緋弾のアリア 不屈の武偵   作:出川タケヲ

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次回も割とすぐですかね→ 2 4 日 

新年の挨拶もできずに申し訳ない限りです。
なんだか過去にも来週投稿予定と宣言しておいてその時に限って2週間以上間があいてしまうことが何回かあった気がします。
次からは「次→来週」などと後書きに書いてあれば察してやって下さい。


誰かの為にできること

 

 

 修学旅行Ⅰが終わり、東京に帰ってきた俺たちを出迎えてくれたのは、心優しい暴力担任の綴梅子だった。

 学園島のモノレール駅で俺を出待ちしていた綴は何よりもまず先に、いつも咥えている煙草のような物で俺の額に無言で根性焼きをしようとしてきたのだ。

 俺は咄嗟に綴の手を抑え、900度近い火点から額の皮膚を守ろうとする。しかしこの見た目だけはか細い女のどこに力があるのか、ものすごい力で駅の壁まで押され絶体絶命の危機に陥っていた。何が恐ろしいってあの薬物中毒者みたいなラリったような眼で見据えられながら無言で詰め寄ってくるんだから、それが眼前の煙草なんぞよりも怖い。

 

 結局そのまま1分以上押しつ押されつしていたら他の生徒に見つかり始めたので、恥ずかしくなった時任が綴を説得してくれてようやく開放されることとなったのだが、結局教務科に強引に連れて行かれ修学旅行Ⅰで起こったことの顛末と規則違反をした反省文を書かされてしまう羽目になった。しかしこれも自業自得なので素直に謝辞をA4のコピー用紙に延々と書き記していく。

 

 表面いっぱいに反省文を書き綴に提出して、「裏面まで書け」と言われた時は変な声が出そうになったが、反抗すれば『梅子の部屋』と呼ばれる特別拷問ルームに連れて行かれるので必至に我慢して裏面も書いた。

 

 

 その翌日のことだ。本来修学旅行Ⅰの最終日になっていたはずの今日、俺は寮の自室で拳銃の完全分解をしていた時だった。

 

 俺は綴に呼び出され、なんと校長室に連れて行かれてしまったのだ。

 

 エレベーターを使い、職員室のある4階の更に上の階……5階で降り、廊下を歩いて校長室と書かれたプレートが付いている重厚な扉の前に立つ。

 

 すると、綴がいつになく緊張した面持ちで深呼吸をし、その扉を叩いた。

 

 

「綴です。朱葉響哉を連れてきました。失礼します」

 

 綴の後に続いて校長室に入ると――――そこでは、知らない男性がデスクに肘をついてこちらを見据えていた。

 

 いや、俺はこの人のことを知っている。東京武偵高校長の緑松武尊。式典で演説をしているのを俺は何度か見て、聞いているはずなんだ。

 

 なのにそのことを思い出すことができないのは、それがこの人の能力だからだ。

 

 通称、『見える透明人間』。動作、言動、顔つきや背格好など、その全てが日本人の平均な彼のことは、記憶することができないのだという。

 なのでこの男に狙われたが最後。いくら気をつけていようが接近を悟られることなく近づかれ、不意を突かれてしまう。まさしく恐怖の特殊能力の持ち主なのだ。

 

 だが、そんな緑松校長の表情はなぜだかとても険しいものだった。

 

 

「昨日はご苦労様でした、朱葉くん。疲れは取れましたか?」

「……ええ、まあ」

「私は君の知らせを聞いてからと言うもの、気が気ではありませんでしたよ」

 

 思わずぞっとするような声でそう言った緑松は、鋭い眼光で話を続けた。

 

 

「今回君が関わったこの事件は、平成最悪の大事件になりかねません」

 

 そう言って緑松校長がデスクの上に差し出してきたのは、1枚のA4サイズの用紙だった。

 

 

「これは本来莫大な数の書類を必要とする手続きを集約した用紙です。朱葉君、これにサインをして下さい。今回は、それで済ますことができます」

「司法取引、ですか」

「……武偵制度が導入されてからもう何年も経ちますが、一般市民まで浸透してきたのはつい最近のことです。そんな今、組織内部にスパイがいたことが報道されれば、反対派の人間が大規模なデモを引き起こす可能性が大いにあります。もし今になって武偵制度が廃止されるような自体になれば、武偵制度制定前と比べ遥かに悪化している日本の治安を警察だけが維持することはできないでしょう。それだけは絶対に避けなければならない」

 

 一層険しくなった表情と声色で、緑松校長は俺を見据える。

 その視線が一瞬だけ綴に向くと、綴は俺の背中を叩いてサインを急かしてきた。

 

