CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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虎太郎/ゼスティリア編
姫騎士と魔法使い見習い


 いつものようにアリーシャがテラスでぼんやりと座っている時だった。

 何を待つでも、どう寛ぐでもない。いつものように陰口を言われ、意地悪をされ、一人になりたいからそうしていただけの時間。

 

 

 どさどさどっさーっ!

 

 

 庭の木に、まるで空から人が降ってきたような、騒がしい音がしたのは。

 

「な、何だ!?」

 

 アリーシャはテラスを降りて庭の木へと駆け寄った。

 

「ってぇー」

 

 そこにいたのは、木の葉と擦り傷にまみれた、アリーシャよりは年下だろう少年だった。黒いアウターに半ズボン、そして裏地の緑が映える白いフード付きコート。ツンツンした栗毛。

 

 どこの何者とも知れない他人。

 

 だが、アリーシャにそんなことは関係なかった。目の前の人間が、軽いとはいえ怪我をしている。それだけで騎士であるアリーシャに、手を差し伸べない理由はなかった。

 

「大丈夫か? 木から落ちた?」

 

 少年は褐色の瞳をぱちぱちと瞬かせ、アリーシャの手を握り返した。

 

「ありがとうございます。おれなら大丈夫です」

「だが、怪我をしてるようだ。付いて来てくれ。消毒くらいならできるから」

「いいんですか?」

「ああ」

 

 アリーシャ自身、どうしてこうもこの少年に構いたくなるのか分からなかった。

 強いて言うなら、自分に悪意を向けない同世代の人間と会ったのが初めてだったから、かもしれない。

 

 

 

 

 

 その日もアリーシャはテラスにいた。いつものように鬱々とした気分で、ではない。

 アリーシャはある人物を待っていたのだ。

 

「アリー? いる?」

 

 ――来た。アリーシャが待ち望んでいた少年の声。

 

「いるよ。いらっしゃい、コタロー」

 

 以前は落ちてきたあの木から、今日は鮮やかに着地して、その少年はテラスまで来た。

 

「ひさしぶり、アリー。元気だった」

 

 彼がアリーシャを「アリー」と呼ぶ時が、アリーシャは好きだ。まるで本当に友達同士のようだから。

 

「相変わらずだよ。コタローは? 危ないことはなかった?」

 

 少年は誇らしげに笑い、一枚のカードをコートから取り出した。

 

「じゃーんっ」

「あ! 新しいカードだね」

 

 ――少年の名はコタロー・リー。レディレイクはもちろん、ハイランド王国からも遠く遠くの地から、「ある目的」のためにはるばる都を訪れた旅人だ。

 

 その「目的」というのが、今、コタローが見せてくれたカード――「さくらカード」を、世界中を探して見つけて、全て故郷へ持ち帰ることなのだ。

 アリーシャがコタローに初めて会った日も、そのさくらカードを探して木に登ったところを滑って落ちたらしい。

 

 コタローは階段を登って、テラスのアリーシャの正面の椅子に腰を下ろした。

 

「これはどんなことができるんだ?」

「えーっとねえ。まあ見てて」

 

 コタローがどこからともなく出したのは、レイピアの柄に似た形の鈴。鈴にはアリーシャの知らない文字が刻まれ、ひらひらとリボンが何十条にも付いている。

 

「木之本桜の創りしカードよ、その魔力を鈴に移し、我に力を。『(パワー)』」

 

 コタローはテラスを降りて、庭の石ころを適当に拾った。コタローが石を軽く握ると、石ころは呆気なくひび割れ、ぼろぼろと崩れ落ちた。

 

「すごい……」

「簡単に言うと、使った人の筋力を上げるカードなんだ。アリーが使ったら、槍で大岩を割るくらい何てことなくできちゃうよ、きっと」

 

 さくらカードには奇跡の力が宿っている。アリーシャはその奇跡を不気味だとは思わなかった。この世には人知を超えた奇跡を行使する「天族」や「導師」がいるのだ。奇跡を起こすカードが存在してもおかしくない。

 

 テラスに戻って、二人はまた向き合って座った。

 

「今日来てくれてよかった。実は私、しばらくレディレイクを離れることになったんだ」

「え!? どうして?」

 

 アリーシャは一冊の本をテーブルに載せた。「天遺見聞録」。アリーシャの幼い頃からの愛読書だ。

 

「導師を探しに行く」

「……本気?」

 

 コタローにも「天遺見聞録」の中身は教えた。導師や天族の存在もコタローは承知している。その存在が雲を掴むようなものであるとも。

 

「そっか。アリーが本気なら、おれは止められないや」

「ごめん」

「謝らないで。アリーは何も悪いことしてないんだから。いつ発つの?」

「明日にでも」

「見送りに行くよ。……カード探しがなかったら、おれも付いてくんだけど」

「コタローはコタローのやるべきことをやってくれ。私もそうするから」

「ありがとう。アリー。帰って来たら、真っ先に会いに行く。約束だよ」

 

 アリーシャはコタローに手を差し出した。コタローは微笑んで手を握り返した。

 現金だと言われてもいい。アリーシャにはその手のぬくもりが何よりも心強かった。




 ぶっとんだ設定のクロスを上げてしまいました。欲望に負けました。

 まずは時流に乗ってゼスティリアから始めることにしました。
 コタローの紹介は追々していきますので、気長にお付き合いください。

 連載の合間に息抜きにやるので、あまり細かく描写しないことや、更新が遅いことも大目に見ていただけると幸いです。

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