Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜   作:フジ

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遅くなったけど、ドライブ完結。Vシネチェイサー&小説マッハ確定おめでとう!!
そんでもってMovie大戦のあらすじとCMでチェイスとハート達の復活をバラしてくる東映の通常運転っぷりに笑う。

あと、プロトドライブのスーツがリペイントと改造で、超デドヒ(頭部)やらゴルドやらゼロドラになってまたプロトに戻るという酷使っぷりにも笑う。

まぁ、なにが言いたいかと言うとMovie大戦楽しみってことです

では最新話をどうぞ!



16話 疾風のZ/少女の真実 後篇

突如、会話を遮る様に響き渡った女性の悲鳴にアリーシャは即座に反応した。

 

「……今の悲鳴は」

 

「ッ!? この声は、まさか!」

 

アリーシャは、その声に聞き覚えがあった。マーガレットの母親、ポプラのものだ。

 

その事に気がついたと同時にアリーシャは全速力で駆け出し、公園の柵を飛び越え高台から飛び降りる。

 

階段をショートカットし、ドンッ! と勢いよく着地したアリーシャは再び全速力で宿屋にむけ走り出した。

 

路地裏を駆け抜け、曲がり角を左に曲がると大通りに続く道の先にある宿屋ランドグリーズがアリーシャの視界に飛び込んで来るが……

 

「あれは!? 」

 

宿屋の前には二つの影がある。片方は、倒れこみ、恐怖の表情を浮かべるポプラ。そしてもう一つは……

 

 

「憑魔!」

 

 

狼の顔に黒い毛に覆われた細長い手足と鋭い爪を持つ成人男性ほどの体躯を持つ獣人の憑魔がそこにいた。

 

 

『ッ!?』

 

 

叫びを上げたポプラに怯んだのか憑魔を身を翻すとアリーシャの方へと駆けてくる。

 

「来るかっ!……ッ!?」

 

駆け寄ってくる憑魔に身構えるアリーシャだが、次の瞬間、彼女の顔に焦りの感情が浮かぶ。

 

アリーシャと憑魔の間に位置する場所にある曲り角から、街の住人であろう中年の男性が現れたのだ。このままでは男性が憑魔に襲われると判断したアリーシャは迷う事無く晴人から与えられた魔力を発動する。

 

「させるか!」

 

展開された赤い魔法陣を通過し、姿を変えたアリーシャは魔法陣より現れた槍を掴むと男性の前に彼を憑魔から庇うように飛び出し槍を構える。

 

『ッ!?』

 

それを見た憑魔は、左へ身を翻すと、ヴァーグラン森林へと続く門へと駆けていき、鋭い爪を城壁に突き立てると壁をあっさりと駆け上がり、城壁の向こうへと消えてしまった。

 

「逃げた……まるで敵意も無く……あの憑魔……やはり……」

 

戦う素振りすら見せずに去っていく憑魔を見て、アリーシャは何かを確信し、複雑な表情を浮かべた。そんなアリーシャの背後で庇われた男性が驚いた様な声を漏らした。

 

「ま、マルトラン……!? いや、違う…… あなたは一体……」

 

アリーシャの後ろ姿に何かを重ねたのか、動揺する中年の男性の口から発せられた師匠の名にアリーシャは振り返り思わず目を見開く。

 

「(!?……この人は何故、師匠の名前を? いや、今は、その事よりも……)」

 

そこへ、悲鳴を聞いた晴人とサインドがそれぞれ遅れて駆けつける。

 

「アリーシャ、何があったんだ!?」

 

「今の声、一体なにが!?」

 

少しばかり遅れた二人は状況がわからずにアリーシャへ問い掛ける。

 

だが、アリーシャは説明する時間も惜しいとばかりに憑魔の後を追うようにヴァーグラン森林に続く門へと駆けだそうとする。

 

「アリーシャ!? 」

 

「憑魔だ、ハルト! ポプラさんを頼む! 私は逃げた憑魔を追う!」

 

「はい? ちょっ、何があったんだ?! 」

 

「襲撃事件の犯人とマーガレットの居場所がわかったんだ! 時間が無い詳しくは後で説明する!」

 

余裕無く叫ぶアリーシャ。そんな彼女の言葉にサインドが反応する。

 

「マーガレットがどうしたの!? 待って! 私も行くわ!」

 

憑魔を追い駆け出すアリーシャ。サインドもそれに続く。

 

「だから状況がわかんないって!? というかその人誰!? っておい! 待てって! ……行っちまったか」

 

叫ぶ晴人だが、晴人の制止を聞かずにアリーシャは門番の白皇騎士団に話を通し、門を開けさせるとヴァーグラン森林へと駆けて行ってしまい、それを追うサインドもアリーシャに続きヴァーグラン森林に消えていく。

