スカイリム~廃人達の生き様~   作:荒ぶるメタボ

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14.入団試験

 

そいつはデカかった。今この場で生涯に一片の悔いなしすれば、滑らかなアーチを描く石造の天井を伸ばした拳でぶち抜けるほどに。

脳筋と名高いノルドですらクスリをやり過ぎて萎れたジャンキーに見えるほど筋肉過剰の肉体は熊のようなゴワゴワした青い体毛で覆われ、ライオンによく似た顔からは血の呪縛に囚われてない野生の方のユニコーンのような角が伸びている。

 

「ロンゾ!ロンゾじゃないか!!端から端まで全て手作りのロンゾじゃないか!」

 

隣で興奮したしたマックミラーノがよく見かける外人のAAのように、片拳握り締め青い獣――水中で行う何でもアリの球技、ブリッツボールを題材にしたとあるスポーツゲームに登場するロンゾ族を指して叫ぶ。

まさか、ここはSkyrimの世界だぞ?ゲームと企業の壁を超えて登場する訳が、

 

“ケンジロー”

“種族:ロンゾ/ドラゴンボーン”

“レベル:41”

“体力:390 スタミナ:210 マジカ:100”

“攻撃力:2500 守備力:2100”

 

本当に本当に本当に本当にロンゾだ。近すぎるぜどうしよう、可愛くないぜどうしよう。

阿修羅のごとく後ろにとり憑いたそいつは、サーベルキャットのような口を開いた。

 

「いかにも、吾輩はロンゾのケンジローである。付け足すなら、この冒険者ギルドのギルドマスターでもあるな」

 

可愛くない顔で可愛くないキャラを通し可愛くない台詞を宣ったそいつは、そう言っ無言の圧力を放った。

「である」ってどこのアックアさんですか……キャラ凝りすぎだろ。そりゃそのナリで「デュフフフフwww拙者冒険者ギルドのギルマスでござるwwww」とか言われてもリアクションに困るけど。

 

「えー、初めましてギルドマスター様……というかいいんですか、そんなナリでマスターやったらかなり浮くと思いますけど」

 

なんて軽口を叩いて後悔するほど、ケンジローは威圧的だった。巨体おっさんと幼女の組み合わせはよく見るけど、幼女視点で見たらこんな感じだろう。……そら気も違ってくるわな。プレッシャーで。

 

「何故にだ?」

 

「あー、ジローさんの種族のことでしょ?大丈夫だよ、リフテンの南の方の霊峰ガガゼトってところに普通に暮らしているから。

元からこの世界にいるカジートの亜種って扱いらしいよ」

 

割って入ってきたのは全力でスプラッター・ミンチ製作中のサティアだった。

その呼び方、世界線が収束してるフリーのカメラマンを連想させるのでやめてほしい。

 

「世界観滅茶苦茶ですね……とにかく、さっきは危ないところを助けていただきありがとうございます。危うくオラフ王の焚刑にされるところでした。誰かさんのお陰で」

 

「う……、ごめんなさい……ああなるって知らなかったのよ」

 

「まぁ、メリディア信徒に吸血鬼を許せというのもなんだけどさ、吸血鬼でもこいつは人の血を吸わないから大目に見てやれよ」

 

上目遣いで睨みつけて来て、今にも泣き出しそうなメリーをヴィジョンがなだめる。それを習ってマックミラーノも近づくが、二人して警戒されてかなりショックを受けていた。

……で、何故か俺の方に来た訳だけど、同じように突っ撥ねたら吟遊詩人大学のベランダから崖下にイーグルダイブしそうなので、仕方なく聞き手に回ることになった。

 

 

 

しばらくしてメリーが落ち着き、ヴィジョンの頼んだスプラッター・ミンチを始め料理がテーブルに並んだ頃、ケンジローは切り出した。

 

「さて、冒険者ギルドにようこそ……と言いたいところであるが、正式に入会を認める前に試験を受けてもらうである」

 

「いやいやちょっと待てって、試験って?あたしのときはそんなものなかったぜ?」

 

「当ギルドはデイドラ信者お断りである。彼女は吸血鬼、デイドラロードのモラグ・バルと繋がっていない保証がないである。なので、ソリチュード北西にあるパイムーン洞窟にいる吸血鬼を殲滅して、遺灰をお持ち帰りするのがお前達の最初の任務になるである」

 

……プレイヤーからクエストを受けるとは思わなかったよ。でも言ってる事は分からなくもない。

デイドラロードは――ホワイトランで遭ったサングインは例外として――基本オブリビオンという別次元でしか行動できない。

力が強いデイドラロードほどその縛りが顕著で、こちらの世界に干渉するには信者を介する必要がある。

 

信者を介して、というが、その方法は多種多様で、言葉で誘惑したり、直接洗脳したり、疫病をばら蒔いて操り人形にしたりと、想像の斜め上を行く。

下手にデイドラ信者迎え入れて丸ごと洗脳or感染なんてなったら冗談じゃ済まない。

なにより――

 

「ちょ、ちょっといいかしら?……コホン!メリディアは言ってます、勇者アーカーシャよ、吸血鬼を討ち滅ぼすのです!夜の闇から人々の安息?安全……ダサいわね、安寧……そう、人々の安寧を守るのよ!

