ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

22 / 136
第22話 木偶

 クラス対抗戦当日、第2アリーナ第1試合。山田 太郎対凰 鈴音。

 

 何かと話題の尽きない2人目の男性IS操縦者と転入して来たばかりの中国の国家代表候補生の対戦に興味が集まり、まだ第1試合にもかかわらず観客は立ち見する者が出る程の数になった。

 

 太郎と鈴はアリーナの中央で試合開始の合図を待っていた。そこで鈴が太郎にオープンチャネルで話しかけてきた。

 

「アンタのせいで千冬さんに滅茶苦茶にされたんだから楽には終わらせないわよ」

 

 

 先日、食堂で千冬に頭を鷲掴みにされて吊り上げられた時の事を言っているのだろう。完全に逆恨みである。

 

「悲鳴を上げる貴方も美しかったですよ」

 

 

 太郎の言葉を鈴は挑発と受け取った。

 

「ぶっつぶす!IS装着してれば安全なんて思っているなら大きな間違いよ。絶対防御だって完璧じゃない。本体にダメージを貫通させる事だって出来るのよ!!」

 

 

 これを聞いて太郎は笑いを堪えきれず声に出して笑ってしまった。

 

「くっ、くくく・・・はっはは。愚問ですね。貴方は私の情報を調べていないんですか?」

 

「どういう意味よ!?」

 

「私の武器はISの絶対防御をブチ抜く為だけに作られた物ですよ。だから気を付けないと一瞬で逝っちゃいますよ」

 

 

 

 

『それでは第1試合。山田 太郎対凰 鈴音戦、試合開始』

 

 

 太郎が忠告が終わると同時に試合開始を告げるアナウンスがされる。そしてブザーが鳴り響いた。もう待ちきれないとばかりに太郎が鈴に襲い掛かる。奇襲気味の太郎の攻撃だったが流石は代表候補生、鈴は咄嗟に展開した巨大な青龍刀を振るい太郎を白兵戦の間合いから追い出す。

 

(さすがに近・中距離型のISに乗っているだけあって接近戦の反応がいいですね)

 

『こちらの兵装からすると苦手なタイプの相手ですね』

 

 

 美星の言う通りである。第3世代型兵器として改造されたパイルバンカー、通称「毒針」と貫通力だけを追求した精密狙撃の出来ない狙撃銃「三式対IS狙撃銃」。ヴェスパに装備されているこれらの兵装の一番苦手とする相手は中間距離で手数が多くて動きの激しい相手である。

 

 中間距離になると鈴は龍咆を使い始めた。砲身も砲弾も見えない龍咆相手に太郎は狙いを定めさせないように激しく動き回るしかなかった。

 

「大口叩いた割には大した事ないじゃない。今からでも謝れば、優しく終わらしてあげるわよ」

 

 

 鈴の挑発を太郎は聞いていなかった。龍咆の出力を下げてマシンガンの様な連射で追い立てて来る鈴の攻撃に対応する事で太郎は手一杯だった。対戦前から色々あって鈴を貫く事を今か今かと待ち望んでいた太郎にとっては生殺しの状態であった。

 

(早く、早く、早く貫きたいです。凰さんの肢体の隅々まで調べ尽くしたい!!)

 

『ダメージ覚悟で無理矢理接近しますか?』

 

(それは駄目です。美星さんに傷が付いたらどうするんですか!?)

 

『自動修復機能があるので直りますよ』

 

(それでも駄目です。それより凰さんの次の行動が読み易い状況にして三式で決め撃ちすれば何とかなるでしょう)

 

 

 太郎は美星の提案を退けた。肉を切らせて骨を断つのも戦法の1つだが、その切らせる肉が美星の物であるなら太郎としては受け入れられるものではない。美星と会話している間に太郎は高度を下げ地面すれすれを蛇行する様に回避運動をとっていた。

 

 外れた龍咆の攻撃によって土煙が上がる。

 

(これは使える!!)

