CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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審判に向けて 1

 自分に高い魔力が備わっているのは、なんとなく知っていた。

 

(わたしのせい)

 

 だが、母以上ではないとも、なんとなく思っていた。何せ母は、不世出の最強の魔術師、クロウ・リードをも凌ぐ魔力の持ち主だと聞いていたから。

 

 だから、まさか母の魔力の高さがそっくりそのまま自分に受け継がれているなど、考えもしなかった。

 そうと知っていれば、「さくらカード」の本を開こうなどとは、考えもしなかった。

 

(全部わたしのせいなの)

 

 さくらカードが異次元に飛び散ったと父に聞いた時、思った。

 

 散逸したさくらカードはその次元でどんなに人に迷惑をかけてしまうだろう。どんなに人を傷つけてしまうだろう。――さくらカードにも備わっている「この世の災い」はどんなにか悲しい結末をその世界の人々に負わせるだろう。

 

(だから、わたしだけがやらなきゃいけないの。『この世の災い』を起こさせないために)

 

 …

 

 ……

 

 …………

 

 リドウが分史対策室に入ると、エージェントは一人しか室内にいなかった。しかもその一人だけ、が、他でもない仇敵(ユリウス)の弟、ルドガー・ウィル・クルスニクだった。

 

 ルドガーは、資料室から持ち出したであろうファイルをテーブルの両脇に積み上げ、何かを熱心にPCに打ち込んでいた。

 そしてその様子を見守るように、白黒模様の丸い猫がデスクに鎮座していた。

 

「何してんのかな~?」

 

 ここであえて邪魔をするように声をかけるのがリドウという男である。

 

「え? ……うわ!」

 

 ルドガーが驚きを呈してデスクチェアから立ち上がった。その拍子に積み上げたファイルの山にぶつかり、ファイルが何冊も床に転がり落ちた。

 

「リドウっ……室、長」

 

 リドウは落ちたファイルを一つ拾い上げ、ざっと中身を見た。

 

 それは、クランスピア社が起業してから現在に至るまでの、骸殻能力者の死亡者リストだった。

 

「何でこんなもん読んでんの」

「……」

「答えな。上司命令」

「……オリジンの審判に関わった人の記録が欲しかったから、です」

「ふうん」

 

 死亡者リストだけではない。現在までで稀に成功した、カナンの地の召喚時の記録。カナンの道標回収の記録。大精霊クロノスとの戦闘記録。そして、その時代時代の分史対策エージェントの名簿。

 

「これらの記録は社外秘だ。分かってて持ち出そうとしてたわけ?」

「う……はい」

「根性据わってんじゃん。さすがあのユリウスの弟」

 

 エージェント名簿には、もちろんリドウの項目もある。出生や生い立ちまでは記されていないので、別に持ち出されても個人的不都合はないのだが。

 

(どう料理すればおいしい反応をするかねえ、こいつは)

 

 にやつく口元をファイルで隠し、画策していると、ルドガーのほうから口を開いた。

 

「友達から聞きました。カナンの地へ行くための“橋”について」

 

 思わず瞠目した。それはルドガーとエルを最大限利用するために、ビズリーが、最後の最後まで隠しておけとまで言ったトップシークレットだ。

 何故、ルドガーは、ルドガーの「友達」は知っているのだ。

 

「彼女、言いました。『こんなことで人が死ななきゃいけないなんて、絶対おかしい』って。俺もそう思いました」

「だから“魂の橋”を使わなくていい方法でも探してたってか? ぬるいな。ぬるすぎる。過去にその手段が模索されてないと思うか? それでも今日までこの方法が伝わってきたってことはな、誰もが他の方法を見つけ出せず失敗してきたからだ。昨日今日、分史対策エージェントになったヒヨッコが調子づいてんじゃねえ」

 

 言いながら、リドウは内心、何故自分がこのようなことで腹を立てているのか分からなかった。

 

 いつか自分かユリウスが“橋”にされることは知っていた。

 そうならないために、ビズリーに従順かつ狡猾な駒であり続けた。

 

「それでも」

 

 ルドガーはしゃがみ、散乱したファイルを拾い始めた。

 

「試せばなんとかなるかもしれない。過去に100回ダメでも、今の101回目が成功するかもしれない。その希望が潰えない限り、俺は諦めません。彼女は、俺の友達は、そうやって今日までにたくさんのものを救ってきたから」

 

 見るに堪えない。

 

 リドウは自分が持っていたファイルをデスクに叩きつけ、分史対策室を足並みも荒く出た。

 

 

 

 

 

「私の知るリドウとはずいぶん違う」

 

 ルルが――正確にはルルに宿ったヴィクトルが、呟いた。

 

「彼も彼なりに必死だったんだな」

「あんたの時のリドウってどんな奴だったんだ?」

「これはガイアスの言だが、リドウはミュゼと似ていたらしい。自己肯定のために他者を貶め、殺める。そうしてもがくほど孤独になっていくのに、とも言っていたな。だが、あのリドウなら、貴様とツバサで考えた“橋”の『代案』も承知するのではないか?」

「だといいんだけどな。リドウ一人じゃ意味がないんだよ。俺たちの案には、ユリウスもビズリーも、エージェント全員の協力が要る。それに、その後の審判そのものは、ツバサに頼らず、クルスニクの俺が何とかしないといけないことだ」

「ならばせいぜい手を動かして()()()を取れ。それがなければレイアもアルヴィンも動けないぞ」

「わかってるっつーの。あんた、本当に俺か? 俺、そんな嫌味な奴だったっけ。みんなに紹介した時も大体『ルドガーとは思えない』って言われたし」

「さてな」

 

 これ以上の応酬は負けそうな気がしたので、ルドガーはPCの画面と向き直り、作業を再開した。




 魂の橋攻略フラグが立ちました。
 もうヴィクトル救済でやりまくりましたからね。
 作者は腹を括りました。こうなったらもうとことん「助けられるものは助ける」の路線を貫こうと思います。

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