CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

105 / 180
審判に向けて 2

 分史対策室で打ち出した大量のコピー用紙を紙袋に詰めるだけ詰める。

 ルドガーはその紙袋を二つ持って、クランスピア社を出て、レイアのアパートを目指した。

 

 アパートに着いたルドガーは、紙袋を一度置いてインターホンを押した。

 玄関ドアはすぐにスライドした。

 

「いらっしゃい、ルドガー」

 

 家主のレイアが出迎えてくれた。自宅にいるからか、ジャケットとキャスケットは外してある。

 

「おじゃまします」

 

 部屋に入ると、アルヴィンがすでにテーブルに着いていた。

 

「よー、ルドガー。お先」

「待たせた。これ、戦利品」

「うえ。これ全部見んのかよ~」

「そっちは?」

 

 アルヴィンもレイアも合わせて笑い、それぞれテーブルの上にぶ厚い本をいくつも載せた。

 

「エレンピオスの過去にあった裁判の判例本。図書館でいっぱい借り漁ってきたよ」

「二人で利用登録して借りれるだけ借りたんだよなー。司書のおねーさんの目が痛かったの何の」

「世話かけて悪かったな。始めようか」

 

 ルドガーもテーブルに着き、彼らが調達してくれた本を適当に一冊取り、クランスピア社から持ち出したデータと読み比べ始める。

 レイアもアルヴィンも同じ作業を始めた。

 

 これは作戦会議だ。

 

 ツバサに救われ続けたルドガーの思いついた逆転劇を現実にするための。

 

 オリジンの審判を()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 ルルは猫ドアからマンションフルーレ302号室に入った。

 

「あ、パパ! おかえり~」

 

 リビングスペースにいたエルがいち早く気づき、走ってきてルルを抱き上げ、頬ずりした。

 

(娘に抱き上げられる父親(じぶん)というのはやはり慣れないな)

 

 ルルはこっそり溜息をついた。

 

「お帰りなさい、ルル君」

 

 エルの面倒を看るために部屋に来ていたツバサも来て、小首を傾げて笑顔を浮かべた。

 

 エルは人前でも堂々とルルを「パパ」と呼ぶ。だがツバサは、名前こそ「ルル君」と呼ぶが、敬語で接してくる。これも彼女なりの配慮なのだろうか。

 

「ルドガーはレイアの家に行った。レイアとアルヴィンと今後の擦り合わせに入るそうだ。今夜は帰らんだろうな」

「だいじょーぶっ。ルドガー、冷蔵庫に作り置きのごはんいーっぱい置いてってくれたし。夜にはエリーゼも来るし。ね」

「うん、そうだね、エルちゃん」

 

 こういう時、料理ができない猫の体を歯がゆく思う。

 

 ツバサを代理に、横から逐一指示を出して思い通りの物を作らせてもいいのだが、そうするとエルが「ルドガーの作ったやつ食べるの!」と一喝された経験があるので、それ以来、黙っている。

 

 ちなみにルルの食事はエルたち人間の食事と全く同じメニューである。ルドガーも真面目である。

 

「カナンの地まであと少しね」

「うんっ」

 

 エルは窓の桟に飛びつき、両腕を載せてあごを上に置いた。

 

「どんなんかなー。楽しみだなー」

 

 ヴィクトルは分史世界の人間である。そのためかつての“旅”で、“道標”を揃えてもカナンの地は出現しなかった。つまり今回のこれが初の、カナンの地を拝む機会なのだ。

 

 カナンの地に入り、審判の門に至った時、自分はどんな願いを告げるのだろう。

 本懐のまま、自身とエルの転生を願うか。それとも対外的には猫と飼い主として、今の記憶を保持したまま生きるか。

 

(過去に一番乗りの争奪戦が起こったのも肯けるな)

 

 ルドガーたちは「願いの権利」に頼らずに、山積みの問題をどうにかしようとしているらしいが、そうでない輩はいくらでもいる。リドウ、ビズリー、そしてヴィクトル自身もまた――

 

「ルル君。心配事でも?」

「心配だらけだよ。このイレモノではエルを守れない。剣も持てないし骸殻も使えない。せいぜいそばにいるだけだ。いつのまにか君は“魂の橋”の真実を掴んでいて、ルドガーはルドガーで何かやらかす気でいる」

「いいじゃないですか。そばにいるだけ。わたしもエルちゃんも、何か特別なことをしてほしくて、あなたに正史世界に来てもらったんじゃないんです。お母様が大変だった時、お父様がいたから、いつもの自分以上にもっともっと頑張れたって言ってました。誰かいるって、それだけパワーが湧いてくるんですよ」

 

 ツバサは軽く両腕を広げて、むん、と力強いアピールをした。

 

「私の時にも、君がいてくれたらよかったのにな――」

「はい?」

「なんでもない。忘れてくれ。それで、今日は何を『作り置き』してあるんだ」

「エビグラタンとサラダです♡ そろそろ準備しましょっか」

 

 ツバサがご機嫌な足取りでキッチンへ向かった。

 その背中をルルはじっと見つめていた。




 決戦前夜とまでは行きませんが、すぐにカナンの地出現だとちょっとやりたいことができないので、一コマ挟ませていただきました。
 ルドガーが何かやらかす気です。作者もやらかす気です。

 「審判を引っくり返す」とは一体――?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。