Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜   作:フジ

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成長したなフジ。 幼い頃のお前は1話に5千字書くことしか出来なかった… 。でも今のお前は一話に1万以上の字数を宿している。それは経験という力を手に入れお前が強くなったからだ。だが忘れるな、本当の強さとは字数が多いことじゃない。 更新が速い事だ 今のお前ならもうその意味が分かるはずだ


という訳で最新話です……


45話 希望!少女の願い!

 

 

 

 

振り下ろされる戦斧。

 

アミィとミノタウロスの間に割って入るのが限界で術による防御までは間に合わない。

 

直撃すれば自身の小さな身体など簡単に粉砕するであろう一撃を見ながら、エドナはその状況をどこか他人事の様に冷静に眺めていた。

 

「エドナ様!」

 

エドナの耳に悲痛な叫びが届く。

 

ハイランドのお姫様。

 

まるで童話に出てくる不幸なお姫様の境遇を地で行くにも関わらず真っ直ぐで堅物で冗談の通じないどこか危なげな少女。

 

視界の端でこちらへと駆け出そうとする彼女の顔には危機に晒された自分に向けての悲痛な表情がありありと浮かんでいる。

 

「(あれだけ毒を吐いたのにそれでもそんな顔するなんて……お人好し過ぎてホント危なっかしい……)」

 

そもそも自分は何故こんな真似をしているのだろう。

 

遺跡で出会ったばかりの人間の小娘を庇う。

 

そりゃあ、人間が嫌いと言えども目の前で死なれたら気分の良いものではないだろう。誰かの死に胸を痛めたり助けられるものなら助けようと思うくらいの気持ちは持っている。

 

それでも庇えば絶対に助からないとわかりながら自分の身を差し出すほどの繋がりなど自分とアミィの間には存在しないはずだ。

 

お人好しのスレイならいざ知らず、少なくとも自分は間違ってもそんなキャラじゃない。

 

だと言うのに何故───

 

アミィへの同行を許可した責任感?

 

アミィが自分と同じ兄の無事を願う妹だから?

 

自身とアミィを重ねて同情したから?

 

それとも───

 

「(心のどこかで楽になりたいって思ってたのかしらね……)」

 

成体のドラゴンと化した天族を元に戻す方法は存在しない。

 

少しばかりこの世の知識に触れた天族にとってそれは常識であり絶対不変の真理だ。

 

わかっていた。

 

わかった上で、それでも僅かな希望に縋り付いてこの旅に加わった。

 

もしかしたら……

 

万が一にも……

 

頭の中にそんな並び立つのはいつだってそんな言葉ばかりだ。

 

『数千年の時を生きる天族達の中の誰一人も達成した事の無い宿命を覆せる手段が見つかる筈が無いのに……』

 

この旅に加わってからずっと、心の中でもう1人の冷静な自分がそう囁いていた。

 

僅かな希望に縋って、変えられない現実を突きつけられたら?

 

ドラゴンになった者を救う方法などありはしない。

 

いつまでもあの地に兄を封じたままでいられる保証も無い。

 

それを突きつけられ、兄への処遇の選択を迫られる日が来たら?

 

それはさながら絞首刑への階段を登らされてる様な気持ちだった。

 

いつもの調子を取り繕いながら心の中でその焦燥は日に日に大きくなっていた。

 

そして今日───

 

自分と同じ名前のあの花を見て、兄との思い出が鮮明に蘇って、焦燥を、苛立ちを隠せなくなった。

 

自分と重なる境遇の少女に柄にもなく過去を語ってしまった。

 

そして───

 

「(これで悩むことも無くなるのかしらね……)」

 

絶対的な絶望に苦悩し続ける事からも、あるかどうかもわからない希望に縋り続ける事からも解放される。

 

それは甘美な誘惑だった。

 

一度諦めてしまえば楽になれる。

 

あるかどうかもわからない希望に縋り付かずに全部手放してしまえば───

 

 

 

 

 

─── でもさ、エドナちゃんはそれでも諦められないからここにいるんだろ?───

 

 

─── 私も……私にもエドナ様の兄上を助ける手伝いをさせてください。私に何ができるのかわからないですけど……それでも!───

 

 

だと言うのに最後の瞬間、頭に響いたのは気に食わない得体の知れない男とお人好しで危なっかしい少女の言葉で───

 

 

ガキンッ!!

 

「──え?」

 

迫りくる戦斧の一撃。

 

しかし、それがエドナに届く事は無かった。

 

 

「グゥッ……」

 

零れる苦悶の声。だがそれはエドナのものでは無い。

 

それは彼女の前に立ち塞がった魔法使いのものだった。

 

「……ギリギリセーフってとこかな? グゥッ!?」

 

ランドスタイルへと姿を変え、地中を移動して猪型憑魔の包囲を突破したウィザードは振り下ろされた戦斧をウィザーソードガンで受け止める。

 

だが、体格差やパワーの差は歴然。

攻撃を受け止めきれず戦斧の刃はウィザードの肩口に食い込み。ウィザードは苦悶の声を溢しながら片膝を着く。

 

「グッ……こんにゃろ!」

 

ウィザードは咄嗟に左手を指輪のホルダーへと伸ばし、指輪を掴み取ると指にはめる事なくそのままベルトへとかざす。

 

【ビッグ!プリーズ!】

 

