Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜   作:フジ

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お ま た せ (仁さん並感)

仕事とプライベートの用事がベストマッチした結果どえらい時間がかかってしまいました。

今回で三章はラストとなります
では最新話をどうぞ


33話 青空 後篇

 

 

「ろ、ロゼ……?」

 

困惑するアリーシャ。その視線の先には椅子から立ち上がり両手をテーブルに叩きつけたロゼが目を見開いてリュネットに視線を向けている。

 

「それ……本当なの……?」

 

いつもの明るく饒舌な姿が嘘の様に震える声でロゼは言葉を絞り出す。

 

「は、はい……生き残りの親衛隊の証言でコナン皇子の遺体があった場所にはおびただしい量の血液の痕はありましたが肝心の遺体が何処にも見当たらなかったとの事です」

 

突然のロゼの反応に戸惑いながらもリュネットはそう答える。

 

「ロゼ? どうしたの?」

 

スレイは明らかにおかしい反応を見せたロゼに戸惑い問いかける。

 

「え、あ……」

 

その言葉にロゼは漸く自分の行動を自覚したのかハッとした表情を浮かべる。

 

「え、あー! そのアレだよ! 私の聞いたことのある噂話と全然違ってたからさ! 情報命の商人としてはちょっとショックだったっていうかビックリしちゃったっていうか……なんかゴメン! 話の腰折っちゃって!」

 

「は、はぁ……そうですか」

 

そう言って誤魔化すようにロゼは椅子に座る。そんな彼女に困惑しながらもリュネットは話を続けようとする。

 

「(ロゼ? どうかしたのだろうか……いつもと雰囲気が……)」

 

会話の場では賑やかしとしてよく口を開くもののいつもは気を遣って会話している彼女が珍しく見せた動揺。思えばいつもは会話をフォローする事の多い彼女が途中からヤケに静かだった事を思い出しアリーシャは違和感を覚えるが今はリュネットの話を聞こうと意識を切り替える。

 

「その他にも五年前の事件は抹消された記録や改竄された痕跡もあり不明な点が多く。一部では王妃一派がそれに関わっているとも言われています」

 

「つまり、王妃一派がレオン皇子の死に関与していると? ですが、王妃が後継となる事を望まれていたコナン皇子もその際に亡くなっていらっしゃるのですよね? それは王妃様にとっても望ましく無いはずでは?」

 

「はい。ですが、当時の事件の捜査は現在王妃との関係が深いトロワ将軍の指揮する軍部によって行われています。王妃一派が何かを隠蔽しようとしている可能性は低くは無いと……」

 

「レオン皇子の側近は全滅。真相を知る奴がいるとすればそれは当時コナン皇子の親衛隊を勤めている生き残りの奴だろうけど……」

 

そんな晴人の呟きに天族組が反応する。

 

「王妃一派がその人達に近付けさせてくれる事は無いよね」

 

「ま、素直に証言なんてしてくれる訳無いでしょうね」

 

「何かを隠してるって事はそれなりの理由があるって事だからな」

 

その言葉を聞いたスレイは腕を組み考え込みながら小さく唸る。

 

「うーん……となると話を聞けそうなのは……風の骨の人達って事になるよな? 今度会えたら聞いてみようか?」

 

その言葉に晴人とローランス組の面々は目を丸くする。

 

「……はい? スレイ、今なんて言った?」

 

まるで知り合いの様に話すスレイの言葉に晴人は一瞬固まるも再度聞き直す。

 

「ん? だから、当時の話を聞けそうなのは『風の骨』の人達だなって」

 

だが、スレイの言葉は聞き間違いではなく変わらない。

 

「いや、その風の骨ってのは一応は暗殺ギルドなんて物騒な肩書きなんだろ? 会えるかわからないし会えた所でそんなフレンドリーに答えくれるのか?」

 

尤もらしい質問をぶつける晴人だが……

 

「うーん……確かに会い方はわからないけどそこまで話がわからない人達って感じでも無かったと思うんだよなぁ。だよねアリーシャ?」

 

「まぁ……確かに」

 

スレイの問いかけにアリーシャ考え込みながらも頷く。

 

「え……ちょい待ち。もしかして会った事あるのか? その風の骨ってのに?」

 

その言葉をアリーシャは肯定する。

 

「あぁ、仮面をしていて顔はわからなかったが私は一度、スレイも何度か風の骨に出会っている……」

 

「は? まさかアリーシャも風の骨に襲われたのか?」

 

その言葉にアリーシャは何とも言えない表情を見せる。

 

 

 

 

「いや、それなんだが……寧ろ助けられた」

 

「……はい?」

 

晴人の口から間抜けな声が漏れる。

 

「君と出会う前、私は当時導師として目覚めたスレイと共にバルトロに王宮に呼び出された。バルトロはスレイを懐柔しその力や導師の名声を利用する為にハイランドで飼い殺しにするつもりだったのだろうが……」

 

「その交渉をオレは断ってさ。それでバルトロが断られた時の為に用意していた兵士達と戦いになったんだけどその時に現れて城を脱出するのを手助けしてくれたんだ」

 

「けどなんで態々そいつらがスレイ達を助けに?」

 

「目的は別にあったみたい。どうやら、風の骨の人達の仲間が独断でバルトロ達からアリーシャの暗殺の仕事を受けていたみたいなんだ。風の骨の人達はその独断で仕事を受けた奴を追っているらしい」

 

「勝手に仕事を受けた奴? って事は組織内で仲間割れしているって事か?」

 

「あぁ、スレイ達が故郷を離れレディレイクを尋ねて来てくれたのもその人物が私の命を狙っている事を報せようとしての事だったんだ」

 

アリーシャの説明をスレイが引き継ぐ。

 

「そいつはオレの故郷のイズチに現れて仲間……マイセンを殺したんだ……憑魔の力を持ってて身体能力も人間離れしていた」

 

スレイは表情を険しくし拳をギリギリと握りしめる。

 

彼にとって故郷で自分を育ててくれた天族達は皆家族の様な存在だ。その命が奪われたことに憤りを感じるのは当然とも言える。

 

「イズチを離れた後、レディレイクの路地裏でもミクリオと一緒にそいつと一度戦ったんだけどその時に『風の骨』の人達が現れて、それを見たらアイツは逃げ出した。少なくとも城で助けてくれた方の人達はアイツと手を切る様にバルトロ達を脅しはしたけどアリーシャの言葉を聞いてバルトロ達を傷つけたりはしなかったし交渉の余地はある人達だったと思う……その後はまったく会ってなくて今どうなっているのかまではわからないけど……」

 

「ならアリーシャを殺そうとしていたって奴の方は? 憑魔の力を使うってどんな奴なんだ?」

 

