Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜 作:フジ
ダイナーのアマゾンズコラボメニューを見てフクさんごっこして圧裂弾サワーを注文したい今日この頃です
今回は今後の為の説明回となりますが長くなりそうなので分割です。早く4章に行きてぇなぁ!
そんな訳で最新話どうぞ
「……貴方達は?」
晴人達が案内された部屋。そこにいた少年はあどけない表情を浮かべ、アリーシャ達を見据える。
「陛下、先ずは私から説明させてください。こちらはハイランドの姫君であるアリーシャ姫、そして隣にいる青年は最近噂となっている導師スレイ殿です」
リュネットはスレイとアリーシャの事を陛下と呼んだ少年へと紹介していく。
その言葉を聞いていくに連れて少年の傍に立つ初老の男性の表情が険しくなっていく。
「フォートン枢機卿……どういうつもりでしょうか? 突然、予定に無い白皇騎士団の視察を理由に陛下をここまで連れて来たと思えば、行方不明だったマシドラ教皇や導師とハイランドの姫君達がいるなどと……」
明らかに警戒を滲ませた声の男性は枢機卿へと疑いの眼差しを向ける。当然と言えば当然だろう。向こうから見ればここにいる面々が陛下と呼ばれた少年を秘密裏に連れ出し危害を加えるつもりがあると捉えられてもしょうがない状況だ。
「この様な形でお会いする事になって申し訳ありません。本来なら我々が正しい手順を踏んだ上で伺うべきだったのですが……」
アリーシャは申し訳無さそうに謝罪の言葉を口にする。
「オレ達は決して危害を加えるつもりはありません。ただ、どうしても導師としてローランスの皇帝陛下に伝えなくちゃいけない事があるんです」
アリーシャに続きスレイが弁解する。
「導師……では貴方は本当に今、民の間で噂になっているという導師なのですか?」
その言葉に少年が反応する。
「え……あ、はい。導師になったのはつい最近ですけど」
少年の問い掛けを肯定するスレイだが……
「凄い! やはり噂は本当だったのですね!」
「……へ?」
眼を輝かせまるで御伽噺を聞く幼子の様に笑みを浮かべながら少年はスレイに問いかける。
スレイは予想外の反応に間の抜けた声を零すが……
「風の噂で耳にしてはいたのです! レディレイクの聖剣祭で湖の乙女の伝承が伝わる聖剣を引き抜いた者が現れたと!」
「う、うん……一応、それがオレなんだけど……」
「やっぱり! という事は、伝承に聞く湖の乙女と呼ばれる天族の方も僕の眼には見えませんが貴方と一緒にいるんですか!」
「え? あー……うーん、まぁ今も一緒にいるね」
その返答に少年は更に瞳を輝かせる。
「本当ですか!? やはり、天族の方は実在していたんですね!」
「うん、実在する……というか今なら君にも見えると思うよ?」
「え? それはどういう?」
スレイの言葉に少年は困惑するが。
「君の言っている。湖の乙女ならそこにいるライラの事だ」
晴人はライラを指差し少年に事実を伝える。
「え!? そちらの女性が彼の伝承に伝えられる湖の乙女なのですか?!」
驚きの視線を向けられるライラは少しばかり困惑した様に苦笑する。
「え、えーと……ライラと申します。レディレイクでは確かに湖の乙女と人々からは呼ばれていましたわ」
そしてライラは分かりやすく自身の持つ力を証明する様に紙葉を一枚投げるとそこから小さな炎の鳥が現れライトの周囲を旋回し一鳴きしその姿を消す。
「す、凄いです! 湖の乙女は浄化の炎を操ると聞いていましたが、まさかこの目で見る事ができるなんて!」
少年の興奮は最早フルスロットル。
そんな時……
「ゴホン! ……ライト様、少し落ち着かれてください」
執事の男性が、興奮する少年を落ち着かせるべく大袈裟に咳払いをする。
「あ……す、すいません! 僕、つい興奮しちゃって……」
「いえ、私としてもその様に友好的に受け入れて頂けた事は嬉しいですし、あまりお気になさらないでください」
少年は頰を羞恥で僅かに染め恥ずかしげに謝罪を口にする。