目の前に黄色い魔法陣が展開されると共にウィザードは身体を捻り戦斧を受け流しながら後ろ回し蹴りを魔法陣へと放つ。

 

『グォォ!?』

 

巨大化した足が叩き込まれミノタウロスは吹き飛び猪型の憑魔達を巻き込みながら遺跡の壁へと衝突する。

 

「いっつつ……大丈夫、二人とも?」

 

ウィザードは肩を押さえながら振り返りそう問いかける。

 

「あ、はい……でもハルトさんっ……」

 

呆然としていたアミィはウィザードの言葉にハッと意識を戻すが肩口を押さえるウィザードに表情を曇らせる。

 

「大丈夫ですかエドナ様!アミィ!」

 

「ハルトもエドナも無茶し過ぎだよ!」

 

そこへ仲間達が駆け寄ってくる。

 

「すいません……私……」

 

「気にすんなって、というか、なんで結界が……」

 

結界をすり抜けたアミィに疑問を抱くウィザードだが───

 

「……どうしてよ」

 

「え?」

 

エドナから溢れた声に晴人は思考を止める。

 

「どうしてそこまでして庇ったのよ? 一歩間違えたらアンタが───」

 

理解できない。そんな感情を浮かべたエドナに晴人が返した言葉はシンプルだった。

 

「言ったじゃん。最後にエドナちゃんが報われて笑える為に協力するって。あぁ勿論、アミィもな」

 

「え?」

 

晴人の言葉にエドナは思わず目を丸くする。

 

「お節介な魔法使いが身体を張る理由なんてそんなもんで十分さ。まぁこの程度で音を上げたりは───」

 

いつも通りキザな台詞を放とうとする晴人だが、次の瞬間……

 

「何カッコつけてんのよ」

 

ツンと肩口をエドナの傘で突かれた。

 

「痛ってぇ!?」

 

「ハルトォ!?」

 

数秒前にカッコつけてた姿は何処へやら。情けない叫びをあげる晴人。それを心配するようにアリーシャが駆け寄る。

 

そんな光景を見ながらエドナは大きなため息をついた。

 

「はぁ……男ってホント変な所でカッコつけるわよね……」

 

呆れた様にジト目で痛がるウィザードを見つめるエドナだが……

 

「エドナ様?」

 

「《辛苦、潰える、見紛うは常世!ハートレスサークル!》」

 

癒しの効果を持つ魔法陣が展開され優しい緑色の光がウィザードを包み込む。

 

「おぉ! サンキュー エドナちゃん」

 

肩を回し痛みが消えてる事を確認して晴人はエドナへと礼を言う。

 

「別に……ワタシのプライドの問題よ。あとエドナちゃん言うな」

 

プイと視線を逸らしてそう言い捨てるエドナに晴人は仮面の下で苦笑いしながらも吹き飛んだミノタウロスの方へと視線を向ける。

 

「それにしてもさっきの声は……それに……」

 

視線をアミィへと向け晴人は先ほどの言葉を思い出す。

 

───やめてみんな!……っお兄ちゃん!───

 

先程の言葉、そして猪型の憑魔達を一掃した時に響いた子供達の声。

 

「なぁアミィ、さっきの言葉……どういう───」

 

その意味を晴人はアミィへと問いかけようとするが───

 

『グォォォォォォ!!』

 

だが。吹き飛ばされたミノタウロスが瓦礫を吹き飛ばし立ち上がり咆哮を上げ、その会話を遮る。

 

「くっ……もう起き上がるか」

 

得物を構えアミィを守る様に一同は立ち塞がるが……

 

『ふん……ならば手を貸してやろう』

 

「えっ?」

 

響き渡る声。次の瞬間ミノタウロスを取り囲む様に神殿の地面が隆起し巨大な石の牢獄を作り出す。

 

『ヌゥゥゥゥゥ!!』

 

ズンッ!と叫びと共に石の牢獄が内部から攻撃されたのか大きく揺れる。

だが牢獄は破壊される事なくその姿を保っていた。

 

「ドラゴン!」

 

一同の前に黄色い幻影のウィザードラゴンが現れる。

 

「ひぅっ!?」

 

その姿にアミィは怯えてエドナの背へと隠れる。

 

「……大丈夫よ。取って食ったりはしない筈だから……それで?前回に続いて随分とタイミングを見計らった様に現れるのね」

 

アミィを気遣う様に語りかけながらもエドナはジト目で皮肉混じりにドラゴンへと問いかける。

 

『ふん……なに、ヘソを曲げた小娘の相手をするなど御免だからな。今なら少しは頭が冷えただろうと思って出てきたまでだ』

 

「……あ?」

 

それに対して皮肉で返すドラゴンにエドナの目が露骨に鋭くなる。

 

バチバチと火花を幻視するかの様に両者の視線がぶつかり合う。

 

「ひぅ!? ど、ドラゴン殿!?ここはどうか穏便に!?」

 

『……まぁいい、その娘の言葉が気になるのだろう?なら時間を稼いでやる、さっさと済ませろ』

 

そんな厄介ごとにビクつきながらも介入する真面目なアリーシャ。彼女の言葉にドラゴンはもう一度小さく鼻を鳴らすと睨み合いを止めて視線を岩の牢獄へと移す。

 

「助かるよ!ありがとうドラゴン!」

 

「なんやかんや毎回世話焼いてくれるよね。実はツンデレさん?」

 

『……早く済ませろと言ったぞ』

 