「私は直接会った事は無いんだ……スレイ達が何度か戦ったとは聞いているが……」

 

「名前はルナールって呼ばれてた。風の骨の中でアイツだけは仮面をしていなかったけど大柄で長い金髪に狐みたいなツリ目をしていて青い炎を使って攻撃してくる____」

 

その言葉に晴人、アリーシャ、ザビーダが反応した。

 

「待て、それって……」

 

「あぁ! あの時の男だ」

 

「白皇騎士団を襲った狐野郎か……」

 

ペンドラゴに到着した際に戦った憑魔を引き連れた謎の男と一致する情報に応戦した3人は声をあげる。

 

「あいつと戦ったのか!?」

 

三人の言葉にスレイが反応する。

 

「あぁ、初めてペンドラゴを訪れた時にな。そのルナールって奴は騎士団塔に残っていた白皇騎士団を襲っていたんだ」

 

そう返答する晴人の言葉をセルゲイが引き継ぐ。

 

「アリーシャ姫達のお陰で死者こそ出なかったが全員かなりの傷を負っていた……皆実力は確かなのだが……ルナールという男はそれほどの手練れなのだな……」

 

部下を傷つけられた事に対して責任を感じているのかセルゲイは苦々しげな表情を浮かべる。

 

「なぁ、フォートン。アンタは何か知らないか? あの時、俺たちが戦うのを見ていたんだよな?」

 

初めてリュネットと出会った際、彼女が自分達とルナールとの戦いを見ていたと言っていた事を思い出した晴人はそう問いかける。

 

だが、フォートンは首を横に振った。

 

「確かにあの時の私はあなた方を監視しその実力を測ろうとしていたましたがあの男は私の手の者ではありません。此方でも正体を探る為に追っ手を差し向けましたが逃げられてしまい何者なのか、誰の差し金で白皇騎士団を襲ったのかまでは知りませんでした……」

 

ルナールとの繋がりをリュネットは否定する。それに対してマルクスが口を開いた。

 

「その男は憑魔を引き連れていたのだろう? 貴女の差し金では無いのか?」

 

それは当然と言えば当然の疑念だろう。何せ今の今まで憑魔の力を振るい騎士団と対立しながら国の中枢で暗躍していたリュネットの発言なのだ。同じく憑魔の力を振るうルナールとの繋がりを疑われるのも仕方は無い。

 

リュネット自身もそのその意図は理解できるのか強く反論する事なく表情を曇らせるが……

 

「マルクス殿、その可能性はあまり考えられないかと。あの時のフォートン殿は私やハルトに対してローランスへの協力を提案していました。しかしルナールという男は私を見て明らかな殺意を向けて来ています。それはフォートン殿の意思とあまりにも食い違っています」

 

「同感だな。それにルナールって奴はあの時アリーシャを見て意外そうな反応をしていた。って事は少なくとも奴にとって俺達があの場に現れたのは予想外だったって事だ。俺達がペンドラゴに侵入していた事を掴んでいたフォートンが送り込んだ刺客には正直思えないね」

 

「む……それなりに筋は通っている……か」

 

アリーシャと晴人はマルクスの言葉に対して敢えて感情論では無く自分達が見てきた事実から根拠を述べフォートンを擁護する。

 

その言葉を受けてマルクスは表情を険しくしたまま疑いの目をリュネットへと向けながらも追求を取り止めた。

 

「ですが、だとすれば何故、そのルナールという方はこのペンドラゴに?」

 

疑問を感じ首を傾げるライト。

 

「白皇騎士団を襲ったという事はハイランド側からの刺客という事でしょうか?」

 

「どうだろうな……バルトロ達は一度ルナールを追っている方の風の骨の連中にルナールと手を切る様に釘を刺されてるんだろ? 」

 

「あぁ、風の骨に一度城の中枢まで潜り込まれその気になれば殺せる状態から見逃された事を考えればバルトロ大臣も安易にルナールと接触はしないと思う」

 

晴人とアリーシャはバルトロ達がルナールを送り込んだという予想とはあまり考えていない。

 

確かに白皇騎士団はローランス軍の中でも精鋭部隊ではあるのだろうが風の骨の警告を破り報復に襲われるリスクを負うにしてはターゲットが親衛隊と言うのはバルトロに対してのリターンがあまりにも少なすぎる。バルトロは権力欲のある人間ではあるがそう言ったリスクとリターンの計算はできる人間だと2人はバルトロを評価していた。

 

そんな2人の会話を聞いたスレイが口を開く。

 

「という事はルナールは依頼主を変えたって事かな?」

 

「可能性は高いと思いますわ。あの大臣さんがルナールという男を刺客として使うなら殺害を依頼したアリーシャさんから目を離させるとは考え辛いと思いますし」

 

その言葉にリュネットが反応する。

 

「可能性としては依頼主はローランス側の人間という事も十分に考えられます。妃殿下率いる戦争支持派にとって対立している教会側や白皇騎士団は決して快くは思っていないでしょうから……」

 

「ハイランドとローランス、どちらも疑い始めたらキリがない……か」

 

表情を曇らせるアリーシャ。そんな中ザビーダが口を開く。

 

「或いはどっちでもないのかもな」

 

その言葉に全員が反応する。

 

「ザビーダさん、どっちでもないというのは?」

 

「いるだろ? どっちの国が痛手を負って混乱しても得をする奴が」

 

その言葉にアリーシャがハッと目を見開く。

 

「そうか……ハイランドでもローランスでもルナールに狙われたのは戦争支持派に反対する立場の人間だ……」

 

バルトロに反対するアリーシャ、ライトを支持する白皇騎士団。そのどちらも両国の戦争支持派に対する立場の者達だ。

 

「つまり、ルナールは風の骨という立場を隠れ蓑に活動し両国の戦争を煽っている……?」

 

「でもなんでそんな……ッ! まさか!」

 

何かに気がついた様にスレイはゆっくりと口を開く。

 

「災禍の顕主……アイツが糸を引いているって事なのか?」

 

その言葉にザビーダが小さく頷く。

 

「アリーシャは覚えてるか? ルナールと戦った時にいた憑魔達の事」

 

「そう言えば妙でしたね……あの憑魔達は浄化したと思えば忽然と消えて……ッ!!」

 

本来は憑魔達は浄化すれば変化する前の生物や物がその場に残る。だがルナールの取り巻きであった憑魔達は攻撃を受けたと思えば跡形も無く消えていた。

 

その事を思い出した晴人が口を開く。

 

「そう言えば似た様な話を聞いたよな。グレイブガンド盆地での戦いの時、両軍を攻撃した消えた謎の部隊ってやつ」

 

