スカイリム~廃人達の生き様~   作:荒ぶるメタボ

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13.冒険者ギルド

「もう一度聞くぞ、本当に無関係なんだな?」

 

うっすら湿った苔臭い岩壁にくぎ取られた独房の中で、レッドガード(黒人)の監獄長、アハタルは苛立たしげに血垢の残る物々しい机を叩く。

市場で窃盗罪と脅迫罪を同時に犯したメリー・ディアードと名乗るスクゥーマ常習犯と直前まで会話してたせいで、共犯と間違われた俺は、こうしてドール城の地下牢で取り調べを受ける事になった。

 

「もう何度も聞かれてますけど、本当に無関係なんです」

 

「……言葉に気をつけろよ囚人、一応お前も共犯という事に成っているんだからな」

 

「スカイリムではたまたま事件現場をジョギングしていた健康マニアを殺人犯扱いするんですね、初めて知りました。驚きです」

 

身に謂れのない罪でこんなところに押し込まれて、怒らずしてどうしろというのか。強気に出たアハタルを負けじと睨むと、折れたのか目の前の大黒男は気まずそうに目を逸らした。

 

「そ、そんな目をするなよ……ったく、分かった、釈放だ。ただし街中では行動に気をつけろよ?斬首台の上で斧を研ぐのはもうゴメンだからな」

 

一度に大量の囚人を処刑しすぎて斧が鈍った、と言いたいんだろうけど、例えが一々面倒臭い。囚人を並ばせるのはゴメンだ、と言えばいいのに。

釈放された事がそんなに不服なのか、ジロジロと見てくる監守達を無視して地下牢を出ると、任意同行だったヴィジョンとマックミラーノが待っていた。

 

「あ、あ、あなた冴えない顔面なのに見所あるわね……って、何言ってんのよ私、ここはお礼を言う所でしょ!?えと、えっと、助けてくれてありがとう、ううん、違うわ、当然の事をしたんだから。でも、え?あれ?やっぱり……」

 

眩い光を放つ装飾過多な悪趣味な剣を胸に抱いて、忙しなく一人漫才する挙動不審極まりないシェオゴラス信者を連れて。

 

「お礼なんて要らないさ、君の感謝の気持ちは十分に伝わっているから。それにしてもその剣は君によく似合う、エレガントで、さながら天より舞い降りた光のエンジェルだ」

 

キョロキョロと挙動不審で再逮捕されそうなメリーに同調して、マックミラーノもわけのわからない事を宣っている。俺が捕まってる間にシェオゴラスのクエストでも終わらせて来たんだろうか。

俺は迷わず二人から十数歩離れ、さも「こいつら知りません」と壁に背中を預けていたヴィジョンの方に向かった。

 

「ドール城のダンジョンを満喫できたかい?」

 

「ボキャブラリー狭いですね。毎度同じようなことしか言えないんですか?」

 

「う、うっせぇ!つか時間かかり過ぎだろ、もう夜だぜ?」

 

「気前の良いレッドガードの監獄長にフルコースをご馳走して頂きましたから。尋問のですけど」

 

そう言って、マックミラーノに褒められ、フン、と鼻先を上げながら嬉しそうにニマニマしている変質者に視線を向ける。するとこちらの存在に気づいたのか、マックミラーノが近づいてきた。形容しがたいキラキラした不気味なオーラをまとって。

反射的にヴィジョンが数歩下がって、隣の部屋に駆け込む。俺も逃げようかな……

 

「よかった!あまりにも遅かったから心配したよ、アーカーシャさん。大丈夫だったかい?まさか監守達に何かされたんじゃ……」

 

「薄い本みたいなこと期待してるところ悪いですけど何もされてませんよ。それより、なんでその人が事も無げにしれっと脱獄してるんですか?」

 

「メリーさんのことかい?どうやら彼女はメリディアの信者らしくて、ドーンブレイカーが溶炉で溶かされるんじゃないかと思って焦っていたんだ。だから僕が剣と釈放金を払ってあげたのさ。

こんな素敵なレディが盗みを働くわけないと信じてたよ」

 

「それで誰かさんの頭が家出しかけたのですから、笑えませんよね」

 

皮肉も通じないのか、そもそも意味が分かってないのか、よかったよかったと繰り返すマックミラーノを置いて、ヴィジョンに例のイイ酒場に案内してもらう。まぁ、置き去りにしたところで粘着質についてくるのがマックミラーノなのだが。スクゥーマやり過ぎて自分をメリディア信者と勘違いしているシェオゴラス信者も連れて。

 

「聞けば彼女も一人旅の途中だそうだ。スカイリムは危ない土地だからね、レディを守るのも紳士の勤めなのさ」

 

それレディに守られてる人の言う事じゃないですよね。……なんて言ったら、街の風車塔から崖下に向かってダイナミックエントリーしかねないので、突っ込みたいのをぐっと我慢する。

 

 

 

スカイリムでは他に見ない帝国様式の建造物が並ぶ緩やかなスロープが続く坂道を降り、吟遊詩人大学の隣に、例のイイ店があった。

 