 

「まったく、本当、思い込んだら一直線だな、ウチのお姫様は……」

 

そう言いながら晴人は取り出した指輪をバックルにかざす。

 

【ガルーダ! プリーズ!】

 

音声と共に魔法使いの使い魔であるレッドガルーダが召喚される。

 

「アリーシャを追ってくれ」

 

晴人のその言葉を受け、指輪を装着されたガルーダは返事をするように一鳴きすると身を翻し、城壁を飛び越えて夜の闇へと姿を消して行った。

 

それを確認した晴人は、倒れているポプラへと駆け寄り、傍に屈み、声をかける。

 

「大丈夫か? ポプラさん。 一体、何があったんだ?」

 

外傷は見られないが、錯乱気味に見える彼女をあまり刺激しないように優しく声をかける晴人。だが、ポプラは動揺から、その声が耳に届いていない。

 

「お、狼の化け物が!」

 

「っ!? この人、憑魔が!?」

 

ポプラの口から発せられた言葉に晴人は思わず驚きの声を上げる。ポプラの言葉から察するに彼女には憑魔が見えている様だからだ。

 

サインドからマーガレットについての話を聞いていない晴人は与り知らぬことだが、娘であるマーガレットもまた高い霊応力を持つ事からポプラの家系は元々、高い霊応力を持つ血筋だという事が伺える。しかし、その事を知らない晴人は驚きを隠せない。

 

「……とにかく、今は宿の中へ戻ろう。そうすりゃ安全だ」

 

晴人は、怯えるポプラに気を使い、肩を貸して立ち上がらせると室内へと連れて行こうとする。

 

しかし、その直後にポプラの口から漏れたこの言葉に晴人は思わず動きを止める。

 

「本当に……狼の怪物が……あの子の言っていた事……本当だった……なのに私……嘘だって決めつけて……」

 

意味深なポプラの発言に晴人は思わず、その意味を問う。

 

「あの子? もしかしてマーガレットが何か言っていたのか?」

 

その問いかけにポプラはか細い声で答える。

 

「7日前……あの子が私に言ったんです……」

 

「言ったって、何を?」

 

「それは……」

 

 

 

 

そして、次にポプラの口から放たれた言葉に晴人は思わず驚きに目を見開いた。

 

 

 

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一方、逃げた憑魔を追うアリーシャと、それに続くサインドはラストンベルから続くヴァーグラン森林を北の方角へ向け駆けていた。

 

その道中でアリーシャは追ってきたサインドに今のラストンベルで起こっている事件や、行方不明になったマーガレットについてを、彼女に気を遣いながら説明した。

 

「じゃ、じゃあマーガレットは、街で起こっている憑魔の襲撃事件に関わって行方不明に?」

 

「……はい。マーガレットの行方不明に襲撃事件の憑魔が関わっているのは間違いないと思います」

 

「私が街を離れている内に、そんな事が……」

 

アリーシャの言葉にサインドの表情は曇る。人間との関わり方がわからなくなってしまった今でも、元々は加護天族として長年責務を全うしてきた彼女にとって、憑魔が起こした事件は責任を感じるものなのだ。それに大切な友達であるマーガレットが関わってくれば尚更だろう。

 

「マーガレットが行方不明になってから、もう3日経っている……もしかしたらマーガレットは……」

 

最悪の展開が頭をよぎりサインドの表情がさらに崩れていく。

 

「私が……加護をなくしさえしなければこんな事には……私の所為で……街の人々やマーガレットが……」

 

自責の言葉を零すサインド。そんな彼女にアリーシャは声をかける。

 

「サインド様、今回の事件は様々な負の材料が重なって起きた事です。あまり自分を責めないでください。それに、おそらくですがマーガレットは無事です」

 

どこか確信を持ってマーガレットの無事を告げるアリーシャの言葉にサインドは、その意味を問うように視線を向ける。

 

「それは……どういう……?」

 

「その答えは逃げた憑魔にあります。先を急ぎましょう」

 

「え、ええ……」

 

会話を打ち切り走る速度を上げ、二人はヴァーグラン森林を駆け抜ける。

 

そして、巨大な木々しか見えなかった景色に変化が生じる。

 

「これは……遺跡なのか?」

 

逃げた憑魔を追う二人は森林の中で、人間が作ったと思われる、石造りの柱や壁の残骸が、そこら彼処にある場所へとたどり着いた。

 

「遺跡群……ヴァーグラン森林にはこんな場所があったのか」

 

遥か昔に作られた事を感じさせる風化し、崩れた建造物の数々を見て、アリーシャは、驚きの声をもらす。

 

「『ティンダジェル遺跡群』。用途不明の構造が多くて、近年でも調査の進んでいない謎の多い遺跡よ」

 

「ここがですか? 見た所、崩れた壁や柱しか見当たりませんが、調査が進んでいないというのはどういう?」

 

「この遺跡は……」

 

そして、サインドが言葉を続けようとした瞬間……

 

 

 

ガラッ!