グレイブガンド盆地での開戦が早まった切っ掛けである両軍に奇襲をかけ忽然と消えた謎の部隊。後に確認を取っても両国ともそんな部隊の存在は知らないと証言し晴人達が災禍の顕主による戦争への介入を疑う原因となった話でもある。

 

「それだ。憑魔ってのは穢れの影響で様々な物が変化した存在だ。アンデット系の憑魔だろうが浄化すりゃあ死体なり骨なり残るんだよ。ましてやあの時戦った憑魔は本来人や物から変化するタイプだ。浄化したからって何も残らないなんざありえねぇ」

 

「つまり、あの時のルナールの取り巻きは憑魔じゃなかったってことか? けどそれなら一体なんだって言うんだ?」

 

そう問いかける晴人にザビーダは何かを思い出す様に眉間に皺を寄せながらゆっくりと口を開く。

 

「可能性があるとすれば……『幻術』だ」

 

その言葉にアリーシャ達は首を傾げる。

 

「『幻術』? 幻を見せられたって事か?」

 

「あぁ……昔そういう術を使う厄介なジジイとやりあった事がある」

 

苦虫を噛み潰した様な表情でそう告げるザビーダ。恐らくは相当嫌な相手なのか珍しく嫌悪感を隠そうともしていない。

 

「幻……あれが……? 」

 

ザビーダの言葉を聞いたアリーシャはどこか腑に落ちないのか困惑した表情を浮かべる。それを見てザビーダは言葉を続ける。

 

「言いたい事は分かるぜアリーシャ。幻にしては攻撃した時の感触に実感がありすぎたって言いたいんだろ?」

 

「はい……ザビーダ様の言葉を疑う訳では無いのですが……」

 

「いや……実際、幻術ってのは本来なら実体は無ぇんだ。囮にして隙を作ったり、相手の知り合いの姿で動揺を誘ったり、或いは幻の中で相手の心を傷つけて精神そのものを破壊するってのが俺の知ってる幻術使いだ。それに比べると確かにあの時の憑魔には違和感があるのは確かだな」

 

「うぅ……えぇっと……つまり……実体のある幻……って事……?」

 

ザビーダの言葉を聞いたスレイは困惑しながらも提示された情報から結論を出す。『実体のある幻ってそれ幻なの?』とスレイ本人も自分の結論のツッコミ所の多さに困惑している様だが……

 

「『実体のある幻』って何よその『黒い白鳥』みたいなツッコミ所満載の結論は」

 

案の定エドナからツッコミが飛ぶ。

 

「いや、黒い白鳥は存在するぞ。コクチョウと呼ばれ発見されたのは____」

 

「いや、今は動物豆知識は重要じゃないから。ただの例えだから」

 

「む……そうか……」

 

一方で動物解説スイッチが入るデゼルだがロゼがすぐにストップをかける。それを受け心なしか残念そうなトーンでデゼルは言葉を止めた。

 

「ま、細かい所までは俺にもわからねぇ。あくまで幻術に似た様な能力を持っている奴が暗躍している可能性があるって話さ」

 

そう言ってザビーダはこれ以上はお手上げという様に肩をすくめる。

 

「えぇ……っと、すいません。話が見えてこないのですが……」

 

そんな彼らの会話を見て天族の会話は聞こえないライト達は内容が伝わってこず困惑し声をかける。

 

「あ! 申し訳ありません陛下! 実は____ 」

 

アリーシャは慌ててザビーダが告げた言葉をライト達に説明していく。

 

「実体を持つ幻……ですか」

 

詳細を聴かされたライトは先ほどのスレイと同様困惑した表情を浮かべる。

 

「それが事実であるのなら厄介だな。両国の関係修復どころか自国内ですら疑心暗鬼で身動きが取れなくなるぞ」

 

一方でマルクスは幻術の存在から予測される危険性に顔を顰めた。

 

「つまり災禍の顕主には少なくとも幻術の使い手とルナールという男が協力している可能性があると?」

 

「あれだけ穢れをばら撒く存在が暗躍しようと思えばそれしか手は無いかと……」

 

「というか、何で奴はそんな回りくどい真似をしているんだろうな?」

 

ふと疑問を口にした晴人に全員の視線が集まる。

 

「ハルト? それはどういう意味なんだ?」

 

「いやさ、奴の目的まではわからないけど。ローランスとハイランドの対立を煽って穢れを生み出す事で人々を憑魔にするのが目的ってのが今の所の予想だろ?」

 

「えぇ、そうですが……」

 

「なら奴が直接レディレイクやこのペンドラゴに来ればいいだけの話なんじゃないか? 奴の穢れの領域なら街に居座るだけでも甚大な被害が出るだろ」

 

「む、確かにそうだな……」

 

「例え街に加護天族による領域があったとしても天族への信仰が失われてる現状では災禍の顕主の穢れの領域に打ち勝つのは難しいと思いますわ」

 

「あの広大なグレイブガント盆地全域に影響が出るほどの力だったよね。それを考えたら確かにハルトの言う通り奴がルナールや幻術使いを暗躍させて両軍がぶつかる所を狙う必要は感じられないよな」

 

以前グレイブガント盆地にて災禍の顕主と相対した際のその強い穢れの領域が周囲にどれだけの影響を及ぼしたのか思い返しスレイは表情を険しくする。

 

「そう考えれば確かに災禍の顕主に腑に落ちない点があるな」

 

「つまり奴には何か別の目的があると? 」

 

「もしくは街に近づけない理由があるのか、それともその両方か……」

 

敵の目的を推理する一同。そこにマルクスから声がかかる。

 

「そもそもその災禍の顕主というのは何者なのだ? 憑魔というのは穢れによって様々な物が変化してしまったものなのだろう? ならば災禍の顕主とやらも元は人間なのか?」

 

「災禍の顕主とはあくまで古来より人の世に現れ人々に害を成した穢れに飲まれた者達の総称ですから……世に仇なした理由も当然個々によって異なりますし今代の災禍の顕主の正体まではわかりかねますわ」

 

マルクスの疑問に受け答えるライラ。そこにライトから声がかかる。

 

「みなさんは実際に戦場で災禍の顕主と相対したのですよね? 何か正体に繋がるようなものは無かったのですか?」

 

その言葉に一同は考え込む。

 

「うーん……憑魔としての姿は頭が獅子の大男って感じだけど……」

 

「これと言って人だった頃の正体に繋がる様な発言は無かったよね」

 

「そうだな。敢えて言えば『ヘルダルフ』って名乗ってたくらいだが……」

 

その言葉にライト達をはじめとするローランス側の者達は______

 

 

 

 

 

