スカイリム~廃人達の生き様~ 作:荒ぶるメタボ
瘴気が蔓延る石づくりの大聖堂の中で、黒いローブに身を包んだ男は祭壇の前でしきりに呪文を詠唱していた。
彼の名はマルコラン。そこそこ名の知れた死霊術師……ではない。無名だ。彼が拠点とするこの祠の持ち主同様。
彼には夢があった。それは不死の軍勢を作り、ソリチュードを攻め滅ぼし、若き未亡人と年齢不詳の美人宮廷魔術師を手篭めとすること。
その為にはいかなる努力も惜しまず、死後その魂が焼き尽くされると知って尚デイドラロードに喧嘩をふった。まさしく漢であった。
「クククク、あと少しだ、あと少しで我が無敵の不死騎士団が完成する。
その暁にはソリチュードを攻め落とし、この俺が狼の王となるのだ。そう、狼の王、ウルフキングに……ぐふふふふ!」
戦争のお陰で死体の貯蔵は十分。疲弊したソリチュードを攻め落とすだけの死者はもうじき揃う。それだけでマルコランは疲れを忘れ、飯の三杯はイケた。
永遠に続くと思われていた詠唱が終わりを迎える。両手を大きく広げ、身体中に魔力を行き渡らせたマルコランのまえに、突然それは降ってきた。
「高いところから失礼」
目の前の祭壇に突如降り立った声の主は白いフード付きコートに身を包んでいた。目深くかぶったフードから覗く顔の下半分は息を呑むほど美しく、マルコランは思わず見とれてしまう。その一瞬が命取り。
ピタリと冷たい何かが額に当たる。美女が背中に回した手で隠し持ったクロスボウだ。
「メリディアから鉛玉のデリバリーだぜ」
琥珀色の瞳と初めて相まみえた次の瞬間、クロスボウから放たれたボルトにゼロ距離で脳天を貫かれ、漢は絶命した。
「ご苦労様です。スマートな仕事は素敵ですよ、ヴィジョン」
何時の間に部屋に入ったのか、赤い着物姿の幼女が腕を組み、エア肘付きしてねぎらう。
「二人共気を抜くなッ!そのボスには第二形態がある!今すぐそこから離れるんだ!」
その遥か後ろ、部屋の入口で白銀のポットを抱えたインペリアルの青年が叫んだ。
至極真面目な態度の青年に反して、クレオパトラを題材にした映画なら真っ先にスカウトされるであろう褐色のウッドエルフと、十年待たずとも笑顔ひとつで国を傾ける事ぐらい造作無いスノウエウルフは白けきっていた。
締まりが悪そうに美女が咳払いした、その瞬間。青年の言葉が現実となった。頭にボルトを刺して斃れたマルコランの身体から黒い煙が溢れ、見る見る人の形に変化していく。
「クククク、そのような玩具で我を殺せると思うてか!!このウルフキングに牙を剥いた罪を、未来永劫我が下僕となることで償え!」
黒き霧へと姿を変え、復活を果たしたマルコランは自分の体だった死骸からナイフを抜き取り、不敵に佇むエルフの幼女に斬りかかる。
階段を滑るように進み、オリハルコン製のダガーを振り下ろした刹那。残影を残して幼女の姿が消え、代わりに視界を埋め尽くすほどの眩い光が眼前に迫っていた。
あまりにも唐突な出来事。早業を生業とする盗賊ですら反応できるかどうか危うい状況で、身体を捻って躱そうとした努力だけは認めるべきだろう。だが無意味だった。
連鎖する凄まじい爆砕音。マルコランだった影は光に飲み込まれ、跡形もなく消えさった。
魂を失った漢の遺骸に目礼を送り、赤い着物の幼女、アーカーシャは祭壇に向かって歩き出す。
台座のような物に刺さった光り輝く剣を前に、目を閉じて深呼吸すると、思い切ってそれを引き抜いた。
眩い光が視界を覆い尽くし、浮上感が身体を襲う。気がつくと、俺スカイリムの遥か上空にいた。光の塊……メリディアを目の前にして。
「マルコランは倒れました。スカイリムの死者は安らかに眠り続けるでしょう。常にこのようにあるべきなのです。あなたのおかげですよ」
どこからともなく女性の声が響く。目の前の安らかに眠れていない死者がいるのだが、拗ねるだろうから黙っておく。
「新たな一日が始まります。そして、あなたはその先駆けとなるでしょう
強大なるドーンブレイカーを取り、世界の暗き隅々の不浄を焼き払いなさい。我が名においてその剣を振るえば、我が力を増すことにも繋がります」
まるで文章を棒読みしているような、起伏の乏しい早口言葉に首を傾きつつも、メリディアの発言がピタリと止んだところで、俺はこの数日考え抜いた最もシンプルな願いを告げる。
「メリディア様、一つだけお願いがあります。どうか私を元の世界に戻してください」
「当然です。さぁ行きなさい、我が勇者よ。ドーンブレイカーを携え、闇を打ち払うのです!」
あれ?俺今帰りたいって言った筈なんだけど、言葉のキャッチボール成立してないような。
ダメならダメで断ってくれてもいいんじゃないかな?さも「あなたの名の元に剣を振るいましょう」と俺が答えたような反応をされても困るんですけど。
「あのー、メリディア様?聞こえてますか?」
沈黙を貫く目の前の光に問いかけても、なんの返事もない。ただの死体なわけないので、大声で呼ぼうと近づいた途端、足元を支えていた形無き足場が消え、浮遊感が身体を包んだ。
気がつくと俺は地元民曰く、膝に矢を当てたくなる名も知らない像の前に立っていた。右手にずっしりと重い宝剣を握って。
天使を象ったような女神像の胸で光り輝く宝玉は放射能の高そうな音を立てている。返事はついになかった。まさかのガン無視である。
……怒ってるのか、無理なのか、それとも聞こえなかったのか。せめてリアクションが欲しいんですが。
全力でシカトされ、なんとも言えない気分で像を見上げていると、不意に階段の下から会話が聞こえてきた
「アーカーシャのやつ、帰っちまったな。どうしようもないロリコンだったけど、いざ居なくなってみると寂しいぜ……ロリコンだけど」
「子供好きな心優しいレディをロリコン呼ばわりとは聞き捨てならないな。いくらお前が女性の身体でも怒るぞ?