 

 

 太郎はスラスターと羽を使って土煙を巻き上げた。それと同時にレギオンを展開する。巻き上げられた土煙が対流することによって龍咆の砲身と砲弾が見えるようになる。離れすぎると逆に土煙が邪魔で目視はし辛くなるが、そこはレギオンによる観測データで補える。

 

 太郎は先程までよりは楽に龍咆の攻撃を避ける事が出来る様になった。しかし、太郎が狙っているのはその先であった。

 

「ちっ、つまらない小細工ねっ!!」

 

 

 鈴が土煙を嫌い高度を上げて土煙から抜けた瞬間、凄まじい衝撃が鈴を襲った。

 

「いっつ・・・いたた。何?」

 

 

 太郎は最初から鈴が土煙を嫌って高度を上げる予想していたのだ。それに加え美星がレギオンからの観測データを元に照準アシストを行っていた為、銃の扱いが特別上手い訳でもない太郎でも簡単に当てることが出来た。

 

 銃撃の衝撃で仰け反った鈴に太郎が迫る。しかし、鈴の体勢が復帰する方が早かった。このままでは太郎が接近する前に龍咆の餌食になる。

 

『させないわ』

 

 

 鈴の視界を美星が直接操作したレギオンが塞ぐ。レギオン自体には攻撃能力は無いが、数匹のレギオンが鈴の顔付近に取り付こうとまとわり付く。レギオンには攻撃能力が無い為、当初甲龍はこれを攻撃と認識出来ずにバリアーも絶対防御も発動しなかった。この隙にとうとう太郎は鈴を捕らえる事に成功した。

 

「いやぁ!放しなさいよ!!」

 

 

 太郎は鈴の悲鳴に笑みを浮かべ、いざ貫こうとした。その時アリーナが震えた。轟音と共にアリーナのシールドを突き破ったモノがアリーナ中央にいた。

 

『マスター、アリーナ中央に所属不明IS1機。こちらをロックしています』

 

 

 美星の警告に太郎は返事をしなかった。事態を把握した管制室の真耶からも通信が太郎と鈴の2人に入る。

 

『太郎さん!凰さん!すぐにそこから退避してください!あとは先生達がなんとかします!!』

 

 

「いえ、アリーナ内の観客がまだ避難出来てません!私が足止めします!」

 

 

 真耶の指示に鈴は逆らい、太郎は沈黙したままだった。その時、またもやアリーナのシールドを破って侵入して来た者がいた。

 

「鈴!太郎さん!無事か!?」

 

 

 白式を装着した一夏とブルー・ティアーズを装着したセシリアだった。それを見た鈴が驚いた。

 

「なんでアンタ達が!?危ないから下がって!!」

 

「代表である太郎さんのピンチに副代表であるわたくし達が駆けつけるのは当然のことですわ!!」

 

「太郎さんの為なら何でもするぜ!!」

 

 

 一夏とセシリアの2人はアリーナのシールドを零落白夜で切り裂いて入ってきたのだった。それでも太郎は沈黙したままだった。

 

 

 

 

 

 

 なぜなら太郎は我慢の限界に達していたからだ。鈴との対戦の前から溜まりに溜まった欲求を龍咆が邪魔で満たすことが出来ず、やっと鈴を捕らえたと思ったら邪魔が入ったのだ。暴発寸前だった。いや、すでに暴発は始まっていた。

 

(美星さん、目の前の木偶に私は何の輝きも感じません。アレはISですか?)

 

『ISです。ただ人は乗ってないようですし、コアも私達姉妹とは違って意識を感じ取れません。私とは違うシリーズなのでしょうか』

 

(やはり只の木偶ですか。そんな物が邪魔をしたと?・・・・・・ゆるせねえな!!!)

