Zestiria×Wizard 〜瞳にうつる希望〜   作:フジ

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【朗報】 漫画版ゼスティリア面白い
結構アレンジされていて面白いと耳にしていた所に、感想欄でも勧められたので買ってみたら良い感じだった。細かいフォローやテンポ重視の改変がされていて好評価です。

やっぱアリーシャ離脱前は良い感じだったなぁ……

今回も引き続き、会話回。早く話を進めたいのに人間サイドのキャラ描写をしないと今後に支障をきたすというdilemmaが終わらん模様

因みに原作では名無しだったアリーシャのメイドさんには、今作では勝手に名前をつけています。というかギャグ要員に魔改造されています。名前の元ネタはテイルズの過去作から引っ張ってきてたり……

ではどうぞ!


第2章 誓いの風
12話 恩師 前篇


欝蒼と生い茂る巨大な木々がそびえ立つ広大な森林地帯。

 

時間は既に昼を大きく過ぎ、夕暮れ時を目前としている。

 

辺りに人の気配は無く、様々な動物達が動き回っている森の、その片隅にある洞窟の入り口から突如、人間の男女の声が響いた。

 

「漸く到着か……ジメジメした暗い場所は暫く遠慮したいもんだな」

 

「確かに……だが、計画通り、『ヴァーグラン森林』には到着した。これなら夜までには『ラストンベル』に到着できる」

 

「流石は師団長様だ。まさか、こんな道があるのを知っているなんてな」

 

言葉を交わしながら洞窟の中から二つの人影が現れる。エメラルドを思わせる緑色の仮面とアーマーを身につけた戦士と同じく緑を基調とした騎士を思わせる服を纏いエメラルドのような宝石の装飾が施された籠手と具足をした少女だ。

 

二人は洞窟の前を流れる川を越える。そして足元に緑色の魔方陣が展開され二人の姿が一瞬、光輝いたかと思うと、光の収まったその場には、赤いズボンと黒い上着を纏った茶髪の青年と、白と深緑を基調とした貴族のお嬢様のような服を着た少女が立っていた。

 

 

「しかし、この力には感謝しなくては。やはり戦う時は騎士の服の方が動き易い」

 

「魔力を分け与えてる俺が言うのもなんだけど、どういう仕組みなんだろうな? まぁ、スレイ達も神衣の時は姿を変えてたし、あんま深く考えない方がいいか……」

 

 

服装が変化する事に嬉しそうな反応を見せた少女、アリーシャに対して青年、操真晴人は、少し考え込むような仕草を見せるが、すぐにその考えを、何処かに投げやり、右手の指輪をバックルへと翳す。

 

【コネクト! プリーズ!】

 

鳴り響く音声と共に展開される赤い魔方陣。そこに手を突っ込み、愛車であるマシンウインガーを取り出した晴人はそれに跨る。

 

「洞窟の中と違って、この森は道も開けているし、バイクでいけるだろ。後ろに乗ってくれアリーシャ。疲れたし、日が沈む前に『ラストンベル』に着いて、宿で休もう」

 

「わかったよハルト。正直、私も少し疲れてしまった。この先の事を考えると、今日はしっかり休息を取りたいしね」

 

「まったくだ。厳しい道と聞いてたけど、あんだけ憑魔に出くわすなんて思わなかったぜ……。冠被ったコウモリやら、やたらと強いのもいるし……」

 

道中での出来事を思い出したのか、晴人は面倒そうな表情を浮かべる。そんな彼の態度に苦笑しつつアリーシャはバイクの後部シートに跨り、晴人に振り落とされないよう晴人に掴まる。

 

それを確認した晴人は、バイクのエンジンをかけ、目的地を目指し、愛車を走らせた。

 

風を切り、森林を駆け抜けていく二人。

そんな中、晴人は、レディレイクを出発した数日前の出来事をを思い返していた。

 

 

__________________________________

 

 

 

〜数日前〜

 

 

