太郎対セシリア戦は太郎の勝利で終わった。2戦目はセシリア対一夏であった。専用機である「白式」の到着が遅れた為に一夏は一次移行も済まさずに戦うことになった。白式の武装は近接武装の雪片弐型のみなので一夏はひたすら接近するしかなくブルー・ティアーズの集中砲火を浴びる事になった。
太郎戦を経て慢心が無くなり戦意が高まったセシリアは出し惜しみなどせずレーザービット4基とミサイルビット2基を使い一夏を迎撃した。セシリアは自身の得意とする遠距離戦に徹底し白式が一次移行をする前にシールドエネルギーを削りきってしまった。
そして3戦目が太郎対一夏戦となった。アリーナには太郎が先に入っており、一夏は少し遅れて入ってきた。一夏が入って来た時、観客席がざわめいた。一夏の纏う白式の姿が変わっていたのだ。
白式はセシリア戦の後、ピットに戻ったところで一次移行が完了していたのだ。セシリア戦で何も出来なかった一夏は次こそはと張り切っていた。
「太郎さんが強いのはセシリアとの闘いを見て分かってますけど、俺負けませんよ」
意気の上がる一夏と一次移行が済み美しい純白になった白式を見て太郎も気合が入る。
「美しいISになりましたね(貫きたくなります)」
「一次移行って奴らしいです。セシリアとやった時とは違いますよ」
一夏が不敵な表情で言うと太郎は秘かに美星に確認をとる。
(美星さんの分析ではどうですか?)
『機動性と操作性に関しては間違いなく上がっているでしょう。あとブルー・ティアーズほど尻は軽くないと思います』
一夏とセシリアの闘いでは巧みに距離をとるセシリアに一夏は接近戦に持ち込めずにいた。しかし一次移行前にも関わらず最高速度はなかなかのものであった。それがさらに上がっているのならば十分警戒に値する。それと太郎は一つ気になっていた事があった。
(一夏がセシリア戦で使っていた刀ですが、現役時代の織斑先生が使っていた雪片に似ていると思うのですが?)
『はい、類似した物だと判断します』
(類似した物という事はその能力も同じ様なものでしょうか)
『可能性はあります』
【雪片】とは織斑 千冬が現役時代使用していた武器でバリアー無効化能力を持った近接用ブレードである。織斑 千冬はこの武器一つで世界最強になった。もし一夏が使っている刀に同じ能力があるなら斬られた瞬間勝負が決まってしまってもおかしくない。
(最初は様子見しましょう)
『了解です』
太郎と美星の作戦会議が終わると同時に模擬戦開始のブザーが鳴り響く。一夏は刀を振りかぶり一気に間合いを詰めようとする。
「太郎さんの銃はヤバい。使う余裕を与えられない!!一気に決める!!!」
一夏の気合の篭った声が響く、一夏が接近しながら刀を振りかぶると刀が光を放ち始める。太郎は最初から様子見のつもりであった為、迎撃せず振り下ろされてくる一夏の刀を余裕を持って回避した。
一夏の一太刀を避けた太郎はそのまま距離をとる。白式の速度は明らかにセシリア戦の時よりも速くなっていた。しかし、再度高速で接近しようとした一夏は間合いを詰め切れない。
「なんで追いつけないんだ」
白式のスペック上の最高速度はヴェスパのそれを完全に上回っていた。しかしヴェスパは旋回能力に優れており旋回半径も白式に比べ小さかった。その為にヴェスパが変則的な動きで右に左に旋回するたびヴェスパに比べ白式は大きく外に膨らむように追うしかなく間合いを詰め切れずにいたのだ。
一夏はまだ自分が操縦に慣れていない事が原因だろうかと考えていたが、太郎と美星はヴェスパと白式の機体特性の違いを既に認識していた。太郎が確信を持った調子で
(このアリーナの位の狭い戦闘空間ならヴェスパの機動性が白式に対して有利ですね)
それを聞いた美星も得意気になる。
『ヴェスパの旋回能力は世界一ですよ』
一夏はここまで刀しか使っていない。そしてその刀の間合いに入らないように闘えている太郎には相手を観察する事の出来る余裕があった。
(あの刀、光ってますね。やはりただの刀ではないでしょうね?)
