夢幻転生   作:アルパカ度数38%

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最近の物凄い評価の上がり方にビビってます。
こんなに評価が高くっていいんでしょうかと思いつつ、更新です。


その17:神であるか1

 

 

 にしても、奇妙な4人組だと言わざるをえない。

クロノさん。

正義の味方である管理局の人間であり、ぼくを非殺傷設定の魔法で攻撃し、ぼくに非殺傷設定の魔法の素晴らしさを教えてくれた人。

ユーノくん。

なんでも遺跡とかを発掘する考古学者の卵であり、ぼくと同い年なのに発掘チームの責任者で、ぼくにとっては余り縁のない人。

なのちゃん。

ドジっ子系優しい子だが、いつの間にか桜色のビームをぶっ放すようになった超天才魔導師で、でもぼく的にはただのなのちゃんな小学生。

ぼく。

超絶に一般人かつ常識人だが、ひょんな事からジュエルシードを食べてジュエルシードの力を宿したっぽい元一般人。

警察官、考古学者、小学生、元一般人。

こうやって並べてみると、いかに滑稽な集団か分かる物である。

そしてその目的はと言えば、愛に生きる大魔導師を説得するという物である。

それなら結婚詐欺師でも呼べばいいのだけれども、何をどう間違ったのかプレシアさんはぼくを愛しており、それ故にぼくとその護衛が行かねばならぬ事態になっているのであった。

まったくもって、字面だけ並べるとなんとも言えない物だった。

 

 そんなぼくらは、ついに最下層にたどり着く。

最下層はカッティングされていないパープルダイヤモンドの巨大な原石が、険しい山脈の中に埋もれているのを、山脈だけ通り抜ける魔法の刃で一閃したかのような場所だった。

所々山の頂上のように岩々が立ち並んでいる姿は、勃起する男根を思わせ、ぼくはなんだかちょっとげんなりする。

そんな中に、プレシアさんは隣に緑色の液体で満たされた円柱状のポッドを従え、立っていた。

その姿がまるで孤独な羊飼いのようで、ぼくは話しかけてみたくなったのだが、それに先んじてクロノさんが口を開く。

 

「投降するんだ、プレシア・テスタロッサ! 今ならまだ、罪は重くないっ!」

「来たのね、T」

 

 プレシアさんはまるでクロノさんが目に入っていないかのように、華麗な無視を見せた。

それがまるで闘牛士のような華麗さで、ぼくはちょっと息を呑むような感動を覚えてしまう。

あんまりに不意だったので、ぼくが胸を抑えながらキラキラと豆電球みたいに目を輝かせていると、隣のなのちゃんが口を開いた。

 

「あの、プレシアさん! 私、貴方に聞きたい事があるんです!」

「あぁT、私はもう10日近くも貴方と離れていたのね」

「あのー、プレシアさん? 聞きたい事が……」

「ふふ、感動しているのはお互い様かしら。こっちもなんだか、胸がドキドキしてきちゃったじゃない」

「…………」

 

 相変わらず華麗な無視を見せるプレシアさんだが、ぼくは隣で発されている怒気が気になってしまい、ちらりとなのちゃんに視線をやる。

なのちゃんは、少し無表情気味な笑みを作っていた。

マジギレ5秒前、という感じである。

ぼくは静かになのちゃんから距離を取る事にする。

だってなのちゃん、怖いし。

そんなぼくに、変わらずプレシアさん。

 

「さぁ、T。貴方の声を聞かせて頂戴?」

「プレシアさん、少しでいいから、フェイトちゃんと……」

 

 と、なのちゃんが最後の忍耐で言い始めた、その時である。

一迅の風が吹いた。

影が差し視線をそちらに。

ふんわりと、トランプのカードの表裏みたいに黒と赤で配色された、翻るマント。

ぼくを以ってしても、思わず見惚れてしまう綺麗な金髪。

アースラに居る筈のフェイトちゃんが、ぼくの前に立っていた。

ついでに辺りを見回すと、アルフさんもぼくらの後ろに立っていた。

 

「……な、フェイト・テスタロッサ!?」

「フェイトちゃん!?」

「大丈夫なのかい!?」

 

 悲鳴を上げる面々と同じようにぼくは驚き、しかしぼくはその事実に即座に納得した。

けれど他の3人はそうも行かないようで、振り返って見るに、目を丸くしたままである。

首を傾げるぼく。

 

「そんなにフェイトちゃんが此処に居るのが疑問かい? アースラにはフェイトちゃんを止める戦力が居ないだろうに」

「いや、しかしまさかあの直後にだな……」

 