 

 

 

「「ッ!」」

 

 

二人から少し離れた場所にある遺跡の壁の向こうから物音が響いた。

 

「「……」」

 

 

二人は言葉を止め、顔を見合わせると、息を潜めながら物音のした壁へとゆっくり歩みを進めた。

 

 

そして、警戒しながら壁の向こう側へ回り込んだ二人の視線の先には……

 

 

「……いた」

 

 

まるで身を隠すように此方へ背を向けた狼の憑魔がいた。

 

 

「『ルーガルー』。月夜の晩に凶暴化する憑魔よ。一体、どうするのアリーシャ?」

 

憑魔に聞こえないように声を殺しながらサインドはアリーシャへと問いかける。しかし、次の瞬間、アリーシャがとった行動はサインドにとって予想外の物だった。

 

 

「!? アリーシャ! 一体何を!?」

 

驚きの声を上げるサインド。無理もない話だ。何故ならアリーシャは、先ほどまで発動していた魔力による変身を解除し得物である槍も持たずに憑魔に近づいたのだ。

 

しかしアリーシャは落ち着いた態度を崩さずにサインドへ返答する。

 

「大丈夫です。サインド様も落ち着いてあの憑魔を見てください」

 

「? 憑魔を?」

 

アリーシャの言葉を受け、サインドは再びルーガルーへと視線を向ける。

 

そしてその姿にサインドは違和感を覚える。

 

 

見るからに凶暴な出で立ちの、ルーガルーは此方に警戒するどころか、背を向け縮こまるように体を小さくしていた。

 

まるで、何かに怯える小さな子供のように……

 

その姿にサインドの中で、引っかかっていた何かが繋がった。

 

 

「まさか……マーガレットなの?」

 

 

戸惑いながらも彼女の口から発せられた言葉。その言葉に反応するように縮こまっていたルーガルーは振り向き、そして……

 

 

 

「……サインドなの?」

 

 

ルーガルーの口から、その凶悪な外見に似つかわしくない少女の声がこぼれた。

 

「やはり、憑魔の正体はマーガレットだったのか……」

 

「ッ!? とういうことなの?」

 

「おそらく、彼女は、教会の弾圧による被害を受けたのでしょう……。マーガレットは天族の、いえ……友人であるサインド様の存在を教会に利用されることに反発したのです。その結果、一部の信徒から被害を受け穢れが強まり憑魔化が進行して……」

 

「そんな!?」

 

「ですが、まだ彼女は自我を保てています。現状を見た限り憑魔化の進行は初期段階のようです。今なら戦わずとも彼女を救えるはずです」

 

そう言い放ったアリーシャは、マーガレットを刺激しないようにゆっくりと歩み寄り優しい声で彼女に語りかける。

 

「君はマーガレットだね?」

 

「……おねぇちゃん、誰?」

 

かけられた声に怯えながらもマーガレットは、自身の名を呼んだアリーシャに反応を見せる。

 

「私の名は、アリーシャ。先程は済まなかった。武器を向けられて怖かっただろう? 私は、行方不明になっていた君を探してたんだ。君の母上や友人のサインド様が心配している。一緒に街に戻ろう」

 

縮こまる憑魔の傍で屈み込んだアリーシャは憑魔と目を合わせながら、安心させるような声でマーガレットへと言葉をかける。

 

しかし……

 

「無理だよ……。だって……さっきお母さん、私を見て怖がってた」

 

彼女の口から放たれたのは拒絶の言葉だった。

 

「きっと私の事を嫌いになっちゃったんだよ……。私……変な姿になっちゃって……だからサインドだって私の事……怖がっちゃうよ……」

 

「……」

 

母親が自分の事に気付いてくれなかった悲しみ、自身が人ならざる物へとなっていく事への恐怖。そんな負の感情が今の彼女を支配していた。

 

だが……

 

「マーガレット!」

 

「……サインド?」

 

そんな彼女をサインドは抱きしめた。

 

「ごめんなさい。寂しかったわよね……怖かったわよね……私の所為で……本当にごめんなさい……!」

 

紡がれる謝罪の言葉。その言葉には友人としてマーガレットを1人にしてしまった事と、加護天族としての責務を投げ出した事への自責の念が込められていた。

 

「サインド……私の事、怖くないの?」

 

「えぇ、怖くないわ」

 

「もう、何も言わないでいなくならない?」

 

「えぇ、もうそんな事はしない」

 

「……まだ……まだ私と友達でいてくれる?」

 