「あ、自己紹介が遅れました。僕はライト。若輩者ですがローランスの現皇帝を務めています。隣にいるのはマルクス。僕の執事であり秘書官として僕の補佐をしてくれています」
そう挨拶を告げられスレイ、ロゼ、アリーシャ、ライラは失礼のない様に再度自身の名を名乗り挨拶を返していくが……
「え、えーっと……俺……じゃなかった……自分は操真晴人と……申します……? どうぞお見知り置きを……皇帝陛下……?」
一人だけ明らかに言葉遣いがおかしい晴人。
元々砕けた口調で年上相手にも接する性格故か年配者への敬語程度ならまだしも年下で尚且つ皇帝相手に失礼の無い会話というのがイマイチ掴めない。
ぶっちゃけ一人ならいつもの調子で話していただろうが今回はアリーシャのお供として両国の休戦の交渉に来たのだ。流石にそんな状況で相手の機嫌を損ねてアリーシャの足を引っ張る様な真似をする訳にはいかないと判断する常識くらいは彼も持ち合わせている。
そんな四苦八苦する彼を見てライトは小さく笑いながら声をかける。
「ふふ……あまり固くならないでください。ここは非公式の場ですし、僕自身畏まった話し方よりもそちらの方が気が楽なので」
「え、マジで?」
その言葉に途端に地が出る晴人。
「はい、マジです」
割とノリの良いライトの返しに晴人は内心で彼の器の大きさに感謝しつつ口調をいつも通りにする。
「えーっとじゃあ改めて、俺は操真晴人。魔法使いで、今回はアリーシャのオマケみたいなもんとして同行してる」
『魔法使い』その言葉に再度ライトが強く反応する。
「魔法使い!? 天族以外にもその様な方がいるんですか!?」
「うお、食いつき良いな」
若干怯む晴人だが先程と同様に執事の男性が大袈裟に咳払いをしてライトを止める。
「あ、ごめんなさい……僕、古来の伝承や天族信仰の様な不思議な現象に個人的に興味を持っていて、そういう話しを聞くとさっきみたいについ…」
「いや、寧ろ初見で魔法も見せずにそんな風に信じて貰えるのは新鮮というか……まぁ気にしちゃいないから」
「それなら良かったです。……ところで魔法というのは一体どういう……」
「ライト様。話が脱線しています」
「あ、ごめんマルクス」
執事の言葉にライトは慌てて話を切り替える。
「それで、今回は何故フォートンは僕をこの場所に? 導師殿とアリーシャ姫が僕に伝えたい要件というのは一体なんでしょうか?」
「それに関しては私から説明させて頂きます」
その言葉にアリーシャが名乗りを上げ、自分達がこの秘密裏にローランスを訪れた経緯、災禍の顕主による戦場への介入から現在に至るまでを説明していく。
全てを聴き終えたライトは表情を動揺がありありと浮かんでいた。
「憑魔に災禍の顕主……先日の戦場でその様な事が……」
「正直、話だけを聞けばタチの悪い作り話と疑いたい所なのですが……」
ある意味当然と言えば当然なのだが執事のマルクスはアリーシャの言葉の真偽を疑うが……
「マルクス殿。疑念を抱く気持ちはわかりますが、私の部下が戦場で起きた事を証言してくれています。戦場にて原因不明の同士討ちが起きた事はまぎれもない事実です」
セルゲイがアリーシャの証言が事実である事をマルクスに訴える。
「頭の痛い話だ……それに加えて……」
マルクスはマシドラとリュネットへ視線を向ける。
「前教皇は自ら行方を眩ました挙句に秘密裏に偽エリクシールを売りさばき、現枢機卿は憑魔となりその力で長雨を降らせていた? 陛下を支える立場にありながら一体、何の冗談ですか……」
マルクスは失望した感情を隠そうともせず厳しい視線で二人を睨む。
「わ、私は……」
その言葉にリュネットは言葉を詰まらせ逃げる様に目線を逸らし顔を伏せる。改めて自身の引き起こした罪を正面から突きつけられリュネットは動揺を露わにするが……
「ッ!」
そんな彼女の視線の先に自身の指にはめられた指輪が映り込む。
その指輪の輝きを見てリュネットは覚悟を決めたように顔を上げる。