朝日に燦々と照らされた湖上の王都レディレイク。その上層に位置する貴族街の一角にある屋敷のテラスに操真晴人はいた。

 

「アリーシャ様……王宮に呼び出されたと聞きましたが、本当に大丈夫なのでしょうか……」

 

「 心配なのはわかるけどさ、あまり気にし過ぎたらアンタの身が持たないぜ? 師団長さんが上手くやってくれるって言ったんだ。ここは信じて待とう。それに、もしもの時の為に手は打ってある。本当にヤバい時は俺が何とかするさ」

 

メイド服を纏い、肩まである茶色の髪を後ろで二つに束ねた女性。年齢は、おそらく20代前半といった所で、晴人と同じか、少し下辺りだろう。

 

彼女は先程から落ち着きのない様子で度々、言葉を零し、テラスを行ったり来たりしている。

 

そんな彼女を見かねた晴人は、彼女を安心させるべく声をかけたのだが……

 

 

「……私は落ち着いています。そうやって優しく声をかけて取り入ろうとしても無駄ですから」

 

「えぇ……」

 

ツーンとした態度で晴人を突き放すメイド。そんな彼女の態度に晴人は思わず、戸惑いの声を漏らす。

 

「なぁ、アリシアちゃん。俺は別に君やアリーシャに取り入ってこの家をどうこうとかは考えていないんだけど……」

 

そんな晴人の言葉を聞いてもメイドの女性、『アリシア』は胡散臭そうな物を見る態度を変えず晴人をジト目で見つめる。

 

「口ではどうとでも言えます……それと! 気安く、アリシアちゃんと呼ばないで下さい!」

 

「……まぁ、それは置いておくとして「置いておかないでください!」 ……いや、だって俺については、さっきアリーシャが説明してくれたろ? 正直、そんなぞんざいな扱いをされると傷付くんだけど……」

 

「いきなり連れて来られて『彼は魔法使いなんだ』と紹介されても信じられる筈無いでしょう!? アリーシャ様が悪い虫に騙されているとしか思えません!」

 

最早、完全にメイドとしての言葉遣いを投げ捨てたアリシアは語気を強めて、自身の思いを口にする。まぁ、それもしょうがないといえばしょうがないだろう。

 

アリシア・コンバティールは幼い頃から奉公でディフダ家に仕えているメイドであり、現在、ディフダ家を継いでいるアリーシャと屋敷の中では最も親しい存在だ。幼い頃よりディフダ家で働き、比較的、年齢も近かった彼女はアリーシャにとって数少ない、心を許せる人間である。

 

ここ最近、国を憂い、単身で奔走し無茶を繰り返すアリーシャを心配していた彼女だったが、そんな彼女に昨日、新たな悩みの種が現れた。

 

それが、今、彼女の眼前で椅子に腰掛けて来客用のお持て成しとして出したドーナッツを食べている男、操真晴人だった。

 

「(アリーシャ様が、疫病の蔓延したマーリンドから無事帰ってきたと喜ぼうとしたら、得体の知れない、軽そうな男を連れて戻って来て! いきなり魔法使い、なんて意味のわからない事を言われて! 戸惑ってる内にアリーシャ様は騎士団のランドン師団長と一緒に王宮に行ってしまって!終いには、その男は呑気にドーナッツ食べてて! しかもプレーンシュガー以外は、全く食べようとしない! 正直、意味がわからないわ!)」

 

事態に置いてきぼりにされ混乱の極致に陥っているアリシア。そんな彼女に晴人は戸惑いながらも口を開く。

 

 

「いや、本当のことなんだけどなぁ……」

 

晴人は、困ったという風に頭を掻く。

 

「ふん! 本当に魔法使いだというのなら、お得意の魔法とやらを見せて欲しいものです……もっとも、本当にできるのならですけ【エクステンド! プリーズ!】……へ?」

 

聞きなれない音声に言葉を遮られたアリシアは、間の抜けた声を漏らし、自身の眼前で起きた光景に思わず目を見開いた。

 