「えぇ……ッ! 勿論よ。あなたこそ、まだ、私の事を友達だと思ってくれるかしら?」

 

「……うん!」

 

抱きしめ合う二人。そんな二人をアリーシャは優しい表情で見つめていた。側から見れば可笑しな光景かもそれない、それでも二人の間には種族を超えた絆があるようにアリーシャには思えた。そして、目の前の光景こそが、スレイが目指している人と天族の関係の在り方なのだろうとも。

 

だからこそ、二人の絆を守る為にアリーシャは再び魔力を発動させ、その姿を変える。

 

「サインド様、離れていてください。マーガレットの穢れを浄化します」

 

「! ……出来るの? だって、貴女は導師では……」

 

「おっしゃる通り、私は導師ではないですし、私の力……とも言い難い物ですが、確かに可能です。安心してください」

 

疑念を抱いたサインドのに対してハッキリと言い切ったアリーシャ。そんな彼女の言葉にサインドも何かを感じたのか、追求せずにアリーシャの指示に従う。

 

「アリーシャ。マーガレットを……私の友達を助けて」

 

「はい、必ず」

 

その言葉を受け内心で必ず救うと決意し、アリーシャは魔力の制御を行う為に集中すべく瞳を閉じる。

 

それと同時にアリーシャの足元に赤い魔法陣が浮かび上がった。

 

「……おねぇちゃん? 何をするの?」

 

マーガレットは不安そうにアリーシャへと声をかける。

 

「君の姿を元に戻す。そして、家に帰ろう」

 

「私、元にもどれるの!? 本当に!?」

 

アリーシャの言葉に強い反応を見せるマーガレット。だが、その声には依然、不安の色が浮かんでいる。

 

「(不安か……当然だ、彼女はまだ幼い子供なのだから……)」

 

何をされるのかわからないという不安と恐れの入り混じった感情を露わにするマーガレット。そんな彼女を安心させようとアリーシャは口を開く。

 

「大丈夫だ。必ず君を、日常へと連れ戻す」

 

正直に言えばアリーシャ自身も内心には不安を抱えている。現状、魔力の制御が未熟であり、上手くマーガレットを傷つけないように浄化できるのかわからないというプレッシャーが彼女の内心にはあった。それでも彼女は、その不安という影を決してマーガレットに悟られない様に振る舞う。

 

未熟でも、強がりでしかなくても、騎士として、目の前で怯える少女の心を救う為に。

 

「信じてくれ……」

 

「……うん、わかったよ。おねぇちゃん」

 

視線をそらさず、真っ直ぐに言い放たれたその言葉を受けマーガレットは頷き。覚悟を決めたように目を閉じた。

 

そして……

 

「いくぞ!」

 

声とともに放たれた炎が、憑魔と化したマーガレットを包み込む。

 

そして、その炎が消えた跡には……

 

 

「……戻れたの?」

 

狼の憑魔ではなく、惑いの声を零す赤毛の少女が立っていた。

 

「あぁ、良かった……」

 

その光景にサインドは安堵の声をもらす。

 

アリーシャはマーガレットに近づき声をかける。

 

「マーガレット、怪我はないかな?」

 

「うん! ありがとう! 騎士のおねぇちゃん!」

 

満面の笑みで返答するマーガレット。その姿にアリーシャも釣られて笑みを浮かべる。

 

 

「(良かった……協会の司祭の問題が残っていはいるが、一先ずはこれで、行方不明事件と襲撃事件は解決して……)」

 

 

事件の解決に、アリーシャは心中で安堵の息を漏らし……そして、ある今回の事件違和感を覚えた。

 

「(待て、何かおかしくないか?)」

 

アリーシャは、襲撃事件の犯人は、憑魔化し、理性を失ったマーガレットだと思っていた。だが、マーガレットは……

 

「(実際は、マーガレットの憑魔化は初期段階で彼女は意識を保てていた……そんな彼女が、人を襲うだろうか?)」

 

ラストンベルでは、既に複数人の負傷者が出ている。だが、先ほど街の中で誰も傷つける事なく逃亡したマーガレットがそんな事をしたとは考え辛い。

 

「(そうだ……そもそも、マーガレットが行方不明になったのは3日前だ。だが、襲撃事件は7日前から起きている。それに、マーガレットは何故、こんな森の中の遺跡に……)」

 

アリーシャの中に幾つかの疑念を浮かぶ。

 

「済まないマーガレット。幾つか聞きたい事が……」

 

そして、その疑問をマーガレットに尋ねようとした瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガアァァァァァアアア!!』

 

 

巨大な咆哮が森林に響きわたった。

 

 

 

「「なっ!」」

 

その咆哮に驚いたアリーシャとサインドは、その叫びが聞こえた方向へ自然を向ける。

 

