セシリア視点
完敗だった。
【男】に負けてしまった。
欠陥品と嘲笑った銃に怯え、ほとんど何も出来なかった。
組み付かれパイルバンカーを打ち込まれ、そして自由を奪われ自ら敗北を認めた。
少し前の自分ならこんな現実は受け入れられなかったと思う。しかし今の自分はこの敗北静かに受け入れていた。悔しいという気持ちは無かった。ただただ不思議であった。今の世の中でこれほどまでに強い【男】が存在していることに。
わたくしの周りの【男】など資産家やイギリスの国家代表候補という立場に媚びへつらうだけの惰弱な人間ばかりでしたし、父も母の顔色ばかりうかがっていました。それに比べ山田 太郎という人間は何故ここまで強いのでしょうか。
闘いの強さだけではない。出合った当初から惰弱な所など一切なかった。笑顔の多い人であったが他の【男】がよく見せる愛想笑いや媚びるようなものでは無く、ただただ今の生活が楽しいといった様子であった。
世界でたった2人のIS男性操縦者でありながら臆せず、かといって驕る事も無い自然な姿。ブルー・ティアーズの制御を奪われ身動きのとれない自分は後は地に墜ちるはずだった。しかし酷い態度をとっていたうえ、無様に負けた自分を彼は今優しく抱きかかえていた。その姿は輝いて見えた。
「太郎さん、貴方は何故これほどまでに強いのですか」
「この闘いについてはセシリアさんの慢心が一番の勝因ですよ」
聞きたかった事ではなかった。そのうえ口調は柔らかかったが内容は辛辣だった。太郎の方もセシリアが問いたかったものとは違うと気付いたのか言葉を続ける。
「セシリアさんの聞きたい私の【強さ】の理由が具体的な戦術やトレーニング法ではなくもっと広い観念的なものであるなら・・・・」
太郎さんの次の言葉を一言たりとも聞き逃さないように身構える。
「それは求める心、そしてそれとどれだけ真摯に向き合えるか。これに尽きます」
その言葉にこの一週間の自分を振り返る。自分が怠惰であったとは思わない。しかしベストを尽くしたかと問われると頷けるものではありませんでした。
太郎さんはわたくしを抱えてピットへと飛ぶ。その姿を見たクラスメイト達は歓声を上げている。沈みそうな心が少しだけ浮上する。ピットに着くと優しく下ろされる。太郎さんが先程までより一層真剣な表情になり、
「セシリアさんの求める物は何ですか?今回の試合は決闘と銘打っていますが、あくまで非公式な模擬戦です。そんな模擬戦に1度勝つ程度のことが貴方の真に求める事ですか?」
わたくしの求める物・・・・。両親が死にその遺産を守る為にIS操縦者の道を選んだ。ただの手段であった、最初は。しかし今は違う。
わたくしは母の築いた会社や資産。それに先祖の積み重ねてきた名門貴族としての歴史と誇りも守っていく。でも今は・・・。
「・・・・上を目指したい」
ぽつりと漏れ出た声は小さなものであった。しかし、そこに弱弱しさなどは微塵もなく聞いていた太郎も嬉しそうに笑っていた。
「貴方はこれから今よりもっと強くなれるでしょう。そして今以上に輝くはずです」
「太郎さん・・・。今まで失礼な態度をとってしまって申し訳ありませんでした。そしてこんなわたくしの問いに真剣に答えてくださって有り難うございます。わたくしもっと強くなって太郎さんと並べるように精進しますわ」
わたくしに誓いを聞き終えた太郎さんは自分のピットへと帰っていきます。その後姿に切なくなる。わたくしも太郎さんのようになり、太郎さんの隣に並んで見せますわ。
今日の分だけ見ると凄く真面目。
明日の分を見たら台無しだと思う。