CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
分史世界に入ったローエンたちは、カラハ・シャールとシャウルーザ越溝橋でそれぞれ、この世界のローエン自身とジュードが殺されたという衝撃的な事実を知った。
座席はツバサとローエン、ルドガーとエルとジュードとミラで分かれて座った。
「がんばってますね、ミラさん」
離れた座席で、ミラはあれこれエルに話しかけ、エルは言葉少なに答える時もあれば、黙っている時もある。
「ミラさんもエルさんと『なかよし』になりたいのですよ」
「そう思ってくれてるなら、よかった」
正面に座ったツバサが、窓の桟に腕をもたれさせ、流れゆく外の景色を眺めた。
分史世界にツバサが入ることも初めてなら、世界の破壊の一端を担うのも初めてだ。本人は、
「ルドガーさんをほっとけませんから」
と、答えたが、果たして、今まで分史世界破壊を拒んできた彼女の変心の真実はどこにあるのか。
「前に過激派に襲われた時に言ったこと、覚えてます?」
「『独りでがんばるなど絶対許しません』でしたかな」
「はい。今回ので知ったんです。偉そうに言っといて、わたしが一番知らなかった。ルドガーさんが誰よりも『独り』だったって。わたしって悪い子。一番ほっといちゃいけない人にずっと気づかなかった。ルドガーさんは強いからって勝手に決めつけてた」
物憂げに窓の外を眺めるツバサは今、何を思ってここにいるのか。
「今のツバサさんの心はルドガーさんにあるのですね」
「はい――って答えたら、騙されてくれます?」
「さあ、どうでしょう。ジジイは悪知恵が働く生き物ですから。ですが、あなたには小細工を弄するより、直球にお尋ねするほうがよさそうです。ツバサさん、まだガイアスさんに未練がおありですね」
ずっと笑顔だったツバサが、初めて、その笑顔を崩した。
「本当は“ガイアス”を含む“アースト・アウトウェイ”という一人の男性に恋い焦がれている。けれども、自分ではガイアスさんに釣り合わない、ガイアスさんの歩みの足枷になってしまう。そう思ったから“アーストさん”だけを好きなフリをした。違いますか?」
「……ローエンさんってお祖父ちゃんみたい。いっつも何でもバレちゃうの。そんで必ず『僕はつばささんのおじいちゃんだからね』って言うの」
「光栄です」
「悔しいから、その通りですなんて言ってあげません。つばさはあの夜、アーストさんに失恋したんです」
「おや、それは残念」
車内アナウンスが、ディール駅到着を告げた。
ツバサは席を立ち、廊下に出て、別席だったルドガーたちに付いて歩いて行った。
ローエンもその後を追った。
ルドガーは立ち止まり、体を強張らせていた。
この坂を下りてテラスハウスの前に行ってしまえば、もう引き返せない。
ルドガーは未来の己自身と戦い、エルの目の前で父殺しの罪状を背負うことになる。
ふと、やわらかく暖かい感触が、ルドガーの拳に触れた。
「ツバサ……」
「なんとかなる。絶対、大丈夫――なんて。お母様の受け売りですけど。無敵の呪文なんですって」
「無敵の呪文、か。今のことも本当に何とかしてくれたらいいのにな」
「じゃあ、もしルドガーさんが折れたら、わたしが、その『無敵の呪文』になってあげます」
ルドガーは一度だけツバサの手を繋ぎ返し、離し、前へ足を踏み出した。
テラスハウスの玄関から出てきた黒ずくめの仮面の男。エルは男を「パパ」と呼び、無事だと分かるや男に縋ってわんわん泣いた。
(あれが10年後の『俺』の
「ヴィクトルだ。娘が世話になったようだね」
ヴィクトルはエルの肩を抱いて立ち上がる。
「立ち話も何だ。大したもてなしはできないが、食事でもどうかね。――ルドガー・ウィル・クルスニク君」
ルドガーは驚かなかった。すでに予知夢の中で大いに驚いている。
「みんな、いいか?」
ジュードたちをふり返って意思確認。全員が、腹に何を抱えているにせよ、イエスと答えたので、ルドガーはヴィクトルの誘いを受けてテラスハウスに入った。
ヴィクトルがふるまった食事をルドガーは集中して食べた。
予知夢で見たままの歓談をするジュードたちの輪に参加する気にはなれなかった。
正面をちらりと向けば、ツバサが「なに?」とでもいうように小首を傾げる。ルドガーは食事に戻る。何度かそんなことをくり返した。
食事が終わってからも、何度も呼ばれてからの空返事ばかりだった。
「この後」に控えたものを思えば、こんな会話はただの茶番でしかない。
やがてエルがこくりこくりと体を揺らし始める。ヴィクトルがエルを宝物のように抱えて、ソファに横たえる。――夢でもそうだった。
いくつかの会話の後に、瞬時に移動してきたヴィクトルがルドガーの後ろから、銃を象った指を突きつけるのも、夢の通り。
「娘が起きてしまう。外へ出よう」
ジュードたちがぞろぞろと家を出て行く。
ツバサは、俯いて動こうとしないルドガーの横へ行き、彼の手を包んだ。
ルドガーがツバサを見下ろした。
――助けを求める者の目をしていた。
「なんとかなります。絶対、だいじょうぶ」
ルドガーはようやく足を返し、玄関ドアへ向かった。
ツバサはその後ろから付いて行った。
予知夢のせいですでにSAN値直葬なルドガーと、そんなルドガーを放っておけない(本命は別にいるのに)ツバサ。
CCさくらの「魔法」をヴィクトルに対して「どう使うか」が鍵です。