スカイリム~廃人達の生き様~   作:荒ぶるメタボ

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1.ようこそスカイリムへ

……はっ!?

ここは……

 

目を覚ますと、目の前で大きな篝火が燃えていた。

 

「サーディア!ぼやっとしてないで、お客さんに飲み物を!」

 

「はい!ただいま!」

 

カウンターで頬付きしている白人の女性に言われ、エロい格好した褐色のお姉ちゃんが走ってきた。

 

「なにか飲む?食べる?」

 

「あ、けっこう……」

 

言いかけて、違和感に思わず喉を抑えた。

俺こんなに声高かったか?……というか俺の手こんなに柔らかかったっけ?心なしか目の前の女性が高い気もする。

 

いや、もう現実逃避はよそう。理由は大体分かっている。俺は――スカイリムの世界にトリップしたのだ。

Nex○sに公開された例のMOD、「Travel to the Skyrim」によって……

 

Travel to the Skyrim

ダウンロード数僅か300でコメント・リファレンス0。これだけを見れば星の数ほどあるマイナーMODとなんら変わらない。

 

だが、たった300のダウンロードでNexus様からBanされ、ネットでSkyrimとググれば真っ先に飛び出してくるこのMODは、

つい先日ICPOによって配布・所持禁止令を出された前代未聞のMODである。

 

理由は、ダウンロードしたプレイヤーと思しき306人のプレイヤー全てが、謎の失踪を遂げていたから。

いずれもスカイリムをプレイ中に。プレイヤーキャラが無くなったディスプレイを残して。

 

それから憶測が行き交った。魔術師と名高いBethe○daの皆様がついにリアルとゲームの壁をぶち破ってトリップを可能にしただの、MODの配布者Aromamrahが実はデイドラロードで地球に干渉して来ただの……

 

バリエーションは尽きないものの、一つだけ共通点がある。

それはずばり、MODを使用したプレイヤーはスカイリムの世界に召喚されたであろうということ。

 

そんなファンタジーなことあってたまるか、と無関心を貫く俺だが、掲示板なりMOD紹介サイトなり開けば目に飛び込んでくるので、嫌でも気になってしまう。

気になるだけならいい、どうせ禁制品MODだ、探したところで見つかりはしない。

 

だが、もしそれが目の前にあるとしたら?クリック一つで、ダウンロード出来る状態にあったら?

 

 

……Nexusに新たにアップされた、「No Vampires,Travel to the Skyrim」というMODを開いて、俺は思考に浸った。

これは何のMODだ?趣旨がまるで分からん。

 

イメージ画像はドーンブレイカーとメリディアの画像で埋め尽くされ、説明部分には「我が勇者たらん者よ集え、強力無比なドーンブレイカーを手に邪なるアンデットを浄化するのです!PS:吸血鬼の糞野郎共はクリックするな、いいな?」と書かれている。

 

意味不明だ。メリディア信者の戯言か?

 

しかし、糞野郎呼ばわりされていい気分ではない。なぜなら俺は所謂吸血鬼プレイをしているからだ。

アーリエルの司祭で例の聖域にいたため、ヴィルスールもろとも吸血鬼にされたという設定のロリっ娘スノウエルフ、アーカーシャで。

 

M○nliをベースに、テクスチャやメッシュを色々弄って作ったお気に入りのキャラで、くすんだ金色のパッツンヘアーの下で睨みつける赤い瞳が堪らない。

装備はかん○ら屋から買った赤い着物と、水上歩行が可能なアージタルのブーツ。武器はドラゴンズベインの「Unique Un○que」バージョンで、白い骨の鞘に収まった身の丈以上の日本刀を使っている。

 

押すなと言われて、押してしまうのが悲しい人の性か、イラっと来た俺は深く考えずこのMODをダウンロードしてしまった。

 

もし、インストールする前にもう一度Nex○sのページを開いてたら、

もし、ダウンロードした直後にファイルがBanされていた事に気付いてたら、

 

「この街の衛兵は怠けていてだらし無い!改善の必要がある……」

 

こんな事にはならなかったのではないか?……スカイリムの世界に、プレイヤーキャラでトリップする事に。

ベンチの隣で暇そうにエールを仰ぎながら、愚痴垂れる鉄鎧の男、ホワイトラン四大ダメ男が一人、シンミルから無言で遠ざかる。

 

ゲームの時はそうでもなかったが、このおっさんオーラが半端ない。全身から漂う酒臭さと、荒々しい息づかいのせいで、大変近寄りがたい雰囲気をまとっている。

 

こう言ってはなんだが、俺はベテランのニートだ。話術スキルは5がいいところだ。

こんな訳のわからない状況で誰かと言葉のキャッチボールを成し得るとは思えない。

 

俺が席を立った事に目ざとく気づいたサーディアが早足で近づいてくる。くっ、押し売りも大概にしろ!

