緋弾のアリア 不屈の武偵   作:出川タケヲ

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また随分と間が開いてしまいまった……。文が全く書けないわけじゃないんですが遅筆になったのは間違いないです。次回は1週間くらいで仕上げられるといいなぁ。


合兄妹 Ⅱ

 

 

 

 高千穂麗は2年生2人をたった1人で圧倒した銭形平士の姿を見て、ただただ戦慄するしかできなかった。

 

 銭形が勝ったのは相手が弱かったからではない。事実、八雲戒は不意を突かれて開始直後にペイント弾を当てられてしまったが、銭形には装弾数3発という制限もあり、1発1発を適切なタイミングを見計らって慎重に撃ち込んでくると判断するのは妥当だっただろう。15メートル近い距離があって拳銃(ガバメント)で狙撃されるなど想定外で当然だ。

 彼とタッグを組んでいた御薗春樹も、戒が撃たれたのを即座に察知すると、一瞬の躊躇いもなく裏取りに移っていたし、発砲まで持ち込んでいた。並みの武偵ならば対応が間に合わない角度とタイミングであったことはまだ中学生の高千穂でも理解できる。

 

 

(でも、あれは相手が悪過ぎた……)

 

 超人的な反応速度と対応力。終わってみれば10秒も経ってはいない模擬戦であったが、仮に長引かせたとして、制限時間の設けられた銭形は自分から攻めていくことになる。

 

 あの化け物じみた能力の超人が攻めてきたと考えた途端、高千穂の背筋を冷たい汗が流れた。

 

 

 場所は変わって強襲科棟にあるオープンテラス。夏場はここでかき氷やアイスを食べながら賑やかに談笑している生徒が多く見られるが、今は午後の専門学科訓練の時間であるためか人の姿は銭形達以外はまばらだ。

 

 

 

「高千穂。お前はどうやら自分にリーダー気質があると考えているようだが、リーダーに最も必要な資質とは何だと考える」

「……統率力、でしょうか?」

「では、その統率力の正体は何だ」

 

 続けて訊かれた高千穂は、返答に困った。統率というのがどういうものなのかを実体験していない彼女には、それを具体的に言葉で表現するのは難しかったようだ。

 

 

「それは圧倒的な力だ。リーダーは実力的信頼によってチームを牽引しなければならない。適切な状況判断能力や息のあったチームワークも重要だが、何よりもチームリーダーが弱ければ話にならん」

 

 凄みを利かせて言う銭形に、高千穂とその隣にいる湯湯、夜夜も思わずといった様子で息を呑んだ。

 

 

「一見で自分との実力差を思い知らせることにより、チームの統率力は飛躍的に強化される。それだけでリーダーの言葉の1つ1つに説得力が生まれるからだ。だからこそ、チームのリーダーになる者は強くなければならない。お前も人の上に立つ者ならば、1人でも闘える実力を身に付けねばならない」

 

 銭形の言葉が、高千穂の胸に強く突き刺さる。先ほどの模擬戦で見せつけられた格の違いから本能的に構築された上下関係が、色濃く影響しているのだ。

 

 

「報告書によれば貴様は射撃の成績が優れているようだな。今からどれほどのものか直に見せてもらう」

「はい!」

 

 威勢よく高千穂が答えると、彼らは強襲科の黒塗りの体育館にある射撃訓練場へと足を運んだ。

 

 ただでさえいろんな理由で顔が知れ渡っていて銭形が、ただ立っているだけでも十分目立つ高千穂を引き連れてやってきたために場が一時騒然となったが、銭形はそんなことお構いなしに空いていたレーンを確保し高千穂にイヤーカフを投げ渡す。

 

 

「連続で全弾撃ってみろ」

「わかりました」

 

 高千穂は頷いてイヤーカフを着けると、自身の獲物である回転弾倉(リボルバー)式大口径拳銃、スタームルガー社の『スーパーレッドホーク』を抜き、両手でそれを構えた。

 

 重い銃声が轟き、標的(ターゲット)に弾痕が着く。しかしそれは10点リングの上5センチほどの場所にあり、高千穂はそれを考慮して次弾を標的に撃ち込む。

 今度は左に逸れ、次の3発目で漸く10点リングの下枠に掠るよう着弾した。だが、それ以降はリングから数センチ離れた場所に着弾し、結局スコアは60点中48点に終わった。とは言っても、十分高いスコアではあるのだが。

 

 

「.44マグナム弾を使って、中等部(インターン)がよくこれだけ当てられるな」

「あ、ありがとうございます!」

「だが、貴様の撃ち方はリボルバーには適していない。特に反動の強い弾薬を使用する場合、肘は曲げ、射撃の反動を吸収するようなやり方が望ましい。貸せ、手本を見せてやる」

 

 高千穂はスーパーレッドホークとクイックリローダー、イヤーカフを銭形に手渡した。

 銭形は弾倉内の薬莢を取り除くと、慣れた手つきでクイックリローダーを使って装填し、空薬莢とリローダーを台の上に乗せ、イヤーカフを着けると、すぐにスーパーレッドホークの引金を引いた。

 

 初弾は標的の中心から2センチ左にズレた場所に命中する。それを確認すると、銭形は連続して残り5発の銃弾を非常に速いペースで続けて撃ち込んだ。

 

 標的には弾痕が2つ。1つは標的の左にある、初弾の物。もう1つは標的の正中に寸分の狂いもなく作られていた。

 

 

(5発中1発だけが正中を捉えた? ……いや、なら残りの4発の弾はどこへ――――まさか!)