そこには……

 

 

「憑魔!?」

 

細身のルーガルーより圧倒的に体格が大きく体長がゆうに3メートルを超えている。狼の獣人憑魔がいた。

 

 

「ッ!? 憑魔『ブリードウルフ』!」

 

サインドが驚きの声を上げるが、ブリードウルフは構わずに此方に向かいその体格には似つかわしくない程のスピードで一気に距離を詰めてくる。

 

「ッ!!」

 

アリーシャは反射的に魔法陣から槍を取り出して構え、迎撃しようとするが……

 

「駄目! やめて、ワック!」

 

何を思ったのか両者の間を遮るようにマーガレットが両手を広げ、ブリードウルフの前に立ちふさがる。

 

「な! なにを!?」

 

その行動に驚愕し一瞬、反応が遅れるアリーシャ。しかしブリードウルフはマーガレットの声に反応することなく、振り上げた右手をマーガレットに叩きつけようとする。巨大な体格に、木の幹のような腕、そしてその腕にある鋭い爪が幼い少女を容易く引き裂ける事など想像に難くない。

 

そして、その攻撃がマーガレットを捉えようとした瞬間……

 

 

 

 

ブオオオォォォォォォン!

 

 

 

鳴り響くバイクのエンジン音と共にブリードウルフの真横からウィリーをきめながら突っ込んできたマシンウィンガーが勢いをそのままに前輪をブリードウルフにぶち当て、その身体を吹き飛ばした。

 

 

ドゴォ!

 

 

 

吹っ飛んだブリードウルフは遺跡の壁にぶち当たり、崩れた壁の下敷きになる。

 

 

「無事か、アリーシャ!」

 

「ハルト!」

 

バイクから飛び降りた晴人はウィザーソードガンをガンモードで構え、吹き飛んだブリードウルフに警戒しながらも、アリーシャ達に歩み寄る。

 

「まったく、説明も無しに飛び出すのは勘弁してくれよ? 追いつくのに時間がかかったぜ」

 

「す、済まない!」

 

飄々とした軽い調子で文句を言う晴人。彼としては軽い冗談混じりのつもりだったのだが、そんな彼にアリーシャは、真面目に謝罪を述べる。

 

「あー、いや、そんな真面目に謝んなくてもいいんだけどさ……別に責めちゃいないさ、憑魔になったマーガレットを見つけて見失うわけにはいかなかったんだろ?」

 

「!! どうして、その事を!?」

 

「あの後、ポプラさんから話を聞いてね。集めた情報と照らし合わせて、マーガレットが憑魔になったんだってわかったのさ。それと……襲撃事件の犯人の正体もね」

 

「襲撃事件の犯人が!? 私は、てっきり、教会の弾圧で憑魔化したマーガレットが……」

 

「その予想は殆ど正解さ。確かにマーガレットは司祭や一部の信徒達に迫害されそうになった。だけど、街の人達全員がその事に何も感じていなかったわけじゃないんだよ」

 

その言葉にサインドが反応する。

 

「それはどういう意味なの?」

 

「ポプラさんが言っていたんだ。マーガレットは天族を利用した司祭の教えを否定して、確かに迫害されそうになったけど、街の人達の多くはマーガレットを庇ってくれたんだってな。そのお陰でマーガレットへの被害は殆ど無かったらしい」

 

「なら、なんでマーガレットは憑魔化しているの?」

 

「その答えが、さっきの憑魔さ……だろ? マーガレット」

 

そう言って晴人はマーガレットへ、問いかける。そんな晴人の言葉を受けて、マーガレットは重い口を開いた。

 

「うん……街の人達は、怖い人から私を庇ってくれて、私は虐められる事はなかったの……だけど、怖い人達はそれが頭に来たみたいで、だから……ワックを……私の飼ってる犬を……」

 

「ッ!! まさか、信徒達は、マーガレットに間接的に報復を!?」

 

「あぁ……連中はマーガレットの飼い犬を虐待したんだ。そして、その結果、その犬は信徒達の悪意の影響で憑魔化……自身を痛めつけた信徒達に復讐したんだ。憑魔が見えるマーガレットは、その事をポプラさんに相談したけど、その時にはワックは行方をくらましていて、ポプラさんはマーガレットの言う事を子供のイタズラか何かと思ってしまったんだよ」

 

「うん、それで私、ワックを探して、三日前に漸くみつけたの……ワックは、まだ私の事をわかってくれて……だからワックが街の人達を傷つけちゃいけないと思って……」

 

「街の外に連れ出したのか……それで行方不明に……」

 

「うん……だけど、ワック……私の事も、どんどんわからなくなっていって……このままじゃ駄目たど思ったけど、どうしたらいいのかわからなくて……私、怖くなって……それでっ!」