「これで信じてくれる?」

 

広いテラスにいるアリシアと晴人の距離は約6メートル程離れていた。普通に考えれば触れる事など出来ない距離である。だが、展開された赤い魔方陣に通された晴人の手は、まるで大蛇のようにウネウネとあり得ない長さに伸びアリシアのカチューシャを掴むと元の長さへと戻っていった。

 

「な、なぁ!? 」

 

イタズラが成功した子供のような笑みを浮かべ、手に持ったカチューシャを見せる晴人にアリシアは、開いた口が塞がらないというように驚愕の反応を見せた。

 

 

「う、腕が伸び……! も、もしや、怪人の類!?」

 

「やべ……魔法のチョイス間違ったかも」

 

 

少しばかりイタズラ気分で見せた魔法に、晴人に対して警戒気味だったメイドさんは、さらに警戒を強めてしまい、晴人は、しまったというような表情を浮かべた。

 

「あ、貴方!! やはり、怪しいです!! アリーシャ様に近づいて何を企んでいるんですか、このウネウネ男!」

 

「だから、魔法使いだって……」

 

貴族街に似つかわしくない、騒がしいやりとりを繰り広げる二人。

 

しかし、そのやりとりを遮る様に別の人物から二人に声がかけられた。

 

「静かにしろ。屋敷の外まで響いているぞ」

 

「アリシア……ハルトに何をしているんだ」

 

そこには、呆れたような表情を浮かべたランドンと表情を若干引き攣らせたアリーシャが立っていた。

 

「お? どうやら上手くいったみた「アリーシャ様! よくぞ無事で!」…えぇ……」

 

晴人の言葉を遮り、先程までの晴人への態度とは真逆の姿を見せるアリシアに晴人は軽く引きながら黙り込む。

 

「心配をかけて済まないアリシア、ハルト」

 

「いや、無事で何よりだよ。流石、師団長さん、上手くいったんだな」

 

「とりあえずは……だがな」

 

「謙遜すんなよ。アンタのお陰で荒事にならなくて済んだんだ。もしもの為の保険も使わないで済むなら越した事は無かったしな」

 

そう言って晴人が視線を向けた先には、アリーシャの肩にとまった赤い鳥、魔法使いの使い魔であるプラモンスター『レッドガルーダ』がいた。

 

「もし、アリーシャ姫がバルトロ大臣に捕らえられるような事になったら、その使い魔とやらでお前に報せるか……便利な物だな、魔法というのは」

 

「ま、それなりにね」

 

ガルーダを見るランドンは改めて晴人の使う、魔法に関心する。

 

 

「それで? 無事、戻ってきた事だし早速、今後の事について話し合うのか?」

 

「あぁ、そのつもりで来た。だが……」

 

「ん? どうかしたか?」

 

「まずは、アレを何とかする必要があるな……」

 

「アレって……?」

 

晴人は首を傾げ、ランドンの視線の先へと視線を向ける。

 

そこには……

 

 

「アリーシャ様! やはり、あの男は胡散臭いです! さ、先程、私の前で妙な力を……!」

 

「いや、アリシア……だから、彼は魔法使いだと説明しただろう?」

 

「アリーシャ様は騙されているんです! あの男は魔法使いではなく、ウネウネ怪人です! 間違いありません!」

 

「う、ウネウネ…怪…人……?」

 

「はい! 腕を伸ばしてウネウネさせていました!」

 

「そ、それはまだ見た事が無いが……きっと、それも彼の魔法なんだろう」

 

アリシアの勢いに押され気味になるアリーシャ。

 

「甘いです。アリーシャ様は、男性経験が無いから、良い様に誤魔化されているんです! あの様な、チャラチャラ、ウネウネした言動の挙句に、私の力作ドーナッツを全てスルーしてプレーンシュガーしか食べない男はですね! 絶対、裏で何かを企んでいます!」

 

「明らかに、私情が混じっていないか? はぁ……少し目を離した隙にアリシアの中のハルトはどんなイメージになっているんだ……」

 