 

「……サインする前に、1つだけ聞かせて下さい。逮捕された小早川さんと、加担していた篠川さんと伊賀崎さんはどうなったんですか?」

「まあ、そのくらいならいいでしょう。篠川3年生、伊賀崎3年生の両名は昨日中に聴取を終え、2週間の停学処分が決まりました。逮捕された小早川3年生に関しては、今日聴取が行われる予定ですが、処分は非公開裁判を待つことになるでしょう」

「そうですか……」

 

 

 非公開裁判――――日本国では公開裁判が原則とされているが、一部国家機密に抵触、もしくは国内の治安を脅かすと危険視される場合、極秘裏に法定を開く場合がある。

 それは国民の知る権利を蔑ろにするものであるが、極秘裏に行われているため武偵であってもその存在も噂程度にしか認知されていない。

 

 公開裁判との違いについては他に、可及的速やかに裁判が執り行われるのだとか。これも噂程度にしか知らないので本当かどうかは定かではないが、一色さんのチームに復帰できるのはそれだけ早くなるのだと信じたい。

 

 

 俺は差し出された万年筆で用紙にサインすると、緑松校長は1度それを確認し、じっと俺のことを見据えてきた。

 ただ見られているだけだというのに、心の奥底で恐怖感が燻っている感覚に襲われる。それは胸の中で膨らみ続け、胃液を逆流させるような錯覚すら覚えた。

 

 

「朱葉君。どうやら君は、この既に決定した対応に心の何処かで疑問を抱いているようだ。しかし、もうこれは決まったことなんだよ。決定は覆らない。だから、早々に忘れることを強くお勧めするよ」

「……ええ、そうさてせて頂きます」

 

 全てを見通したような風にそう言われ、俺は角が立たないよう言葉を選びながら一礼し、綴とともに校長室を後にした。

 

 

 ――不信感がないといえば嘘になる。

 

 それは俺が、情報統制や非公開裁判を『卑怯だ』と感じるからであろう。

 俺や燐がなりたかったのは、アニメの中にいるような正義の味方……そんな武偵だった。だからこそ、俺からしてみればこういうのは『武偵らしくない』やり方に思えてならないのだ。

 

 勿論、俺もいつまでも子供じゃない。理想と現実の分別も付いている。

 

 

 

 だが――――理想を捨て去り、現実だけと向い合ったとして、それは本当に俺たちが目指した武偵をやっていると言って良いのだろうか。

 

 

 そんな疑問すらも、校長室から出てしばらくすると、緑松校長の記憶とともに薄れ消えてしまうのだった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 ――あまりよく覚えていないが、校長室に呼び出されて司法取引の書類にサインをしたあの日から1週間が経ち、今日は直前申請の締切日。なぜか時任が、「チーム登録の申請はギリギリまで待っていて欲しい」と頼み込んできたので、いまいち時任が何を考えているのかが分からない俺は雅にも言って今日までチーム登録のための手続きを行っていない。

 

 直前申請(ジャスト)というのは、修学旅行Ⅰを経て組む予定だったチームから抜ける、またはチーム自体を解散、もしくは合併する、といった判断をした生徒たちの救済処置で、つまるところ遅れてしまった人向けの駆け込み式登録方法だ。

 

 その直前申請のやり方は至って簡単。撮影場所に正装で行き、待機している教員に登録用紙を提出して写真を撮ってもらうだけ。

 

 そしてこの直前申請、利用者がかなり多いと聞く。

 武偵のチームというのは互いの命を預け合うものなので、易々とは決めることができないのだろう。

 

 

 俺は朝から装備科から借りてきた防弾制服・黒(ディヴィーザ・ネロ)に着替え、とっくの前にチーム登録を終えていた龍たちに茶化されながら朝飯を食べていると、テーブルの上に置いていた自分の携帯にメールが届いたのに気づく。

 

 メールの主は時任だった。内容は『午前10時、超能力捜査研究科(SSR)の屋上に来い』というもの。時期を考えるにチーム登録についての話をするつもりだろう。

 

 ならば、俺とチームを組むつもりでいる雅も連れて行くのが筋というものだろう。だが、俺はどうにもここ(超能力捜査研究科屋上)へ雅を誘う気分にはなれなかった。

 

 時任とは、1対1できちんと話を付けなければならなかった。

 

 七海の時のように嘘をつかなくてはならないかもしれない。だが、俺には問われればどんな形であれ答える義務がある。1年半の間一緒にいたのだからそれは当然のことだ。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 もうすぐ9月も終わるというのに、今だこの国はじめじめした不快な暑さが漂っている。