スレイとロゼからの好意的な反応にどこか困った様に歯切れの悪い反応を示すドラゴン。

 

それを見た晴人は苦笑しつつも表情を引き締めアミィへと優しく問いかける。

 

「なぁアミィ、さっきの言葉がどういう意味か教えて貰ってもいいかな?」

 

アミィはミノタウロスを「お兄ちゃん」「みんな」と呼んだ。そして先程のこの部屋に響き渡った子供達の悲痛な声。

 

アミィはおそらくその意味を知っている。

 

そう確信し問いかける晴人の言葉に、アミィはゆっくり言葉を紡ぎ始める。

 

「私、思い出したんです……」

 

「思い出した……?記憶の穴になっていた所が?」

 

「はい……さっきの泣き声を聞いた時、思い出したんです。どうして私がこの遺跡にいたのかを……でも、今はその事はいいんです!大切なのは、あの牛の怪物なんです!」

 

「ミノタウロスが?」

 

祈るように手を握りしめて必死に言葉を紡ぐアミィ。

 

そして……

 

 

「あの牛の怪物は……私のお兄ちゃんや友達たちなんです」

 

その言葉に一同は思わず息を呑んだ。

 

「え……どういう……? だってミノタウロスは一体だけだ。それがアミィのお兄さん達って」

 

スレイは思わず困惑の声を漏らす。

 

基本的に憑魔化は一体の生物を起点に発生する。一体の憑魔に対して複数人が起点になるなど……

 

そう考えたスレイはある可能性に思い至る。

 

「まさか……アミィのお兄さん達は……」

 

震えるスレイの言葉にアミィは小さく頷く。

 

「はい……お兄ちゃん達はもう……」

 

アミィは俯きながら絞り出すように震える声でなんとか言葉を絞り出す。

 

「ちょっ!?どういう事!?」

 

驚愕するロゼにスレイは淡々と感情を抑える様に努めながら返答する。

 

「おそらくはこの前戦ったファントムと同じだと思う。あの憑魔は野党に襲われて滅んだ村の人達の無念や恨みっていう同じ想いが一体化して生み出された憑魔だった」

 

「同じ想いを起点に穢れが……」

 

「でもそれならあのミノタウロスは……」

 

何を起点に?そう考えた晴人の脳裏に先程の光景が蘇る。

 

悲しみ、孤独、そんな感情が嫌というほど伝わる子供達の泣き声……

 

「そうか……あの声は……」

 

「うん、ミノタウロスの正体はこの地に捨てられて死んでいった子供達の無念だと思う」

 

「そのミノタウロスがこの神殿に引き寄せられ封じられていたというわけか……」

 

告げられた事実に言葉を詰まらせる一同、そこにアミィが声を発する。

 

「お願いします!お兄ちゃんを……みんなを安らかに眠らせてください!」

 

涙を浮かべ、強く懇願するアミィ。

 

その姿に晴人が力強く頷く。

 

「わかった、約束する。俺が最後の希望だ」

 

その言葉に同調する様に一同もまた頷き自身の持つ得物を握る手に力を込める。

 

『……伝える事はそれだけでいいんだな?』

 

そこにドラゴンからアミィへと声がかかる。

 

アミィはその言葉に一瞬驚いた様な表情を浮かべるが、すぐに小さく微笑みを浮かべた。

 

「はい……気を遣ってくれてありがとうございます。ええっと……ドラゴンさん?」

 

「ん?なんの話?」

 

何やら意味深な会話に一同は戸惑うがドラゴンは小さく息を吐くと視線を前へと向ける。

 

『どうもしない。それより奴を抑えるのもそろそろ限界だ。構えろ』

 

ドラゴンは面倒そうに会話を打ち切る。

 

「あぁ、いくぜドラゴン!」

 

『ふん、いいだろう』

 

ドラゴンの幻影が、かき消え黄色い輝きとなりウィザードのホルダーに着けられた指輪へと吸い込まれていく。

 

輝きを取り戻した黄色い指輪を左手に装着しウィザードはドライバーへとかざす。

 

 

【ランドドラゴン!ダンデンドンズドゴーン!ダンデンドゴーン!】

 

展開された黄色い魔法陣がウィザードを通過し巻き起こる砂埃と共に岩と砂で構築されたウィザードラゴンの幻影がウィザードの周囲を旋回しその咆哮と共に翼を大きく広げ掻き消えていく。

 

砂埃が止んだそこにはローブを黄色へと染め他のドラゴンスタイル同様にアーマーを肥大化させたウィザード、ランドドラゴンスタイルの姿があった。

 

「さぁ、アミィとの約束、果たさせて貰───」

 

「待ちなさい」 

 

「──うぜ、って何エドナちゃん?」

 

どっしりと重心を落とし拳法の構えを取り啖呵を切ろうとするウィザードだが突如エドナから声をかけられがくりと力が抜ける。

 

「……あれやるわよ」

 

どこか苦々しげで、それでも覚悟を決めた様にエドナが口を開く。

 

「あれ?」

 

「あれって何?」

 

スレイとロゼはエドナの言っている事の意味がわからず首を傾げる。

 

その言葉にエドナは一瞬苛立ちを見せるもヤケクソ気味に声を荒げる。

 

「あぁもうっ……!だから、この前のアシュラの時のあれよ!あのあんたら3人が連続で神依を切り替えてたやつ!」

 