 クロノさんがまごつく中、フェイトちゃんに視線をやると、肩越しに振り返った彼女と目があった。

フェイトちゃんの目は揺れる炎の舌のようで、その内心はまだまだ完調とはいえないようだ。

しかし、それでもその奥は強固に固まっていて、まるで炎の熱量で半ば融けだしたルビーのようだった。

美しいけれど、冷えて固まってからでなければ手を出す事はできず、ぼくはその点が残念なような、待ち遠しいような、なんとも言えない気分である。

不意ににこりと笑って、フェイトちゃん。

 

「Tは、私を信じてくれているんだね」

「信じるも何も、ぼくは感じたままに行動しているだけなんだけれど」

「……そうだねっ」

 

 ぼくが首を傾げながら言うと、何故か弾むような声で返すフェイトちゃん。

その弾み方がゴムのような弾力性がある物で、ぼくはそれが地面に叩きつけられたら、飛んでいったそれを見るのに首が疲れそうだな、と思った。

なので、ぼくはその声に返す言葉を思慮しなければならず、ぼくがそれを思い起こすよりも早くフェイトちゃんが行動を始める。

プレシアさんに視線を戻したフェイトちゃんは、数歩近づいて言った。

 

「母さん。私はアリシア・テスタロッサではなく、ただの欠陥品なのかもしれません。けれど私は、貴方の娘なんです」

 

 瞳を閉じて両手を開き、数歩近づくフェイトちゃん。

 

「貴方がそれを望むのなら、私は世界中の何からだって守ってみせる。どんな悲しみからでも、どんな憎しみからでも。貴方が望むなら、Tの心だって、手に入れてみせる。今度こそ、憎まないで居てみせる。でもそれは、私が貴方の娘だからじゃあない。貴方が、私の母さんだから……」

 

 ぼくはフェイトちゃんは一体何を言っているんだろうな、と思った。

プレシアさんは、悲しいからアリシアちゃんを生き返らせようとしているんじゃあない。

プレシアさんは何も考えていないから、アリシアちゃんを生き返らせようとしているのだ。

アリシアちゃんが死んだという事実を受け止めたり、その事実を脳に刻みたくないから、アリシアちゃんを生き返らせようとしているのだ。

プレシアさんは未だ悲しんですらいない。

悲しむより前の状態だって言うのに、その先の悲しみから守ろうって言ったって、今一実感が沸かないだろう。

フェイトちゃんは、プレシアさんの外付けの脳味噌になると言うべきだったのじゃあないだろうか。

そうやってプレシアさんの代わりに考えてやる事が、プレシアさんを守る事に繋がるのではないだろうか。

もちろん、それは思考を放棄するプレシアさんが生きていないままだと言う事にも繋がってしまうので、中々難しい問題なのだけれど。

考えるという事は生きる事である。

すると考えまくって生きているぼくは生を謳歌している訳で、あぁ、生きるって素晴らしいな、とぼくは思った。

 

 僅かな、羊を無言で数えるような沈黙。

プレシアさんは僅かに瞑目した後、目を見開き言った。

 

「T、もっと貴方の声を聞かせてくれないの?」

「……え?」

 

 疑問詞を零すフェイトちゃん。

請われては仕方ない、とぼくは数歩前に出て、フェイトちゃんと並んで口を開いた。

 

「うぅんと、フェイトちゃんと会話する気は無いのかい?」

「無いわ」

 

 バッサリとプレシアさんが言う。

隣で、フェイトちゃんが崩れ落ちる音。

それがまるで砂金に息を吹きかけるような有様だったので、ぼくは反射的に彼女を支えようとしてしまう。

けれどよくよく考えると、これからぼくはプレシアさんに告白の返事をしなければならない訳で、重要度はどっちもどっちだけれど、フェイトちゃんを支えるのはぼくじゃなくてもできるのに対し、プレシアさんに応えられるのはぼくだけだ。

そこで視線をアルフさんにやると、急ぎアルフさんが駆け寄ってフェイトちゃんを支えた。

視線で問いかけると、アルフさんは小さな声で言う。

 

「本当は殴りかかってやりたい所だけど、フェイトの前でそれはできない……。託すのがあんたしか居ないってのが物凄い不安だし嫌だけど、頼んだよ」

「はいはい」

 

 これが本当に物凄く嫌そうな顔で言うので、ぼくは適当に返事をしてからプレシアさんの前へと進む。

 

