CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
分史対策室で打ち出した大量のコピー用紙を紙袋に詰めるだけ詰める。
ルドガーはその紙袋を二つ持って、クランスピア社を出て、レイアのアパートを目指した。
アパートに着いたルドガーは、紙袋を一度置いてインターホンを押した。
玄関ドアはすぐにスライドした。
「いらっしゃい、ルドガー」
家主のレイアが出迎えてくれた。自宅にいるからか、ジャケットとキャスケットは外してある。
「おじゃまします」
部屋に入ると、アルヴィンがすでにテーブルに着いていた。
「よー、ルドガー。お先」
「待たせた。これ、戦利品」
「うえ。これ全部見んのかよ~」
「そっちは?」
アルヴィンもレイアも合わせて笑い、それぞれテーブルの上にぶ厚い本をいくつも載せた。
「エレンピオスの過去にあった裁判の判例本。図書館でいっぱい借り漁ってきたよ」
「二人で利用登録して借りれるだけ借りたんだよなー。司書のおねーさんの目が痛かったの何の」
「世話かけて悪かったな。始めようか」
ルドガーもテーブルに着き、彼らが調達してくれた本を適当に一冊取り、クランスピア社から持ち出したデータと読み比べ始める。
レイアもアルヴィンも同じ作業を始めた。
これは作戦会議だ。
ツバサに救われ続けたルドガーの思いついた逆転劇を現実にするための。
オリジンの審判を
ルルは猫ドアからマンションフルーレ302号室に入った。
「あ、パパ! おかえり~」
リビングスペースにいたエルがいち早く気づき、走ってきてルルを抱き上げ、頬ずりした。
(娘に抱き上げられる
ルルはこっそり溜息をついた。
「お帰りなさい、ルル君」
エルの面倒を看るために部屋に来ていたツバサも来て、小首を傾げて笑顔を浮かべた。
エルは人前でも堂々とルルを「パパ」と呼ぶ。だがツバサは、名前こそ「ルル君」と呼ぶが、敬語で接してくる。これも彼女なりの配慮なのだろうか。
「ルドガーはレイアの家に行った。レイアとアルヴィンと今後の擦り合わせに入るそうだ。今夜は帰らんだろうな」
「だいじょーぶっ。ルドガー、冷蔵庫に作り置きのごはんいーっぱい置いてってくれたし。夜にはエリーゼも来るし。ね」
「うん、そうだね、エルちゃん」
こういう時、料理ができない猫の体を歯がゆく思う。
ツバサを代理に、横から逐一指示を出して思い通りの物を作らせてもいいのだが、そうするとエルが「ルドガーの作ったやつ食べるの!」と一喝された経験があるので、それ以来、黙っている。
ちなみにルルの食事はエルたち人間の食事と全く同じメニューである。ルドガーも真面目である。
「カナンの地まであと少しね」
「うんっ」
エルは窓の桟に飛びつき、両腕を載せてあごを上に置いた。
「どんなんかなー。楽しみだなー」
ヴィクトルは分史世界の人間である。そのためかつての“旅”で、“道標”を揃えてもカナンの地は出現しなかった。つまり今回のこれが初の、カナンの地を拝む機会なのだ。
カナンの地に入り、審判の門に至った時、自分はどんな願いを告げるのだろう。
本懐のまま、自身とエルの転生を願うか。それとも対外的には猫と飼い主として、今の記憶を保持したまま生きるか。
(過去に一番乗りの争奪戦が起こったのも肯けるな)
ルドガーたちは「願いの権利」に頼らずに、山積みの問題をどうにかしようとしているらしいが、そうでない輩はいくらでもいる。リドウ、ビズリー、そしてヴィクトル自身もまた――
「ルル君。心配事でも?」
「心配だらけだよ。このイレモノではエルを守れない。剣も持てないし骸殻も使えない。せいぜいそばにいるだけだ。いつのまにか君は“魂の橋”の真実を掴んでいて、ルドガーはルドガーで何かやらかす気でいる」
「いいじゃないですか。そばにいるだけ。わたしもエルちゃんも、何か特別なことをしてほしくて、あなたに正史世界に来てもらったんじゃないんです。お母様が大変だった時、お父様がいたから、いつもの自分以上にもっともっと頑張れたって言ってました。誰かいるって、それだけパワーが湧いてくるんですよ」
ツバサは軽く両腕を広げて、むん、と力強いアピールをした。
「私の時にも、君がいてくれたらよかったのにな――」
「はい?」
「なんでもない。忘れてくれ。それで、今日は何を『作り置き』してあるんだ」
「エビグラタンとサラダです♡ そろそろ準備しましょっか」
ツバサがご機嫌な足取りでキッチンへ向かった。
その背中をルルはじっと見つめていた。
決戦前夜とまでは行きませんが、すぐにカナンの地出現だとちょっとやりたいことができないので、一コマ挟ませていただきました。
ルドガーが何かやらかす気です。作者もやらかす気です。
「審判を引っくり返す」とは一体――?