CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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“鍵”と“橋”

 エルはビズリーと共にマクスバード/エレン港にいた。

 正確には、離れて待機している分史対策エージェントに攫われ、ビズリーのそばに置かれた。

 

 ――魂の橋が架かるまで待つように言われたエルは、エリーゼとマクスバード/リーゼ港でのウィンドウショッピングを楽しんでいた。アルヴィンたち大人組はエルたちと少し距離を置いていた。

 

 大人組が少しばかりエルから目を離し、エリーゼが少しばかりエルより先に歩いた時だった。

 その瞬間に、風のように瞬く間に、エルは後ろにいる分史対策エージェントに担がれていた。

 事態がすぐ呑み込めず、エリーゼたちを呼んでも遅かった。

 分史対策エージェントはエルを担いだままシャウルーザ越溝橋を渡り、エレン港にいたビズリーの前にエルを差し出した。

 

 威圧感の塊のような男の前で、逃げる勇気も出ず、今に至った。

 

 

「――来たな」

 

 エルはビズリーに吊られて、見上げた。

 

 埠頭のある位置が明滅し、歯車仕掛けの輪が現れる。直後に、帯のようなものが歯車仕掛けの輪からカナンの地へ伸びたのだ。

 

(タマシイの橋。これが。じゃあ、ルドガーは!?)

 

 レディエージェントの一人がビズリーに近寄り、何事かを告げて、下がった。

 

「魂を抜き取り分割し、必要分だけをカナンの地に捧げる。まさに奇策。よもやそこまでやってみせるとは」

「ね、ねえ、ルドガーは? ルドガーはどうなったのっ」

「安心したまえ。ルドガーは無事だ。ユリウスもリドウも、どのエージェントも死んでいない」

 

 ぺたん、とエルはその場に座り込んだ。

 

「よかったぁ……っ」

 

 エルは胸に下げた真鍮の懐中時計を、強く胸に押し当てた。

 刻む針の音が、ルドガーの心音に聴こえた。

 

「というわけだ。ジゼル、お前の出番はなしですんだようだ」

 

 先ほどビズリーに耳打ちに来たレディエージェントは、困ったような笑みを浮かべた。

 

「残るエージェントを連れて帰社しろ。その後は分史対策エージェント全員に待機を命じる」

「畏まりました、社長。ご武運を」

 

 彼女を筆頭に、控えていたエージェントたちはマクスバードから去った。

 

「さて。お嬢さんにはこのまま私と共に来てもらおうか。行きたかったのだろう? カナンの地に」

「っ、それは、ルドガーとの約束だもん! エルはルドガーといっしょじゃなきゃ、カナンの地は行かない!」

 

 ビズリーはエルの前に立つと、片腕でエルを担ぎ上げた。

 

「おーろーしーてー!」

 

 エルは小さいなりに暴れたが、ビズリーがエルを落とすことはなかった。

 

「ルドガーを助けたくはないか?」

「え……」

「世界を破壊する重責。時歪の因子(タイムファクター)化の苦痛と末路。そんなもの全てからルドガーを解放してやりたくはないか?」

「かい、ほう」

 

 その言葉は幼いエルの心をひたひたと漬けていく。

 

 難しいことはわからない。ただ、ビズリーに付いて行けばルドガーが楽になれて、そのためにはエルの特別な力が必要なのだとは、エルにも理解できた。

 

 ビズリーの目を見返した。蒼い。この蒼を確かにどこかで見たことがある。

 

(ルドガーを、助ける、ため)

 

 エルは――肯いた。

 

 ビズリーはほくそ笑み、ついに、魂の橋に向かって踏み出した。

 

 

 

 

 

 ルドガーは列車がマクスバード駅に着くなり、怒涛の勢いで列車を降りて駅舎を抜け、外へ出た。

 

 埠頭にはすでに、マクスバード/リーゼ港で待機中だった仲間が勢揃いしていた。

 アルヴィン、ローエン、エリーゼ、レイア、ガイアス、ミュゼ、ルル。

 こちらのジュード、ミラ、ツバサを合わせて全員集合だ。

 

「エルは!?」

「俺らが来た頃には誰もいなかった。どうやらあっち行っちまった後らしい」

「ごめんなさい! わたしがエルから離れたから」

「エリーゼのせいじゃない。――俺たちもカナンの地へ行こう。ビズリーとエルが行ってまだ間がないはずだ。急げば追いつけるかもしれない」

 

 クランスピア社を出る時にリドウが言っていた。

 

 ビズリーはエルの“鍵”の力でクロノスを殺すつもりだと。

 クロノスを倒すほど力を使えば、“鍵”であるエルは間違いなく時歪の因子(タイムファクター)化すると。

 

 考えれば考えるほどルドガーは焦っていた。

 

「落ち着いてください、ルドガーさん」

 

 ツバサの冴えた声に、ルドガーははっと我に返った。全員の目がルドガーに注がれていた。

 

「誰も死なせずに魂の橋を架けられたんです。エルちゃんだって取り戻せます。なんとかなります。絶対、だいじょうぶ」

「……ああ」

 

 ジュードとミラがルドガーを呼んだ。ルドガーが一番に魂の橋を渡れ、と。

 

「これはお前が束ねた祈りの結果だ」

 

 ルドガーはツバサと顔を見合わせた。ツバサは笑って首を縦に振った。

 

 ルドガーは方法をエージェントたちに訴えただけで、実践はツバサの魔法頼みの上に、ブースターである紅玉まで失わせてしまったというのに。

 

(今度は俺が意地を見せる番だよな)

 

 ルドガーは足を踏み出し、橋の入口らしき歯車仕掛けの輪の前に立った。




 一日一話を心掛けていましたがあっさり崩れました。すみません。
 もっとルル=ヴィクトルをしゃべらせたいのですがなかなか会話に入れる隙がない。悩ましい……

 ジゼルに気づいた方がいらしたら、心の底からありがとうございます<(_ _)>

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