CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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vsクロノス

 ついにルドガーたちはカナンの地を召喚した。

 

 カナンの地はその讃えられ様にそぐわず、月を泥で犯し、空を薄闇に塗り替え、闇色の胎児を孕んで空に具現した。

 

 ミラたちは驚いていたが、ルドガーは平静にそれを眺めることができた。これもまた「(ドリーム)」の見せる予知夢ですでに見た光景だったからだ。

 この後に起きること、現れるモノも、ルドガーは知っていた。

 

「まさか道標を揃えるとは。探索者の相手をしている場合ではなかったな」

「――クロノス!」

 

 2度目の――予知夢を含めれば4度目の対面となる、憎々しい大精霊は、「夢」の通り、片手にユリウスを物のようにぶら下げていた。そしてやはり、ユリウスを物のように放り投げた。

 

 一番にツバサが動いた。ショートパンツのポケットから、カードとは異なる符を取り出して星の長杖をかざした。

 

「風華招来!」

 

 ユリウスの落下地点で渦巻いた風がクッションとなり、落ちたユリウスを受け止めた。

 

 ルドガーはすぐさまユリウスに駆け寄り、倒れたユリウスを抱え起こした。白いコートのあちこちが裂け、血で傷口に貼りついた様が痛々しい。

 

「逃げ、ろ、ルドガー……勝ち目は……」

 

 ジュードとガイアスが来て、ルドガーとユリウスを庇う位置に立った。エリーゼがユリウスに治癒の精霊術をかけ始めた。他の皆々が、ルドガーたち兄弟を守るようにクロノスに対峙した。

 

「こいつがクロノスか」

時歪の因子(タイムファクター)を作っていたのは、あなたではなかったんですね」

「我は、クルスニクの一族に骸殻の力を与えただけ。時歪の因子(タイムファクター)とは、奴らが我欲に溺れ、力を使い果たした姿だ」

「そんなふうに言わないでください!」

 

 叫んだのはツバサだ。

 

「大事な人のために、誰かの幸せのために、時歪の因子(タイムファクター)化を省みず骸殻を使って戦った人だって、この2000年の中にはいたはずです。そんな人たちを無視しないでください。それを抜きにしてクルスニクを語らないでください」

「そんな人間はいなかった」

「いなかったわけない! あなたは自分が正しいと思いたいから否定してるだけよ!」

「――、自己肯定のために己を殊更美しく悲劇的に装飾するのは、人間特有の見苦しさだ。かくも人間とは救い様がない。オリジンの裁定を待つまでもなく明白だ。我が終わらせてくれる」

 

 クロノスが時計のように「1」から「12」の数字を刻んだビットを現した。

 

 ここからの展開も知っている。ビットはルドガー、ミラ、ガイアス、ミュゼ以外の全員を結界術によって閉じ込め、残されたルドガーたちだけでクロノスに挑むことになる。勝つことはできるが、クロノスは時間を巻き戻して傷を全快し、また戦う。

 

 しかし今回、ルドガーはその予知夢に逆らおうとはしなかった。

 

「きゃあああああっ!」

 

 エルの悲鳴。ふり返れば仲間は一人残らず、術式の帯が回る闇色の球の中。

 

 斜め上を見上げる。定位置に浮かぶ「(ドリーム)」。

 いいのか、と視線で問われている気がしたから、ルドガーは肯いて笑んでみせた。

 

(これでいいんだ。少なくともあの中にいる間は、クロノスには狙われない。エルも、兄さんも、ツバサも)

 

 ルドガーは双剣を抜いた。

 

 厳しい戦いになると知っている。嫌と言うほど予知夢で味わった。

 それでも、大事な人たちが傷つかないなら、自分がいくらでも傷つこうと決めたのだ。

 

 

 

 

 

「ルドガー! ルドガーっ!」

 

 エルは闇色の壁を、小さな拳で叩き続けた。もちろんそんなことで結界が壊れるわけもない。

 

 ツバサはレッグホルダーのさくらカードに手を伸ばし、止めた。

 

(そもそもここは狭すぎる。どのカードを使っても、エルちゃんやユリウスさん、ジュード君たちを巻き込んじゃう)

 

「よしなさい、エル。手を痛めるだけだ」

「だって、パパ…!」

 

 すると、回復したユリウスが立ち上がるなり、双刀を抜き、結界に斬りつけた。

 

「――やはり破れないか」

「逆に、閉じ込められている我々は安全、という見方もできる」

「だがその分だけ、外に残してきたルドガーたちは苦戦を強いられる。一刻も早くこの結界を破らな、いと……」

 

 ユリウスがふり返ったのは、エルが両手で抱えたルル。

 

「ルルがしゃべった!?」

「今さらかよ!」

 

 アルヴィンのツッコミが最も速かった。

 

「そういえばこの状態のルルについてはユリウスさん、知らないんだったね」

「説明しようにも逃亡生活中でしたからねえ」

 

 当のユリウスはエルからルルを奪って担ぎ上げている。ルルは両手両足をばたつかせて本気で逃げようとしているが、よほど強く掴まれているのか成せていない。

 

「何だこれはどうなってるんだ! しかもやたらとルドガーに似た声で!」

「ああああの! ごめんなさい、やったのわたしですぅ!」

 

 ツバサはとにかく頭を下げ、ルルの中にいるのが未来のルドガーなのだと説明しようとした。

 しかし、パニックにパニックを重ねてはまとまる話もまとまらないと、ツバサ本人もユリウスも気づかなかった。

 

 結局、ジュードとローエンが間に入って簡単に説明するまで、一人の男と一人の少女は騒ぎ続けた。




 シリアスが 全力で エスケープして 帰って 来ない

 そんな感じの後半の展開でした。
 クロノスがミラさんとヴィクトルさんの件に触れるのはまた次回ということで一つ<(_ _)>

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