暴走して脳内で勝手な晴人のイメージを作り上げていくアリシアにアリーシャは思わず溜息をつく。

 

因みにアリシアの脳内では既に晴人のイメージは両腕をウネウネさせながら「可愛くて強いのね! 嫌いじゃないわ!」とアリーシャに迫る、何処ぞのオカマ怪人と化していたりする。本人が知れば精神的な大ダメージ避けられないだろう。

 

そんな二人のやり取りを見て、晴人は思わず素で立ち尽くしてしまう。

 

「話が始められん、早く止めて来い魔法使い。お前の問題だろう」

 

「……なんか、今回俺の扱い酷くね?」

 

 

ボヤいた晴人の言葉は誰に拾われることなく虚しく掻き消えた。

 

__________________________________

 

 

「それで? 結局のトコ、どうなったんだ?」

 

暫くし、何とかテンションの暴走したメイドを止めた晴人達はテラスに用意された椅子に座りながら、今後についての話を始めた。

 

王宮へ行かなかった晴人は、ランドンがどの様に話を纏めたのか気になり問いかける。

 

「まず、アリーシャ姫の脱走に関しては、私がグレイブガンド盆地に連れて来いと命令したという事で事態を収めた。導師が、姫が捕らえられた事を本当か疑い此方の指示に従おうとしない為の緊急措置という建前でな」

 

「あの用心深そうな大臣が信じたのか?」

 

「憑魔化した兵士達が行方不明のままだったなら私自身が処罰され、それどころではなかっただろうが、結果的に、お前や導師の力で今回の戦いは被害も少なく戦果を得る事ができたからな……結果を得た以上、ある程度の誤魔化しは効く」

 

「なるほどね……なら、スレイ達の事は、どうしたんだ?」

 

「導師は此方の命令で敗走するローランス軍を追撃中、敵軍の思わぬ反撃を受け、その際に消息を絶ち生死不明と説明した。これに関しては大臣は特に驚いていなかったな」

 

「最初から大臣はスレイを長期的に利用するのは無理だと考えていたんだと思う。私を人質にしてスレイの力を利用するだけ利用して使い潰すつもりだったんだ……」

 

バルトロの計画にアリーシャは嫌悪感を隠そうともせず、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

「だが、導師を使い潰し自身の地位を脅かす存在が減ったと考えた大臣は姫に対しての警戒を緩めた。これはチャンスだ。アリーシャ姫が王国騎士団に所属している事を理由に私は大臣にアリーシャ姫を私の直属の部下にすると提案した」

 

「アリーシャが極秘にローランスへ向かえるようにってことか? 大臣には疑われなかったかのか?」

 

「姫には、私の元でマーリンドの時の様な危険な役割を率先して担って貰うと言ったら大臣は喜んで姫が私の部下となることを許可した。そうでなければ、嫌がらせとしてグリフレット橋の修復の現場指揮を押し付けて姫を蚊帳の外にするつもりだったようだが……」

 

その言葉に晴人は顔を顰める。

 

「嫌な性格してんな、あの大臣……」

 

「私も大臣の事をとやかく言えた立場では無いがな……実際、姫を危険な場所に送り込む事になるのは嘘ではないからな」

 

自分の行いを自嘲するランドンだが、アリーシャはその言葉を否定するように声をかける。

 

「師団長、気になさらないでください。貴方のお陰で私はハイランドの為に、動く事ができる。寧ろ感謝しています」

 

その言葉を聞いたランドンは、一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を戻すと話を再開する。

 

「……話を戻すぞ。アリーシャ姫とソーマハルトには、ローランスの皇都『ペンドラゴ』へと向かって貰う事になる。最初の問題は、どう国境を越えるかだが……」

 

「肝心の国境であるグレイブガンド盆地は両軍が警戒し緊張状態……検問を通過できるのは、一部の通行許可を貰っている商隊くらいですね……」

 

ランドンの言葉を受け、アリーシャは渋い顔をする。

 

