セシリアが背後にざわめきを感じ振り返ると、そこにはミイラが立っていた。
「ホントに何者ですのっ!?」
セシリアが驚きのあまり悲鳴のような声を上げる。セシリアの目に映ったのは、複数のタオルを体に巻き付けて全身を覆った人物だった。タオルが顔まで覆っているおり、そのうえミイラ自身が口を閉ざしているので何者なのか分からない。しかし、答えはすぐに明かされる。
「ラウラ、いつまでそうしているつもりなの?」
ミイラの後ろから現れたシャルがミイラのタオルを引き剥がそうとする。彼女の言葉からミイラの正体がラウラだと判明した。ラウラはタオルを奪おうとするシャルに抵抗している。
「や、やめないか。引っ張るな」
「もう……折角、太郎さんに貰った水着なんだから隠してどうするの?」
「……は、は、恥ずかしいではないか。やはり私にはこんな水着は似合わんのだ」
シャルとラウラが格闘している横で、漏れ聞こえてきた内容にセシリアが息を呑んだ。
(えっ、太郎さんはわたくし以外にも水着を渡していたのですか!?)
セシリアは自分だけのアドバンテージだと思っていたのに、同様のアドバンテージを持つ者がいると知り焦りを覚えた。まさかとは思うが、ラウラも自分と同じスリングショットをあのタオルの下に着ていたなら、自分はショックのあまり我を忘れてしまうかもしれないとセシリアは思った。
セシリアは太郎が自分の為に選び、プレゼントしてくれたと思ったからこそ喜んだのだ。それが実は複数の人間に同じ物をプレゼントしていたとなると、話は違ってくる。複雑な気分でセシリアが揉めているシャルとラウラの様子を眺めていると、そこに太郎が介入してきた。
「ラウラさん、私が選んだ水着が気に入らなかったんですか?」
「そんな事はありませんっ!」
太郎の言葉にラウラが慌てる。太郎からのプレゼントが気に食わなくて抵抗しているなどと思われては大変である。実際、ラウラは水着をプレゼントされた事も嬉しかったし、水着のデザインも可愛いと思っていた。ただ、その可愛い水着を自分などが着るという事に抵抗感を持っていたのだ。
「わ、私には可愛すぎです」
「私は似合うという確信を持ってその水着を貴方に買いました。見せてはくれませんか?」
「う、う……分かった」
太郎の説得にラウラがついに水着姿を見せる決意をした。ラウラはゆっくりと自身に巻き付けたタオルを外していく。そして、現れたのは黒を基調としたビキニだった。レースを多くあしらったデザインで一見すると下着の様にも見える。要所、要所に鮮やかな真紅の紐がデザインとして組み込まれており、胸の部分ではリボン結びになっている。
「やはり私の見立ては完璧でしたね。ラウラさんに似合っていますよ」
「そ、そうだろうか」
「ええ、とても可愛らしいですよ」
「か、か、かわいい……わ、たしがか?」
太郎に褒められ顔を真っ赤にしたラウラが、うわ言の様に何か呟いていた。セシリアはその様子を見ながら何とも言えない気分だった。
(ラウラさんの水着、すごく可愛らしいですわ。わたくしの物とは全然違いますわ)
ラウラの水着が自分の物と同じでなかったのは、セシリアにとって良い事だった。しかし、あまりにも自分の物と違い過ぎて戸惑っていた。太郎はラウラに似合うと確信を持って水着を購入したと言っていた。では、太郎は自分の事をどんな目で見ているのだろうか。この水着が似合うと思われているのは良い事なのだろうか。セシリアの中に迷いが生まれる。
セシリアのそんな思いを察したわけではないが、太郎の賛辞はセシリアにも向けられる。
「セシリアさんも素晴らしい水着姿です」
「そ、そうでしょうか?」
「どうしたんですか。しょぼくれて。先程、こちらに来てすぐの時は凛として内面からも輝くような魅力が溢れていたのに」
「輝いて……わたくしが輝いていた……」
セシリアへ太郎が頷いた。それを見たセシリアは、はっとした。先程、更衣室でした決意を思い出した。ジョンブル魂を、英国貴族の誇りを見せつけると誓ったのだ。そして、それは成功していたのだ。それなのに些細な事で動揺してその決意を忘れ、自らの輝きを鈍らせてしまうとは情けない。しかし、思い出したのならもう迷いなどない。背筋が自然と伸び、自信が漲っていく。
セシリアの
「今のわたくしは輝いていませんか?」
「いえ、また輝き始めましたよ。どうやら吹っ切れたみたいですね。今のセシリアさんは、まるでプレイメイトです」
「プレイメイト?」
「まあ、モデルの様なものです。つい我を忘れて押し倒してしまうところでした」
「わたくしが相手では我を忘れそうになっても仕方がありませんわ。おーほっほっほっほ」
今時、漫画のお嬢様キャラでもなかなかしないような笑い方をだったが、今のセシリアにはとてもしっくりきていた。今、この砂浜の主役はセシリアである。そして、セシリアは駄目押しの秘密兵器を太郎へと渡す。
「太郎さん、このサンオイルをわたくしに塗ってもらえますか?」
「よろこんでっ!」
セシリアのお願いに太郎は弾んだ声で答えた。
セシリアが駄目押しに用意していたのはサンオイルだったのだ。セシリアの水着は、ほとんど肌が露出してしまっているスリングショットである。当然、サンオイルを塗るとなったら際どい部分も多々ある。かなり大胆なお願いである。しかし、太郎の弾んだ声を聞けば、その効果の高さが分かる。
このやり取りを見て周囲の者達も色めき立つ。
「わ、わたしもサンオイル取ってくるっ!」
「私は日焼け止めを」
「私はペペ○ーション持ってくるわ」
そんな外野の声など気にせず、セシリアはうつ伏せになった。その背中と尻はほぼ丸出しである。セシリアは他のライバルに対して一歩リードしたと確信を持った。セシリアはそんな中で、ある事に気づく。
「なんだかハチがいっぱい飛んでいるような気が……」
「大丈夫ですよ。アレは絶対刺したりしませんから」
セシリアを安心させるように太郎はハッキリと言い切った。そう、アレが人を刺す事はありえない。何せ、最初から針など搭載されていないのだから。
お読みいただきありがとうございます。
砂浜編が大分長くなりそうです。主に私の趣向的な理由で。
次回から性的な描写を増やしたいです。これも主に私の趣向的な理由で。
次回更新は水曜日に行います。