暗殺教室でも俺の青春はまちがっている。   作:sewashi

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磯貝、体育祭編


六十四時間目 イケメンの時間

「うーむ、イケメンだ。E組のリーダーは」

俺、前原、片岡、茅野、潮田、岡島はとある喫茶店に来ていた。理由は……

「いらっしゃいませー! あ、原田さん、伊東さん」

「ゆーまちゃん元気~? もーコーヒーよりゆーまちゃん目当てだわ。この店」

「いやいや、そんなん言ったら店長グレちゃいますよ。ご注文は?」

「いつものお願い」

「原田さんはモカで、伊東さんはエスプレッソWでしたよね。本日店長おすすめでシフォンケーキありますけど」

「あ、じゃあそれ2つ~」

「まいど」

……磯貝が学校に内緒でアルバイトをしているからだ。

「実にイケメンだね。うちのリーダーは……」

前原から聞くと磯貝の家は母子家庭で磯貝のかーちゃんが体調を崩し、家計を助けなければならないらしい。

そもそも磯貝は運動能力、学力などはトップクラス。さらには前原や赤羽のような危なっかしさや嫌味ったらしさもない。ましてや浅野のような偉そうな雰囲気もなく目上の人に対する礼儀正しさもある。

ただ、家が貧乏なので校則違反でアルバイトをしたせいでE組に落ちてしまったらしい。

「あいつの欠点なんて貧乏くらいだけどさ、それすらイケメンに変えちゃうのよ」

前原は語る。

「私服は激安店のを安く見せずに清潔に着こなすしよ」

『イケメンだ!』

「俺も私服は激安店の物だがな……」

『誰も見てない!』

なんか悲しくなるな……いやステルスヒッキーが通用してるんだ。それだけだ!

「この前、祭りで釣った金魚食わせてくれたんだけど、あいつの金魚料理メチャ美味いし」

『イケメンだ!』

……関係なくね?

「あと、あいつがトイレ使った後よ、紙が三角にたたんであった」

『イケメンだ!』

岡島が同じことをすると……

「あ、紙なら俺もたたんでるぜ。三角に」

『汚らわしい!』

反応、違いすぎだろ……

「見ろよ、あの天性のマダムキラーぶり」

『イケメンだ!』

「あ、僕もよく近所のおばちゃんにおもちゃにされる」

『シャンとせい!』

本当に潮田は……

「未だにな、本校舎の女子からラブレターもらってるしよ」

『イケメンだ!』

「あ、私もまだもらうなぁ……同姓から」

『イケない恋だ!』

そういや奉仕部時代に片岡に告るのを手伝って欲しいって依頼があったな……女子から……

すると奥の席から――

「イケメンにしか似合わない事があるんですよ。磯貝君や……先生にしか」

『イケメ……なんだ貴様!?』

――殺せんせーが居た。

「……国家機密が何してんすか……?」

「ここのハニートーストが絶品でねぇ、これに免じて磯貝君のバイトには目を瞑ってます」

いいのか、担任教師……まあ、理事長にバレてたら即退学もあり得るからな……そして殺せんせーは言う。

「でも皆さん。彼がいくらイケメンでもさほど腹は立たないでしょう」

「え? ……ああ、うん」

潮田が答える。

「それは何故?」

「何故って……」

前原が答える。

「だって、単純にいい奴だもん。あいつ。それ以外に理由いる?」

全員頷く。

俺はずっと思っていた。『いい人』とは『都合のいい人』もしくは『どうでもいい人』の事であり、決して『良い人』というのは裏がある者で存在しないものだと思っていたが、磯貝を見る限り、磯貝には裏はない。磯貝は完全に『良い人』だった。

俺は正直に見直していた。

すると……

「おや、おや、おや」

店に入ってくる者が五人……

「情報通り、バイトをしている生徒がいるぞ」

「いーけないんだぁ~、磯貝君」

雪ノ下を除く六英傑。浅野学秀もいるぞ!? やべぇ……

「これで二度目の重大校則違反。見損なったよ、磯貝君」

クソ、浅野さえ居なけりゃ、なんとでもなるのだが……

俺らは店の外に出る。

「……浅野、この事は黙っててくれないかな。今月いっぱいで必要な金は稼げるからさ」

磯貝……そんな下手に出たら利用されるぞ……

「……そうだな、僕も出来ればチャンスをあげたい」

……ほれ見ろ。こいつ良からぬ事を企んでるぞ……

「ではひとつ条件を出そうか、闘志を示せたら、今回の事は見なかったことにする」

「……闘志?」

「椚ヶ丘の校風はね、社会に出て闘える志を持つ者を何より尊ぶ。違反行為を帳消しにするほどの尊敬を得られる闘志。それを示すには…… 」

浅野は言い放った。

 

翌日のE組校舎。全員に経緯を説明する。

「体育祭の棒倒しィ?」

そう浅野の奴は体育祭の棒倒しでA組に勝ったら磯貝のバイトを見逃すと言ってきた。

「……でもさ、俺らもともとハブられてるから……棒倒しには参加しない予定じゃんか」

そうだ。E組の底辺待遇で俺らは団体競技には参加が許されていない。個人で出られる徒競走等は別だが棒倒し、騎馬戦、リレー等には参加出来ない。が……

「表向きは俺らがA組に挑戦状を叩きつけたっつー事で理事長に承諾してもらうらしい……が目的はわかりきってんな」

「ケッ、E組に赤っ恥かかせようって魂胆かよ」

「第一、A組男子は28人、E組男子は16人。とても公平な闘いとは思えないね」

寺坂と竹林が言う。

「ま、逆に考えりゃそのハンデで勝てりゃ、闘志を示したと認めざるを得ないっつーわけだ」

すると磯貝は……

「いや、やる必要ないよ皆。浅野の事だから何されるかわかったもんじゃないし、俺がまいた種だから責任は全て俺が持つ。退学上等! 暗殺なんて校舎の外からでも狙えるしな」

『イッ……イケ……』

そして――

「イケてねーわ全然!」

「なに自分に酔ってんだアホ毛貧乏!」

「ええ!? あ、アホ毛貧乏!?」

全く、磯貝は……

「磯貝……前にも言ったろ。犠牲ってのは居なくなっても最小限の被害しかでない奴がやることだ。お前がなっても百害あって一利なしだぞ……」

「そうだよ、難しく考えんなよ磯貝」

前原は言う。

「A組のガリ勉どもに棒倒しで勝ちゃいいんだろ? 楽勝じゃんか!」

そうだ。A組と言っても今回の対決はテストではなく棒倒し。暗殺訓練で身体能力の高くなっている俺らの方が有利だ。小山や荒木などモヤシも同然。警戒すべきは浅野くらいだ。

「倒すどころか、3週間後の二学期中間に影響が出るくらいA組の連中にダメージ与えてやろーや」

「おお、比企谷、珍しく良いこと言うな」

珍しくは余計だ……

ま、問題は浅野が何を企んでいるかだな……




次回は体育祭の時間。
ケヴィン、サンヒョク、ジョゼ、カミーユ登場。

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