その言葉にアリーシャは目を丸くする。

 

「えっ……ですがエドナ様、あれは……」

 

戸惑うアリーシャ。確かに前回のアシュラ戦での連携は強力だがアリーシャと融合するという事は人間から視認される様になるという事である。

 

人間嫌いのエドナが自らそれを提案した事にアリーシャは思わずその事を再度提言しようとするが───

 

「言われなくてもわかってるわよ」

 

その言葉をエドナは遮る。

 

「この娘の同行を認めたのはワタシよ。偉そうた大口叩いてね。この娘がこの場にいる以上、出し惜しみ無しでとっととケリをつける必要があるわ。自分の言葉の責任くらいちゃんと果たすわよ。それに───」

 

そう言いながらエドナはドラゴンが作り出した岩の檻へと視線を向ける。

 

『グォォォォォォ!!』

 

岩の檻を破壊し怒りの咆哮を上げるミノタウロス。それに対してエドナは一瞬、哀しげに見つめ。小さく言葉を溢す。

 

「最初に八つ当たりでワタシが逃したのがそもそもの原因よ。だから……早く眠らせてあげないと……」

 

後悔と覚悟を滲ませたその言葉に一同は無言で、応える様に武器を構える。

 

「アミィ、そこから動いちゃダメよ。すぐに終わらせるわ」

 

「っ! はいっ……!」

 

 

それに対してミノタウロスは再度咆哮を上げ猪型の憑魔を呼び出す。

 

「なら最初はあたしから!ハクディム=ユーバ(早咲きのエドナ)!」

 

迎え撃つべくロゼが神依を纏う。

 

猪型憑魔の群れが一斉にこちらへと殺到しそれに続く様にミノタウロスもこちらへと恐ろしい速度で駆け出す。

 

だが───

 

「悪いけど、もうその手は食わない」

 

【チョーイイネ!グラビティ!サイコー!】

 

『ヌォオォォォ!?』

 

ウィザードがドライバーへと指輪をかざすと共に憑魔たちの群れの頭上に黄色い魔法陣が展開される。

 

次の瞬間、憑魔達の足が床を離れその身体を浮き上がらせる。

 

戸惑いながら叫び声を上げジタバタと暴れる憑魔たちだがどれだけ身体を動かそうと浮き上がったその身体は虚しく空中でジタバタと空回りするのみ。

 

「凄い、あれだけの数を……」

 

その光景にアリーシャが思わず息を呑む。

 

「床に押しつぶしたんじゃ力で対抗されるかもしれないからな。術が使えるタイプじゃないなら逆に浮き上がらせちまえば無力化できる」

 

重量を操る魔法グラビティ。対象を押しつぶす事も持ち上げる事も自由自在なその力でウィザードは憑魔達を完全に無力化する。

 

「今がチャンスだ!いくぞロゼ!」

 

「りょーかい!」

 

その隙を逃さずロゼは詠唱を開始しウィザードは交換した指輪をドライバーへとかざす。

 

【チョーイイネ!スペシャル!サイコー!】

 

音声と共にウィザードの背後へ黄色い魔法陣が展開、現れたドラゴンの幻影と共に砂嵐が吹き荒れその魔力がウィザードの両手に収束し巨大な籠手を思わせるウィザードラゴンの爪『ドラゴヘルクロー』が装着される。

 

「フィナーレだ!」

 

「こいつでどうだ!「乱れる孤投」!」

 

ロゼは巨大な籠手を地面へと突き刺し地中から巨大な岩を持ち上げると憑魔の群れへと勢いよく放り投げ、ウィザードは両腕のドラゴヘルクローへと魔力を収束させ巨大な爪による斬撃、ドラゴンリッパーを放つ。

 

二つの攻撃は空中で固定された憑魔の群れを蹴散らしミノタウロスへと直撃する。

 

『ゴァァァオ!?』

 

グラビティによる拘束が解除され地面へと落下し始めるミノタウロス。だがミノタウロスへ向けて駆け出していたスレイがそれを逃さない。

 

「逃さない!ハクディム=ユーバ(早咲きのエドナ)

 

ロゼの神依の解除と共に素早く神依を纏い、霊応力を解放したスレイは疾走する勢いのまま跳躍し自らの振るう右の籠手へと飛び乗る。

 

空中に浮く籠手へと飛び乗りまるでサーフィンの様に宙を舞い一気に加速し落下するミノタウロスへと肉薄するスレイ。

 

「「我が腕は雌黄!輝くは瓦解の黄昏!」」

 

『ぐぉぉ!?』

 

サマーソルトを思わせる宙返りで落下するミノタウロスを再度空中にカチあげるとスレイは素早く跳躍し空中のミノタウロス真上へと躍り出る。

 

『ッ!?』

 

危機を感じたミノタウロスは手に持つ戦斧を盾の様に自身の前へと突き出す。

 

だがスレイは構わず左の籠手をミノタウロスへ向け振り抜く。

 

「「アーステッパー!」」

 

上空から叩きつけられた拳はミノタウロスの突き出した戦斧へと叩き込まれる。

 

ビギィッ!