「全て事実です。私は陛下を補佐する立場でありながらその力を自らの願いを叶える為利用しようとしました。その過程で私の障害となる者達を石化させ場合によっては憑魔とし手駒に_……陛下の補佐役としてあってはならない事でした……いかなる処分も謹んで受け入れる所存です……」
ハッキリと自身の罪を認め処分を受け入れる意思を伝えるリュネット。
「流石にわかっているようだな。ならば……」
そんな彼女にマルクスは彼女の処遇を告げようとするが……
「マルクス、その話は少し待ってくれないかな?」
マルクスの言葉を遮ったのは意外にもライトであった。
「陛下? しかし彼女は……」
「言おうとしている事はわかるよ。けど、先ずはアリーシャ姫と導師スレイとの話を優先したいんだ。話の内容を考えればこの国の政治に深く関わっていたフォートンやマシドラの意見も聞きたいからね」
「……わかりました。出過ぎた真似をして申し訳ありませんライト様」
「いいんだ。ありがとう、マルクス」
軽く頭を下げマルクスに対してライトは微笑みながら首を横に振る。そしてライトはアリーシャ達へ視線を向け口を開く。
「では皆さん重要な話し合いですし、どうぞ座ってください」
そう言ってライトは用意された椅子に座り、その傍にマルクス達も立ち並ぶ。それに向かい合う形でアリーシャ達は席に着く。
一同はこれから始まる2国間の行方を左右するであろう話し合いの始まりに緊張した表情を浮かべるが……
「さて、まずは両国の休戦に感しての話でしたね。まず結論から申し上げますが、僕はアリーシャ姫の両国の休戦と和平の道を模索するという提案には全面的に賛成します」
『……え?』
そのあまりにも速くあっさりとした決断の言葉に一同は意表を突かれた様に目を丸くする。
「いや、まぁ……願ったり叶ったりではあるんだけど……」
「まさかのスピード解決……」
「もうちょっと一波乱あるかと思ってたけど……」
一同から予想外の展開に驚きの声が溢れる。
「あ、あの……本当に宜しいのですか? 」
「え? 何か不都合でもあったでしょうか?」
「い、いえ! そういう訳では無いのですが……仮にも敵国の人間の言葉ですのでそんな簡単に賛同を頂けるとは正直考えていなかったので……」
元々騎士達の情報からライトが休戦の交渉に対して好意的に受け止めてくれる人柄である事は聞かされていたが、アリーシャは恐る恐るその答えの真意を問う。
「確かにローランスとハイランドの両国の争いの歴史は長くそれにより生じた溝はとても深いです。ですが、近年頻発する様になった異常気象や災害により民は疲弊している。僕は正直に言えば、それでも大陸の覇権を争う現状に疑問を抱いていました……」
ライトは民を想ってか憂いの表情を浮かべる。
「これまでも何度かそういった意見を訴えはしたのですがローランスの内部からも休戦に反対する派閥がいて僕の様な若輩者の考えは現実を知らない子供の考えだと相手にしてもらえずに……僕自身の力不足もあるのでしょうが……」
「それに関してはハイランドも同じです。現在実権を握っているのは官僚派のバルトロ大臣達で彼は自身の息のかかった者たちで評議会を固めています。私も彼らに何度も休戦の訴えてはきましたが私の主張は王族の復権を目論むものだと警戒され相手にされない状況です……悔しいですが、彼らにとって私は何の実績も無い小娘ですから……」
例え王族としての地位を持っていたとしても政治の経験が浅い二人の意見は大人達からすれば現実を知らない子供の戯言と内心では一笑に伏される様なものだった。
「今は人間同士が権力争いで内輪揉めをしてる場合では無いのに……」とアリーシャは溜息を零すが……
「えぇ、だからこそ僕は貴女と協力したいと考えているんです」
ライトはアリーシャ達にハッキリとした声で告げる。
「一部の過激な戦争支持派以外の者達を説得するには根底にある長年の争いにより生じた『どうせ相手は聞く耳を持たない』という考えを何とかしなくてはなりません。僕も貴女もそれを覆す為の説得力を持たない為にこれまで足踏みをしていました」
「えぇ、結局の所、休戦からの和平実現への道を支持して貰える程の根拠を私は持っていませんでしたから……」