「ヘルダルフ……ですか? 聞いた事の無い名前ですね。マルクス達は聞き覚えはありますか?」

 

「いえ、私も聞き覚えの無い名です。マシドラ教皇、貴方は?」

 

「いや、私も知らぬ名だ」

 

首を横に降るマシドラ。それに賛同する様にリュネットとセルゲイもヘルダルフという名は知らないのか首を横に振る。

 

「ローランスに長く勤めていたマルクス殿やマシドラ様が知らないというのであればローランスに関わる人物や名の知れた人物では無いということでしょうか?」

 

「或いはこっちの混乱を狙った偽名かもな。向こうだって簡単に尻尾は掴ませてはくれないだろうよ」

 

「結局、ヘルダルフに関しては進展無しか。となればやっぱり今後も地道に調べていくしかないかな。正体がわかれば奴の狙いもハッキリするかもしれないし」

 

「ま、結論としてはわからない事だらけだけど色々込みで協力していくしかないって事だよな」

 

「ハルト……そのまとめ方は少し大雑把過ぎると思うんだが……」

 

軽い調子でまとめた晴人に対して少し呆れた様子のアリーシャ。その光景を見てライトは苦笑しながらも声をかける。

 

「ふふ、でもハルト殿の言う通りかもしれませんよ? 答えの出ない状況で考え過ぎるのも良くないですからね。彼の言う通りここからはお互いに協力しつつ両国の平和の為に尽力していくのみです」

 

「そうそうそれそれ。確かに謎は増えたけど協力者だって増えたんだ。前向きに行こうぜ」

 

「同感です。では、今後の為にもう少し細かい話を____」

 

そう言いライトが話を続けようとしたその時_____

 

「陛下、お待ちください」

 

リュネットがライトの言葉を止めた。

 

「えぇっと……フォートン枢機卿。どうかしたのでしょうか?」

 

「陛下とアリーシャ姫の話し合いの大筋はまとまりました。とすればこの場に私はもう必要ありません。先程マルクス殿が言った通り私の処分をお決めになってください。罪人である私は本来ならこの場に相応しくは無いのですから」

 

「その通りです。陛下、私への処分も……」

 

話がひと段落したと判断したリュネットは先程ライトが保留とした自身への処罰の話を切り出しそれに続く様にマシドラも口を開いた。

 

双方とも自身の犯した罪を理解しているからこそこれ以上この場に自分たちが留まる事を良しとはできなかったのだろう。

 

そんな2人の発言を見てスレイは表情を曇らせる。

 

「あの……ライト陛下……この2人は____」

 

そう言葉を発しようとしたスレイを止める様にライラがスレイの肩に手を添え口を開く。

 

「スレイさん、お気持ちはわかりますが。こればかりは私達が口を出せる問題ではありませんわ」

 

「ッ!……そう……だよな……」

 

スレイとて2人の犯した罪は理解している。それでもいざ2人が裁かれる瞬間を目前にすると人の世というものに馴染みが薄いスレイはやはりどうしても感情が先走ってしまうのだろう。

 

そんな彼の気持ちを汲みつつもライラはこれ以上自分たちがどうこうしていい問題では無いとスレイを止めた。

穢れやゴドジンの事に関しては既に説明を終え2人の擁護となる材料はライトとて正しく把握している。となれば後は関係者であるライトに委ねるべきだと……

 

そしてライトが口を開く。

 

「わかりました……では、ここでお二人に処分を言い渡します。まずはマシドラ教皇ですが……」

 

ライトは視線をマシドラへと向け言葉を続ける。

 

「先代の時代から貴方がローランスへ多大な貢献をしている事は僕自身理解しています。ですがこれまでの功績やゴドジンの置かれた状況を加味しても実際に詐欺による被害が発生してしまっている以上、その偽エリクシール製造の扇動をした責任は取らねばなりません」

 

先ほどまでの柔らかな態度とは打って変わりライトはマシドラを見据えハッキリとした口調でそう告げた。

 

「承知しています。全ての罪は私が負うつもりです」

 

マシドラは視線をそらす事なくライトに返答する。

 

「マシドラ教皇。偽エリクシール……赤聖水の精製方法について記された資料は持っていますか?」

 

「えぇ、こちらです」

 

ライトの問いかけにそう言いマシドラは一冊の書物を取り出しライトへと渡す。

 

「教会の公式の記録によると。千年以上前に当時の大司祭により資金集めの為に悪用されその危険な精製方法の事もありその手段は全て破棄されたとされていました。ですが、教会の最高指導者のみが閲覧を許される資料の置かれた部屋にて隠されていたその書物を私は偶然見つけてしまったのです」

 

自身を嫌悪する様に険しい表情でマシドラは言葉を続ける。

 

「ペンドラゴから逃げた日。私はその書物だけは悪用されてはならないと思い持ち去りました。元々公式の記録には存在しない書物です。紛失した所で気付く者はいないと……」

 

「ご自身と共に葬るつもりだったのですね……」

 

以前のマシドラが死に場所を求めペンドラゴを去った事を知っているライラは悲しげに問いかける。だがマシドラは自嘲する様に笑う。

 

「だが私は結局この書物に記された事を悪用してしまった……皮肉にも嘗ての大司祭がした事と同じ様に……」

 

後悔を滲ませるマシドラ。そんな彼を見たライトはライラへと歩み寄るとマシドラから渡された書物を彼女へと差し出す。

 

「あの……ライト陛下? これは?」

 

ライラはその意図をライトへと問う。

 

「破棄された筈の赤聖水の製法が残され嘗てと同じく罪が繰り返された。それは人の持つ心の弱さなのかもしれません。だからこそ今度こそそれを断ちたいと僕は思います。ライラ様、お願いしてもよろしいですか?」

 

その言葉にライトの意図を察したライラは微笑むとライトから書物を受け取る。

 

「わかりました。おまかせください」

 

書物を受け取ったライラは取り出した紙葉を書物に貼り付けると小さな声で詠唱を開始する。そして詠唱が終わると共に紙葉は小さな音を立て燃え上がると赤聖水について記された書物は跡形も無く燃え尽きた。

 

「ありがとうございます。ライラ様」

 

書物が燃え尽きるのを見届けたライトはライラへと感謝を告げるとマシドラへと向きなおる。

 

「貴方は偽エリクシール製造の主犯としてこれから牢獄での生活を余儀なくされます。ゴドジンの状況を考慮した情状酌量の余地を含めてもすぐに釈放という訳には行かないでしょう」

 

淡々とライトはマシドラへの処罰を告げていく。

 

「……はい。陛下……ゴドジンの者たちは……」

 