「冒険者ギルド……?」

 

思わず棒読みしてしまう。ゲームで言う、プレイヤーの自宅に当たる場所に、元の邸宅を現代美術観で無理やり増築したような、エセバロック様式溢れる酒場が立っていた。「プラウドスパイア邸」と書かれるべき場所に、剣と杖が交差したいかにもな看板がぶら下がっている。

 

「そ、馴染み深い名前だろ?ロープレでクエスト受けたりパーティ組んだりするアレな」

 

「というか戦士ギルドとどう違うんですか、これ?」

 

「まぁ、やってることは大差ないな……、でもここのメンバーはみんなプレイヤーなんだぜ」

 

いくらゲームで慣れ親しんだ世界でも、現実となれば話は別だ。

すべき事を示してくれるクエストマーカーもないし、急所を突かれればどんなにHPが高くてもポックリと死ぬ。

 

一人で生きれるような生易しい世界じゃない、かと言って原住民に馴染もうともこちらは根も葉もないぽっと出の異邦人。どうしても齟齬が生まれ、いらぬ面倒に巻き込まれてしまう。

それなら同じ境遇のプレイヤー同士で助け合ったほうがずっと安心だ。

 

そんなヴィジョンの説明を受けながら、異風際立つ両開きのウェスタンドアを潜って店内に入る。

 

「いらっしゃい~あ、ヴィジョンじゃん!ひっさしぶりー!ホワイトランで騒ぎ起こして監守達にR15じゃとても書けないような事されてるって聞いたけどガセだったんだね。残念」

 

「おーう、来てやったぜサティアー。あたしはそのR15の”ソース”をふんだんにあしらったスプラッター・ミンチを頼むわ」

 

開口一番公共の電波ではとても流せないような放送禁止ワードを連呼した女性は、”ギルド”と言うよりスナックバーのようなカウンターの向こうで猫のような愛らしい顔をいたずらっぽく緩めた。

ノルド女性のいい所を残したまま日本人の審美眼に叶うよう改良した顔面に、毛先がカールした上品なプラチナブロンドの髪。

 

どこかバニラ離れ、いや人間離れしたその容姿に違和感を覚え、冷たく重い薔薇の左目に力を込める、と――

 

“サティア”

“種族:ノルド(ヴァルキリー)/ドラゴンボーン”

“レベル:81”

“体力:350 スタミナ:100 マジカ:660”

“攻撃力:2850 守備力:2100”

 

予想通り、サングインの瞳越しに観えたのは、トリッパーの証拠、“ドラゴンボーン”の種族。というかノルド(ヴァルキリー)ってなんぞ?

なんて考えていると、サティアがこちらを見てきた。

 

「君がアーカーシャだね?話は聞いてるよ、トリップした初日にブタ箱に入ったアウトロー気取りな“冒険者”さんだね。私はサティア、この冒険者ギルド本部で受付嬢やってるんだ」

 

「は、初めまして……」

 

ギャルゲー攻略ヒロインに一人はいそうなキャピキャピした声でまくし立てられ、押され気味に答えてしまう。すると女と見れば見境無いマックミラーノが俺の前に割り込んできた。

 

「その言葉を撤回しろ、彼女は好き好んで犯罪を行うような女性じゃない」

 

いつもなら後ろからバックスタブかましたくなるような気色悪い口説き文句が飛び出すその口から出た、剣呑な言葉にヴィジョンや俺はもちろん、初対面のサティアもため息をついた。

 

「……キミ、そういう趣味なの?まぁ、私が言うのもなんだけどさ、黒姫はよくないよ?」

 

「ええ、よくないですね。ダメ男を養わなくちゃいけない意味で」

 

「キミも大変なんだね……」

 

言葉が通じないばかりか変な者まで拾ってくるダメ男を養うこちらの苦労に気づいたのか、軽蔑の眼差しが、同情と理解のそれに変わる。

 

「同情するなら雇ってくあげてださい。目の前の長いのを」

 

「言われなくてもそのつもり。冒険者ギルドはプレイヤー大歓迎だからね。勿論キミも入会するよね?」

 

「“入会”ってなんかブラックな響きですね。会費とか取るんですか?」

 

「ないない、そんなのないよ。ここはプレイヤー同士情報交換する場なんだから。仕事は斡旋するけど、受けるかどうかは勝手。

自由気ままがうちの社風だからさ」

 

ますます持ってブラック臭い。ちらりとヴィジョンの方を覗くと、目が合った。

 

「大丈夫だって、あたしもここのメンバーだからさ。つか、牢獄に入ったお前を助けるようにクエスト発注したのも冒険者ギルドだからな?