「はい……ですが現皇帝である僕と王族である貴女の間に交渉の窓口としての繋がりができたのならば話は別です。お互いの国の王族が休戦の意思を持っている事が互いの国の中枢に伝われば戦争支持派も僕たちの訴えをただの戯言と無視する事は出来なくなります」
「それを足掛かりとして戦争支持派を説得していくという訳ですね」
「はい、その通りです」
アリーシャもライトも突然に両国が争いを止め仲良く手を取り合っていけるなどとは考えていない。
確かにバルトロ達の様に大陸の覇権を目的として戦争を支持する者はいる。だが、それ以外にも長年の戦争による敵国への憎しみや怨み、恐怖から戦争を支持している者達がいる事もまた事実なのだ。
そんな感情を変えていくのは一朝一夕とは行かない。
根気良くお互いが歩み寄りお互いを知っていくしか無いのだ。そこに安易な近道などありはしない。
しかし、それでもやるしか無いのだ。
穢れの存在を超えて人間が災厄の時代の先に行く為には……
「ですから、どうかローランス……いえ、ローランスとハイランド。二つの国の為に貴女達の力を貸してください」
その言葉にアリーシャは一瞬怯んだものの覚悟を決めたように頷き返す。
「こちらこそ……陛下に和平への賛同をいただけた事を感謝します」
そう言って微笑み合う二人。
「(……大したもんだな。アレでまだ11歳だっていうんだから)」
そんな二人を見守りながら晴人は内心で舌を巻いていた。
10代後半という年齢で国の未来を憂い1人で行動を起こしていたアリーシャも晴人からすれば十分凄いのだがそれよりもさらに年下のライトの振る舞いに晴人は素直に驚く。
「(俺があの歳の頃なんて自分の事だけで精一杯だったってのに……)」
遠い記憶……両親がいない孤独に耐え弱さを飲み込んで両親が遺した言葉の通り前に進もうとした過去。そしてその中で辛い現実が忘れられる程熱中できるものを見つけ……
魔法使いとなる以前、自身の子供時代を思い返しながら晴人は目の前にいる王族の2人の国や民への想いの強さを実感する。
「(俺も気を引き締めないとな……)」
王族とは言え子供であるライトも人々を救うためにこうして決意してくれたのだ。ならば自身に出来る事でその願いを守るのが自分が今すべき事だろうと晴人もまた内心で決意を改たにするが……
「ですが大丈夫なのですか? 失礼かもしれませんがハイランドでアリーシャ姫は難しい立場だった筈です。和平への窓口となると言うことはハイランドの戦争支持派からこれまで以上に標的にされる恐れがあるのでは?」
リュネットが口にした懸念。元々バルトロ率いる官僚達に反発していたアリーシャは何度かその命を狙われている。皇帝であるライトと異なり私兵も持たず国からも大きな庇護も受けられない彼女が命を繋いでこれたのはスレイや晴人の助力もあるがやはりバルトロ達からいつでも排除できる理想家の小娘と侮られていた部分が大きい。
それが今回の件で彼女が両国を繋ぐ架け橋という存在になればバルトロ達は本格的にその存在を無視できなくなる。
そうなれば彼女は今後、今以上の危険と困難に直面する事になるかもしれない。リュネットはそのことを案じるが……
「大丈夫です」
当のアリーシャの口から放たれたのは迷いの無い一言。
「私の存在が平和への足掛かりとなるならば私はその困難を甘んじて受け入れます。その上で私は夢を叶えるまで絶対に死にません……それに……」
アリーシャは隣に座る晴人へと視線を向ける。
「私には最後の希望が共にありますから」
そう言って微笑むアリーシャだが……
「……惚気?」
「惚気だな」
「惚気よね」
ロゼ、ザビーダ、エドナから「ハイハイごちそうさまです」と言わんばかりの声音で放たれる台詞。
「ふぇ!? い、いえ、そう言う訳では無くこれは信頼という意味であってですね!」
無自覚な台詞にツッコミを入れられテンパるアリーシャ。
「ま、そういう訳だ。何があってもアリーシャは俺が守る。俺はアリーシャの最後の希望だからな」