だがまぁ、寂しいという気持ちには同感だ。……でもこれは彼女が望んだことだ、ここは素直に祝ってあげるべきだろう?」
「……だな。帰りにソリチュード寄ってこうぜ、ゲームの時にはなかった、いい酒場を知ってるんだ」
まるでお星様になった誰かさんを追悼してるような顔でしんみりと空を見上げるヴィジョンとマックミラーノ。
どうしよう、頼んだけどガン無視されて帰れなかったなんて言える雰囲気じゃない。
「ははっ、なんだろうな、あんなところにあいつがいるぜ。幻覚が見えるほど気にしてたのかな、あたし」
俺やら私やら使い分けるのが気持ち悪い、というマックミラーノの意見で、ヴィジョンはその間を取って一人称をあたしにしている。
「奇遇だね、僕にも見えるよ。必死で貯めたクーポン券が時効切れしたように放心しているアーカーシャさんが」
「そうかい、あたしにゃ暴雨の中でダンボール箱ごと蹴り飛ばされた捨て猫みたいな顔に見えるぜ……」
人の顔を指して悲壮感溢れる形容で飾るのはとても失礼だと思うんだ。
「そういうあなた達こそクリスマスイブにデートをドタキャンされて、予約した高級レストランでヤケ酒してるフられボーイズみたいに惨めな顔してますよ」
「「え?」」
二人の表情が凍りつく。失礼な、まるで吸血鬼でも見たような顔だな。
「お、お前帰ったんじゃないの?」
「そうだよ、元の世界に戻して貰えるよう交渉したんだろ……?まさか、聞き入れて貰えなかったのか?」
あははは。相変わらず何気ない一言でピンポイントに人の心をえぐるのがうまいねマックミラーノ君。
「ええ、聞き入れて貰えませんでした。というかガン無視されました。ムカつくのでドーンブレイカー売ろうと思います。
イイ酒場に行くのはその後でいいですか?」
「お、おう……」
馬鹿馬鹿しくて、乾いた笑いが溢れてくる。それを見た二人は、どういうでもなく、ただ頷くだけだった。
ソリチュードへの旅路は快適だった。元々近い上に、人通りも多いおかげで、山賊はいない。せいぜい熊やウェアウルフに襲われたぐらいだ。
今まで山賊や暗殺者に散々襲われて戦い慣れた俺たちの敵ではない。
ウェアウルフが近づいてきたところを「吸血鬼の手」で掴み、崖の下に投げ捨てる。ナイフを通さない屈強な肉体も、重力の前には無力だった。
ソリチュードについた俺は真っ先に鍛冶屋を目指した。「待ちなさい」二人共さっきから何も言ってこない。「あ、あの……」宝具を売り飛ばすなんて、デイドラロードに喧嘩を売るようなものだ。「ね、ねぇ……?」巻き込まれたくないんだろう。
「見ない剣だな……港のスロード商人から仕入れたものか?とにかくこれはダメだな。悪趣味すぎて買い手なんて期待できない。どうしても売りたいなら240ゴールドだ」
情け容赦ない匠の辛辣なコメント。ソリチュード唯一の鍛治屋だったベイランドはドーンブレイカーを握ったり振ったりして、値段を定める。
ここに来る途中露天の武器屋にも聞いてみたが、似たような値段だ。理由はやはり、デザインが悪趣味すぎるから。
この分じゃ他の店に出しても似たような値段が帰ってくるだけだろう。
「……わかりました。売ります。ところで、水ぎ――」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って!か、か、か、海パンドレス!」
「「「は?」」」
藪から棒に突っ込んできた、要領の得ない鋭い声に、反射的にそう返した。
同じようにあっけに取られたベイランドの視線の先をたどると、チェック柄のケープを羽織った金髪少女が、口をワナワナさせながら涙目で叫んでいた。
神経質にキョロキョロと辺りを見回すその仕草で、ここに来る途中何度もすれ違った挙動不審な少女である事を思い出す。何かする訳でもなく、何度も何度も俺たちの前に現れては変な走りで人混みに消えていく。道中二度も襲ってきた闇の一党のアサシンかと警戒していたが、どうやら違うようだ。
大方シェオゴラスの信者で無ければスクゥーマ中毒のジャンキーだろう。
「ところで水銀のインゴット……なければ水銀の鉱石でもいいです、売ってますか?」
「なんだって?そんな物は扱っていない!その剣は買い取ろう、頼むからもう放っといてくれ」
水銀という単語を聞いた途端、シェオゴラス信者のせいで元から機嫌斜めだったベイランドが露骨に態度を崩した。市場の武器商人の時もそうだった、気さくな笑顔で半ば強引に客引きした癖に、水銀のインゴットと聞いた途端機嫌を悪くして、俺を追い返した。
……なにか引っかかる。使い道は少ないけど、どんな店でも一個ぐらいは置かれている商品だ。
なのに実際はどうだ、どこの店に行っても無いの一点張り。水銀の“インゴット”なんて物理的にありえない無理難題を吹っ掛けられ、馬鹿にされたと思って激昂したとか……?
