのたびに波が起きては消火する。

 

「な、何ですか? この世の災いって何なんです?」『説明してよー!』

「――『忘れること』だ」

 

 ざっ。全員が音を立てる勢いでルドガーに注目した。

 

「さくらカードに関わった人全てから、一番好きな人を『好きだ』って気持ちが消える。永い時間を生きるカードたちが、(あるじ)を失った時、悲しみに囚われないように。一番大好きな主への気持ちを忘れる魔法をかけた。それはカードに関わったみんなが同じなんだ。人も精霊も」

 

 誰もが呆然とその答えを聞いていた。

 

「……人によっては災いでも何でもないかもしれねえ。けれど」

「人によっては世界が滅ぶよりずっと辛いことかもしれないんだね……」

 

 ルドガーは肯いた。

 

「ルール上、ツバサは誰にも言えなかった。言えるなら真っ先に相談してくれてたはずだ」

「待ってよ! じゃあ、あなたはどうして知ってるのよ」

「俺は、『(ドリーム)』の過去夢の中で見せられたから。でも、知ってることも、ツバサには教えられなかった」

「今まで魔法で助けてくれたのは、わたしたちの世界に『審判』をもう一つ増やしちゃったから?」

「ツバサさんが『ひとりで頑張ること』を嫌うのは、ご自身が独りで耐える苦しみや悲しみを知っていたからだったのですね」

 

 徐々に瘴気の炎を消す波の威力が落ちていく。ツバサは呼吸が荒くなり、杖にもたれるようにしてようやく立っているような状態だ。

 

 ツバサは別のさくらカードを取り、星の長杖をかざした。

 

「『(フリーズ)』!!」

 

 審判の門の前の地面が、ガイアスたちのいる場所を避けて凍りついた。

 瘴気の炎がカウンタードラムから広がるが、氷の上で炎は長く燃え続けることはできない。少々燃えても、先に発動している「(ウェイブ)」が瘴気を消火した。

 

 ガイアスは気づいた。おそらくジュードたちリーゼ・マクシア人は全員が気づいている。

 2枚のさくらカードを使うツバサから、普通の精霊術以上に急速に魔力(マナ)が失われていくことに。

 

 今は押し勝っていても、オリジンがいつまで瘴気の炎を出し続けるかはわからない以上、いずれ消耗によってツバサが不利になるのは明確だ。

 

(オリジンは、外野の手出しは無用だと言った。俺たちは見ているしかできないのか)

 

「忘れさせたり、しませんから」

 

 ツバサは両足を踏みしめ、しっかりと、まっすぐに立った。

 

「皆さんが誰かを一番好きだと思う気持ち、なくさせたりしないから。絶対、だいじょうぶ、だから……」

 

 ぐら、とツバサが後ろに倒れた。地面から氷と波が消えた。

 

「ツバサっ!」

 

 倒れたツバサにルドガーたちが一斉に駆け寄った。

 1拍遅れたが、ガイアスも、倒れたツバサを囲む仲間に加わった。

 

「いや……忘れたく、ない、のに……わたしの本当のきもち……」

 

 腕を使って上体を起こしたツバサは、再び星の長杖を立て、「(ウェイブ)」と「(フリーズ)」のさくらカードを発動させた。

 

 ガイアスは、杖を握るツバサの手を、上から掴んだ。

 

「アースト、さん?」

「俺とて霊力野(ゲート)を持つ、れきとしたリーゼ・マクシア人だ。いくらか足しにはなるだろう」

 

 ――かつてジュードが源霊匣(オリジン)ヴォルトを起動した時は、仲間の手を借りてだった。ガイアスは一人でやろうとした。今ならどちらがより良い道を拓けるかわかる。

 

「手出しは無用だとオリジンは言ったはずだ」

「言ったが、手出ししてツバサが失格になるとは明言しなかった」

「暴論を……っ」

 

 クロノスが忌々しげにガイアスを睨んだが、ガイアスはツバサの手を離さなかった。

 

 すると、ガイアスの手の上に、さらに手を重ねた者がいた。ミュゼだ。

 

「ミュゼさん……」

「精霊だって関係あるのに、人の子のあなたにだけやらせるのはフェアじゃないでしょ?」

 

 ツバサは目を潤ませてミュゼを、ガイアスを見上げ、空いた手で目元をぬぐった。

 

「お願い、カードたち! つばさと、つばさたちと一緒に頑張って!」

 

 波が、氷が、勢いを取り戻した。

 審判の門全体に広がった波と氷が、今度こそ、瘴気の炎を消し尽くした。




 さくらがエクシリア世界での「審判者」に選んだのは、オリジンだったのでした。
 ガイアスがツバサに手を貸したシーンはどこからオマージュしたか、きっとCCさくらをご覧になっている方はお分かりでしょう^m^
 次あたりで終わらせられたらと思っております。

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