 

「その恐怖と不安で憑魔化してしまったのか……」

 

 

幼い彼女にとって、頼れる人が誰もいない状況はまさに極限状態だったのだろう。その孤独と恐怖心が彼女に穢れを生み憑魔にさせたのだ。

 

瞳に涙を溜めながら、辛そうに言葉を漏らすマーガレット。

 

だが……

 

 

 

『グォォオォォオォ!!』

 

 

そんな彼女の悲しみなど知ったことではないというように、崩れた壁を吹き飛ばしブリードウルフが立ち上がり咆哮をあげる。

 

「!! ワック!!」

 

憑魔に対し、マーガレットは必死に呼びかける。

 

 

『グルルル!』

 

 

だが、ブリードウルフは血走った目でマーガレットを睨みつける。その目は紛れも無い獲物を狙う目だ。

 

「ひっ!……そんな、ワック……」

 

正気を失った眼光を向けられ怯えるマーガレット。そんな彼女を庇うように晴人は歩み出る。

 

「心配すんな」

 

「えっ?」

 

 

マーガレットに背を向けながらブリードウルフを見据える晴人は飄々とした態度のまま告げる。

 

「ワックは俺とアリーシャが必ず助ける。そんでさ、さっさと終わらせて、何一つ失わずにお母さんの所に帰ろうぜ」

 

この場に似つかわしく無い緊張感の感じられ無いマイペースな発言。だが、こんな状況で、迷わずそう言えるからこそ、そんな彼の態度がマーガレットの内にある不安を和らげた。

 

一方、そんな晴人の存在にサインドは思わず戸惑いの言葉を漏らす。

 

「貴方……一体……?」

 

 

その言葉を聞いた晴人は不敵に笑い、そして告げる。

 

「俺? ……唯の魔法使いさ」

 

 

【ドライバーオン!】

 

 

「変身!」

 

 

【フレイム! プリーズ! ヒー! ヒー!

ヒーヒーヒー!】

 

 

展開された火の粉をまき散らす赤い魔法陣が体を通過し晴人は、その姿をウィザードへと変える。

 

「いくぜアリーシャ!」

 

「あぁ! サインド様達は離れてください!」

 

 

剣と槍を構えた二人はブリードウルフへ向け一気に肉薄する。

 

『グォオ!』

 

叫び飛び込んで来た二人を迎撃すべく鋭い振るうブリードウルフ。

 

だが二人は寸前でその攻撃をそれぞれが左右に分かれ回避し、攻撃の隙をつき飛び上がり落下の勢いを利用し強力な斬撃と突きを放つ。

 

「「ハァッ!」」

 

だが、敵も一筋縄ではいかなかった。

 

『ガァァア!』

 

「なっ!?」

 

「くっ!」

 

二人の攻撃は素早く引き戻された両腕によって受け止められた。二人の攻撃はブリードウルフの腕に食い込み傷を付けはしたものの、傷は浅い。ブリードウルフの筋肉はまるで鎧の様に硬く、二人の攻撃は骨にすら達しなかったのだ。

 

『グォォオ!』

 

「うぉ!?」

 

「くぅっ!」

 

ブリードウルフはそのまま武器を止めた腕を振り回し、ウィザード達を吹き飛ばす。

 

ウィザードはローブを翻し空中で体制を立て直し着地するが、逃がさ無いとばかりに、巨大には似つかわしく無いスピードで肉薄してきたブリードウルフがウィザードへフルスイングのアッパーを放つ。

 

「くっ!」

 

ドガァン! ギリギリで横にアッパーを回避したウィザードだが、背後にあった遺跡の壁はブリードウルフの一撃と轟音を立て崩れ去った。

 

「パワーもスピードを並みじゃないってか!」

 

悪態をつくウィザード。そこにアリーシャから声がかかる。

 

「離れろハルト!」

 

足元に赤い魔法陣を展開したアリーシャの言葉。その意味を理解したウィザードは後方に跳躍し距離を取る。

 

 

「我が火は爆ぜる魔炎! バーンストライク!」

 

 

アリーシャの詠唱と共にブリードウルフの頭上から3発の灼火弾が降り注ぐ。

 

 

ドガァァァァン! 連続し鳴り響く爆発音。

 

ライラの戦闘をみた記憶からアリーシャが再現した天響術は間違いなく全弾直撃した。

 

だが……

 

 

『グォオォオオ!』

 

「なっ!? あれを受けても大きなダメージにはならないのか!?」

 

煙の晴れた先には依然健在のブリードウルフの姿があった。

 

体の至る箇所が爆炎により焼けているが、それでもダメージは大きくない。

 

「タフさもかなりのもんだなコリャ……」

 

 

さて、どうしかけるべきかと内心で思案するウィザード。そんな彼に突如声がかかる。

 