カウンターの奥で何かを叫ぶフルダを無視して、俺は宿「バナードメア」の扉を駆け足でくぐった。

 

途端、目眩に似た症状が俺を襲った。……なんてことない、俺は、このキャラ、アーカーシャは吸血鬼なのだ。

昼間に太陽を浴びれば、灰にはならないがステータスが数段下がってしまう。

幸い「デイウォーカー」という、昼間でも自然回復するMODを入れてるので、軽い目眩の後すぐに立ち直れたが。

 

立ち直れはしたのだが、

 

「スタップ!貴様はスカイリムとその民に対し罪を犯した!何か釈明はあるか?」

 

光に慣れて目を凝らすと、俺は抜刀した衛兵に囲まれていた。

 

「え、えーと俺何かしました?」

 

「恍けるのはよせ、貴様バナードメアで食い逃げしただろう!というか“俺”?お前ひょっとして……」

 

「あ、いえいえ、なんでもありません。ちょっとした言葉のアヤです」

 

「……まぁいい、とにかく、だ。お前には40ゴールドの懸賞金が掛かっている、この場で払うか、牢獄で反省するかお前が決めろ」

 

「もちろん払いますよ、はい……え?」

 

しまった、インベントリーどうやって開くんだ?

……リュックらしきものは背負っていない。

ならポケットか?いや、そもそも着物にポケットなんてないし、巾着なんて勿論ない。分厚いブーツの中に何枚か金貨を隠してるかも、と淡い期待を込めて屈んだ俺を、とうとう痺れを切らしたのか、衛兵が制した。

 

「もういい、金はないんだな?仕方ない、ドラゴンズリーチのダンジョンまで来て貰うぞ」

 

……そりゃそうだ、衛兵達の面前にも関わらず、自分の身体をまさぐって傍から見れば大変な変態だ。

有無を言わさず牢屋に連行され、独房にぶち込まれる。

相変わらず部屋の隅でおっさんが死んでいるけど、ゲームならいざ知らず、リアルだと腐るだろ……

 

抗議したところ、この男は懲役100年を言い渡されているので、このまま放棄しているらしい。偉大なる首長バルグリーフェ……

 

ちなみに俺は懸賞金40ゴールドなので、40日監獄にいなければならない。

理不尽だ、皇帝を殺した時でさえ3日で開放してくれたのに。

 

こんな死体と40日も共に過ごせる訳が無い、脱獄するしかない。

 

……のだが、このキャラ、アーカーシャは所謂縛りプレイをしていて、変性・回復・付呪以外全てが15で固定されている。ご丁寧に「Skill Lock」というMODで。

 

荷物を全て没収……といっても、身の着の着物とブーツと刀だけだが、された今の俺はロックピックなど持ち合わせていない。

ゲームならそこに倒れている男が一本隠し持っている訳だが、腐りかけて皮膚がずにゃっとしているそいつからロックピックを抜き出す気にはなれない。

 

よしんば逃げ出せてもスニーク15の俺じゃ衛兵に見つかって懲役+100日されるのがオチだ。

そして何より最悪なのは俺が吸血鬼で、4日血を吸わないと問答無用で敵対されてしまうこと。

 

うわ、どうしよう。初っ端から詰んだ。

……一応チートMODなる物を4つぐらい入れてる俺だが、システムから外れた外法がこっちの世界で通用するかどうか危ういし、何より4つ共かなり目立つ。

特に逃走に使えそうなアレとか、よほどの事がない限り作用するかどうか検証したくない。というかする勇気がない。――まだ死にたくないしな。

 

なんて悩んでるうちに日が傾き、鉄格子に区切られた窓から差し込む夕日が月明かりに変わった頃、

 

「出てこい、釈放だ」

 

施錠してくる衛兵の言葉を理解するのに、少し時間が掛かった。

 

「え?なんで、おれ、じゃなく私は懲役40日だったんじゃ?」

 

「お前の懸賞金を払ってくれた奴がいてな。彼女に感謝するんだな」

 

彼女?……誰のことだ?

