CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
カナンの地へ向かうに当たり、人間側であるルドガーたちにとっては最大の障害が“魂の橋”だ。
ルドガーは、まさにその魂の橋の問題を、本来の犠牲を出すやり方ではなしに解決するために、クランスピア社を訪れた。
連れはツバサのみ。ユリウスもまた
ジュードとミラには体調がよくないユリウスのフォローのために、ユリウスとの同行を頼み、他はエルを預けることを名目に同行を断った。
GHSが鳴ったので、ルドガーはざわめくエントランスの音に負けないよう、受信音量を最大にして電話に出た。
「もしもし。兄さん。体調、大丈夫か?」
『ああ。今は特に痛みもない。魔物が出れば最強のボディガードが守ってくれるしな。もうエレベーター近くだ』
「じゃあ、分史対策室のエージェントに集合かけていいか」
『いいぞ。登場のタイミングはこちらで測る』
「分かった。また後で」
ルドガーはGHSを切った。
さほど待たなかった。上階へ向かうためのエレベーターからヴェルとリドウが揃って現れた。
――桜吹雪の夢を見た。おそらくは、最後の夢を。
「おはようございます」
「社長からカナンの地へ行く件でって呼び出されたんだけど」
「社長室においでください。社長からのメッセージがございます」
「本人は?」
「ご不在です」
ヴェルのビジネスライクな表情と口調は簡単には崩れない。だからといって、ヴェルに詰め寄るのも酷だということくらい、ルドガーも理解していた。
ルドガーはツバサと連れ立ってエレベーターへ向かおうとした。
「おっと、関係者以外はご遠慮願おうか」
「彼女は関係者だ」
睨み合った。予知夢によってこの男に対する莫大な借金は回避したはずなのに、ルドガーとリドウの関係は険悪なまま平行線。世界の意思というものだろうか。
「承知しました。ルドガー副社長のご判断なら、異存はありません」
「ルドガーさん、本当に副社長になってましたね」
肯く。これで確信を持って
「ヴェル。俺が副社長なら、この場ですぐ、その権限使っていいか」
「どういう意味ですか」
「分史対策室のエージェントに、このエントランスホールに全員降りて来いって伝えてほしい。副社長命令で」
唐突な「命令」にヴェルもリドウも訝しさを隠さずルドガーを見返してきた。
「――、ご命令とあれば。リドウ室長、お願いしてもよろしいですか」
「O・K。ちょっと待て」
リドウは無言で自分のGHSを出して電話を始めた。会話から読み取るに、分史対策室のエージェントにかけてルドガーの命令を伝えているようだった。
その電話が終わってから、リドウは先ほどより無遠慮な目をルドガーに向けた。
「メッセージ、あるんだろ。観せてくれ。観終わったら、俺も戻ってちゃんと全員に説明するから」
「……畏まりました」
ビズリーのビデオメッセージは、オリジンの審判の裏側を伝えるものだった。
原初の三霊が人に課した試練、欲望制御のバロメーターとしての骸殻、分史世界を増大させた「願いの権利」――
どれも全て予知夢で聞いた通りの内容だったが、ルドガーはあえてしっかり耳を傾けた。
ビズリーと自身の関係をうっすら察した今のルドガーなら、言葉の一つ一つが異なる意味を持って聞こえるから。
『後は私に任せろ。お前の世代に伝える世界は、私が整える』
ビデオメッセージが終わった。ルドガーは大きく嘆息した。
(こんなでかすぎるプレゼント貰ったって、どうしていいか分かんないっての。
タイミングよくGHSが鳴った。リドウのものだった。リドウは背を向けて電話に出て、話を短く切り上げてルドガーをふり向いた。
「社外に出てる分史対策エージェントを除いて計24名、エントランスに集合とのことですよ? 副社長」
「分かった。じゃあ、降りよう。――ツバサ、行けるか」
ツバサは微笑んで強く肯いた。
「一体何をやらかすおつもりですかねえ、新しい副社長は」
「下に着いたら言う。あんたにも手伝ってもらうからそのつもりで」
再びエレベーターに乗り、1階エントランスホールに降り立つ。
一般社員や来客よりも多い、黒の面積。黒い制服に身を包んだエージェントたち――ルドガーと同じ、クルスニクの宿業を負った同胞たち。
彼らの中でリドウに気づいたエージェントがリドウに駆け寄ってきた。それを皮切りに黒い制服のエージェントたちはリドウに殺到した。
「はいはい、静かにしろ。詳細はルドガー副社長から聞け」
分史対策エージェントたちの視線が一斉にルドガーに向いた。
ほんの少し前までの日々が思い出された。
何者でもなかった、何も持たない、ただの青年だったルドガー・ウィル・クルスニク。
こんなにも遠くへ来た。
(兄さんや社長みたいに、人の上に立つ人間らしく見えますように)
ルドガーはリドウを含む分史対策エージェントたちを見据えた。
「今からここにいる全員で――」
――ぴしっ
その異変に真っ先に気づいたのはツバサだった。
「ルドガーさん、待って」
手をルドガーの腕に当てつつ、ツバサの目はエントランスホールの一角に釘付けになっていた。
冬でもなく、建物の中なのに、氷が張っている。
ツバサが気づくのを待っていたかのように、僅かな面積に張っただけだった氷が一気に勢いを増した。
高く、広く。壁が、床が、凍りついていく。
「ツバサ、これ……!」
「はい。エレンピオスに散った最後の一枚、『
ついに最後のカードです。ここでこのタイミングであえてのカード封印パートです。
つまりここでエージェントの全員がナマでツバサの「魔法」を目にするってことなんですよね。