「お、おいっ、これ以上離れると……」

「まぁ、大丈夫だと思うよ」

 

 護衛の観点からのクロノさんの言葉があったけれど、無視してぼくは3人の魔導師とプレシアさんとの中間辺りに立った。

改めて、プレシアさんと隣のアリシアちゃんを見る。

何時ものように肉体とギャップのある少女らしい表情のプレシアさん。

アリシアちゃんはフェイトちゃんにそっくりだし、眠っているような表情からは人格は見て取れないけれど、ぼくの錯覚か彼女はなんだか満足そうな顔をしているように見えた。

それを見ていると、なんだか硝子に閉じ込められているのはアリシアちゃんじゃあなく、プレシアさんを含めたぼくら全員なんじゃあないかと思ってしまう。

けれどそう思ってしまうと、ぼくはアリシアちゃんの入っているポッドを破壊しなくてはならなくなってしまい、それは大変プレシアさんを困らせてしまうだろうと思ったので、ぼくは自重した。

ぼく、自重ができる男であった。

 

「まず、プレシアさん。貴方の告白に、返事をさせてもらいます」

 

 期待を胸に、ぼくに視線をやるプレシアさん。

上目遣いに恐々とぼくを見る様子は、まるでラブレターを入れた下駄箱を監視している少女のようで、初々しさで満載だった。

別に初々しさを見たければたんぽぽを摘めば良いと思うのだけれども、此処にはたんぽぽが生えていないので、ぼくは十分にその初々しさを堪能しながら言う。

 

「プレシアさん、お付き合いを始めましょう」

 

 プレシアさんの顔が、ぽっと赤く色づいた。

苺みたいな赤色だなぁ、とぼくは思う。

本物の真っ赤ではなく、そこに何かが隠れ潜んだ赤だったのだ。

後ろではフェイトちゃんを除く4人が「え?」と疑問詞を口にしているのだが、ぼくは無視して先を続ける。

 

「ぼくらの過ごした時間は、答えがお友達から始めましょうが妥当なぐらいに短かったです。けれどぼくはどうだかわかりませんが、プレシアさんは今までの誰よりもぼくの事を理解しているように思えます。直感が大分多くて、星が流れる先を決めるような物なんですけれども、それでも」

「……あり、がとう、T」

 

 プレシアさんは、ポロリと涙を零した。

ぼくはにっこりと笑いながら、しかし言わねばならない事を続ける。

 

「でも」

 

 と、たった一言でプレシアさんは顔色を変える。

油混じりの水みたいな青色だった。

 

「ぼくが今のところ一番大切なのは貴方ですけれども。けれど他にも、ぼくには大切な物はあるんです。そこに居るなのちゃんとフェイトちゃんもそうですし、両親だってもちろん、他にもいろんな友達が地球には居ます。あぁ、地球外でもクロノさんが恩人だったりしますね」

「それは、つまり……」

 

 既に答えは得ているのだろうけれど、それでも言うプレシアさん。

ぼくはギロチンの縄を切るような重い気分で、しかし表情にそれは出さず、言った。

 

「ぼくは、貴方のアルハザードの旅についていけません」

 

 次の瞬間、紫色の光がピカっと生じたかと思うと、ぼくはその場に倒れてしまう。

後ろに向かって倒れ、ごつんと頭をぶつけた。

後頭部を打ち付けそうな倒れ方だったので、ぼくは岩肌ではなく平らな輝く場所に立っていた事に心底感謝した。

それからなんで倒れたんだろうと首を傾げるよりも早く、ほんの刹那遅れて、ぼとと、と重量感のある音が聞こえる。

視線をやった。

ぼくの四肢がその辺に落ちており、その傷口は焼け焦げていた。

 

「なら、無理やりにでも連れてゆくわっ! 例え、その四肢をもぎ取ってでもよ!」

「あの、せめて言ってから実行に移してもらえませんか?」

 

 割りと酷い行為だけれど、プレシアさんは、アルハザードにたどり着けば治る筈なので別にいいと思っているんだろう。

事実ぼくも、この上で四肢をつなげ直されては、プレシアさんに惚れ直す事しかできまい。

それにしたっていきなりだし、遅れて喉の奥で叫びが爆発してしまいそうな痛みが走り、ぼくは歯を噛み締めながら我慢せねばならず、そしてぼくは痛いのはそこそこ嫌いなので、不満たらたらであるが。

やれやれだ。

ぼくが溜息をつきながらそう思うのと、なのちゃんの絶叫が響き渡るのは、殆ど同時であった。

 

 

 

 

 


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