 と言うのも、今私がいる超能力捜査研究科(SSR)の屋上には大型の室外機が設置してあり、そこから排出される温風によってこの屋上一帯の気温だけほんの少しだけ上がっているからなのだろうが(むしろそうでなければいよいよこの国はおかしい)。

 

 加えて通気性最悪の防弾制服を身に纏いながらも、私はかれこれ30分ほどある人のことをここで待っている。と言っても、私がメールで指定した時間にはまだ30分もある。自分から指定した時間の1時間も前から待っているのだからまだ来ないのは当然だ。

 

 落下防止のフェンスに指を絡め、私は彼に何と言えばいいのかずっと考えていた。

 

 かれこれ1年半にも渡る付き合いだ。掛ける言葉も慎重になる。

 

 私が悶々としていると、一際強い海風が吹き、私の髪を靡かせた。それを押さえると、不意に、背後の扉が開く音がして、私は咄嗟に振り返った。

 

 

「……よ、よう」

 

 彼は――――朱葉響哉は、まさか私が先にここに来ていると思いもしなかったのか、面食らったような表情で呼びかけてきた。

 

 

「――まだ、9時半よ。少し来るには早すぎるんじゃない?」

「それはこっちの台詞だろ。いつからここに居たんだよ。時間間違えたと思ったじゃねえか」

 

 お互い、茶化し合うようにしてそう言うと――――そこから、何を話したらいいものかと、場に沈黙が訪れる。これではまるで初心な男女のお見合いだ。

 

 

(私よ、違うだろう? 私がするべきことは、今から言おうとしていることは、そんなものなんかでは決してない)

 

 まだ言葉は纏まっていない。しかし、響哉を呼び出したのは私だ。話があるのは私の方だ。

 

 カラカラになった喉を鳴らし、私は意を決して口を開く。

 

 

「……きょ、今日のチーム登録、私は――――」

 

 そこまで言って、声が詰まる。唇が震え、視線を前に向けられない。

 私は視線を横に向け、続けた。

 

 

 

 

 

「――私は、山吹進一郎のチームに入ることに決めた」

 

 

 

 それを言った瞬間、胸が痛くなった。気分が悪くなった。そして何より、逃げ出したい気持ちになった。

 

 それでも、私は微動だにせず、しかし視線は横を向けたまま、言葉を続ける。

 

 

 

「……響哉。夏休み、お前がサッカーの試合に助っ人で呼ばれた時があっただろう? 響哉は緊急事態で現場に行ってしまったが、あの時、私は山吹に誘われていた」

「まあ……あいつ(山吹)からなら誘いがあってもおかしくないな」

 

 私の超能力(ステルス)は尋問系だ。尋問科(ダギュラ)の山吹進一郎からしてみれば、この能力はチームの大きなプラスパワーになる。1年の時のカルテットで同じチームだったよしみでもあるし、彼からしてみれば断られるとしても、チームに誘わない手はなかっただろう。

 

 

「でも、じゃあなんで修学旅行は俺を誘ったんだ?」

 

 山吹に誘われたのが夏休みなら、修学旅行Ⅰへは彼らと行くのが道理だろう。

 だからこそ響哉はそこを突いてくると読んでいた私は、ずっとその問の答えを考え続けていた。だが、いくら考えても響哉が納得してくれるような上手な言い訳は思い浮かばない。

 

 

 だったら、いっそ――――。

 

 

 

 

 

 

「あなたのことが好きだからよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 ――世界が死んだ錯覚がした。

 

 一瞬か、ほんの数秒か、はたまた数分、数時間の間、屋上に吹く風の音も、大型室外機のモーター音も、自分の心臓の鼓動さえも聞こえなくなり、身体が宙に浮かび、視界が真っ白に染まるような奇妙な錯覚が俺を襲ったのだ。

 

 しかし、これは自分だけが知らなかった秘密を吐露されたような疎外感とも、そして何より驚きとも違う。もっと別の、目を背けていた現実を突き付けられたようなショックに酷似している。

 

 

 ……そう、俺は漸く気付いたのだ。自分が彼女の好意を感じつつも、それから目を逸らしていたということに。

 

 

 

 北原七海という女子がいた。

 

 彼女からの告白を俺は保留として、後回しにした。しかしその好意を、俺は伝えられる以前から感じ取ることができていた。では、なぜ時任の好意には感付くことができなかったのか。

 