「魔法の力なら突破出来ない訳じゃないけど、そもそも国境の近くでアリーシャを目撃される事、自体が得策じゃないからな……正体がバレればローランスには入れないし、ハイランド兵に目撃されて大臣に知られたら、何かしら手を打たれかねないな」

 

目的を果たす為に、ローランスへの進入に関しては、可能な限り、安全な策を使うべきだと考える晴人はグレイブガンド盆地からのローランスへの進入は難しいと感じていた。

 

両軍が警戒状態の上、その両方の兵にアリーシャの事をバレない様にするというは正直厳しい。

 

「(俺の魔法で隠密行動は難しいよなぁ……『仁藤』の奴の魔法ならいけたかもしれないけど……)」

 

最早、腐れ縁となった戦友の魔法の一つである、姿を消す魔法を思い出しながら晴人はどうしたものかと考え込む。

 

「(仁藤に返し損なった『アレ』も、あの戦場レベルの長距離の移動は厳しいし……となると)……師団長さん、ローランスに進入する別の道は無いのか?」

 

そう問いかけた晴人の言葉にランドンは頷くと、説明を続ける。

 

「あるにはある……マーリンドの近くにある『ボールス遺跡』からローランス領である『ヴァーグラン森林』を繋ぐ洞窟……『ラモラック洞穴』だ」

 

そう言ってランドンは机の上に地図を広げ、わかりやすく赤い線を引く。

 

「ボールス遺跡にそのような道があったのですか!」

 

嘗て、スレイ達と共にマーリンドの加護復活の為にボールス遺跡を訪れた事のあるアリーシャは驚きの声をあげる。

 

「昔は、グレイブガンド盆地以外にハイランドとローランスを繋ぐ貴重なルートだったからな……だが、元々、大軍での進行が不可能な程、道が狭く、険しかった事に加え、近年では地震による落石で道が塞がれ通行不能になってしまった。普通の人間では通る事は難しいだろう。だが……」

 

「魔法があれば話は別って訳か……」

 

「そういう事だ」

 

ランドンは晴人の言葉に頷くと話し続ける。

 

「『ラモラック洞穴』と『ヴァーグラン森林』を越えればローランスの街『ラストンベル』に辿り着く。街に入るには当然、検問を通過する必要があるが、それに関しては、既に手を打ってある」

 

「それは、どのような?」

 

「マーリンドを発つ前に私の直属の部下に指示を出し、捕虜になっていたローランス兵の一部を解放した。その中には、あの白皇騎士団の男も混じっている」

 

「なるほどな……あの騎士さんに手を貸して貰うって訳か」

 

「そうだ。『ラストンベル』の検問は現在、白皇騎士団が主導で行っているらしい。あの男の協力が得られた今、進入するには好都合という訳だ」

 

「そして、その後は白皇騎士団と協力し皇都『ペンドラゴ』を目指す……という訳ですね?」

 

「簡単に言えばそうなるだろう。だが、実際は、そう簡単に行くとは思えん。姫には、充分に注意して行動していただきたい」

 

「はい、わかっています」

 

険しい顔で告げるランドンにアリーシャも真剣な表情で応える。なにせ、今回の潜入は一歩間違えばアリーシャはハイランドが送り込んだスパイとして捕らえられ、両国の関係は更に悪化し兼ねないのだ。そうなってしまえばバルトロや災禍の顕主の思う壺である。

 

「私の方は、直属の部下や木立の傭兵団と共に、可能な限り、ローランス軍との激突を抑える様に立ち回り、時間を稼ぐ。だが、このままでは再び、両軍が大規模の激突をするのは、避けられないだろう。可能な限り早く、停戦の実現の為に必要な一定の成果を得る必要がある事をお忘れないでいただきたい」

 

 

その言葉に頷くアリーシャ。それを見たランドンは話は、此処までだという様に立ち上がる。

 