 

戦斧に亀裂が走り砕け散る。

 

その勢いのままミノタウロスは恐ろしい勢いで地面へと叩きつけられる。

 

轟音を立てて地面へと着弾したミノタウロス。

 

 

『グゥゥ……』

 

だが、得物を犠牲にしてダメージを軽減したからか、ミノタウロスは苦痛の声を上げながらも未だ健在だった。

 

ミノタウロスはクレーターの様に抉れた地面からなんとかその身体を起こそうとする。

 

 

「あとは任せるよ!アリーシャ!エドナ!」

 

「トドメいくわよ」

 

「はい!エドナ様!」

 

 

だがそれが叶う事は無い。

 

声に反応し空中を見上げたミノタウロスの視線に槍を構え跳躍したアリーシャの姿が飛び込む。

 

スレイが神依を解除しエドナとアリーシャが融合する。

 

「すまない、せめて安らかに眠ってくれ」

 

「これで、おやすみなさい」

 

黄色く染まった騎士団服を靡かせミノタウロスへの手向けの言葉を口にした二人は得物である槍へと魔力を収束させる。

 

「浄化の扉開かれん!」

 

エドナの声と共に槍の刃を中心に黄色い魔法陣が展開しその形が変化する。

 

「必殺!」

 

ウィザードラゴンの爪を思わせる装飾がなされた巨大なハルバードへと変形した槍をアリーシャは両腕で握り勢いよく振りかぶると落下の勢いに任せてミノタウロスへと振り落とす。

 

「「龍虎滅牙斬!」」

 

巨大なハルバードによる一撃が容赦なくミノタウロスを両断しミノタウロスは脱力し静かに倒れ伏した。

 

「……終わった」

 

エドナとの融合が解除されたアリーシャは小さく息を吐く。

 

「皆さん!ご無事ですか!?」

 

「やれやれ見ててヒヤヒヤしたぜ……」

 

そこへ結界が解除されすぐさまライラ達が駆け寄ってくる。

 

その様子にスレイ達は小さく微笑むとその視線を倒れ伏したミノタウロスへと向けた。

 

「……これは」

 

そこにある光景に一同は思わず息を呑んだ。

 

「これが……子供たちの魂」

 

幾つもの光り輝く光球がまるで夜のホタルを思わせる様に薄暗い神殿の中を舞い、天へと昇っていく。

 

幻想的で、それでいてそれだけの子供たちがこの地に捨てられ哀しみの元にこの世を去ったという事実を突きつけられる。

 

美しくも残酷な光景に一同は胸を痛める。

 

「こんなに多くの魂が……」

 

「犠牲になっていくのはいつも弱い立場の奴らだ。それは昔から変わらない」

 

吐き捨てる様にそういうデゼルだが───

 

「変えますよ」

 

「……お前」

 

「変えてみせます。必ず」

 

小さく、しかし力強くアリーシャは天へと昇っていく魂を見送りながら自身に言い聞かせる様にそう言い切った。

 

「あぁそうだな。変えて行かなきゃいけない。絶対に」

 

そんな彼女を見て晴人はその言葉を肯定して薄く微笑む。

 

「まったく……あんたら二人はいつも真面目よね……」

 

そんな中、天へと昇る霊を見つめていたエドナはアミィの心境を案じ振り返り───

 

 

 

 

 

「アミィ、大丈───え?」

 

そこにある光景に呆然とした声を漏らした。

 

「エドナ様?どうかしたのです……なっ!?」

 

「アミィ……それ……」

 

その声に釣られ振り向いた一同も思わず困惑の声を漏らす。

 

そこには身体から淡い輝きを放ち足元がまるで何もなかったかのように透け始めたアミィの姿があった。

 

「アミィさん?これは一体……」

 

「ちょ!?一体どうなってんの!?」

 

「……なるほど、そういう事か」

 

驚く一同。だがデゼルはどこか合点が言ったかの様に冷静な言葉を発した。

 

「デゼル!どういう事!?」

 

その意味を問うロゼ。それに対してデゼルは落ち着いた様子で言葉を続ける。

 

「アミィから妙な感覚がすると言っただろ。その正体は掴めなかったが今ようやくわかった。その娘は……もう死んでいる」

 

「へ?は?どいういう事?だってアミィは……」

 

デゼルが発した言葉の意味がわからずなおの事混乱するロゼ。他の面々も皆同じ様子を見せる。そこにアミィが口を開いた。

 

「黙っていてすいません……あの時それを言ったら皆さんを困らせてしまうと思って……」

 

「アンタ……」

 

「私、思い出したんです。大人の人たちに連れてこられて……捨てられて……お腹が減って……道も分からなくて……何日も歩き続けて……」

 

その時の事を思い出したのか震える声でアミィは自身の過去を語る。

 

「何日かして……見つけたんです……お兄ちゃん達が倒れているのを……友達はもうみんな息をしてなくて……お兄ちゃんも声をかけても私の事がわからないくらい弱ってて……」

 

それはまさしく絶望的な状況だったのだろう。大切な家族が目の前で命を失いかけ、自分には何もできない。

 

その痛みはこの場にいる者たちもよく理解できる。

 

「お兄ちゃん……そのまま息をしなくなって……そして……」

 

「その子たちから憑魔が生まれたのですね」

 

「みんなの泣き声がしたんです……たすけて、寂しい……怖い……あの牛の怪物からお兄ちゃんや友達の声が聞こえて……私……何がなんだかわからないけど誰でもいいから助けを呼ばなくちゃって」

 

そのアミィの言葉に一同は思わず息を呑んだ。

 