 2人の違いはいくつかある。しかし、そんなものは些細な事だ。ならば、なぜ俺は七海の好意には気付けて時任のは気付けなかったのか。その答えは簡単だ。

 

 

 

 俺は、彼女の気遣いに甘んじていたのだ。

 

 

 何があっても俺のことを信頼し、感じた疑問を問い詰めることもせず――――ただ、自分にできることをしつつ、俺が答えてくれるのをひたすらに待っていてくれた時任に、俺は見て見ぬふりをして今までだらだらとこの関係を繋ぎ止めようとしていた。

 それが彼女にとってどれだけ辛かったことだろうか。少し考えれば誰にでも分かることだ。だが、俺は無意識のうちに自分を誤魔化し、あろうことか彼女の好意を踏みにじり、そして今日という日を迎えてしまった。

 今ほど自分が憎いと思った瞬間はない。それほどまでに自分の犯した行為は恥ずべきものであったと今更ながら理解した。

 

 

「だから最後に、ちゃんと思い出を作りたかった。返事は……今は、まだ保留でいいわ。でも――――全部終わったら、ちゃんとイエスかノー、答えてもらうわよ」

「……何で俺の隠し事、知ってるんだよ。俺の頭の中は視えないんじゃなかったのか?」

「いつから一緒にいると思ってるの。超能力なんかなくても、そんなことくらいわかるわよ」

 

 フフッ、と笑みを見せながら時任は答えた。その笑顔にはもう昔のような冷たい刃物のような鋭さは垣間見れない。とても女の子らしい、柔らかい笑みだ。

 

 

 

「何だかスッキリしたし、私はもう帰るわ。明日もまた教室で会うけれど、暫くしたらその機会も少なくなるでしょうね」

「時任……。今まで、ありがとな。あと、ごめん」

「気にすることないわ、自分で好きにやったことだから。それより撮影会場(むこう)で久我さんも待ってるんでしょ? 早くあなたも行ってあげなさい」

「ああ。この借りはいつか絶対に返すよ」

「あまり期待せずに待っているわ。それじゃあ、ダスヴィダーニヤ(さようなら)、響哉」

「じゃあな、時任」

 

 

 俺は時任に別れを告げると、踵を返して駆け出し階段を降りる。

 その時、踊り場の壁に俯き気味になりながら背中を預けている男子生徒――――山吹進一郎のの姿が目に飛びこんできた。

 山吹は俺とすれ違う時に、とても小さな声で、そっと独り言のように呟く。しかし、静まり返った校舎の中で、俺の耳はしっかりとそれを聞き入れていた。

 

 

「やっぱり僕は、君のことが嫌いだよ」

 

「……ああ、俺もだ」

 

 

 足を止め、視線を合わせようとしない山吹を見据えながら、俺は掠れたそう答えた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 今年の撮影会場である強襲科棟屋上には、多くの生徒が集まってきていた。どうやら全員、直前申請をしに集まってきているようで、このチーム編成の重要性と生徒の真剣さを物語っているようだった。

 

 

「響哉」

「雅か。すぐに合流できて良かった。あとはアイツだけか」

「響哉、時任さんは――――」

「さっき時任からその話は聞いた。俺が捜してるのは……――」

 

 俺が誰を捜しているか、雅に教えてやろうとしたその時だった。

 

 

「俺を捜しているというのは、やはり貴様か」

 

 不意に、背後から声をかけられる。気付けば周囲にいた同期の生徒はいつの間にか蜘蛛の子を散らすように広がり、露骨に俺たちから距離を取っていた。

 

 

「まさかそっちから声が掛かるとは思ってなかったよ、銭形」

 

 そう。俺が捜そうとしていたのは他でもない、この銭形平士だった。

 

 他のチームに入るならば仕方がなかったが、京都でコイツの話を時任から聞いた時からダメ元で勧誘をしてみようと考えていたのだ。

 

 しかし、コイツの性格上向こうから呼びかけてくるとは全く考えていなかったために、背中に変な汗が流れ出し、表情もぎこちないものになってしまう。

 

 

「時任ジュリアから、俺に話がある奴がここにいると聞いた。貴様なんだろう? 違うなら他をあたるが」

「いや、多分俺で合ってる」

「多分?」

 

 銭形は訝しげな表情で俺と雅を見た。

 

 そんな顔したいのはこっちの方だ。時任は超能力がなくても俺の考えくらいわかると言っていたが、その精度が超能力使うのと同じだと誰が考えるだろうか。

 

 

「こっちにも事情があるんだよ。……まあとにかく、時間もないから要件だけ単刀直入に聞く。銭形、俺のチームに入らないか」

 