「ねぇ、ねぇってば……この私を無視するなんていい度胸……安っぽいわね、肝?違う……心臓。そう、心臓!いい心臓してるわね!」
「まぁまぁ、そんな怒らないでくれ。君のような美しいレディが顔をそんなに歪めちゃダメだ。
さっきも何度か会っているけど、僕たちに何か用かい?」
「あなたに興味はないわ、黙っててちょうだい。……よし、今度はすんなり言えたわ!」
前歯全部へし折りたくなるようなクサい事を宣うマックミラーノを一蹴した金髪少女は、垂れた前髪をパサりとめくる。格好つけてるつもりだろうが、小さな声で呟いた……多分独り言を聞いてしまったので、倍増しで残念に見えてしまう。
「無視もなにも、そもそも誰ですか?どこかで会った……なんて事はありえませんよね?」
「なにそれ、じこ……事故?事故……あ、そうだ自己紹介!……こほん、自己紹介して欲しいってこと?この私に」
「あ、いえ」
なんかこいつの自己紹介を聞いてしまうと事故に巻き込まれそうな気がして、全力で断った。が、
「初めまして私の名はメリー・デイアードよ。……これじゃあ陳腐ね。
名乗る名前なんて持ち合わせていない。でもあえて名乗るなら、そうね……メリーと呼ぶといいわ。……訳ありっぽいね」
こいつは自分に向かって何を言っているんだ?ちらりと後ろに目を流す。さっきから影の薄いヴィジョンが、目の前の黄色い少女を一瞥して、顎を後ろにしゃくる。「こいつヤバイから絡まれないうちに逃げようぜ」と言いたげだ。
一方マックミラーノは何故か壁に手を付いて暗いマックスに入っている。一蹴されてプライドをズタズタにされたんだろう。山賊すら口説いて武装解除させたのだから、なおさらだ。
「……で、その訳ありの頭メリーズパンツさんが私に何の用ですか?シェオゴラス教の勧誘ならお断りですよ」
「な、なんで私があいつの信者増やすようなことしないといけないのよ!……こほん、そう、訳ありよ。とても訳ありなの。ここで話せるようなしんこ……えっと、あ、気安い事じゃないの。わかったら私についてきなさい」
パサり、とケープを捲ってひとり歩き出すメリー。そして数歩進んだ先で、何か思い出したように慌てふためき、ドタバタと戻ってきてベイランドが溶炉の隣に放置したドーンブレイカーを手に取った。
「お、おいお嬢ちゃん!そいつは売り物だ!持ってくんなら金を払ってけ!」
「えっ?金?ああ、お金のこと?……こほん、黙りなさいげ、下痢……えっと、ゲリラ?……下郎!黙りなさい下郎、これはあなたの手に負えるような代物じゃないのよ」
人のことは言えないが、どこにそんな力があるのか、自身の腕よりも太い剣を持ち上げ、ベイランドに突きつけるメリー。
それを見て、ベイランドは大きく息を吸った。
「……やれやれ、盗人猛々しいにも程があるな。衛兵!泥棒だ!」
「スタァァァッフプ!!!!」
呼ばれて飛び出して、赤いスケールメイルの衛兵達に囲まれ、あっけに取られてドーンブレイカーを取り落とし、足の爪にぶつけて盛大に蹲った犯人を見て、俺は大きく溜息をついた。
Q:更新遅いぞ、なにやってんの!
A:インスピレーション得ようとスカイリムを新規キャラで始めたらそのまま嵌ってしまった次第でごおぜぇす。
一人称で人の姿を細かく書こうとするとなんだかキャラに影響してしまいそうなのでスルーしてましたが、三人称でも結局書けなかった……!
あとさっさとメインヒロイン出したいので、山賊や暗殺者をひたすらぶっ殺して進むソリチュードへの旅はDIEジェストでお送りさせていただきました。
それはそうとwezaleffマジ天使。