絶望的な状況だった筈だ。自身は弱り友達や兄の死を見せつけられ訳もわからない状況でそれでもアミィは絶望に足を止めなかった。

 

それは、ものを知らない子供の純粋さ故の強さだったのかもしれない。

 

だが、それでも───

 

「助けを呼ぼうとして逃げ出して、でも自分の居場所も分からなくて……どんどん身体が重くなって……最後に覚えてるのは……この遺跡に辿り着いた事です……」

 

「それって……」

 

 

 

 

「そしてその娘はこの遺跡の近くで息を引き取った」

 

スレイが言い淀んだ言葉は突如背後から発せられた声に遮られた。

 

「パワント様……」

 

そこには出会った時の軽い調子は鳴りを潜め、重く落ち着いた声で語るパワントの姿があった。

 

「元よりこのアイフリードの狩場は人里離れた僻地。災厄の時代において口減らしの為にこの地に人を捨てる忌まわしい行いが一部の村で行われていた」

 

「……やはり、そういう事だったのですね」

 

一同が予想していた通りの残酷な真実、その事実にアリーシャは苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。

 

「そうか……!遺跡の中で見つけたボロボロの木馬も!」

 

「うむ、この神殿に引き寄せられ封じられたミノタウロスの持っていたものだ。子供達と共に捨てられたのだろうな」

 

そのパワントの言葉にスレイは訝しげな表情を浮かべる。

 

「え、でもあの木馬って……」

 

「かなりの年月が経過してるように見えたというんじゃろ。それはそうじゃ、10年以上の月日が過ぎているのじゃから」

 

その言葉に一度は驚きに目を見開く。

 

「あ……そうか、オレたちはアミィの話を聞いてアミィ達が捨てられたのは最近の事だと思ってたけど……」

 

「ずっと前の話だったという訳か」

 

その言葉にロゼが何かを思い出したのかハッとした表情をうかべる。

 

「思い出した!アミィが言ってた村!どこかで聞いた覚えがと思ってたけど何年も前にあの地域にあった村が災厄の影響で廃村になったって!」

 

現存している村以外を頭の中から除外していたロゼは自身の中にあった違和感の正体に気がつく。

 

「実際は10年以上前の話じゃ。その娘は弱りきった姿でこの遺跡に辿り着いた。ワシが見つけた時には既に手の施しようも無いほどじゃった。だが……」

 

言葉を切り、パワントはアミィへと視線を向ける。その意図が分かったのかアミィは小さく頷くと経緯を語り始めた。

 

「私、意識が消える時に願ったんです。みんなを……お兄ちゃんを助けて欲しい、もう一度会いたいって……」

 

その言葉にライラとザビーダが反応する。

 

「まさか、その願いで?」

 

「加護の力で自分の魂をこの地に留めたって言うのかよ」

 

その言葉にパワントが頷く。

 

「その通り。その娘の強く純粋な願いにワシの加護が与えられ、そして、その力でその娘の魂はこの地に留まり待ち続けた。願いを叶えてくれる存在の来訪を……」

 

「だが、20年前を境に新たな導師は現れていない。だからその娘の魂はこの遺跡の中でひたすら耐え忍ぶしかなかったという訳か」

 

デゼルの言葉にパワントは再度、重々しく頷いた。そんな時、アミィが再び口を開く。

 

「でも、待っていた意味はありました」

 

「あんた……」

 

「辛かったし、怖かったです。本当に助けが来るのかって不安で、死んだ時みたいにどんどん意識が薄くなって来て、色んな事も思い出せなくなっていて……そんな時、エドナさん達が来てくれたんです」

 

加護の力を持ってしても死者の魂を留める事は容易では無かったのか、晴人達が出会った時、アミィの記憶が朧げになっていたのは魂が限界が近づいていた証拠だろう。

 

それでも───

 

「ありがとうございます。お兄ちゃん達を助けてくれて……私の願いを叶えてくれて……」

 

理不尽で悲劇的な死を迎えた少女はそれでも笑った。

 

なんの陰りも無い純粋な笑顔で。

 

「あ、あれ……」

 

その時、アミィの瞳からぽろぽろと涙が溢れた。

 

「お、おかしいな……嬉しいはずなのにどうして……」

 

両手で拭っても涙は止まらない。

 

緊張が緩んだからか、それとも兄や友達が解放されたことによる喜びか、或いはそれを含めた様々な感情が混じり合い溢れ出したのか。

 

10年以上孤独に戦い続けた少女はその重荷から解放され涙を流した。

 

そんな少女にエドナ静かに歩み寄り……

 

「え、エドナさん……?」

 

エドナは少女を優しく抱きしめた。困惑するアミィだがエドナは子供をあやす様に抱きしめながら片手で頭を撫でる。

 

「いいのよ。アンタは頑張ったわ。だから今は泣いても良いの」

 

「っ!……ありがとうございます」

 

優しく、諭す様な声でそう言われたアミィは瞳を潤ませながら手を回しエドナへと抱きつく。

 

抱きしめられた胸の中でアミィは小さく、背負っていた想いを吐き出す様に泣き続けた。

 

だが……

 

「あっ……」

 

アミィの願いは叶えられた。それはつまり加護が力を失い魂がこの地へと留まる事ができなくなるという事だ。

 

アミィの身体が淡く輝き身体がさらに薄まっていく。

 

「もう時間みたいです……」

 

涙を拭いアミィはエドナの手を名残惜しそうに抜け出す。

 