 

「ブリードウルフは、パワーとスピードに秀でた憑魔よ! 物理攻撃と火、風、水の3属性にも耐性を持っているわ! 」

 

 

マーガレットを連れ距離を取っていたサインドからウィザード達へブリードウルフの情報が知らされる。

 

長い年月を生き、憑魔と相対してきた天族だからこそ知り得る的確なアドバイスは憑魔の知識に乏しい二人にとっては重要な情報になる、

 

「!! ハルト!」

 

「わかってるさ。それならコイツだ!」

 

 

【ランド! プリーズ! ドッドッドッドドドン! ドン! ドンドンドン!】

 

 

サインドのアドバイスを活かし地属性のランドスタイルへと姿を変えた二人。右手の指輪を交換しながら駆け寄ってきたアリーシャに声をかける。

 

「アリーシャ。俺がアイツの攻撃を受け止める。その隙をついてキツイのお見舞いしてやれ」

 

「……大丈夫なのかハルト? いくら力が増す地の神衣でも、あの憑魔の攻撃を受け止めるのは簡単ではないぞ?」

 

「ま、一人(・・)じゃ厳しいだろうな。けど大丈夫さ、手はある」

 

「……わかった。君を信じるよ」

 

ウィザードの言葉に頷いたアリーシャはウィザードの背後に下がると槍を構え意識を集中する。

 

 

『グォォオォォオォ!』

 

 

雄叫びをあげ、姿勢を低くしたブリードウルフは4本の手足で地面を蹴り弾丸の様にウィザードへと突撃する。間合いに飛び込んだブリードウルフの両腕の鋭い爪がウィザードを切り裂くべく振るわれるが……

 

 

 

【コピー!プリーズ!】

 

 

『ガァア!?』

 

鳴り響いた音声。それに少し遅れて、ブリードウルフから困惑した様な叫びが漏れた。

 

「「悪いね、二人掛かりで止めさせてもらったぜ」」

 

弾丸の様に飛び込んで振るわれたブリードウルフの両手の攻撃は真正面からガッシリと受け止められていた。

 

ブリードウルフの眼前に立つ全く同じポーズをとった『二人の』ウィザードによってだ。

 

「「ハァッ!」」

 

 

ブリードウルフの爪を止めたウィザーソードガンを二人のウィザード勢いよく押し返す。

 

自身と同じ動きをする分身を生み出すコピーの魔法により、ブリードウルフに隙が生じた。

 

『グォオ!?』

 

体制を崩すブリードウルフ。そこに追撃とばかりに二人のウィザードの間を駆け抜け飛び込んだアリーシャの一撃が炸裂する。

 

 

「裂震天衝!」

 

下から上へと振るわれる槍と共にブリードウルフの足元から噴き出した地属性の魔力がその巨大を吹き飛ばす。

 

『グォォオォォオォ!!』

 

大ダメージを受けブリードウルフは雄叫びをあげる。

 

二人は一気に決着をつけるべく畳み掛けようとするが……

 

 

 

『ガアァァァァァァア!!!!!』

 

 

「なに!?」

 

「くっ! これは!」

 

 

ブリードウルフの巨大な雄叫びと共にあたりの一帯の空気が変わる。

 

淀んだ空気と禍々しさの充満した空間。穢れの領域へと……

 

 

「穢れの領域!? オイオイ、そこまで穢れを溜め込んでたのかよ!」

 

嘗てのヘルダルフの様に領域を展開した事にウィザードは驚きの声を漏らす。

 

「くっ! だが、ヘルダルフの領域ほどではない。多少の動き辛さは感じるが戦闘に問題は無い! ハルト、一気に決めよう!」

 

そう言い放ちアリーシャは足元に黄色い魔法陣を展開する。

 

「赤土、目覚める! ロックランス!」

 

アリーシャの叫びと同時にブリードウルフの周囲に地面から生えた岩槍が展開され檻の様にその逃げ場を塞ぐ。

 

【チョーイイネ! キックストライク! サイコー!】

 

続いてトドメを決めるべくウィザードが指輪をベルトにかざす。

 

 

右足に展開された黄色い魔法陣により足に収束した地属性の魔力を纏いローンダートを決め空中に舞い上がるウィザード。

 

更に空中で交換した指輪をベルトにかざす。

 

 

【ドリル!プリーズ!】

 

魔力による高速回転により貫通力を増したストライクウィザードが空中からブリードウルフに向け一直線に突撃する

 

 

「タアァァァァァ!」

 

 

『グォォオォォオォ!!』

 

叫びと共に岩槍の檻ごとブリードウルフを貫いたウィザードは華麗に着地を決める。

 