 

 ゾクリ、と高千穂の背筋に悪寒が走る。

 

 そう。銭形は.44マグナム弾で定点撃ち(ピンホールショット)を披露してみせたのだ。

 昨年、響哉の前で披露してみせたそれは自分の獲物(M1911A1)でやったものだが、これが他人の銃でやるとなると、その難易度は飛躍的に増加する。

 

 銃には癖というものが有り、拳銃1挺1挺につきほんの僅かな誤差というものが存在する。それは銃の持つ個性とも呼べ、銃を女性に例えるガンマンもいる。

 

 銭形はまず1発を撃って、その1発で高千穂のスーパーレッドホークの癖を掴み、残り5発を正確に標的の中心に当ててみせた。そのあまりの正確さに、弾痕が1つしかないように見えてしまったのだ。

 

 

 それを直に目の当たりにし、高千穂は悟った。この男(銭形)には、例え人生が何度あろうが絶対に追い付くことは出来ない、と。

 

 その圧倒的な力が、高千穂を本能的に恐怖させていた。

 

 

 

「無理やり反動を押さえつけようとしているせいで着弾点が中心からズレてしまっている。それか、拳銃の有用性を殺すことになるが、銃床(ストック)を取り付けて身体で反動を受け止めるようにするべきか、どちらかだな。まずは銃床を付け正確な狙いをできるようにしておき、将来的には正しい構えで撃てるようにしていくのが理想か」

「は、はい……」

 

 折角のアドバイスも遥か遠くからされているようで、実になっている感覚は実感できない。しかし、妙に頭の中に残ってしまって、反響するように頭の中に染み渡っていく感覚がしたようだった。

 

 

 

 

 そんなマンツーマンの射撃訓練が、休憩込みで4時間は続いただろうか。

 

 あそこまで集中して訓練に取り組んだのは一体いつ以来だろうか、と高千穂は訓練が終わった後に自問した。それほどまでに、銭形の指導は内容が濃く、また恐ろしかった。

 

 射撃時に感じる、今まで体感したことのない重圧(プレッシャー)が、高千穂の緊張感を常に煽っていた。気になって目を向けてみれば、鋭い眼光が高千穂を襲う。銭形はそうやって、無理矢理に高千穂から集中力を引き出していたのだ。

 

 

 翌日も銭形の指導は続いた。射撃だけでなく、近接格闘術、逃走術、制圧術など、様々な訓練を短い間に詰め込んでいたが、高千穂は見事にそれらを吸収していた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 ――そして迎えた合姉妹(ランデ・ビュー)最終日。

 

 

 銭形は高千穂にありとあらゆる分野の基礎を教え込み、僅かな間で元々中等部としては高い水準にあった高千穂の実力は、さらに一段階底上げされていた。

 昨日実習として簡単な依頼に同行させた時も、彼女は武偵高の1年生にも引けをとらない活躍を見せていた。

 

 

「今日は警邏について簡単な指導をする」

「警邏、ですか……?」

 

 今まで実践に役立つ基礎を中心に高千穂の指導を行ってきた銭形が、突然方向性の違うことを言い出したことに高千穂は首を傾げた。

 

 

「そうだ。高千穂、警邏の目的地への巡回ルートを決める要因は何だ?」

「人通りの多さと……利便性、でしょうか。例えば、花火大会会場へ警邏をしに行くとしたら、最寄り駅からの最短ルートや大通りを優先します」

「基本はそうだ。だが、その他にも何かしらの犯罪が起こる可能性のある施設の近く――――コンビニエンスストアや銀行があれば、多少迂回してでもその近くを通ると良い。個人的な意見だがな」

 

 銭形の話に、高千穂と愛沢姉妹は思わずと言った風に相槌を打った。

 

 考えてみれば、例えば大きなイベントがあったとして、その会場の近くのコンビニ等へは普段より多くの人が訪れる場合が多い。訪れる人が多いというのはそれだけレジに入る現金の量も増えるわけで、コンビニ強盗からすればリターンが増すことになる。

 高千穂が例に挙げた花火大会の日ならば、コンビニでは花火の打ち上げ中は利用客も減少し、利用客に妨害されるというリスクも減ることに成り得る。

 

 反面、迂回すればするほど本来の目的である警邏をする場所へ行くのが遅れるため、そこで発生する軽犯罪を現行犯で取り締まることのできる時間が減ってしまうことになる。

 

 これらを天秤にかけてどちらを取るかは人によるが、銭形は前者に重きをおき警邏のルートを構築していた。

 

 

「あとは服装選びも重要なことだ。武偵高の制服にするか、派手な格好にするか、反対に地味な姿で行くか……目的地とルートの状況に応じて、格好を変えられるのも大きなアドバンテージだ。今から、試しにお前たちにはどこかへ警邏に行ってもらう。準備ができたら俺の携帯に目的地と時間を書いたメールを送れ」

「はい!」

 

 銭形にそう指示されると、高千穂と湯湯、夜夜は答え、着替えるために一度自宅へと帰るため銭形と別れ武偵高を後にした。

 

 

 

 




高千穂麗のスーパーレッドホーク、規格が.454カスールなのか.44マグナムなのか分からないので、とりあえず.454カスールとか普通に考えていらんでしょと思い後者にさせてもらいました。しかしいつの間にストック外すようになったんですかねあの子。
話の展開的にここで切りたくはなかったんですが、いい場所で切ると長くなりすぎたのと、次回の分が短くなりすぎる恐れがあるため妥協しました。

また遅くなるかもしれませんが、それまで気長にお待ちください。

※訂正:サブタイの誤変換とスーパーレッドホークの使用弾薬が.44マグナム弾ではなく.357マグナム弾になっていた点を直しました。

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