 

 

 太郎は三式狙撃銃の弾倉を外して、新しい弾倉に換えた。外した弾倉に入っていた弾はIS学園側からの要求で使用していた貫通力の低い弾頭で、新しい弾倉に入っている弾は三式狙撃銃本来の絶対防御を貫通する為だけに存在している弾頭である。それを太郎は装填した。

 

「セシリアさん、あの相手を少しの間でいいので引きつけられますか?」

 

「っ!!!もちろんですわ!お任せください!!」

 

 

 太郎の問いに対してセシリアが嬉しそうに請け負った。

 

「な、なあ、太郎さん。俺は?」

 

「セシリアさんが危なくなったら凰さんと一緒に牽制して狙いを散らしてください」

 

 

 鈴は勝手に役割を振られた形だが文句は言わなかった。先程から太郎に凄まじい重圧を感じていたからだ。頭部がフルフェイスになっている為に表情こそ分からないが丁寧だが抑揚の無い口調は何か不気味なものを感じさせた。

 

 セシリアが所属不明のISの側面に回りこみつつ警告を発する。

 

「そこの所属不明機に告げます。今すぐ武装を解除し、所属を明かしなさい。」

 

 

 所属不明のISからの答えは攻撃だった。最初から警戒していたセシリアはそのビーム攻撃を避け、逆にレーザービットによる雨の様なレーザー攻撃を浴びせる。大したダメージにはなっていないが太郎にはそれで十分だった。近距離まで近付いていた太郎が三式狙撃銃を撃つと敵ISの右肩に着弾。右腕が千切れ飛んだ。素早く次弾を装填すると体勢を崩した敵ISの左肩を撃つ。右腕同様に左腕も千切れ落ちた。

 

 他の人間が唖然としている中、太郎は同じ要領で両足も撃ち抜く。そして背部のスラスターを蹴り壊すと敵ISは身動きが取れなくなった。それに太郎は覆いかぶさり・・・・。

 

(木偶如きが俺の邪魔をするなど許されん。しかし大した興奮は感じんな)

 

『本当に心の無い人形相手ではあまり興奮しませんね。でもヤるんですけどね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはピストン運動だった。腰を突き出すたびに飛び出る毒針に敵ISは為すすべも無く蜂の巣にされた。

 

 

 

 

 

 

 太郎は敵ISに覆いかぶさったまま、他の人間から見えない様にコアを抜き取り隠した。そして最後に首を引きちぎった。

 

 

 

 

 太郎の凶行にその場の全員が唖然としていたが、鈴が何とか声を絞り出した。

 

「殺したの?」

 

「いいえ。誰も殺してなんかいませんよ」

 

「でもそんな状態で操縦者が生きているわけ・・・・」

 

 

 太郎は敵ISの残った胴体部分を掴んで鈴の方へ放り投げた。

 

「ひっ!!!!!」

 

「良く見てください。最初から人間なんて乗ってませんよ」

 

 

 怯える鈴に事も無げに太郎は言った。恐る恐る、鈴と近くに来ていたセシリアと一夏もその残骸を覗き込んだ。

 

 そこには血も付いていなければ内臓も肉もなく断面から機械的な部品が覗いているだけだった。

 

「そんなISが無人で動いた・・・?」

 

「ありえませんわ!」

 

「どういう仕組みなんだ?」

 

 

 鈴達が三者三様の反応を見せている頃、太郎は考え込んでいた。邪魔者はズタボロにして排除したが気は晴れない。鈴との闘いを楽しむ事も出来ず、鈴の身体データも収集しきれていない。クラス対抗戦も中止だろう。散々な結果である。太郎の思いは1つであった。

 

 

 

 

 

 このままでは今日を終われない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




美星「コアもどきは美味しくいただきました」



不完全燃焼な闘いに太郎がイキり立つ!!



予告


   その身が汚れようと、この道を進む事は止めん!!

   固い決意の元、太郎逝く。

   男にはやらねばならぬ時がある。

次回 ISー(変態)紳士が逝く 23話 「太郎 再逮捕」乞うご期待!!

   嘘?予告でした。お読みいただきありがとうございます。 



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。