着物を着た変な幼女がバナードメアで無銭飲食したから様子見てこいって」

 

なるほど、だからあんなにタイミングよかったのか。

見ず知らずの俺を釈放金払ってまで開放してくれた理由も納得いった。……すこしビジネスライク過ぎて、寂しい気もするが。

 

「わかりました、加入します。助けていただいた恩もありますし」

 

俺がそう言うと、サティアは待っていたようにカウンターの下から取り出した黒い石のような物を渡して来た。

一面だけ平に削られ、漢字の“問”に似たシンボルが刻まれたそれを見て、召喚魔法ゆかりの何かと直感的に分かった。

 

「それは“黒曜の護符”って言って、魔力を込めると近くにある他の護符の場所がわかるんだ。

メンバー全員に配ってあるから、仲間を探したい時に使うといいよ」

 

サティアに言われるがままに右手に持った護符に意識を集中させると、視界が急に暗転し、代わりに赤い光のオーラがそこら中に浮かんだ。

それが他の護符――他のプレイヤー達なのだろう。

 

「アーカーシャさんが加入するなら」と金魚の糞発言してギルド加入したマックミラーノにも護符を渡したサティアは、ふと俺の後ろの方に視線を止めた。

 

「ねぇ、キミもプレイヤーなのかな?」

 

「ふぇっ!?えっ、えっ!!?わ、私?えと私は、……私は、は……」

 

急に声を掛けられ、思いっきりキョドるメリー。サファイアの瞳が忙しなく動き、知らない人から見れば不審者にしか見えない。

いくら冒険者ギルドがプレイヤーのプレイヤーによるプレイヤーのための社交場とはいえ、最終的にはこの世界に馴染むのが目的だから、原住民を受け入れないこともない。

 

だけどこの少女、出会った時から既に色々挙動不審だ。スクゥーマジャンキーという時点で牢獄沙汰なのに、下手にシェオゴラスの信者だったら日には目も当てられない。

ギルドに入れたが最後、次にドアをくぐった時ギルドの中はチーズと変態で溢れていることだろう。

 

取り敢えずスクゥーマ中毒者かマッドゴッド信者か見極めるため、サングインの瞳に力を込める。

 

“メリー・ディアード(笑)”

“種族:測定面倒”

“レベル:トロールの餌”

“体力:貧弱 スタミナ:貧弱 マジカ:貧弱”

“攻撃力:省略 守備力:省略”

“追伸:ぼっちざまぁwww”

 

「おい、なんかお前のことずっと見てるぜ、フォローしてやれよ」

 

そう思うなら君がフォローしたまえ、ヴィジョンくん。AIがDQN化した宝具(笑)が弾き出した訳わかめなステータスにどうコメントしたらいいか本気で分からなくなったから。

 

「えっと、メリー・ディアードさん」

 

「なに!?……なにかしら?」

 

「一人旅してるって聞きましたけど、失礼ですけど、目的をお伺いしても?」

 

話しかけるだけで穢してしまいそうな、神々しいまでに美しい目の前の少女に、中身がとてつもなくアレだと知っていても、思わず緊張してしまい、言葉を飾る間もなくダイレクトな問が口を突いて出た。

守備範囲ギリギリなせいもあるが、ぱぁっと顔を明るくして、子供の背伸びのように威厳を取り繕うその仕草に思わず警戒心を置き去りにしてしまう。

 

「それは勿論、あなたを吸血鬼の呪縛から解き放ち浄化の光の運び手に相応しい姿に目覚めさせるためよ!」

 

ふぁっく。警戒心を置き去りにした途端これかよ。

 

吸血鬼と聞いて、店内でジョッキを仰っていたプレイヤーじゃない一般人がギョッとした目でこちらを見てきた。

プレイヤーのサティアも俺の正体に驚きはしないが、店長である手前集まった懐疑の視線をなだめようと硬い笑顔を取り繕う。

 

「う、ううっ!イタい!イタすぎるぞぉ!お前にそういう設定があったとは!……よし、次は俺の番だな!

俺は中学生の頃、自分を吸血鬼だと思い込んでずっと太陽を避けていた!どうだ!イタイだろ!」

 

「「「うぉぉ!!イタイ!イタすぎる!この中二病バトルお前の勝ちだ!!頼むからもうそれ以上黒歴史を暴露しないでくれぇぇ!!」」」

 

頭上から響く、野太い声の大男の馬鹿騒ぎに同期して、、店内のプレイヤー達が声を揃えて喚く。

その奇行に店にいた一般人の客はドン引きし、「うわぁ……」と残して次々と席を立っていく。吸血鬼はごまかせたけど、それ以上に大事な物をなくした気がした。

 

「ふぅ、ありがとうございま……す……!?」

 

謝礼の言葉を紡いだ口が強制的に固まった。いつの間にか後ろに立っていたその男は、2メートルは優に超える巨躯を青い毛で覆い、大きく開いた口がついた顔は人間のそれとはかけ離れた、一角が生えた、ライオンによく似た顔だった。




三月三日ひな祭りにゲリラ投稿。
感想で頂いた初心者なヴァルキリーと、マックミラーノに続いて二人目の男性プレイヤー登場です。というか自分で書いてこんな事言うのもなんですけど、オカマというかネカマしかいませんよね、プレイヤー。

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