緋弾のアリア 不屈の武偵   作:出川タケヲ

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ク~リスマスが今年もや~ってくる~。赤松サ~ンタもやってくる~。

というのが先週までの話。とっくにクリスマスから数日が経ち、緋弾のアリア最新16巻もめでたく発売し、AA最新7巻も同時発売というわけで早速一昨日買いに行って読み終わってからの投稿なのですが、遂に原作でもアリアが出なくなってしまいました。やっぱりヒロインはリサだったんだ(すっとぼけ)。
公式のあらすじを読むと遊戯王の「城之内死す」デュエルスタンバイ!しか出てこなかったです(笑)


黒幕の正体

 作戦同日、午前5時34分。

 

 響哉、玄田を交えたC3の面々が帰還してからおおよそ2時間半ほどが経過したこの時間、薄明るくなった外の光が射し込む大阪武偵高のドックを訪れる人の姿があった。

 

 

「――随分遅かったね。面談を希望したのはそっちだというのに」

 

 そう声を発した男の正体は、大阪武偵高の非常勤講師である日暮だ。朝日が反射して白くレンズが光る眼鏡を左手人差し指で上げると、薄ら笑みを浮かべながら首から上だけを捻って、背後にある唯一の通行路を振り返る。

 

 

 そこから現れたのは、C3(シーキューブ)の副リーダーである小早川秀、先駆け(PM)の篠川結衣、そして狙撃手(スナイパー)の伊賀崎麻弓の3人だった。

 

 

「日暮……、あれはどういうことだ」

「うん? なんのことか、さっぱり分か――――」

「とぼけるなッ!」

 

 声を荒らげながら秀は一息で腰のホルスターから自動式拳銃『H&K P7』を引き抜き、その銃口を日暮にむけて構えた。

 それは麻弓と結衣にとって予想外の事だったのか、驚いたように目を剥いて秀へ視線だけを向ける。

 

 

「あんたは取引は別の場所に変更になったと言った。それが、なんだあのトラックは……ッ、これは明確な敵対行為だ! この場所を指定したのも、そのクルーザーで逃げるつもりだったからだろう!」

「おっと、そう熱くならないでくれよ」

 

 日暮は身両手を上げつつ身体を振り向かせる。だが、なぜか銃口を向けている秀の方が、表情に余裕が見られなかった。

 

 それに気づくと、日暮は口元を歪ませ、あろうことか両手を下ろして自分に銃口を向けている秀に歩み寄ってきたのだ。

 

 

 

「ッ!? と、止まれ!」

「ダメダメ。情報科とはいえ、武偵がそんな焦っちゃぁ」

 

 静止を促す秀の手は震えていた。日暮と秀の距離が、手が届くまであと数歩の所まで縮まる。

 結衣も自分のホルスターに手を伸ばすが、それ以上は動けない。蛇に睨まれた蛙のように、さしずめ金縛りに遭ったように、それからの動作を封じ込められてしまったのだ。

 

 

「ほら、この距離じゃぁ、もう当てらない」

 

 一息すらつかせる間もなく秀に近づいた日暮はP7のフレームを鷲掴みし、銃口を自分から逸らす。

 そして顔を覗かせることで秀と、その傍にいる2人の恐怖を、まるでじわじわと指で傷口を引き伸ばしていくように、煽っていく。

 

 

 日暮の持つ潜在的な『恐怖』が、3人を支配しようとした、その時だった。

 

 

 

「そいつらから離れろ!」

 

 鉄の壁で囲まれたドック中に、男の低い声が響き渡る。その音源を振り返ると、そこには拳銃(XDM)を構えた、彼らのリーダーである一色正義の姿があった。

 

 彼の近くにはドック内の空調等を管理する管制室があり、日暮は正義がそこで息を潜めていたのだと即座に悟る。だが、それには腑に落ちない点がいくつもあった。

 

 

「一色ぃ……何でお前が、ここにいる」

 

 聞くからに不機嫌な声色で、日暮は眉間に深い皺を寄せながら正義に尋ねた。

 

 

「この荒川組の件……あなたが怪しいと進言され、尾行(つけ)させてもらいました」

「なにぃ……?」

 

 日暮は視線を秀たちへと向け直す。真っ先に疑うのは正義と同じチームである彼らだが、その3人の表情も、驚きを隠しきれないといった様子だった。間違いなく心の底から驚いている、そう確信を持って感じ取った日暮は、再度正義へと視線を戻す。

 

 

「一体、誰がそんな……――」

 

「――俺だよ」

 

 

 3番ドック唯一の通行口。そこから発せられた男の声に、日暮は身体を強ばらせながら首から上だけで振り返った。

 

