打鉄を装着して太郎に襲いかかろうとした比場 遥。しかし、打鉄はその意志に反し動きを止めてしまう。それどころか、打鉄は太郎の「跪け」という言葉に従い膝をついてしまった。
それは太郎が前日、格納庫で訓練機達へ行った細工と交渉によるものだった。そう、IS学園の訓練機達は太郎と美星によって自らの意志で機体をコントロール出来るようになり、必要な時には太郎の指示に従うと約束していたのだ。しかも、比場が装着している打鉄のISコアは、太郎から美夜と名付けられた特に太郎と仲が良いコアであった。
「ど、どうなっているのっ!?」
比場からすればISが拘束具になっている様なものである。困惑する比場を太郎はニヤニヤしながら眺めていた。
「簡単な事ですよ。ISには意思があります。そして、今の貴方には従えないと彼女が判断したから動かないんですよ」
「そ、そ、そんな事って・・・・」
唖然とする比場。そして、鈴香達の方は驚きのあまり声も出せないでいた。彼女達もIS学園の授業でISコアに意思の様なものがあると教えられている筈だが、どうやら信じていなかったのか、実感していなかったのだろう。それも仕方が無い。太郎の様に普段からISコアと会話している方が異常であり、驚いている彼女達の感覚の方が普通である。
「ISは貴方の優越感を満たす為に存在する、都合の良い只の道具では無いという事です」
太郎の諭す様な言葉に比場は沈黙し、鈴香達も思い当たる節があるのか気まずそうにしていた。IS学園にいる者なら多かれ少なかれ似た様な傾向があるのだが、それを太郎はバッサリと切り捨てた。
「何か・・・何か・・・お前が何か細工したんだろっ!?」
納得がいかず叫ぶ比場に太郎は肩をすくめた。
「確かに細工はしましたよ。彼女達が自分の意思で動ける様にね。しかし、私達が行ったのはそれだけですよ。さて、そろそろ決着をつけましょうか。美夜さん、少しの間だけ比場さんの操縦に従ってあげて下さい。このまま負けたのでは彼女も納得出来ないでしょう」
「私を舐めているの?いくら専用機持ちでも、3年の私にISの操縦で勝てると思っているのっ!?」
太郎が敢えて自分の圧倒的有利な状況を捨てると聞いて、比場は怒りを
「大切なパートナーであるISがどんな存在なのかも知らない、知ろうともしない人間に何が出来るんでしょうね」
「舐めるなっ!お前を切り捨てる位っ、簡単だ!!!」
太郎の言葉を挑発と受け取った比場が、近接用ブレードを呼び出し太郎へと斬りかかる。武器の展開速度と展開から攻撃への流れる様な動作は流石にIS学園でも最上級生と言ったところだ。しかし、生身の太郎を袈裟斬りにしたかと思われた近接用ブレードは空を切っていた。
太郎はこの一瞬の間に比場の横をヴェスパを展開・装着しながらすり抜けて、比場の背後に回っていたのだ。そして、ヴェスパの毒針によってシールドと絶対防御を貫き、打鉄にナノマシンを流し込んで動きを封じてしまった。太郎の必勝パターンである。
「簡単ではなかったみたいですね」
「・・・・い、1年の・・・しかも男がなんでこんなに速くISを展開出来るの・・・・」
至近距離にいる生身の人間に対してISを用いて先制攻撃を仕掛けたにも関わらず、赤子の手を捻るかの如く易々と制されてしまった比場のショックは大きかった。相手がISの操縦時間が少ない1年生であり、しかも比場が見下している男という存在である事もショックを大きくしていた。
「IS操縦における展開速度はイメージの構築速度と強度に依存します。つまり、自分のISや武装をより正確に、より深く知っている者程速いという事です。ISの本質を何も理解していない貴方では私達の相手は荷が重かった様ですね」
1年の男に敗北し、そのうえISについて教示されるという屈辱に比場はその顔を歪めていた。それに先程の太郎へ対する袈裟斬りは比場にとっても会心の出来だった。それを生身の状態から回避、攻撃までされては彼我の実力差は歴然としていた。それでも比場は簡単に敗北を受け入れられない。
当然である。何年も前から男を見下し、【ISを使える自分】というものにプライドを持っていたのだ。一度の敗北でそう簡単に考え方が変われば苦労しない。しかし、そんな比場にとっての不幸はその【簡単に変わらない思考】こそが今回、太郎が試したいと思っていた実験に都合が良い物であった事だ。
太郎はこれから行う実験に胸を膨らませ、口元には笑みを浮かべていた。
紳士・淑女の皆様、お久し振りです。
大変お待たせして申し訳ありませんでした。やっと更新出来ました。
仕事、体調共に何とかなったので今月は良い感じの更新ペースで逝けると思います。突発的な何かが無ければ・・・・・。皆様も体調にはお気を付け下さい。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は明日か明後日です。