CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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再審請求

『再審?』

「ああ。まず前提として、この審判は最初から人間側に不利になるよう設定されていた。分史世界の破壊のために骸殻を使い、その骸殻能力者が時歪の因子(タイムファクター)化し、さらに分史世界が増えるって構造はおかしい。どうやっても分史世界はゼロにできない。ならないように仕組んだんだろ? クロノス。それに、オリジン。お前はクロノスの妨害行為を察していたから、“クルスニクの鍵”なんてシステムを与えた。クロノスに妨害をやめろとは言わなかった。どっちもタチの悪い確信犯だ」

 

 オリジンは黙して答えない。

 クロノスは答えないに加えて、腕組みして舌打ちせんばかりにルドガーを睨みつけてきた。

 

「次に、カナンの道標。正史で手に入れられる道標があったにも関わらず、先代マクスウェルが断界殻(シェル)を作ってリーゼ・マクシアを閉ざしたのは、明らかに妨害行為だ。しかも数代に一人しか生まれない鍵を待たないと道標さえ持ち帰れないんじゃ、鍵のいない世代は無駄死にだ」

 

 予知夢の中で、ビズリーがクロノスに対して言っていた。ピースを隠したパズル。その通りだとルドガーも思う。

 

「最後に。『何でも願いを叶える』って対価は血族間の内部分裂を誘い、審判に臨むのを遅らせる。骸殻が強くなればなるほど『橋』になる確率が上がるのは理不尽。これもまた内部分裂につながり、審判を遅らせる。――以上の点から、この審判は人間側に不利になるよう精霊側があえて設定したものと想定される。よって今までの不公平なルールで行われた審判を()()()()()()、再審を請求する」

「2000年分の審判の歴史をリセットしろと?」

「いくら時空や無の大精霊って言ったって、過去の改ざんなんてできるわけないのは知ってる。白紙に戻すのは今ある結果だ。今ある分史世界を消去して、時歪の因子(タイムファクター)化した骸殻能力者はその症状を消す。その上で、新しい、公平なルールで、『再審』を始めるんだ」

「――ルドガー。お前は」

 

 低く唸るように声を上げたのはビズリーだ。

 

「今日までの2000年、我々クルスニクが払い続けた犠牲を全て無駄にするつもりか」

 

 イエスと答えれば直後にその拳で粉砕されそうだ。嫌な汗が背中に滲んだ。

 

「そう、なるのかもしれません。でも俺は、どうやっても犠牲者を出さなくちゃいけない審判のルールそのものが許せない。そんなルールのために苦しむことになった人たちを想えば、ますます許せないんです。兄さんもリドウも、それに、ビズリー社長、あなたも」

 

 ビズリーをふり返った。見つめる視線に、少しでもルドガーがビズリーを――実父を想う心が伝わることを祈って。

 

 ルドガーはカウンタードラムに向き直った。

 

「再審の新ルールは3つ。一つ、骸殻の使用上限のペナルティは骸殻の喪失。二つ、道標は正史世界に永続的に存在する物質を新たに設定する。三つ、魂の橋をなくして、カナンの地が開かれればその時点で審判の門に召喚されるシステムにする」

 

 “犠牲者を出さないことを前提にした新たな『審判』を求めるんだね”

 

「俺の提案を受け入れてくれたら、俺は願いの権利で『瘴気を浄化するための精霊を産み出す』って言う。オリジンを何千年と焼いた痛みから解放してやる」

 

 “僕が断ったら?”

 

「俺の願いの権利を放棄して、ビズリー社長に譲る」

 

 ビズリーの願いは「精霊から意思を奪い道具とする」こと。つまりルドガーの「提案」を呑まねば、オリジンたちは人間の道具になる。

 

「ふざけるな! そのような戯言、我らには受け入れるしか選択肢がないではないか!」

「受け入れるしかないように案を詰めたからな」

 

 ヴィクトルはエルを抱き支える姿勢は崩さず、カウンタードラムを睨み据えた。

 

 この日のために、多くの過去の記録を集め、どうすれば確実にオリジンがこの提案を呑むか。ルドガーはヴィクトルと、レイアやアルヴィンと幾度となく頭を突き合わせて話し合った。

 

「さあ、答えろ。オリジン」

 

 “わかった。ルドガー。君の「提案」を聞き入れよう”

 

「オリジン!?」

 

 “クロノス。ここは素直にルドガーの「提案」を呑んだほうがいい。それに、新しい精霊を誕生させてまで、クルスニクにとっては仇に等しい僕まで救おうっていうんだから”

 

 カウンタードラムが真ん中から左右に割れて、中から炎に焼かれながら白い少年が現出した。

 

「お前がオリジンか」

『そうだよ。初めまして、人と精霊たち。早速で悪いけれど、ルドガー、君の願いを告げて』

 

 その時、背後で闘気が膨れ上がった。

 ルドガーは反射でカウンタードラムの前から飛びのいた。

 

 カウンタードラムの中にいるオリジンを守ってクロノスがビットの全てを前方へ出した。

 それらのビットを、ビズリーが拳で粉砕した。

 

「――これが俺“個人”の願いだ。届かなかったがな」

 

 ビズリーは突き出した拳を引き、カウンタードラムの前から離れ、一人、遠くも近くもない位置に立った。

 

『さあ、ルドガー』

「俺の願いは『瘴気を浄化する精霊を産み出す』こと!」

 

 その瞬間、水滴が水面に落ちた時のような音がした。

 

 オリジンの上に透明な雫が集まって集まり、少女のカタチを結んでいく。

 やがて雫は、オリジンの対であるかのような白い光で構成された体となり、白いワンピースをふわりと浮かせて、オリジンの横に降り立った。

 

 白い少女の頬を一筋の涙が伝い、雫が暗闇にぽつん…と落ちた。

 

 するとまるで泉でもあるように一滴が波紋を広げ、ざあっと飛沫を上げて赤黒い炎を消した。

 

「涙の一滴でこれほど大量の瘴気を……昇華した、だと」

『決めたよ。君の名前は「ラクリマ」。涙の大精霊ラクリマだ』

 

 オリジンは白い少女――ラクリマと向き合い、彼女の両手を取った。

 

『次は僕の番だね。今から次元の海に漂う全ての分史世界と、世界中の骸殻能力者の時歪の因子(タイムファクター)化を無に帰そう。――この地にやって来る魂の瘴気の浄化を頼むよ、ラクリマ』

 

 ラクリマは小さく肯いた。

 

 オリジンが上げた両手が6本に増えた。直後、オリジンから光の柱が迸り、空にぶつかって四散した。

 

 空が晴れ、あちこちにあった歯車が地平線の下へと沈んでいった。

 

 

「ルドガー!」

 

 ふり返る。エルの顔面を半分侵していた黒は消え、目は翠に戻っていた。

 これならば地上にいるユリウスたちも、時歪の因子(タイムファクター)化は止まっただろう。

 

 ――ここでしたことは、ただ現状をわずかに変えただけ。これから始まる「再審」で、人間は再び試される。クルスニクの戦いの歴史は終わらない。

 それでも、目の前で悲劇に散るだけだった人々をいくらか救えた。「今」を守れた。

 

 ルドガーはエルたちを目指して走り出した。




 「審判を引っくり返す」。こういうことでした。
 文中にも書いたように、これは終わりではありません。新しい試練の始まりです。ルドガーはその試練の難易度を少し下げただけです。
 長期的に見ればルドガーのしたことは愚かかもしれません。
 それでも「現在」「目の前に」いる人々を破滅させないために、ルドガーはこの道を選択しました。

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