ホワイトランで“彼女”と言えば、タムリエル最強の生物兵器、ホワイトランの野性ことゴリ……リディア様を真っ先に思い浮かぶが、このキャラはメインストーリー完全放置路線なので、彼女と面識は無いはずだ。

 

他に仲の良い女性というと、鍛冶場のエイドリアンさんか?

 

そんな事を考えながら、開放してくれた衛兵について行くと、牢獄の入口でアサ○ンクリードの某エツィオが着てるような白いコートに身を包んだ長身の女性に遮られた。

 

「ドラゴンズリーチを満喫できたかい?」

 

氷のような冷たい瞳に褐色の肌。抜群のプロポーションは正直俺の好みではないが、それなりに需要は高い。

フードから突き出た長い耳はエルフを彷彿とさせるが、整った顔立ちはそこら辺のマー(エルフ)とは一線を化す。これらから導き出される結論は……

 

「もしかしてプレイヤーの方ですか?」

 

言った途端、女性の腕が俺の首に回る。たわわに実った大きな胸が目の前に迫り、甘い香りが鼻腔に広がった。

 

「ここで話すのはマズイわ、ついて来なさい」

 

隣の衛兵に聞こえないほど小さな声で耳打ちする女性。

歩幅の差で引きずられるように連れて行かれた先は、つい昼間無銭飲食の濡れ衣を着せてきたあの宿屋、バナードメアだった。

 

囚人服を着たままの俺に店中の視線が突き刺さるが、アサシン装束の女性が一つ咳払いすると、皆慌てて目を逸らした。

……話術高ぇ

 

「さて、もう薄々気付いてるだろうが、ここはエルダースクロール5・スカイリムの世界だ」

 

いつの間にか拡張されたバナードメアで、個室の一つに入った途端、女性は開口一番そう言った。

いや、薄々どころか完全にそうだけど。

 

「えっと、じゃああなたも?」

 

「ヴィジョンだ。察しのとおり私も君と同じ、異世界からの来訪者だ」

 

「例のMODですか?」

 

「Travel to the Skyrimを言ってるのなら、そうだ」

 

なるほど、つまりこの人が消えた306人の一人……確かうち100人ぐらいは日本人だったな。

言葉通じてるし、もしかしたらこの人も?いや、言葉なら街の人だって普通に通じてたし、俺たちがこっちの言語を喋っているだけかもしれない。

それでも聞かずにはいられなかった。

 

「あの、俺■■■■って言うんですけど、ヴィジョンさんもしかして日本人ですか?あと、ひょっとして中の人男ですか?」

 

「ぶふぉーー!!」

 

優雅にエールを含んだヴィジョンは勢いよく噴いた。

 

「お、お、お前!ちょっとこっちこい!……いいか、こっちの世界じゃロールプレイが基本だ!中の人とかNGワードだから間違っても聞くなよ?」

 

「いや、でも確認しとかないと……もしかしたら帰還の手助けになるかもしれませんし」

 

「……は?」

 

何を言ってるんだ、こいつ?と言いたそうな顔をされた。

 

「……お前帰りたいの?」

 

「まぁ、一応……突然いなくなって家族心配しているだろうし」

 

「だったらなんであのMOD使ったんだよ?好奇心とか言うなよ?」

 

「好奇心ですけど……」

 

「じゃあお前も好奇心に殺された猫というわけだ。

……いいか?今やTravel to the Skyrimは裏世界で法外な額で取引されている。

最初の306人はともかく、それ以降やってきた奴らは全員、全財産を投げ打ってまでスカイリムに来ようとした筋金入りの廃人だ。

元の世界に帰る気なんてサラサラないし、帰る方法を模索する奴がいれば粛清してきた。

俺だから良かったものの、他のトリッパーにさっきの事言ってみろ……お前、殺されるぞ」

 

カチャリ、と半抜きのナイフが鈍い光を放つ。ジョークを放ったわけじゃない。

至って真剣なヴィジョンに気圧され、俺は機械的に頷くのだった。

 




二次創作は初めてなので、至らない部分があったらご指摘ください。
基本的に実在するMODを登場させていく予定です。おすすめのチートMODとかあったら是非教えてください。

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