在賀織絵の存在証明   作:四季式

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加筆修正版です。
4巻出たので編集・執筆をちょこちょこ。


第5話 敵の敵の天敵!(前)

「き、キズタカ、織絵ちゃん。また今度にするのが、そこに行くことなの」

 

「りすかちゃん。それを言うなら『そこに行くのはまた今度にする』でしょ? まあ行くんだけど」

 

「そうだぞ、りすか。ここまでの移動時間やら交通費やらを考えると、ここに来るチャンスは今回きりだ。今更後戻りはできない」

 

「キズタカはまだしも、織絵ちゃんは怖くないの!? あの廃病院が!!」

 

「全然」

 

 ぼくら三人が今いる場所は九州の某所──詳しい情報を提示するならば、以前倒した魔法使い・影谷蛇之(かげたにへびゆき)とその仲間が一時期潜伏していたとされる廃病院の目の前だ。

 

「い、いくらお父さんの手がかりがあるからって、なにも来ることがないのが夜の廃病院なの!」

 

「仕方がないだろう。学校から帰ってきてからの移動なんだ、暗くもなるさ」

 

「そうだよ、りすかちゃん。私なんか両親に嘘までついて来たんだから、『暗くて怖いから』なんて理由で引き返すことはできないよ?」

 

「うぅ〜…」

 

 織絵の言葉にようやく観念したのか、りすかはぼくの左腕と織絵の右腕を力いっぱい抱き寄せながら重い足取りで着いてきた。

 歩きづらい、という言葉を喉元で押しとどめ、右手に持つ懐中電灯の明かりを頼りにぼくらは廃病院の中へ入った。

 

 

 

 

 

 

 

 ★   ★

 

 

 

 

 

 

 

 そもそもこの廃病院に来るのは、もう少し早い段階のはずだった。

 りすかのいとこ・水倉(みずくら)破記(はき)が織絵に『魔法』を教えることになったために延期していた事項だ。

 本来ならば、影谷蛇之を撃破して得た情報を基に計画を立てつつ、りすかと織絵を回復させるのに合計二週間かけてから出発するはずだったのだ。

 それが水倉破記(やつ)のせいで一ヶ月も先延ばしになってしまった。

 もうほとんどりすかの父親、『水倉神檎(しんご)』の情報は残っていないだろうと思いつつもここに来たのは、りすかの所に『招待状』が届いたからだ。

 

「拝啓水倉りすか様、供犠(くぎ)創貴(きずたか)様、在賀(ありが)織絵(おりえ)様、ねえ」

 

「ダダ漏れなのが、こっちの情報なの」

 

 りすかや僕の名前が知られているのは分かる。

 だが織絵の情報が出回っているのは正直驚いた。

 織絵が魔法に関係しているのを知っているのは、こちらの陣営と水倉破記くらいだと思っていたからだ。

 

「どこに目があるか分からないものね」

 

「ああ。最悪、ぼくらの学校にまで手が伸びている可能性もある」

 

「それで、キズタカ。どうする?」

 

「この招待状に従って記された日時にその場所に行くか、ってことか」

 

 愚問だな。

 

「行くに決まっているだろう。行かない選択肢がない」

 

「罠かもしれないよ?」

 

 織絵が聞いてくる。

 

「かも、ではなく罠だよ。だが正体不明な相手の唯一の手がかりでもある。虎穴に入らずんば虎子を得ず、と言うじゃないか」

 

「そのまま虎に噛み殺されたら?」

 

「その前にこちらが殺す。今までもそうだった。そしてこれからも」

 

「……分かったわ。まあどの道『着いていかない』という選択肢はないのだけれど」

 

「それで、いつどこがその時間と場所なの?」

 

「時間は夜の九時。場所は隣県のとある廃病院だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★   ★

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ〜、あの時反対していればよかったの……」

 

 りすかが(うめ)くが無視する。

 廃病院の中は埃っぽいが、窓ガラスが割れてないからかあまり荒れてはいなかった。

 一階から順に一通り見て回っているが、人影や気配は感じない。

 そして最上階。

 その最奥の、おそらく手術室だったであろう部屋の半開きの扉から光が漏れていた。

 それを見た瞬間、あれほど怖がっていたりすかが腕から離れ、即座に動ける体勢をとった。

 戦闘モードに切り替えるのが早くなったな。

 

「織絵」

 

「札の準備は大丈夫」

 

「オーケー。りすかが前衛、織絵が後衛だ」

 

 灯りがある、という条件下なら、何時ぞやの影谷蛇之(ヘンタイ)から拝借した魔法陣付きのダーツを使うのもアリだ。

 そう思い、ぼくは懐からダーツを二本取り出して織絵に握らせた。

 

「三の合図で突入する。一、二、三!」

 

 りすかが勢いよく手術室のドアを開けると、そこには一人の少女がいた。

 

「はぁーい、時間通り来てくれてありがとね。りすかちゃん、創貴くん、織絵ちゃん。私はツナギ。ツナギちゃんって呼んでね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その少女、自称ツナギちゃんは、ぼくらと同い年くらいの体躯をダボっとした服装で覆い、この場にそぐわない軽快さで話しかけてきた。

 

「いやー、来てくれて良かった良かった。最悪一晩ここで待ちぼうけになるのも覚悟してたのよねー」

 

「それは重畳。──さて、こちらの自己紹介はいらないみたいだから、本題に入ろうか、ツナギちゃん。この場所に(・・・・・)あった物を(・・・・・)よこせ(・・・)

 

「──はははっ! この場面で強気に出られちゃうんだ! もしかしたら私の合図ひとつで屈強な黒服の男たちがなだれ込んでくるかもしれないよー?」

 

 ぼくの軽い挑発にもまるで乗ってこない。それどころか面白がって逆に煽ってくる始末だ。ぼくと織絵は無反応だったが、りすかが少しイラついている。この手のからかいは子供によく効く。

 

「そんな人員、ぼくらにとってもツナギちゃんにとっても無意味だろ。ただの人間はりすかの脅威になり得ないし、ツナギちゃんに至っては邪魔でしかない。そうだろう、『魔法使い』?」

 

 ツナギは、今までもニヤついていた口角をさらに吊り上げ、興味深そうにぼくを見据える。

 

「ふぅん、『魔法使い』ねぇ……。いやいや、私はただのメッセンジャーで実は普通の女子小学生かもしれないわよ?」

 

「普通の女子小学生はこんな深夜に出歩かないし、ましてや廃病院に忍び込んだりしないさ」

 

 事実、こちら側の女子小学生二人は、生粋の『魔法使い』に鬼才の『魔法』使い。一般的な女子小学生の範囲から盛大に逸脱している。

 

「すごい説得力を感じたわ……。じゃあ、おふざけもこのくらいにしましょうか。──では改めまして、私は城門管理委員会特選部隊所属のツナギといいます。水倉りすかさん、供犠創貴さん、在賀織絵さん、城門管理委員会本部までご同行願います」

 

 今までの雰囲気から一変、慇懃な言動に様変わりしたツナギが口にしたのは、魔法使いの国と人間の国を分断する『城門』の一切を管理する組織、対『魔法使い』に特化した集団である城門管理委員会、その一員であるという、ある意味宣戦布告であった。

 


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