 

 

「お前たちは……神戸の玄田と、確か、東京の……!」

「東京武偵高強襲科2年の朱葉響哉だ。……まあ、覚えてもらわなくても結構だが」

 

 そう吐き捨て、響哉は懐のホルスターからP2000を抜き、その銃口を日暮へと向ける。

 

 

「荒川組のあの対応は、明らかに俺たちが来ることを想定してのものだった。どこからか情報が漏れていたんだ。だが、盗聴器なんかの電波は武偵高側が気付かないわけがない。つまり、あの時俺たちの中に裏切り者がいたことになる。それに、荒川組の使ってた銃弾。アレ、大阪武偵高の地下倉庫に死蔵してた安物の古いやつだろ。連中(ヤクザ)には高校生(ガキ)は信用されないから武器弾薬の横流しなんてさせてすらもらえないし、武偵高の生徒なんてどこの誰に見られてるか分かったものじゃない。だから、必然的にあんたしか考えられなかったんだよ。……まあ、決定打は他にあるんだがな」

「チッ……ただのお人好しな間抜け野郎かと油断してたら、隣のアホ丸出しのクソガキと違って中々キレるじゃねぇか」

「ンだとこの野郎!」

 

 日暮の毒舌に玄田が怒りを露わにした。が、響哉は玄田の襟を掴んで後ろに引っ込めると、油断なく引金に指を掛けたまま日暮に向かって整然と言い放つ。

 

 

「どれだけ減らず口を叩こうがあんたはもうお終いだ。大人しくお縄について自分のやった過ちを悔い改めるんだな」

「ッハ、誰がそんなコトするかってぇの!」

 

 徐々に本性を表し始めた響哉の言葉を日暮は鼻で笑うと、正面にいる秀たちに向き直った。

 

 

「お前ら、いいのか? このまま俺が捕まってあの2人が外に出ちまうと、俺や小早川がやったこと――――横流しが世間様にバレちまうんだぞ。そうなりゃ勿論、チームは解散、リーダーやお友達は非難の的になるだろうなぁ」

「……ッ!」

「日暮……ッ、貴様ァ!」

 

 日暮の言葉に反応して、はっとしたように、篠川結衣の身体がぴくっと強張った。

 彼女だけでない。目に見えた反応は示さないが、秀も、麻弓もまた、結衣と同じく日暮に心を動かされそうになっていた。

 それを悟った正義が、憎しみの篭った声で喉を振り絞る。だがその叫びも虚しく、結衣と麻弓は振り返り、響哉と玄田に対峙する。

 

 

 この3人だけではない。C3の全員が、リーダーである一色正義と、そのチーム(C3)に愛着と恩を感じている。だから、彼らは自分の武偵としての正義と誇りを失くしてもなお、チーム(C3)という居場所を失いたくないのだ。

 

 

 ――そこに、日暮は浸け込んだ。

 

 自分たちを裏切ったという嫌疑を掛けられてもなお、それが眼前の脅威に比べれば些細な事であるという認識にすり替え、敵対した者でさえも利用してしまう。それがこの日暮という男の恐ろしい所であると、響哉は認識した。

 

 

「武偵憲章3条……篠川さん、でしたっけ? 自分が何をやってるか、わからないわけじゃないですよね」

「当然……それでも、私は皆と一緒にいたいから……だから、少しだけ、ガマンして」

 

 (とぼ)けたようにしながらも、核心を突いてくる響哉に対し、結衣は辛そうに声を振り絞って答えた。その言い草からして、響哉は『殺したフリをしておくから黙っていてくれ』というニュアンスが含まれていると感じ取ったが、しかし彼はそれに応じる気は毛頭ないようで、残念そうに溜息を吐きながら首を横に振った。

 

 

 

 

「雅、やれ」

 

 

 よく響く声で響哉がそう指示を出した直後、結衣の頭上から響哉と一緒に修学旅行で大阪を訪れていた久我雅が降下し、タクティカルナイフを結衣の首筋にあてがいながら右腕の肘関節を極め、完全に動けなくさせてしまったのだ。

 

 いくら反射神経が良かろうと、死角――頭上からの攻撃には対応しようがない。ましてや雅の動きは一切の無駄がなく、洗練された殺し屋の動き。生粋の武偵ではなく、元暴力団の用心棒で暗殺もこなし、武偵としての訓練も受けてきた今の雅だからこそ可能な動きだった。

 

 