「暫くは村に兵を派遣し再犯の防止として監視する事になると思います。貴方が全ての責を負うとは言え偽エリクシールの製造に村が関与していた事には変わりありません。そうでもしなければ周りの者たちは納得しないですから」

 

そう言いながらも「ですが……」とライトは言葉を続ける。

 

「再犯を防ぐには力で抑えつけるのでは無く環境の改善こそが最良だというのが僕の考えです」

 

その言葉にマシドラは目を見開く。

 

「で、では!」

 

優しい笑みを浮かべライトは答える。

 

「はい、貴方の願い通りゴドジンへの支援は行うつもりです。罪を償い終えた先で貴方が大切な家族達と再会できる事を僕も願っています。これまで長い間、ローランス皇家を支えてくれた事をローランス現皇帝として亡き先代の分も貴方に感謝します」

 

その言葉にマシドラの瞳に涙が浮かぶ。

 

「ッ!……感謝します……陛下」

 

絞りだすような震えた声で感謝の言葉を告げマシドラはライトへ頭を下げた。そんなマシドラの言葉を受け取りつつもライトはリュネットの方へ視線を向ける。

 

 

「では、次はフォートン枢機卿への処罰ですが……」

 

「はい、覚悟はできています……」

 

リュネットは自身の手を強く握りこれから下される罰に構える様に力を込める。

 

そしてライトから下された言葉は……

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女には引き続き僕の下で教会の指揮を執って頂こうと思っています」

 

 

「………………………え?」

 

リュネットの手から力が抜け口から小さく言葉が零れ落ちる。

 

流石にこの回答は予想外だったのかマルクスや晴人達も目を丸くした。

 

「ま、待ってください陛下! 流石にそれは!」

 

硬直が解けたマルクスがいち早くライトへと意見する。

 

「え? 何かダメでしたか?」

 

どうしたのかと首を傾げるライト。それに対してマルクスに続く様にリュネットが口を開いた。

 

「マルクス殿の言う通りです陛下! 私は憑魔の力を使い長雨で国民を苦しめ、教会の者達を手駒の憑魔とし騎士団の者達も石に変え、多くの罪を重ねました! それを無罪にするなど……!」

 

語気を荒げるリュネット。だがライトは相変わらずの様子で言葉を続ける。

 

「え? いえ、無罪にするという訳では無いですよ? 僕が言っているのは処罰の話です」

 

「それは……どういう?」

 

ライトの言葉に戸惑うリュネット。

 

「確かに貴女は自身の権威を高める為に長雨により国民を苦しめ、貴女を怪しんで調査をした騎士達を命の危険に晒しました。如何なる理由が在れどその事実は変わりません。ですが……」

 

言葉を区切りライトは一度息を整える様に小さく深呼吸をする。そして____

 

「その手段で権威を高めた貴女に僕が守られていたのもまた事実です。皇帝として至らない僕の弱さが貴女に手段を選ばない道を歩ませてしまった。貴女の罪は本来貴方の上に立つべき皇帝である僕の罪でもあります」

 

ハッキリとそう告げたライトにリュネットは驚愕する。

 

「な、何を仰るのです陛下!? 違います! 私は自身の望みの為に陛下の権威を利用しようと____ 」

 

「それでも____」

 

決して大きい声では無かった。

だがライトの言葉は確かな力を持ってリュネットの言葉を遮る。

 

「貴方が憑魔の力で僕の命を狙う者達から守ってくれていた事には変わりありません」

 

その言葉にスレイ達が反応する。

 

「え!? 命を狙われてたって……」

 

驚きの反応を見せるスレイに対してアリーシャは何かを察した様子を見せる。

 

「まさか……戦争支持派の者達ですか?」

 

自身も似た経験を持つ事から事情を察しそう問いかけるアリーシャにライトは頷く。

 

「おかしいとは感じていたんです。ローランス内においても戦争支持派というのは決して少なくありません。そして本来、王位継承から遠い立場にあった側室の子供である僕が王位を継いだ事を望んでいない者達もまた……」

 

一瞬、悲しげに沈んだ表情を浮かべるもライトはすぐに表情を元に戻し言葉を続ける。

 

「先程も言いましたがローランスも一枚岩ではありません。戦争の反対を訴え始めた時、当然そう言った僕の存在を疎む者達から命を狙われる可能性は理解していました。ですが、実際はその様な事は全く起きなかった……いえ、本当は僕の知らない所で起きていたのですよね?」

 

そう言ってライトはセルゲイに視線を向ける。その意図を察したのかセルゲイは口を開く。

 

「フォートン枢機卿が石化した者達の中には我々白皇騎士団以外の者達もいました。石化が解除され混乱していたのか、中には陛下に危害を加えようとしていたと思わしき不審な者達もおり現在拘束し尋問を行なっている所です。その数も決して少なくはありません」

 

「アリーシャと同様、この手の話題には物騒な話題が付き物なのは変わらないって事か……」

 

バルトロ達に命を狙われた事のあるアリーシャ同様、ライトもまた命を狙われていた。幾ら皇帝とはいえ幼い子供に対しての行いに不快感を感じたのか晴人は険しい表情を浮かべる。

 

一方のリュネットは首を振りライトの言葉を否定し続ける

 

「そ、それは……あくまで陛下の相談役として実権を握り続ける事を狙ってのもので……」

 

「確かに貴女が僕を守ってくれたのは僕を利用する為のものであくまで結果論だったのでしょう。ですがその貴女の罪の上に今の僕はいるんです。何も知らず貴女の罪の上で生きていた……知らないという事もまた時には罪となり得る。今回の事件で僕はそれを知りました」

 

どんな手段であれリュネットはあらゆる手を尽くしこの国を良い方向へと導こうとしていた。当然それらは全てが肯定されて良いものでは無い。過ちを犯した事実は変わらない。

 

だがその罪が守ったものも確かに存在する。

 

リュネットの行いは真っ当に賞賛されるべきものでは無いのは確かだが、彼女の存在が結果としてライトを守りハイランドとローランスの全面戦争を食い止めていたのもまた事実なのである。

 

「『上に立つべき者とは決断を下し責任を負う者』母が教えてくれた亡き父の教えです。僕も皇帝としてそう在りたいと思っていました……けど実際は背負った気になっていただけでした。貴女が国を守る為に手段を選ばず罪を重ねていた事を何も知らずに……」

 

影を落とした表情でライトは自身の不甲斐なさを恥じる様に言葉を溢す。しかしそれも一瞬だった。表情を切り替えその瞳に決意を灯しライトはリュネットに向けて言葉を告げる。

 

「ですから、ここが始まりです。今度こそ僕は飾り物では無くローランスの皇帝として決断し全ての責任と罪を背負って歩んで行きます。ローランスとハイランド、二つの国の平和の為に……」