「あっ……」

 

振り向き天を見上げるアミィ。そこで彼女はある事に気がつく。

 

天へと昇っていくつもの魂。その中に一つ留まる魂があった。

 

薄らと見える人のシルエット。アミィはその人物をよく知っていた。

 

「お兄ちゃん……!」

 

まるでこちらを待つかの様に空に浮く少年を見てアミィは喜びの声を上げる。

 

「行きなさい」

 

その背を押す様にエドナが声をかける。

 

「エドナさん……」

 

「……全部伝えて来なさい。文句も謝罪も感謝も……」

 

そう言ってエドナは微笑みを浮かべる。

 

優しく可憐な花の様な笑顔を。

 

その言葉にアミィは頷き、それからおずおずともう一度口を開いた。

 

「あの……」

 

「ん?どうしたのよ?」

 

「私、さっき休んだ時にエドナさんのお兄さんの事を勝手に聞いてしまって……」

 

「何よ今更、別に今更そんな事で怒らないわよ」

 

「いえ、それもあるんですけど……」

 

「何よ歯切れ悪いわね」

 

言い淀むアミィにエドナは訝しげな表情を浮かべるが、アミィは意を決して言葉を発した。

 

 

 

「あの!正直細かい事はよくわかんなかったんですけど……エドナさんは絶対お兄さんを助けられると思います!」

 

その言葉にエドナは思わず目を見開いた。

 

「ただ助けを待っているだけしかできなかった私をエドナさん達は見つけ出して助けてくれました。そんなエドナさん達ならきっと……だから───」

 

それは事情も知らない少女の無知で無責任な言葉だった。

 

エドナの苦悩も焦燥も何も知らない、なんの確証もなく吐き出された言葉。

 

だけれども───

 

「エドナさんも希望を捨てないでください!エドナさんがお兄さんと仲直り出来ることを私も祈ってますから!」

 

その言葉は確かにエドナの胸に温かく響いた。

 

「……ふん、当然よ。」

 

だから彼女はいつもの調子で言葉を返した。

 

いつもの様に強がって。

 

その言葉にアミィは嬉しそうに微笑み今度こそ兄の元へと向かおうとし───

 

「あ……」

 

「……今度は何よ」

 

またしても足を止めたアミィ。

 

エドナは何度も忘れ物して行ったり来たりする子供の様な行動にジト目で見つめる。

 

「あ、いやその……仲直りのプレゼント……結局取りに行けなかったなぁって」

 

その言葉に一同は少女がエドナの花を兄へのプレゼントにしたがっていた事を思い出す。

 

だが今更花を取りに行くことなど叶わない。

 

そこに晴人が思わぬ言葉を発した。

 

「なら俺に任せな」

 

「え?」

 

「10年間頑張り続けたアミィに魔法使いからのプレゼントだ」

 

そう言って晴人は取り出した指輪を装着しベルトへかざし───

 

 

 

 

 

 

【フラワー!プリーズ!】

 

 

「うわっ!」

 

「これは……!」

 

「こんなんもありなんだ……」

 

「綺麗……」

 

「素敵ですわ……!」

 

「へぇ、中々粋じゃねぇの」

 

一同は思わず感嘆の言葉を溢す。

 

そしてアミィもまた……

 

「うわぁ……!」

 

目を輝かせる少女の視線の先、そこにはエドナの花々が美しく宙を舞う美しく幻想的な光景が広がっていた。

 

舞い踊る花吹雪、その光景に息を飲むアミィに晴人が語りかける。

 

「こんな感じでどうでしょうかお嬢さん?」

 

戯けた様子でそう言った晴人にアミィは笑みを浮かべて返す。

 

「凄いです!こんな……私の願い……全部叶っちゃった……私……希望を捨てなくて良かった……」

 

満面の笑みを浮かべるアミィに晴人は微笑み返しながら手にした指輪へと視線を向ける。

 

「(ありがとな、シイナ)」

 

晴人は家族を想いこの指輪を作り上げた1人の少年へと心の中で感謝を告げる。

 

一方、アミィはもう一度、一同に頭を下げ感謝の言葉を口にした。

 

「皆さん……本当にありがとうございます!」

 

その言葉に一同は微笑みながらも少女が旅立つのを見送る。

 

 

「アミィ……」

 

「はい」

 

「手、もう離すんじゃないわよ」

 

エドナの言葉に笑顔で返したアミィは振り返るとその魂を兄の元へと向かわせる。

 

そして───

 

 

「お兄ちゃん!おかえり!」

 

二つの魂は寄り添い手を繋ぎながら天へと昇っていった。

 

 

 

─────────────────────

─────────────────────

 

数日後

 

 

 

「こんな感じでいいかな?」

 

「うん。上出来だと思う」

 

「あとはお供えものだね」

 

「食うなよ」

 

「食わんわ!流石にそこまで食い意地はってないっての!」

 

青空の下、一同は小さな名も無き廃村へ訪れていた。

 

彼らの視線の先にはいくつもの石造りの墓が鎮座している。

 

試練を終えた一同はパワントの協力の元、亡くなった子供たちを故郷にて眠らせてやりたいと遺品を可能な限り回収した。

 

パワントは快く、その申し出に協力してくれた。

 

パワント曰く、今回の試練は実力面に関しては最初から問題ないと感じていたとの事で、「天族と言うのは力をある水準で修めた時に身体の成長が止まる。つまりエドナちゃんはそれだけ早く力を制御できるようになった天才ということじゃ」と言っていた。