そんな中、わちゃわちゃし始めた一同をスルーし断言する晴人。
「あ、しれっとスルーしたわよアイツ。やっぱりアイツあの手の台詞言い慣れてるわよ。間違いなく技の二号よ。息を吐くようにキザな台詞吐けるタイプね」
「え!? そうなのですかエドナ様!?」
「こんな時に要らない事を吹き込むな!」
そして案の定エドナによからぬ事を吹き込まれるアリーシャ。それに堪らずミクリオがツッコミを入れる。
そんな二人に苦笑しつつスレイとライラが口を開く。
「アリーシャさんの件には私達も力になれると思いますわ」
「ライラ程じゃないけど俺も」
「聖剣の伝承があるレディレイクなら導師のスレイと天族のライラは影響力強いだろうしね。これまでみたいに簡単にはバルトロ達もアリーシャに手出しできなくなるんじゃないかな」
その言葉を受けアリーシャは二人に視線を向ける。
「いいのかスレイ? レディレイクに戻るとなると君の導師の仕事にも差し支えるのでは……」
「今は戦争を止めるのが最優先だよ。その為に俺が少しでも力になれるならそうするべきだ」
「私はスレイさんの判断を信じますから」
そう言って微笑む二人。
それを見てライトが微笑みながら口を開く。
「アリーシャ姫は頼もしい仲間をお持ちですね」
「はい、私などには勿体無い頼りになる仲間です」
そう言ってアリーシャもまた嬉しそうに微笑む
だがそこに……
「ライト様。本当に宜しいのですか……? 妃殿下達、戦争支持派の件は……」
マルクスが歯切れ悪く告げた言葉にアリーシャ達は反応する。
「ん? この国の王妃様がどうかしたの?」
意味深なマルクスの言葉にスレイは首を傾げる。
「いえ……気になさらないでください。それに関しては我々の方の問題ですので皆様の手を煩わせる事では……」
そう言ってライトは話を止めようとするが……
「無関係って事は無いだろ? これからハイランドとローランスの和平の為にお互い協力していくんだ。もしかしたら何か力になれるかもしれない」
「陛下、私もハルトと同じ考えです。宜しければ話していただけないでしょうか」
そう告げる晴人とアリーシャ。
その言葉を受けてライトを目を丸くするが観念したように小さく溜息を吐く。
「そう……ですね……身内の問題ですのであなた方にそれで迷惑をかけたくは無いのですが……無関係な問題でもないのも事実です」
ライトは表情を暗くしながら言葉を続ける
「先ほど我が国にも休戦に反対する戦争支持派がいるとお話しましたよね?」
「はい、ローランスも一枚岩では無いという話でしたね」
その言葉にロゼが反応する。
「あー……もしかして御家騒動ってやつ?」
その言葉にライトの表情が更に曇る。
「……やはり街でも噂になっていますか?」
その視線を受けロゼは言い辛そうに返答する。
「えぇっと……はい……王妃様とトロワ将軍の事は度々耳に挟むというか……」
その言葉に人の世に疎いスレイが質問する。
「えぇっと……つまりどういう事?」
その質問にマルクスが返答する。
「ローランスの戦争支持派のトップ。それが先代の皇帝であるドラン様の正妻である妃殿下なのです」
その言葉に晴人は嘗てマーリンドで騎士から聞いた話を思い出す。
「あー……確か君のお兄さん達の母親だったかな?」
「はい……僕の母上は側室で僕自身は元々王位の継承からは1番遠い立場だったんです。本来なら正室である王妃様の息子であるレオン兄様かコナン兄様が王位を継ぐ筈だったのですが……」
そこで俯いてライトは言葉に詰まる。
「……悪い。嫌な事を話させたな」
「いえ、今のローランスを知って貰うには必要な事ですから……」
そう言ってライトは晴人の気遣う様な態度に感謝する様に小さい笑みを向ける。その様子を見たマルクスが代わりにと口を開く。
「ご存知だとは思いますがライト様の兄君方は5年前に亡くなっています」
「その話は伺っています。跡継ぎである2人が立て続けに不幸にあったと」
「えぇ、元々王位継承に関しては第一皇子のレオン様は次期皇帝と目されていました。容姿や性格も先代である皇帝に似て臣下からも慕われていましたから……ですが、その一方で両親であるドラン様と妃殿下との関係は良好なものとは言えませんでした」