 

外見だけ見れば小柄の幼い少年である彼の言葉。だがそこには確かな覚悟が秘められていた。そしてライトはもう一度リュネットへと彼女が背負うべき償いの手段を告げる。

 

「ですから、貴女も自身の罪を背負った上で正しい形で僕に力を貸してください。その上で真の意味で平和を勝ち取る事こそが僕が貴女に課す贖罪です」

 

リュネットが姉との約束を歪め誤った手段で目指したローランスの繁栄。それを正し真の意味で完遂する。

それがライトがリュネット・フォートンへと課した贖罪の方法だった。

 

それはある意味では牢獄に繋がれる事よりも厳しい物になるだろう。罪を背負い傷つけた者たちからの非難を受け怒りを受け止めながら正しき道を歩む。

それは決して楽なことでは無い。

 

「で、ですが……」

 

戸惑いを見せたリュネットはマシドラへと視線を向ける。その意味を察したのかマシドラは優しい声でリュネットへと話しかけた。

 

「私が牢で罪を償うからと言って君が後ろめたさを感じる必要は無いだろう。逃げ出した先で罪を犯した私と逃げずに戦い続けその中で道を誤ってしまった君とでは償い方も違うのは当然の話だ」

 

「マシドラ教皇……」

 

牢獄で罪を償うことになるマシドラに対して形としては現状維持となった自分に負い目を感じるリュネット。それに対してマシドラは諭す様にリュネットへの言葉を紡ぐ。

 

「君が憑魔になった理由は聞いている。確かに君の手段は間違っていたのだろう。だが君は家族との約束の為にこの国を救おうとした。その想いを私は否定しない。償いも大切だが君自身もまだ約束を果たす途中だろう? 」

 

マシドラの言葉を受けリュネットの脳裏に浄化後に見た姉達との夢の光景が蘇る

 

「……できるでしょうか……罪を償った先でもう一度……姉さん達と再会する事が……」

 

「君の姉達は遺体は見つかっていないし、石の病となった者達の中にもいなかった。希望を捨てるべきでは無いよ」

 

その言葉にライラが反応した。

 

「そう言えば……」

 

「どうしたの? ライラ?」

 

心配し声をかけるスレイ。それに対してライラがゆっくりと口を開く。

 

「教会神殿でフォートンさんの憑魔の姿がメデューサだったと知った時から気にはなっていたのですが、滅びたホルサ村や湿地帯の開拓村で発生した『石の病』というのはメデューサの石化と同種のものではないかと」

 

その言葉にスレイはハッとしたように目を見開く。

 

「あ!? そうだよ!石になる病気なんてどう考えても普通じゃないし! 」

 

「ですがメデューサの様な力を持つ憑魔はそうそういるものではありませんわ」

 

「まぁかなりのレアものよね。というかあんな能力もってるのがワラワラ現れても困るけど」

 

そのライラの言葉にセルゲイは疑問を覚える。

 

「大陸北西部の『ザフゴット原野』にあったホルサ村と湿地帯の開拓が行われた距離は大陸西部の『プリズナーバック湿原』からは大きく離れています。石の病の発生時期はほぼ同時期で同一個体が襲ったとは考え辛いと思いますが……」

 

「枢機卿が憑魔になったのは二つの村が石の病で滅んだ事が引き金だから関係は無い。という事は二つの村でメデューサと同種の憑魔が発生したって事かな?」

 

そう問いかけるスレイにライラは頷く。

 

「そして二つの村でフォートンさんのお姉様達は行方不明になっている。これは偶然とは考え辛いかと」

 

その言葉で晴人はライラが言いたい事を察する。

 

「つまりライラはフォートンのお姉さん達がメデューサと同種の憑魔になってしまったって考えてるのか?」

 

その問いかけにライラは静かに頷く。

 

「開拓村ともなれば生活は厳しいですし負の感情も当然発生し易い環境ですから。どんな憑魔となるかには種族や環境、精神状態など様々な要因が存在しますがその中には血筋というのも当然含まれます」

 

その言葉に今度はアリーシャから質問がとぶ。

 

「ライラ様。仮にそうだった場合フォートン枢機卿の姉君達は数年間憑魔となり彷徨っている事になると思うのですが。身体は大丈夫なのですか?」

 

人間の長期間の憑魔化に詳しく無いアリーシャはフォートンの姉達の身を案じる。

 

「それに関しては心配ありませんわアリーシャさん。憑魔となった場合その生命力や寿命は人間の頃とは比べものになりません。何百年もの長い時を過ごした憑魔は元となった肉体が朽ち精神だけが穢れに結び付き続ける事もありますが数年から数十年程度なら元の肉体の状態は憑魔となった時と殆ど変わりません」

 

「憑魔となった場合、元の肉体の時間の流れにも影響が出るという事ですか?」

 

「例外が無いとは言いませんが基本的にはその解釈で問題ありませんわ」

 

そう言って話を纏めるライラ。それを聞いたロゼが口を開く。

 

「えぇっと、つまり……枢機卿のお姉さん達が生きている可能性がかなり上がった……って事でいいんだよね?」

 

「断定はできませんが二つの村を滅ぼした石化の力を持つ憑魔は間違いなく存在します。浄化できれば自ずと答えはでるかと……」

 

そう言い話を纏めたライラに対してリュネットが恐る恐る口を開く。

 

「姉さん達が……生きている……?」

 

瞳を揺らし震える声で彼女の口から言葉が零れ落ちていく。その瞳は潤み涙を溜め今にも決壊しそうだ。

 

そんな彼女にマシドラが優しく肩に手を添える。

 

「私は私を信じて待ってくれている家族の為に自分の果たすべき責任を果たすつもりだ。君も、もう一度家族との約束の為に歩き出してみなさい……罪を犯したとしてもその先に人生は続いて行く。老いぼれの私よりも君にとっては長い道のりだ。無闇に自分の可能性を自分で閉ざしてはいけない」

 

「っ……!!」

 

そこにマシドラに続く様にセルゲイが口を開く。

 

「我々騎士団も可能な限り協力しよう。憑魔の浄化はできないが目撃情報を集めるくらいならできるだろう」

 

「セルゲイ団長……ですが私は貴女の部下や弟に……」

 

罪悪感を感じてかセルゲイの言葉にリュネットは素直に応じる事を躊躇う。だが……

 

「貴女も貴女の姉君達も騎士団が守るべき民の1人です。微力ではあるがその助けとなりたい」

 

迷いない真っ直ぐな言葉でセルゲイはリュネットへの協力を申し出る。

 

「当然俺たちも協力するよ!」

 

「はい! フォートンさんがお姉様方と協力できる様お手伝いさせていただきます!」

 