「大臣に怪しまれない様に、レディレイクからボールス遺跡までの道中は、信用の置ける、私の部下達を同行させる。それなら、大臣に情報が漏れることは無いだろう。そこから先は姫とソーマハルトに任せる事になる。出発は明朝だ。準備を済ませたら、今日は体を休めておいた方がいい。それと、マーリンドの加護天族とやらを祀る人間に関しては、私が聖堂のブルーノ司祭に宛があるか尋ねておく、心配は無用だ」

 

 

必要な連絡事項を告げランドンはディフダ家の門へ向け歩みを進める。そんな彼の背にアリーシャは言葉を投げかける。

 

「師団長! ご協力ありがとうございます!」

 

ランドンはその言葉に振り返りはしなかった。歩みを止め、視線をアリーシャに向ける事なく彼は告げる。

 

「ソーマハルト! ……姫を頼むぞ」

 

 

その言葉にランドンがどんな感情を込めたのかはわからない。

 

だが、晴人は茶化す事なくその言葉をうけとめた。

 

「あぁ、任せてくれ。アリーシャは必ず無事に連れ帰る」

 

その言葉を聞いたランドンは、やはり振り返る事なく、無言のまま立ち去っていく。

 

しかし、アリーシャ達から見えない彼の顔には、柔らかな笑みが僅かに浮かんでいた。

 

 

__________________________________

 

 

ランドンが去るとアリーシャは早速、旅の準備に取り掛かった。

 

身分を隠しての旅という事で、普段の騎士服は着れないという事から、アリシアに相談し、結果的に公務用である典型的なお嬢様が着る様な服が選ばれ、晴人も先ほど屋敷の中でそれを見せて貰った。

 

アリーシャはもう少し地味な方がいいと言ったが、アリシアからの猛烈な反対に止む無く断念。他の準備に取り掛かり、晴人はアリシアから「邪魔なので、外で待っていてくださいね☆」と攻撃的な笑みで再びテラスへと追い出された。

 

「結構、強引だよなあの子……まぁ、あの後、追加のドーナッツも持ってきてくれたし悪い子じゃないんだろうけど」

 

 

そう言って晴人は椅子に座りアリーシャを待ちながらテーブルの上のドーナッツを手に取り、頬張る。

 

因みに、彼が手に取ったドーナッツはアリシアが先程、力作をスルーされた事を根に持ち、リベンジで持ってきた様々なアレンジされた気合の入ったドーナッツではなく、やはりシンプルなプレーンシュガーのみであり、この後、更にアリシアの心に火を付けることになるのだが、それはまた別の話。

 

 

「うめぇ……店長に勝るとも劣らない味だ」

 

 

元の世界で、訪れる度に新作ドーナッツを勧めてくる、行きつけのドーナッツ販売店の店長の事を思い出しながらドーナッツを食べる晴人。そんな彼に突如、声がかけられた。

 

「君は……アリーシャの友人か?」

 

「ん? アンタは?」

 

晴人が視線を向けた先には1人の女性が立っていた。

 

外見の年齢は30前後といった所か、モデルのようなスタイルに白いズボンと胸元の大きく開いた青を基調としたドレスを思わせる長い裾の騎士服を纏い。対象的な燻んだ赤い髪は、長い後髪を青い花飾りの付いた黒いリボンで束ね、前髪は顔の右側を隠すような特徴的なものとなっている。

 

表情は凛々しく、一般的な女性とは違う雰囲気をもっており、事実、その証拠に彼女の手足には銀色に輝く籠手と具足が装着されていた。

 

そんな彼女を見て、晴人は何故か彼女の雰囲気にアリーシャと重なるものを感じた。

 

「ああ、済まない。まずは名乗るべきだな。私の名は『マルトラン』。ハイランド王国の軍顧問にして、騎士団の教導騎士を務めている者だ」

 




『メイドの名前がアリーシャと紛らわしい』と思った奴と、マルトランに『BBA無理すんな』と思った奴は、G4、カイザ、ダークキバ、ヨモツヘグリのどれかに変身の刑な

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