 仏頂面で俺が銭形にそう尋ねると、今まで腫れ物を扱うように静かだった周囲が一気にざわめき立つのが聞こえてきた。しかし、銭形はそんなことを一切気にするでもなく、威圧的に返してくる。

 

 

「俺が、貴様らと?」

「ああ。悪い話じゃないと思うが」

 

 銭形はイ・ウーの河上アヤメを追っている。俺も燐に繋がる手がかりとしてイ・ウーと河上、櫻井を追っているので、敵は共通している。ならば共闘した方が互いの利益になる、と考えたのだ。

 

 

「いいだろう」

「ま、そうだよな。お前が俺たちと組むなんて……って――――」

「耳が腐っているのか貴様は。貴様のチームに入ってやると言ったのだ」

「……お前、銭形の偽物なんじゃねえか? 絶対に『誰が貴様のチームなどに』とか言って渋ると思ったが」

「少し前の俺ならそう言ったかもしれんな。まあ……気の迷い、というやつだ。用紙を渡せ」

 

 ッフ、と笑みを浮かべながら、銭形は俺から申請用紙を受け取ると近くの机にそれを置き、武偵手帳に付けていたボールペンで自分の名前を書き記した。

 

 

「副リーダーは久我でいいか?」

「いや。何かあった時に冷静な判断ができるお前に任せたい。嫌なら雅に任せるが」

「構わん。だが、今まで俺と組もうとして着いてこれた奴はいない。それと、個人的な依頼でチームを離脱する時もある。それだけは肝に銘じておけ」

「わかった。頼りにしてるぜ、銭形」

 

「朱葉ァ! チーム決まったんならさっさと登録しに来んかいっ!」

 

 

 俺が銭形から申請用紙を受け取ると、横から蘭豹が怒鳴り声をあげて名指しで俺たちのことを急かしてきた。

 これ以上待たせるとあいつの真下にある教室が青空教室になりかねないので、急いで蘭豹に登録用紙を渡してその後すぐに俺たちはビニールテープの囲いの中に整列する。

 

 この時、被写体になる生徒は普通の集合写真のように正面を向いて写真を撮ってもらうのではなく、斜めを向いたり撮影者がわざと手ブレをしたりして正体を少しぼやかすのが昔からの風習だ。制服がいつもと違う防弾制服・黒なのも、制服からどこの生徒かを特定されにくくするためだという。

 

 まあ、最近の技術ではその程度の工夫など全く意味をなさず、鮮明化や特殊メイクの素材に使われてしまうのだとかいう噂を聞いたことがある。それでもしないよりはマシということで続けられているのだとか。

 

 

 俺たちもその風習に従い、銭形はズボンのポケットに手を突っ込んでよこを向き、雅は俯き気味になって顔を隠し、俺も顔を斜め下に向けながら睨むようにして蘭豹が写真を撮り終わるのを見ていた。

 

 

「9月24日11時38分、チーム・エクステンド(EXTEND)――――承認ッ、登録!」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 始まりは3年前に起こった事件で、きっかけは1年半前のできごとだった。

 

 俺には力がない。そのことは過去に証明された。だからこそ、俺たちは徒党を組み僅かな可能性を信じて、ただひたすらにその希望に手を伸ばし続けるのだ。

 もしその手が届かないのならば、向こうがそれを拒むのならば、無理矢理にでも手を届かせてこっちに掴み上げてやろう。

 

 漸く、その準備が整った。

 

 さあ。待っていろ、イ・ウー。そして燐よ。

 

 

 

 今度は俺たちが出向く番だ。

 

 

 

 




やっと話が進むのかと思いきや、次回は恐らく銭形視点の短編。これだけは先の都合上絶対に挟まないといけないんですよね。
あとAAのキャラを出すには響哉たちが2年生の時が一番都合がいいので可能な限り出したいのですが、あかりがインターンで武偵高に来るのは2巻ライカの台詞から3学期なので時系列が合わず、志乃は探偵科なので響哉たちとは学科が違い、条件に合うキャラは限られてきます。

次回でAAキャラを初めて登場させますが、ストーリー構成の問題でライカは扱いにくいので候補から外れてしまいました。
上の条件に合うキャラとなればかなり絞られるので、多くのAA読者の方々がピンとくると思います。

未読の方にも分かるようにしていくよう努力するつもりですが、詳しくはヤングガンガンコミックスから好評発売中の「緋弾のアリアAA」全7巻(552円+税)をお読み下さい。


次回:来週

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