コン、コン、コン……ドンッ、ドンッ、ドンッ!
現在私、ドイツ軍所属の大尉クラリッサは上官であるフォルカー中将の執務室の扉をノックしている。急ぎの用なのに中将からの反応が無く、焦れた私のノックする手は激しさを増していく。まるで債務者の家に押し掛けた借金取りの如く。
「な、なんなんだ……って、ハルフォーフ大尉かっ!?」
やっと扉が開き、中将が姿を現した。扉を叩いていたのが私だと分かり、中将は驚いた顔をしたが、そんなことに構っている時間は無い。中将を押し戻すように執務室へと入り込む。
「おい貴様っ、失礼だろ! どういうつもりだ!!!」
「ああ、ハイハイそういうのは後にして下さい。急ぎの案件ですから」
「いや待てっ、ちょっ、押すな」
中将がまだ何か言っている。面倒な人だ。まあ、中将の文句などどうでも良い事なのでさっさと本題へ移る。
「中将、今が攻め時です」
「はあ……何の話だ」
「(チッ無能が)このタイミングで急ぎの案件と言えば、山田太郎に関する事柄以外がありますか?」
「ん? 今、無能とか聞こえた気が」
気のせいでしょう。チッ、本題の方を気にしろよ。
「……それで山田太郎の攻め時というのはどういう事だ?」
「本日、彼は訓練と称してシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達のパンツを狩りました」
「……意味が分からん」
「彼は隊員達を襲い、パンツを奪いました」
「なん…だ…と!? とんでもない不祥事だ。つまりそれをネタとして脅し、こちらが優位な交渉をするチャンスという事か」
中将は一度目を見開いた後、少し考えて下らないアイデアを足りない脳みそからひねり出した。この程度のネタで彼からどんな条件が引き出せるというのか。短い付き合いだが太郎さんの
「違います。彼が脅しに屈するとは思えません」
「それでは攻め時とはどういう意味なのだ?」
「男性が女性のパンツを奪おうとする、それが何を意味するのか分かりませんか?」
「い、いや、分からん」
「はあ~、中将閣下はそれでも男ですか? 男が女のパンツを求める理由は性欲でしょう」
中将の頭の回転は私の3分の1くらいなのでしょうか。ここまで言っても察してくれないとは。それとも、元々私達が目指していたものが何なのか忘れてしまっているのでしょうか。
「分かりませんか。彼はパンツを求めて隊員達に襲い掛かるほど欲求不満だということです。そこにボーデヴィッヒ少佐が迫れば……我々のボーデヴィッヒ少佐と山田太郎の仲を取り持つという目的が達成されるはずです」
「っ!?」
中将はやっと私の考えを理解したようだ。とはいえ私は中将とは違い、自分の出世の為に隊長を手助けしているわけではないのだが、そこまでは分からないだろう。ラウラ・ボーデヴィッヒ、彼女は私にとって上官であるが、同時に人付き合いが苦手な不器用な妹みたいなものでもある。この位の手助けなら手間とも思わない。
さて、話を理解してもらったところで中将には働いてもらわないといけません。
「さあ、攻め時ですよ。未来の大将閣下、いえ政治家志望でしたっけ? 閣下の権限で隊長と閣下の明るい未来の為に根回しをお願いします」
それからの中将は電話片手に奮闘しっぱなしだった。中将は先ず、親交のある軍上層部の人間や有力者相手に連絡を取る。この計画に関して信頼出来る相手には既にある程度話は通してある。ここからは実行に際しての具体的な段取りを付けるだけである。
太郎とラウラが第三者からの干渉を受けないように人払いをする。直属の部下を使い、太郎の泊まるホテル周辺を厳重に警護する。それには諜報部の協力の下、太郎が監視されていると感じないよう細心の注意を払う。
さらにボーデヴィッヒ少佐を始めとするシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達の戸籍修正が完了した事を確認する。彼女達が未成年であると色々都合が悪いので、全員成人していることにした。かなり無理をしたが、成功のあかつきに得られるものに比べれば大したことではない。
もうここは放っておいても大丈夫だろう。根回しは中将に任せて私も最後の仕上げに向かおう。隊長はそのままでも魅力的であるが、勝利の確率を1パーセントでも上げる為、もうひと押しを用意しなければ。
前回の後書きで次はR18と書きましたが、前置きが長くなり過ぎたので分割しました。後もう1話、一般で投稿します。次回投稿は今週中です。
読んでいただきありがとうございます。