何も恐ることはないわ、強大無比のドーンブレイカーがあるのだから!」

 

人様のガーリックソテーを横からちょこちょこ突っついておきながら態度だけは尊大なメリディア信徒がすっかり殺る気だった。

 

「待って!待て待て待て!幾らなんでも吸血鬼退治はないだろ!今はこんなナリでも元は地球で戦いと無縁の生活を送ってたんだぜ?あんなワイヤーアクションで動いてるような連中一人でも大変なのに殲滅とか無理ゲーだろ!あたし達に死ねと!?」

 

「人はそう簡単には死なないである」

 

「あーもう、この運動会系脳筋ギルマスは!サティアお前もなんか言ってやれよ!」

 

「そんな装備で大丈夫か?」

 

「一番いいのを頼む!つか事も無げにフラグ立ててんじゃねぇっ!!ここ指パッチンさんの管轄外だから!

おいマックミラーノ!ピザ食ってねぇでお前もなんか言え、当事者だろ!?」

 

「僕はアーカーシャさんの判断に従うよ」

 

「少しぐらい自分で考えようね!?お前のお陰で多数決が成り立った試しがないんだが!」

 

言葉から察するに吸血鬼と戦ったことがあるんだろう、ヴィジョンは顔をビリジアングリーンに染めて取り乱していた。

正直俺だって、チュートリアルでアルティマウェポン倒して来いなんて無茶ぶり全力で蹴り飛ばしたい。だけど闇の一党の襲撃や賞金稼ぎ、雇いの悪漢が絶え間なく襲ってくるこの状況では一刻も早く後ろ盾を作らないと生き残れない。俺も、こいつらも。

 

「要するに私が吸血鬼だからいけないんですよね」

 

「そうであるな。ヴィジョンは最古参のメンバーであるし、そちらの青年少女も特に問題はないであろう。突き詰めて言えばお前のためだけの試験である」

 

「じゃあ一人で言ってもいいんですよね」

 

「ちょっと待ってくれ!何を言ってるんだアーカーシャさん!いくら貴女が時間静止能力を持っても、吸血鬼相手に一人で挑むなんて!」

 

「私一人なら吸血鬼と油断してくれるかも知れませんし、その気になれば寝首を掻くこともできます。むしろあなたが着いてくる方が邪魔なんです。……ヴィジョンも、これ以上私に付き合う必要はないですよね」

 

椅子に掛けておいた骨鞘の日本刀を手にとって席を立つ。「え、え?終わり?ねぇ、私に何か言うことないの?私も仲間だよね?……ねぇ?」道中襲ってきた半分の連中は俺を狙っていた。

ファルクリースの一件が原因かと思ったけど、考えてみれば俺は吸血鬼だ。何日も血を吸わないと目が光り出して、歯が伸びる。それを見て気づいた誰かが暗殺者を雇って俺を消しに来たんだろう。

……ゲームで失念していたが、元々吸血鬼というのは忌み嫌われる存在なんだ。

 

ずっしり重たい刀を着物の帯に止め、踵を返そうとして、何かが袖を引っ張った。

 

「……なんですかヴィジョン?」

 

「いや、えっと、なんだ……その、お前!立て替えてやった宿代まだ払ってねぇだろ!このまま高飛びなんてさせるか」

 

「そういえば忘れてましたね。はい、お釣りはいいですよ。迷惑料です」

 

吸血鬼に衣食住は必要ない。金袋を丸ごとヴィジョンに渡す。気持ちは嬉しいけど、俺のフラグを立てても虚しいだけだろ。

その金でメリーとフラグでも立ててこい、いつぞやお前が話した理想の女性像に結構近いんだから。……見てくれだけは。

 

「うぐっ、……く、あっはははは!いーや、だめだねぇ!散々手塩に掛けて恩を売ってやったのにこんな金貨数百枚では満足できんなぁ!

あー、完全蘇生能力は希少だからな!その力をあたしの雄大なる計画のために大いに役立ってもらうぜ、こんなところで逃がしてたまるか」

 

まるで、というか完全に悪役の台詞をほざくヴィジョン。本当にそんな打算があって今まで俺を助けてくれたのなら気楽だったのに、俺はこいつの事を知ってしまっている。

一見おっぱい星人でエロ戦車、自分の体に発情してニヤニヤする変態だが、本当は赤の他人だった俺を助けるため山賊のアジトに囚われたり、道端で山賊に襲われてる旅行者をかばったりと、損得勘定抜きで人を助けることが出来るマゾなのだと。

 

「……あたしも行くぜ、死んだらちゃんと蘇らせろよ?」

 

「さぁ、どうでしょう?……案外吸血鬼に寝返ってあなたを肉奴隷にするかも知れませんよ?同人誌みたいに」

 