背後では黄色い魔法陣に包まれ最後の雄叫びをあげたブリードウルフが爆発し、その身に宿った穢れを消滅させた。同時に穢れの領域も消失する。

 

そして、ブリードウルフがいた場所には意識を失った犬が倒れていた。

 

 

「よし、これで……」

 

 

「終わった」……とアリーシャが安堵の声を漏らそうとした。

 

 

 

だが……

 

 

 

 

「あ、あ、アァァァァァァア!!」

 

 

「サインド!! とうしたの!?」

 

 

 

 

苦しむサインドの声とマーガレットの叫びにその言葉は遮られる。

 

「なっ!? まさか、今の穢れの領域で!?」

 

「ッ!! まずい! 離れろマーガレット!!」

 

完全に加護を失った土地で穢れに耐性の無い天族が穢れの領域に巻き込まれる事が何を指すのか……それが今アリーシャ達の目の前で引き起こされる。

 

 

「に、げ、て マーガレ……アァァァァァァア!!」

 

 

その叫び共に噴出した穢れにサインドの姿が消える。

 

そして、その果てに現れたものは……

 

 

「!? あれはまさか……」

 

アリーシャの声が震える。

 

それもしょうが無い事だ。

 

サインドが姿を変えた憑魔は先日の戦場でみたトカゲ人間であるリザードマンに近い。

 

だが、その雰囲気や纏う圧力はまるで違う。

 

全身に纏う黒い鱗。

 

頭部から前方に伸びる禍々しい二本の角。

 

背から生えた漆黒翼。

 

大蛇の様にしなる強靭な尻尾。

 

鋭く光る牙と爪。

 

その手に掴む巨大な剣と盾。

 

 

 

 

 

リザードマン等とは一線を画した存在。龍と人の狭間のような姿をした憑魔がそこにいた。

 

 

「さ、サインド?」

 

怯えながらも、マーガレットはサインドに語りかける。その声には友達の身を案じる純粋な感情が込められていた。

 

だが……

 

 

ガチャリ

 

 

無情にもサインドその声には反応することなくその右手に持った大剣を振り上げる。

 

「ッ!! させるかよ!!」

 

いち早く反応したウィザードはガンモードに切り替えたウィザーソードガンを構え牽制しようとするが……

 

 

 

ガガガガガガガガ!!

 

 

『グォオ……!』

 

 

銃撃よりも早く何者かによって放たれたムチの様な攻撃が憑魔に叩き込まれ怯ませる。

 

 

「!? 今の攻撃は!?」

 

驚き、攻撃が放たれた場所にアリーシャが視線を向ける。

 

其処には、一人の男が立っていた。

 

 

「やれやれ……嫌な風を感じて追って来てみたらこれかよ……あまり、無駄弾は使いたくなかったんだが……」

 

その男はえらく風変わりな格好をしていた。

 

下半身には黒いズボンとブーツを履き白い空のホルスターを装備している。

 

上半身には緑の羽の付いた首飾りと両手首に巻かれたケース付きのベルト以外何も着ておらず大柄の体格に見合った鍛えられた肉体を晒している。

 

褐色の肌と対照的な腰まで伸びる白い長髪。同様に体には刺青のような白いラインが何本も描かれている。

 

両手には先程のムチのような攻撃の正体であろうペンデュラムが巻きついている。

 

 

「(あの雰囲気……天族の方なのか?)」

 

 

憑魔を見てまるで動揺しないその態度にアリーシャは男が天族であると気づく。

 

 

そして、現れた男はズボンの後ろにねじ込まれていた『何かを』取り出した。

 

 

「(あれは?……ハルトの使っている武器に似ているが……?)」

 

現れた男が取り出した物は黒い銃身に白い十字架の装飾が成されたハンドガンタイプの拳銃だった。

 

グリンウッド大陸では見かけない武器の存在にアリーシャが困惑する。

 

 

そして、男は何を考えているのか取り出した拳銃をクルクルと手の上で弄び自らのこめかみに銃口を突きつけた。

 

「ま……出くわしちまったんならしょうがねぇ。このザビーダお兄さんがひと思いに楽にしてやるよ」

 

攻撃的な笑みを浮かべ男は引き金を引く。

 

 

ダァン!!

 

 

鳴り響く銃声。

 

 

次の瞬間、爆発的な力の本流が男から放たれた。

 




ゴースト一話の海辺での仙人バリアーで何処ぞの天秤の退場シーンを思い出した人はオーディーンのファイナルベントでCM突入の刑な


以下、Vシネチェイサー記念茶番

『シンゴウアックスについて』

カイザギア「奪われた挙句、元の持ち主に致命所負わせるとか……」

サソードゼクター「引くわー」

キバットバットⅡ世「恥を知れ」

メロンエナジー「最終的に生きてたからセーフだよね?(震え声)」


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