「え? どうして? 実の夫婦なのに?」
スレイがその言葉に疑問を口にする。それに対してロゼが口を開いた。
「そこに関しては割と有名な話だよ。元々先代皇帝と王妃様の結婚が政略結婚の側面が強いって言われてたからね。その事もあってドラン陛下と王妃様の仲が険悪って言われてたんだ」
その言葉を首を縦に振りマルクスが肯定する。
「えぇ、事実として当時妃殿下は先代に対して第二皇子のコナン様が王位を継承すべきと主張していましたから」
「ん? なんでだ? 第二皇子だって同じ皇帝の息子だろ? それがなんでレオン皇子は駄目でコナン皇子なら大丈夫なんだ?」
「それは……」
ドランとの折り合いが悪かったのは理解できるが条件で言えば第二皇子のコナンも同じ筈だ。
なのに何故妃殿下の扱いに差が出るのか晴人は疑問を覚えるがマルクスは言葉を詰まらせる。
一同はどうしたのかと困惑するが……
「そいつも一部じゃ有名な話だ。王妃はドランと同じ思想を持つレオンとの関係が険悪だった。だから幼い頃から愛情を注いでいた第二皇子のコナンに王位を継がせ間接的に権力を手中に収めようとしていたんだろう。一部じゃ王妃の妊娠時期やコナンの容姿からコナンの父親は先代皇帝じゃないなんて噂まで立っている始末だ……どこまで本当かとは疑問だったが強ち根も葉もないデタラメって訳でもなかったみたいだな」
「つまり、噂は事実だったったということか」
「絵に描いたようなドロドロ事情ね」
「そう言うなよエドナちゃん。いつの時代も男と女のゴタゴタは付き物さ」
意外にも口を開いたのはデゼルだった。
天族を認識できないライト達にはその言葉は聞こえていないが、彼なりに話し辛い事実に苦心するマルクスに気を遣っての事だろう。
それを察した晴人は話題を打ち切り話を進ませようと口を開く。
「あー……要は先代皇帝はレオン皇子を、王妃様はコナン皇子を王位継承者にしたくて対立してたって事でいいんだよな。悪いな、察しが良くなくて」
その言葉にマルクスは一瞬だけハッとした表情を見せるがこちらの意図に気がついたのかそれ以上言わず説明を再開する。
「えぇ、ですが五年前……」
「二人とも亡くなられた……失礼ですが、原因はなんなのでしょうか? 公には病死と発表された様ですが……」
「えぇ、お察しの通り事実ではありません」
「では一体?」
そう問いかけるライラにマルクスを重苦しく口を開く。
「……暗殺されたのです」
その言葉に一同は目を見開く。
「オイオイ、本格的に血生臭い話になってきたな……」
「ですが、一体誰が? 」
「詳細は私達にもわからないのです。ただ一つハッキリしている事は皇子の死に『あるギルド』が関わっているという事です」
「『あるギルド』?」
「えぇ、名を『風の骨』。今やこの大陸で知らぬ者はいない暗殺ギルドです。当時、手練の傭兵団として名を馳せローランス軍に自分達を売り込んできた彼らはその圧倒的な実力で信頼を勝ち取りハイランドとの戦いに備え戦力増強の為に正規軍へ迎えいれられる事となりました……そして、皇子二人が視察の為に親衛隊と彼らを連れ皇都を離れた際に……」
その言葉にスレイが反応する。
「『風の骨』!? あの人達が皇子を!?」
その他の面々も『風の骨』というギルドの知識はあるのか黙って話を聞いているが……
「その『風の骨』ってのは?」
唯一、この大陸事情に致命的に詳しくない晴人が口を開く。
それに対して返答したのはアリーシャだ。
「『風の骨』はこの大陸でも有名な暗殺ギルドの名だ。実態は謎に包まれているが、政治家や国の要人、様々な人物の死に関与していると言われている」
「随分と物騒な話だな。けど、なんでそいつらが皇子達を暗殺したってわかるんだ?」
その問いかけにマルクスが答える。