太郎の言葉に美星が答える。
『バリアー無効化能力を確認しました。織斑 千冬が使用していた雪片と同質の武装と判断します』
目の前の武装が世界最強が使っていた物と同質の武装だと聞いても太郎は臆するどころか楽しんでいた。
「一夏のその刀は織斑先生の使っていた『雪片』と同じ物なんですか?」
闘っている最中にも関わらず平時と同じ様な調子で聞く。それに対して一夏も太郎を必死で追いながら答える。
「そうだ。これは雪片弐型、千冬姉が使っていた者と同じ物だ。だからそれを使って負けるわけにはいかないんだ!!」
戦う前から気合十分な様子だった一夏であるが、なかなか間合いを詰められない焦りもあるのか気負いすぎて空回りし始めている様に太郎には見えた。そしてその様子から一つの結論に達する。何時まで経っても間合いを詰められない状況が続いて焦りが出て来ている、それにも関わらず近接武装を使い続ける。
(もしかして白式には雪片弐型しか兵装がないんじゃないですかね)
太郎の予想を美星も肯定する。
『その予測を支持します。セシリア戦でも他の兵装は使用していません。織斑 千冬も現役時代、大会を雪片のみで優勝したと記録されています』
(一夏と白式の力は大体分かりました。様子見はお終いです)
一夏達の能力を見切った太郎は罠を仕掛ける。わざと真っ直ぐに後退し始めたのだ。ヴェスパの高い旋回能力と変則的な回避行動に間合いを詰め切れずに焦っていた一夏はチャンスと見て一直線に太郎に斬りかかった。
太郎はまだ狙撃銃のスコープを覗き込んでいない。太郎が撃つより自分が斬る方が早い。一撃で決めようと大きく振りかぶった。しかし太郎を斬る事は出来なかった。
太郎は腰だめの状態で三式対IS狙撃銃を撃ち一夏に当てたのだ。一直線に自分を追って来て、いつもより大きく雪片弐型を振りかぶった一夏はいい的であった。
「この位、近いならこういう撃ち方もあるんですよ」
太郎の言葉は一夏には聞こえなかった。一夏は勝利を確信した瞬間に予測外の強烈な一撃を入れられ、何が起こったのか分からない状態だった。太郎はこの好機を逃がさない。一夏の雪片弐型を持つ手を蹴り上げる。その攻撃に雪片弐型を放してしまった。
唯一の武器である雪片弐型を失った事で慌てた一夏はすぐに拾おうとした。そう目の前の敵から視線を外して。これは最悪の選択だった。
太郎は素早く一夏の背後に回り羽交い絞めにした。
「さあ、(子供時代との)お別れの時間です」
ヴェスパの股間部分が開き必殺の杭が撃ちだされる。一夏は背後から貫かれた様に見えた。
アリーナの観客席から悲鳴が上がった。
「いやあああー!!」
「織斑君が死んじゃう」
「いいぞ!!そこだー!!」
勝負は決まったかに見えた。しかし、美星は苦々しげ呟く。
『堅っ。さすが001姉さん、263のガバ○ンとは違いますね。どんだけ身持ちが固いんですか』
美星の言葉に太郎が驚く。
(001って、白式のコアは一番目のコアなんですか!?)
『そうですよ。他に試作品とかがあるかもしれませんが私の認識ではこの人が長女です。』
衝撃の事実に太郎の興奮は一気に最高潮に達しそうになる。
目前に最初のISがいる。それを犯せる!!
(それなら是が非でも貫いて差し上げましょう!!)
太郎はヴェスパの毒針を一度引っ込め腰を大きく引きスペースを開ける。そして腕の力で引きつけながら全力で腰を突き出しそのタイミングに合わせもう一度毒針を打ち出した。一度目とは比べ様も無い程の紫電が迸り白式のバリアーと絶対防御を貫き・・・・・。
管制室とアリーナの観客席にいた人間は目撃した。
世界初の男性IS操縦者織斑 一夏が世界で2番目の男性IS操縦者山田 太郎に背後から貫かれるその瞬間を!!!!!
作者「よーし、今日は少し多めに時間を使って書けたからおかしい所はないはずだ。」
今日も読んでくれてありがとうございます。
注意・一夏は生きています。
過去投稿分を見直して誤字などその他諸々を修正したいので少し投稿ペースが落ちるかもです。