「国は違いますが私も騎士として民を守りたいという気持ちはセルゲイ殿と同じです。」

 

スレイ、ライラ、アリーシャもまたセルゲイに同意し協力を申し出る。

 

「皆さん……」

 

「まぁ、そういう訳だ。人の厚意は素直に受け取っておきなよ。アンタはもう『現在』(いま)を捨てないんだろ? 償うのも大切だが自分の『明日』(みらい)も今度こそキッチリ掴まないとな」

 

晴人がそう微笑みながら告げた言葉にリュネットはもう一度右手にはめられた指輪を胸の前で左手抱きしめる様に包み込み。自身への言葉を噛みしめる様に瞳を閉じた。

 

そして再び瞳を開いた彼女は笑顔で告げる。

 

 

「ありがとう」_____と

 

心からの感謝が詰められ言葉と共に彼女の瞳から涙が溢れ落ちる。だがそれは嘗ての孤独と哀しみが込められた冷たいものではなく優しく暖かい感情が込められたものだった。

 

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________________________________________

 

その後、ライト達と今後についての話し合いを終えた一同は騎士団塔を離れ市街地に向けて歩みを進めていた。

 

既に夜は明けているが雨雲の影響で周囲は薄暗い。だが枢機卿を浄化した影響からか雨雲の厚さは減っており雨足も目に見えて弱まってきている。

 

「取り敢えずは目的完了って所だな」

 

停戦に向けた今後の協力態勢と方針は問題なく決まりアリーシャと晴人がローランスを訪れた目的は達成された。

 

「あぁ、それにラストンベルの教会の件もフォートン枢機卿は新しい司祭を送ると約束してくれた。これでジョン達は正式に教会で保護される筈だ」

 

話し合いの中で晴人達はラスンベルで目撃した司祭達の件も報告し、戦争孤児達の保護を願い出た。ラスンベルの教会が役割を果たしていないと知ったリュネットはその件をすぐに了承し新しい司祭の手配と子供達の保護を約束した。

 

「いやー!無事丸く治ってめでたしめでたし!って感じ?」

 

大げさななリアクションでロゼは場を和ませつつ笑みを浮かべる。

 

「綺麗事で丸く収まり過ぎって気もするけどね。あの小さな皇帝さんの処罰はかなり個人的な温情混じってたわよ。皇帝自らそんな事したら大なり小なり不満が出るんじゃない」

 

「うわ、エドナそこは空気読んで喜んでおこうよ」

 

「なによ? 人間が決めたルールなんでしょ? 天族の私は知った事じゃないけど」

 

ドライな反応を見せるエドナにロゼは肩を落とすがエドナはどこ吹く風と辛口だ。

 

「そ、それは……」

 

その言葉に同じく王族であるアリーシャはなんとも言えず言葉を詰まらせる。

 

「ま、確かに私情が含まれた処罰内容ではあったかな。綺麗事と言われりゃ確かにその通りかもな」

 

「え?」

 

そんなエドナの言葉に晴人は同意する。晴人の反応が予想外だったのかアリーシャは驚き視線を向ける。

だが晴人の言葉はそこで終わらなかった。

 

「でもさ、俺は嫌いじゃないよ。自分の為じゃ無くて他人の為に綺麗事が言える奴はさ」

 

「性善説ってやつ? もしそこからまた面倒ごとになったらどうするのよ」

 

「それも込みで今度こそ皇帝として背負って行くっていうのがライトの答えなんだ。なんでも綺麗事で片付けるのは間違いかもしれないけど綺麗事を忘れないのも大切だと思うぜ」

 

「………」

 

真っ直ぐにそう答えた晴人からエドナは黙って視線を外した。そこにザビーダが口を開く。

 

「ま、確かにルールってのも大切だけどな。それだけじゃルールの外に弾き出された奴を救えない時もあるのさ。冷たくて正しい『理』(ことわり)ってのが人を追い詰める時もあれば自分勝手で曖昧な『感情』(やさしさ)が心を救う事だってあるもんなんだよ」

 

「……なによそれ意味わかんない」

 

「ま、エドナちゃんも人間ってのを知っていけばそのうちわかるさ」

 

「……別に興味ないわ、ワタシ人間嫌いだし。あとエドナちゃん言うな」

 

むっすりとした表情で晴人の言葉を否定するエドナだがザビーダはニヤニヤしながらおちょくる様に喋り始める。

 

「そんな事言ってエドナちゃんも、結構人間ってやつに興味出てきたんじゃないの〜?」

 

「え、そうなの?」

 

「そりゃそうだ。興味なけりゃそもそも突っかかる訳無いだろ? 言う事はキツイがああ見えてエドナちゃんは胸が薄い分懐は深いんだぜ?」

 

ノリノリのザビーダにエドナの表情が引き攣る。

 

「相変わらず口が回るわねチャラ男1号2号。もっと笑顔にしてあげるわ」

 

傘の素振りを始めたエドナに晴人とザビーダはすぐに距離をとる。

 

「あ、やっべ」

 

「馬鹿お前! 俺まで巻き込むなよ!」

 

「冷たい事言うなよハルト。1号と2号の仲だろ!」

 

「そう言いながら盾にしようとすんなって!お前とセットになるのは嫌だっつの! 」

 

ドタバタと逃げようとする2人を傘を素振りしながらジワジワと追い詰めようとするエドナ。傘にくくりつけられた謎の人形がグワングワンと揺れている。

 

「と、止めた方がいいのでしょうか?」

 

「え、エドナさんも本気ではないでしょうし見守っていた方が良いかと」

 

「そうか? エドナのやつ素振りが本気に見えるぞ?」

 

「ははは……だ、大丈夫だよミクリオ……多分」

 

グダグダになり始めたなんとも言えない空気に場が包まれそうになったその時、スレイがある事に気がつく。

 

「あ! みんな見てよ!空が!」

 

その言葉に一同は気がつく。さっきまで降っていた雨が完全に止んだ事に。

 

そして……

 

「青空……」

 

曇り空の裂け目から覗く青空が一同の瞳に映る。雲の裂け目からこぼれた太陽の光は徐々にペンドラゴを照らし始めた。

 

ペンドラゴの民達もそれに気がついたのか空を見上げ喜びの声を上げる。

 

「見ろよ!青空だ!」

 

「ようやく雨が止んだのね!」

 

「よっしゃあ ! ジメジメした空気ともおさらばだ!今日は飲むぞ!」

 

「いいのかお前、雨が止んだ変わりに嫁の雷が落ちるぞ」

 

「うぐぅ!? そ、それは……」

 

辺りから響き渡る賑やかな喜びの声。それを見てスレイは自分の事のように喜び笑みを浮かべる。

 