「事件から生き延びたコナン皇子の護衛達の証言です。『風の骨』は当時『風の傭兵団』を名乗り100人で大軍を敗走に追い込むほどの活躍を見せ勇名を馳せました。彼らにより視察中裏切りを受け不意を突かれたレオン皇子と親衛隊は全滅。その仇を討つべくコナン皇子と親衛隊は奮戦し『風の傭兵団』をほぼ壊滅させリーダーである『ブラド』を討ち取ったが僅かな生き残りにコナン皇子も……そして今その生き残りが『風の骨』として暗躍している。事件については情報を規制しましたがローランス皇家内ではその様に……」
「じゃあそいつらにその事を依頼した人間が何者かまではわかっていないって事か?」
「えぇ、それがこの事件の厄介な所です。妃殿下はライト様の母上に疑惑を向け皇帝の座を継いだライト様が王位に相応しくないと主張しています」
「ん? だけど、もう王族は……」
晴人が疑問を口にするとそれに対してリュネットが口を開く。
「はい、ライト様しかおりません……そこで王妃様は自らの弟から養子をとりその子供を王位継承者にしようと画策しています」
この1年間マシドラに代わりライトの側近を務め、実質的にローランスを動かし事情を把握しているリュネットが説明を続ける。
「五年前、兄上達が亡くなられライト陛下が王位を継ぎましたが当時、まだ6歳だった陛下が政治を執り行うのは困難だった為、マシドラ様とマルクス様、白皇騎士団が中心となり政治を支えていました。当時はコナン皇子が無くなった事もあり王妃様の政治への干渉は無かったのですが……」
「最近は違って来たって事?」
「はい、養子をとった2年前から戦争支持派の者達を焚き付け軍部で強い影響力を持つトロワ将軍と結託し大きな派閥を形成し内政への影響力を強めました」
「それをマシドラさんや貴方が抑えていたのですよね?」
ライラのその言葉にリュネットは歯切れが悪そうに答える。
「1年前からは勢いが増し特に顕著でした。おそらくは長年王家を支えていたマシドラ様がいなくなられたのが好機と考えたのでしょう。戦争支持派の主張通りに両軍がぶつかれば被害も甚大、国力も大きく削がれる為、明確な切り札を得るまではハイランドとの決戦は時期尚早と考えた当時の私はそれを抑えようとしました。もっとも私自身、非道な手段に手を出したので偉そうな事は言えませんが……」
歪んではいたもののローランスの繁栄を願っていた当時のリュネットは両国が共倒れになる展開は避けたかった故に、彼女は戦局を変えるほどの超常の力を振るうスレイ達を求めていた。だが政治への影響力を強めた王妃達に対抗すべく民からの支持を集める為に長雨を利用し民を苦しめた事を思い出したのかリュネットの表情が暗くのる。
「君一人の責任では無い、私も君に全てを押し付け逃げ出した。私も同罪だ」
「済まない……そんな大切な時期に白皇騎士団は……」
そんな彼女にマシドラとセルゲイも重々しく謝罪を口にする。彼らもまた彼女を孤独に戦わせた事に負い目を感じているのだろう。その表情からは自責の念が滲みでている。
「気になさらないで下さい。全ては私の責任ですから」
そういって小さく微笑むとリュネットは話を続ける。
「けど何故、貴女はそこまで王妃様達を警戒していらっしゃるんですか?」
そのライラの問いかけにリュネットが返答する。
「そもそも五年前の事件には謎が多いのです。視察自体はコナン皇子の発案でしたし、暗殺に加担したとされる風の傭兵団を正規軍へと迎え入れたのもコナン皇子の提案でした。そして表沙汰にはされていませんが……」
「……何かあったのか?」
「何故か亡くなられた筈のコナン皇子の遺体は発見されていません」
バンッ!!
突如、テーブルを叩く大きな音が部屋中に響き渡り一同がその原因へと視線を向ける。
「ろ、ロゼ……?」
困惑するアリーシャの視線の先には椅子から立ち上がり両手をテーブルに叩きつけたロゼがあった。
そして……
「それ……本当なの……?」
いつもの明るい彼女とは違う重く暗い声がその口から溢れた。
次回でどうせすぐ明らかになる事なのでぶっちゃけますが晴人が転移してくる前のゼスティリア側のシナリオも一部変化してます(風の骨関連)詳細は次回にて
次回こそ早く更新したい……
Aroma Ozoneの水飲みながら頑張ろ