CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
「つまり、今のルルはルルじゃなくて、中身は分史世界の人間で、エルの父親で、10年後のルドガー……」
ジュードとローエンから全ての説明を聞き終え、ユリウスは頭を抱えた。
「パパを怒らないでっ。エルがそうしてってツバサにおねがいしたの」
「エルちゃんを責めないであげてください。わたし一人がやったことです。ごめんなさい、ユリウスさん」
「いや、その……ああ、くそ。上手く整理できない。とにかくルドガーなんだな?」
エルとツバサは揃って何度も首を上下させた。
ユリウスはルルを抱き上げ、両腕で思いきり胸に抱いた。
「ユ、ユリウス!? 何を」
「辛かったな。10年も。よく生きててくれた。――ありがとう」
「っ」
10年後の弟が、すぐ後ろにいるジュードたちをその世界で殺したとしても、ビズリーや自分自身さえ殺したとしても、他でもない「ルドガー」を前にして、ユリウス・ウィル・クルスニクが言うことなど「これ」だけだ。
「貴方は……優しすぎるよ」
「はは。過去最高に俺にそぐわない褒め言葉だ」
ズ…ズズン…!
外界から隔離されているはずの結界内なのに、震動が伝わった。ユリウスはルルを下ろした。
「派手にやってるっぽいね」
「そりゃガイアスとミュゼがいりゃあド派手もド派手だろうぜ」
「これがなかったらすぐルドガーを助けに行けるのに」
エルがきゅっと眉根を寄せ、闇色の壁に触れた。
「ルドガー……!」
――ぱりん
泣きそうな声に呼応するように、壁に一条のヒビが走った。
双剣の片方を杖代わりに、ルドガーは何とか立っていた。
(全力でやっても時間を巻き戻して全快とか、反則にも程があるだろ、時空の大精霊って!)
クロノスとの連戦により、ルドガーもミラたちも満身創痍だった。
「命の刻を止める前に聞こう。どうやって貴様とマクスウェルは同時に二人存在している?」
「同時に、二人……」
ミラとミラ=マクスウェル。
ルドガーとヴィクトル。
どちらもツバサがさくらカード、そして魔法という奇跡で救ってくれたから、どちらかが消えることなく存在している。
それが途方もなく救われ、光に満ちた未来なのだと、幾度となく予知夢で悲劇を見てきたルドガーは知っていた。
「答えぬか。ならば問いを変えよう。貴様らは何故、世界のルールに反してまで生きようと足掻く?」
――その瞬間だけ、ルドガーは肉体の痛みを忘れた。
「生きたくて、何が悪い」
顔を上げ、自分たちを睥睨するクロノスに向け、叫ぶ。
「好きな人たちに生きててほしいと思って、何が悪い!!」
ルドガーの答えに価値なしとその時点で断じてか、クロノスのビットによる攻撃が再開した。
ルドガーはダメージを超えた境地でそれらを避け、躱した。
「エルはミラが大好きで、俺だってあいつは嫌いじゃない。ヴィクトルだって。自分だと思うと複雑だし、それ抜きにしてもいけ好かない奴だと思うけど、エルの大好きな父親なんだ。あいつらだけじゃない。みんな、世界中の人みんなが、誰かにとっての『大事な人』で『好きな人』だ。好きな人たちに生きててもらいたいのなんて当然だろう! お前は、オリジンが生きてたくないって言ったら、平気でいられんのかよ!」
ルドガーたちを襲っていたビットの動きが、途端に精度を落とした。
「魔神剣!」
「魔神拳!」
剣閃と拳撃が同時にクロノスに直撃した。
ふり返れば、剣を振り下ろした態勢のガイアスと、闇色の球が消えて続々と出てくるジュードたち。
「ルドガーっ!」
「エル!」
走って来たエルがルドガーの腹に飛びついた。ルドガーはエルをしかと受け止めた。
「タイミングは悪くなかった」
「そっちもね」
ジュードがガイアスと並び、グローブを嵌めた両手を構えた。こういう時、年下のはずのジュードを心から頼もしく思う。
呑気に考えていると、足に鋭利な痛みが走った。
「いっ!?」
「いつまでエルと密着しているつもりだ。さっさと離れろ」
ルルが、エルを抱えたままのルドガーに焦れて、足に噛みついたのだ。
するとそのルルの首根っこを、だるーん、とユリウスが掴み上げた。
「ルドガーは怪我人なんだぞ。我が子を取られたくない気持ちはよーーーーく分かるが、程々にしておけ」
「こ、こら、こんな時に猫扱いはやめろ」
「おじさん、つよ~」
こんな時なのに和み過ぎて笑いそうだ。
顔を逸らしたルドガーの視線の先には、ちょうどミラがいた。
ミラはルドガーと目が合うと、ミラ=マクスウェルのものではない、「ミラ」の笑みを顔に浮かべた。
(生きててほしい理由なんて、そいつが好きだから、で充分だ)
活力が戻って来た。ルドガーも改めて双剣を構え、仲間たちと共にクロノスと対峙した。
クロノスだってオリジンが「好き」なんだから、ルドガーの訴えは理解できるでしょう。少なくともオリジンを間接的に苦しめる「人間」に2000年もイヤガラセしてきた程度には、オリジンが好きなんですから。