「うん! やっぱりいいよなこういうの!」

 

「まぁ頑張ったかいはあったかな」

 

笑い合うスレイとミクリオ。

 

「ですが油断はできませんわ。一歩前進しましたが新しい課題が待っているのもまた事実です」

 

「未だに災禍の顕主の謎は多いですから気を引き締めていかねばなりませんね」

 

一方ライラやアリーシャはこれからの解決すべき問題を考え表情を引き締める。

 

「美人は悩むのも絵になるが何事も程々にな。俺様は眉間に皺が増えるのは反対だぜ」

 

「あんたはもうちょい眉間に皺増やすくらい悩んだ方がいいと思うけど」

 

そんな中ザビーダは軽口は叩きそれを聞いたエドナが辛口でツッコミを入れる。

 

「ま、気負い過ぎるのも問題だ。ここぞと言うときに空回りは笑えないからな」

 

「わかっているさハルト。目の前にある事を一つずつ解決していこう。今回の件もそうしてきたからこそ解決できたのだから」

 

晴人の言葉にアリーシャは微笑みながら答える。

 

「よっしゃ! そんじゃレディレイク帰還前に宿屋でいっちょパーっとやろうぜ」

 

「オイオイ、まだレディレイクでの交渉も残ってるんだぜ? 流石に気が早いんじゃ無いか」

 

軽い調子のザビーダに晴人は呆れた表情を浮かべる。

 

「堅いこと言うなよハルト、最後の一仕事があるからこそここで少し息抜きしておこうって話さ」

 

「まぁ、確かにお腹すいたよな」

 

「ペンドラゴに戻ってから漸くひと段落だからね」

 

「皆様で一緒にお昼にいたしましょうか♪」

 

「ペンドラゴの宿ならドラコ鍋で決まりね」

 

一同はなんだかんだザビーダの言葉に賛同して宿屋へ向かう事になるが……

 

「あーー!やっば! 騎士団塔に忘れ物しちゃった!」

 

突如ロゼが大声を出し一同は驚き振り返る。

 

「忘れ物? それはいけないな。急いで戻ろう」

 

「あー大丈夫大丈夫! あたしのミスだからパッと行って戻ってくるから! みんなは先に宿屋行って食事頼んでて! あ! でもあたしが戻る前に食べ始めんなよー!」

 

「え!? ロ、ロゼ!? ……行ってしまった」

 

呼び止める間も無く駆け出して行ってしまったロゼをアリーシャ達は目を丸くして見送る。

 

「はぁ……お前らは先に行ってろ。俺が見張っておく。アイツを一人にしたら何をするかわからん」

 

溜息をつきながらもデゼルは駆け出す。

 

「急にどうしたんだロゼ?」

 

「忘れ物、と見せかけて商品の売り込みをするつもり、とか?」

 

「なんだろう……ロゼならやりかねない気はする……」

 

「あの娘だってそこまで常識外れな事はしないわよ。子供じゃないんだから宿で待ってればすぐくるわよ」

 

ロゼの行動にスレイ達は首を傾げる。

 

そんな中、アリーシャはどこか不安そうな表情を浮かべる。

 

「どうかしたのかアリーシャ?」

 

「ハルト……いや、なんだかライト陛下との話し合い際からロゼの様子がおかしかった気がして……」

 

「そう言えば、いつもより口数が少なかった様な……」

 

「最初は陛下との会談という事もあり自重しているのかと思ったんだが……」

 

「ライトの話の途中でも驚いていたな」

 

「あぁ、私の思い違いならいいのだが……」

 

光に照らされ始めた市街を離れ未だに雲の陰に覆われた方向へと消えていくロゼの後ろ姿をアリーシャは不安げに見送った。

 

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________________________________________

 

そして

 

 

 

 

「……それは本当なのですか?」

 

その数刻後、騎士団塔の一室で護衛のセルゲイを伴ったライト、リュネット、マルクスとロゼは対面していた。

 

「嘘は言っていない……信じるかどうかはそっち次第だけど」

 

既に話し合いは殆ど終えている状況なのか対面するライト達の顔には警戒の色がありありと浮かんでいた。

 

普段の明るい声が完全に消え真剣な表情でロゼはライトをまっすぐに見据える。

 

その言葉にライトは数瞬考える素ぶりを見せ。

「わかりました。貴女の言葉を信じます」

 

そう言うと同時に傍に立っていたマルクスが反論する。

 

「陛下! 本気でこの者の言う事を信じるおつもりですか! この者は貴方の兄____」

 

「マルクス」

 

「ッ! 申し訳ありません。出すぎた事を……」

 

「いいんだ、ありがとう……」

 

一度は激昂しに声を荒らげたマルクスだがライトの制止を受け謝罪を口にする。

 

「ロゼさん、貴女の言い分はわかりました。貴女の証言を元にこちらでも過去の事件を調査をしていきたいと思います。その結果を定期的に貴女の仲間に伝えればいいのですね?」

 

「ご理解いただき感謝します陛下」

 

ライトの言葉にロゼは頭を下げ礼を口にする。

 

「しかしいいのですか? この事を導師達に伝えなくても」

 

「同感だ。彼らなら君の力になってくれると思うが」

 

リュネットとセルゲイはロゼに対して気遣う様に問いかける。それに対してロゼはどこか困った様な笑みを浮かべる。

 

「うーん、だからかな。あの2人はきっと自分の事で大変なのにあたしの事を手伝うとか言いだしちゃいそうだし。それに_____」

 

次の瞬間、ロゼの顔から再び笑みが消える。

 

「これは私たちがケリをつけるべき問題だから」

 

決意を込めた瞳で彼女は力強く告げる。

 

そして_____

 

 

「……必ず見つけ出す。そしてお前の仇を……」

 

ロゼ達の部屋の外でその話の一部始終を聞いていたデゼルもまた声に怒りを滲ませ決意する様に拳を握りしめた。

 

 

 

一つ決着と共に様々な運命が更に絡み合い物語は加速していく。ショーの幕はまだ上がったばかり____

 

 

 






あとがき

前回の更新はエグゼイドやってた頃なのにもうビルドも2クール目とかウッソだろお前……絶版案件だよ……

クズみたいな更新速度の2017年でしたがエタらずに頑張るつもりなので読者の方達はよろしければ来年もこの作品にお付き合いくださると幸いです

平ジェネfinalくそ面白かったですがアマゾンズ完結篇やらビルドで音也役の武田さんがビルドで再びライダーになったりと来年の特撮も楽しみです
夜は人肉っしょー!(アマゾンズ映画化にフジが喜ぶ声)

では、皆様良いお年を

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