 そして、頭上から急襲してきた雅に秀と麻弓が気を取られている隙に、響哉は彼らとの距離を詰め、秀の手からP7を弾き、それに気づき咄嗟に構えようとしていた麻弓のMSG-90の銃身を蹴り飛ばすと、一息で背中に秘匿していた小太刀『雲雀』を抜刀し、その刃を秀に、P2000の銃口を麻弓へ向けると、ドスの利いた低い声で、言い放つ。

 

 

「――武器を捨てろ――」

 

 日暮から感じ取った物とは全く異質な、直接的恐怖感が背筋を走り、2人は反射的にそれぞれの獲物を床に落とす。

 その後、響哉は結衣に目配せすると、諦めたようにして彼女も自身の獲物であるCz85Bを2挺、自由の効く左手でホルスターから取り出すと、それらを床に手放した。

 

 響哉と雅はそれらを蹴って秀たちの手が届かない所へ滑らせると、3人を開放して日暮へと向き直る。

 

 

「…………」

「…………」

 

 あまりの手際の良さに、一色と玄田は口を開けたまま絶句している。日暮もまた同じように声を失っているが、すぐに余裕を取り戻し浮ついた笑みを顔に張り付かせ始めた。

 

 

「クックック、なるほどなぁ。天井クレーンのクレーンガーダの上に隠れていたのか、全く気づかなかったぜ。だが、仕留めるのは篠川で本当に良かったのかぁ?」

「ああ、予定通りだ。だからここから先も、予定通り進ませてもらうぜ」

「なにぃ……?」

 

 訝しげな表情をする日暮に対し、響哉が彼と話している間に少し歩み寄ってきていた玄田が口を開く。

 

 

「まだ分かんねーのかよタコ。テメーの相手は俺だってことだ!」

 

 中指を立てながら、挑発的な言葉で名乗り出たのは、勿論のことながら玄田である。当人、これでもかなり怒りを抑ているつもりなのか、額の辺りに血管が浮き出ている。

 

 

「たっく、どいつもこいつもナメやがってよぉ……おいテメェらぁ! 相手してやれぇ!」

 

 数歩下がりながら日暮が言うと、ドックに停泊していた中型クルーザーの中から黒服を着た荒川組の構成員4人が中国北方工業公司(ノリンコ)突撃銃(アサルトライフル)である『95B式自動歩槍(QBZ-95B)』を携えて姿を現し、響哉たちの前に立ちはだかった。

 

 

「あーあ。いっぱい出てきちゃったよ。……ってわけで一色さん。気持ちはわかりますけど、露払いの手伝い、お願いできますか?」

「……まったく、3年を蔑ろに扱いやがって。だが……仕方ない。今回だけだぞ、君たちには借りがあるからな」

「どうも。……玄田! コイツを使え!」

 

 視線は前に向けたまま、響哉は小太刀を一度鞘に戻し、その鞘ごと小太刀を玄田に投げ渡した。

 玄田は慌てふためきながらもそれをキャッチし、ぽかんとした表情で響哉と小太刀を交互に見比べる。

 

 

 ――それもそのはず。今は殆ど形骸化してしまっているが、彼らの曽祖父の遺言により、家宝の刀の奪い合いによりその強弱を決める『刀狩』というルールが2人の間には存在していた。

 そしてその対決に敗けた者は勝った者との間に軍の掟が付き纏い、命令に背くことはできなくなってしまう。

 

 だからこそ、玄田には響哉がなぜこの雲雀を投げ渡してきたのかが理解できなかった。

 

 

「お前、本当は二刀流だろ? 去年は分からなかったが、今日の戦闘で何となく分かったぜ」

「……!」

 

 図星とでも言いたげに、感情や思っていることが表に出やすい玄田は肩を竦める。

 

 

 

「それを使って強くなれ。そして、俺と闘えるようになってからそれを返しに来い。だからまずは、あのいけ好かないクソ野郎をお前の全力でぶっ飛ばせ!」

 

 

 

 響哉が言うと、玄田は若干俯き気味になって、雲雀の収められた鞘を自身の持っている刀と左右で対になるよう腰に差した。そして――

 

 

「……必ずだ」

 

 そっと、下を向きながら玄田は呟く。

 

 

「いつか必ず雲雀を持って、お前の前にまた現れる。だから――――!」

 

 そう叫びながら玄田は顔を上げ、一息で左右の刀を抜刀した。

 小柄な玄田の身体でも片手で扱えるような、短めの2振りの刀。昨年の『武蔵』を持っていた時のような窮屈さは、もうどこにも見当たらない。

 

 

「――俺が行くまで、くたばるんじゃねーぞ!」

 

 精一杯の強がりを見せながら、玄田は日暮に肉薄した。

 

 

 

 




次回:年末

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