 

だからこそ無念の中で亡くなった子供達の魂にどれだけ寄り添えるか、生まれ持った才能に対して人を救う優しさを持ち合わせているのかを心の試練として見極めたかったとの事。

 

だからこそ晴人達の申し出を聞いた時、パワントは嬉しそうに笑いながら試練の合格を告げた。

 

「でも本当にここでいいのか?自分たちを捨てた村で弔うというのは……」

 

ミクリオはどこか複雑そうにそう問いかける。

 

「弔いなんて言うのは所詮は生きてる側の自己満足だ。正解不正解なんぞ俺達で決められるもんじゃない」

 

そんなミクリオにザビーダは淡々と返すが───

 

「いいのよ」

 

小さく、それでいてハッキリとした声でエドナはそう告げた。

 

「あの娘の暖かい日常は確かにここにあった。だからこれでいいの」

 

そう言ってエドナはアミィとその兄の墓に花を添える。

 

「エドナ様……」

 

憂いを帯びた表情を浮かべるエドナをアリーシャは心配そうに見つめる。

 

今回の試練でも結局、ドラゴンを元に戻す方法はわからなかった。

 

今回の試練でエドナの胸中を垣間見たアリーシャとしては彼女の心中を察してなんと声をかけたらいいのか躊躇われるものがあるのだが……

 

「ちょっと」

 

「ふぇ!? ひぇどにゃしゃま!?いひゃい!いひゃいです!?」

 

そんな彼女の考えが顔に出ていたのかエドナはジト目でアリーシャに近づくとその両頬を掴みグニグニと引っ張った。

 

「なに人の顔を見て辛気臭い顔してんのよ。言っとくけど、ワタシはあのエロオヤジからお兄ちゃんを助ける方法が聞けなかったからって凹んでなんかないわよ」

 

「ひぇ!?でしゅが!」

 

「凹んでないって言ったら凹んでないの。だからシケた顔をするのをやめなさい。それともなに?勝手に諦めムード出してるけどワタシの力になるって言ったのは嘘だったわけ?」

 

その言葉にアリーシャはハッとした表情を浮かべる。

 

「そんな事はありません!エドナ様の兄上のために力になれることがあるなら、私に出来ることがあるならなんでもする所存です!」

 

その言葉にエドナは楽しげに笑みを浮かべる。

 

「ならしゃんとして覚悟なさい。こうなったらアンタもチャラ男2号もお兄ちゃんを助ける為にとことん使い倒してやるんだから。今更吐いたツバは飲み込めないわよ?」

 

「っ!はい!任せてください!」

 

そう言って不敵に笑うエドナにアリーシャは力強く頷き返す。

 

そんな2人のやりとりを晴人、ザビーダ、ライラの3人は遠くから見つめていた。

 

「エドナちゃん、いつもの調子に戻ったな」

 

「ですが、エドナさんも心中ではまだ不安な筈ですわ」

 

「それでもいつもの調子で強がれるなら上等だろ。本当にヤバイのは強がる気力すら無くなった時だ」

 

「あぁ、それにエドナちゃんとアリーシャとも心なしか距離が縮まった感じだしな」

 

「えぇ!お二人とも以前より仲が良さそうに───」

 

そう言って晴人達は2人のやり取りを微笑ましそうに見つめるが───

 

「いい?言っておくけどワタシの力はあんなもんじゃないわ。力を貸す以上ちゃんと使いこなして力を引き出しなさいよ」

 

「は、はい!」

 

「この前の戦いで使った技なんてまだ序の口よ。ワタシの力を引き出せば更なる秘奥義が使えるわ」

 

「そ、その様なものが!それは一体どんな技なのでしょうか?」

 

「心して聞きなさい」

 

「はい!」

 

「その名も───」

 

「その名も?」

 

「震天裂空斬光旋風滅砕神罰割殺撃よ」

 

「……はい?」

 

「震天裂空斬光旋風滅砕神罰割殺撃よ」

 

「し、震天裂空斬光旋風めちゅ!?」

 

「何噛んでんのよ、そういうあざとい感じ求めてないんですけど?」

 

「は、はい!すいません!」

 

「ならもう一度、震天裂空斬光旋風滅砕神罰割殺撃」

 

「し、震天裂空斬光旋風滅砕神ばちゅ!?」

 

「やる気あるの?はいもう一回」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

「「……」」

 

「……なんか遊ばれてね?」

 

「距離、縮んだよな?……多分」

 

「え、えぇ……前より仲が良さそうですわ!……多分」

 

苦笑を浮かべる3人。

 

そんな3人の視線の先でエドナは一瞬だけ背後にある墓に視線を向ける。

 

 

 

───エドナさんも希望を捨てないでください!エドナさんがお兄さんと仲直り出来ることを私も祈ってますから!───

 

 

「ま、情けないところは見せられないわよね」

 

少女の言葉を胸にエドナは小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 




あとがき

今回の話の初期ぷろっと:「フラワーが使いたい」
やっぱ戦闘以外にも使えるっていいですよね魔法


以外セイバー感想
なりてぇ……
頭の中の文章を半日で出力出来る神山先生みてぇな普通じゃないホモサピエンスになりてぇ……


追記
鎧武ッッッ!新作おめでとう! ハァン-(^q^)-

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