「それはマズイな、僕がしっかり監視しないと」

 

そう言ってマックミラーノも席を立つ。背中にドゥーマーポットを貼り付けたまま。

配慮抜きで邪魔だから、ここで料理人でもして欲しいところだけど、どうせ聞き入れないだろう。

こうして俺たちは吸血鬼討伐のため、パイムーン洞窟を目指すことになった。

 

「みんな行っちゃったよ?キミ行かなくていいの?食べ残しのガーリック・ソテーそんなに美味しい?」

 

「え?あれ?み、みんなトイレに行ってたんじゃなかったの!?ど、ど、ど、どうしよう!え、えっと、取り敢えず……」

 

「オーケー、落ち着いて、多分街の入口にあるウィンキング・スキーヴァーって宿にいるから」

 

「ウィンキング・スキーヴァーね!…………。あっ!お礼言うの忘れた!ううっ、怒ってるのかな……」

 

 

 

翌日。

宿で一泊した俺たちは吸血鬼退治に備え装備を整えていた。鍛冶屋でヴィジョンが使ってる銀のダガーと同じデザインのショートソードを買……おうとして、追いかけてきたメリーにドーンブレイカーを押し付けられ、売り払おうとして盛大に泣かれ、錬金術ショップで回復ポーションとそれ以上に大量なにんにくを買い、街を発った。

 

……というか、にんにくって吸血鬼に効くのだろうか。少なくとも俺には効かない。昨夜だってガーリック・ソテーだったし。

 

道中のことはいつもながら割愛する。というのも、本当に書く事がないのだ。ゲームと違って敵の位置がわからないから常に神経を尖らせてないといけないし、下手におしゃべりして敵を引き付けると本末転倒なので終始無言。

喋るのに疲れ、表情を飾るのも面倒になり無表情でぞろぞろと歩く、ナイトウォークの最後の辺に似ている。

 

敵が現れたらヴィジョンがスクワットしながら迫り、彼女の姿を見失って混乱している敵を俺が「吸血鬼の手」で崖の下に捨てる。

援誤射撃が酷いマックミラーノは完全に戦力外で、メリディアの信徒なら戦えるかな、と期待したメリーは魔法をそっちのけてそこらで拾った鉄のメイスを片手に肉薄していったので、ヴィジョンと二人掛かりで慌てて止めた。

 

ゲームと違って拡大した世界は細部が異なり、パイムーン洞窟までの道のりは結構複雑になっていたが、サングインの瞳が目的地までの道のりを青く照らしてくれたので、迷わずに進めた。

 

「ここがパイムーン洞窟か……」

 

「ナレーション乙です。でももう敵陣なので、自重してくださいね」

 

入口を見張っている吸血鬼の奴隷……「吸血鬼の誘惑」に掛かった人間を「吸血鬼の手」で投げ飛ばし、気付かれることなく潜入に成功した俺たちは暗視が利く俺を先頭に食べ滓(人骨)が散らばる岩肌剥き出しの通路を進んでいく。

道中立ちはだかる敵は潜伏して迫ったヴィジョンが一刀の元成敗し、仕留めそこねた敵は声が出ないように「吸血鬼の手」で喉を締め上げながら空いた方の手で止めを刺す。

 

最初こそ抵抗を覚えていた殺人も、もはや完全にルーチンワークと化していた。

それどころか崖から投げ捨てられた奴らの出す「うわぁぁぁぁぁ」という絶叫が間抜けすぎて、思わず笑みを零してしまう。……後になって気づいて自己嫌悪に陥いたが、スカイリムの世界に入って数週間、俺は確実に変わっていた。戻りようがなく。

 

 

「随分と好き勝手暴れてくれたな、定命の者よ。いやはや、実に迷惑なご客人だ」

 

「……ッ!!」

 

狭い通路を通り抜け、個室のような空間で読書に励む吸血鬼を発見した俺たちは、いつものように潜伏したヴィジョンを先鋒に状況を開始したが、今回は勝手が違った。

 

椅子に座ったままコウモリの一群に姿を変えてヴィジョンの一撃を躱したハイエルフの吸血鬼は、パチンと指を鳴らす。

危険を察してヴィジョンが飛び退くも遅い。通路を遮断するように岩のシャッターが下り、ヴィジョンとメリーを、俺とマックミラーノから遮断した。

 

「上物の定命者が自ら進んで訪れたのだ、逃す手はあるまい。さぁ、食事の時間だ……」

 

突いても蹴ってもビクともしない、堅牢な岩越しにそんな吸血鬼の声を聞いた。

 




感想で頂いた質問ですが、ロンゾ族など族単位で追加される新規種族は度合いによりますが、”元から存在する”ように調整されます。
一見地味で対して変化のない種族は、それに近い種族に統合されます。ノルド(ヴァルキリー)なサティアさんのように。
色々ややこしいですが、”Modを入れて歴史が再構築された世界”という感じです。

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