緋弾のアリア 不屈の武偵   作:出川タケヲ

77 / 96
艦これたのしす←遅筆の原因の約半分(艦これが楽しいのが悪い)。
あと半分の内さらに半分は大学の用事。残りはバトオペとCOD:G。今はただただDLCの新マップを待ちつつ艦隊を出撃させています。
2ヶ月前の予定ならとっくに冬くらいには進めてるはずだったんですけどねぇ。年内には響哉たちを東京に帰せるよう頑張ります。


強襲作戦

 

 

 

「テメェら、派手に行くぞォ!」

 

 深夜2時43分……C3の副リーダーである進堂冬威率いるB班が、麻弓の狙撃によって外灯が破壊されると同時に弁天埠頭正面からの強襲を開始した。

 

 

 先駆け(PM)として先陣を切った冬威は右手に持つ『ベレッタ Px4』を水平に構え、待ち構えていた荒川組の構成員3人に向けて連続して発砲した。

 直後、冬威は反対の手で一息で(ナガドス)を鞘から引き抜くと、そのまま正面にいた構成員を薙ぐようにして峰打ちで一閃する。

 一瞬で武装した暴力団構成員を複数無力化する制圧力と速さ、さらにそんな激しい動きをしたにもかかわらず息1つ乱さない無尽蔵なスタミナ。それこそが彼がC3の『エース』として認められている理由だった。

 

 もう1人のPMである結衣もまた、冬威と同じく前に飛び出しつつ、大きく開いた両手に持った自動式拳銃『Cz85B』を連続で発砲し構成員の手から獲物を弾く。

 精密さが欠けるとされる2挺拳銃で、暗闇の中、相手の持つ武器のみを正確に狙い撃つことのできる彼女の射撃技術の高さは、素人の目から見ても瞭然だ。

 その射撃技術に加え、彼女の持つ柔軟な躰から繰り出される鋭い足技や、腕を絡め関節を破壊する関節技(サブミッション)が、女性としての非力さを補ってなお余りある攻撃力を生み出している。

 だが、彼女の持ち味はそれだけではない。

 

 

「死にさらせェッ!」

 

 結衣の横から、弾かれた仲間の物を拾ったのか、両手にH&K社のMP5を中国北方工業公司(ノリンコ)がコピーした短機関銃(NR-08)を構えた大柄の構成員が、その2つの銃口を彼女に向けつつそう叫んだ。

 

 が、結衣は体を捻り無理やりその構成員に正中を向けると、即座に両手を前に突き出しほぼ同時に左右のCz85Bの引金を引く。

 すると、構成員の手から短機関銃が弾き飛び、怯んだ彼の側頭部に鋭い上段蹴りが炸裂した。

 

 ――そう。結衣のもう1つの武器はこの常人離れした反射神経にある。相手の攻撃に素早く対応し、そこから精密な射撃や優れた身体能力による格闘に繋げることができるのだ。

 

 

 

 正面から突撃し、鬼神の如き猛威を奮うこの2人に、待ち構えていた構成員たちの注意は当然向いていく。

 

 だが、この場に来ている武偵は冬威と結衣だけではない。

 

 

「ハハハハハ!」

 

 さながら悪役のような高笑いとともに、遅れて飛び出した夏風がゴルフバッグに入れていたFN社の分隊支援火器『MINIMI(ミニミ)軽機関銃』を構え、援護射撃として弾幕を張り始めた。

 通常、ミニミは二脚が標準装備されているが夏風のミニミにはそれが取り外されていて、代わりに銃身の跳ね上がりを抑制するフォアグリップと、フィードカバー上のピカニティニー・レールに取り付けられた暗視スコープ、更に伸縮性の可変ストックを装着し、バレル長も通常よりはるかに短くなっている。カスタムとしては、米軍の空挺部隊用に仕様変更された『M249 E4』に近い。

 

 使っている弾薬は5.56mm NATO弾であるが、全て炸薬量を少なくした弱装弾であり、相当の威力であることは変わりないが殺傷性を可能な限り抑えこんである工夫が練られている。

 

 

 前線にいる構成員は冬威と結衣が圧倒し、距離を置いて弾幕を張ろうにも2人の後ろからは軽機関銃による制圧射撃、更に構成員らは気づくはずもないが頭上には自分たちの居場所を筒抜けにする叶美野里操縦のラジコンヘリの存在もある。暴力団側からしてみれば、この不利を覆すには拳銃や短機関銃などでは火力不足が否めない状況であった。

 

 

 ――だが、彼らの表情に焦りは見られない。なぜなら、この絶望的状況から一転攻勢に移ることのできる切り札を、彼らは隠し持っていたからだ。

 

 

(こいつら、何をする気だ……?)

 

 冬威が感覚的に不信感を抱き始めた、その時だった。

 

 突如、今まで閉じていた倉庫のシャッターがゆっくりと上がり始め、その中から眩い光が漏れ出し、構成員たちの足下を照らす。

 その光の正体は自動車のヘッドライトだということに、冬威たちは即座に勘付いた。

 

 しかし、その車が倉庫から出て姿を現した瞬間、彼らは驚愕に目を剥き、戦慄する。

 

 

 

「全員隠れろ! M2だッ――!!」

 

 冬威が叫んだ直後、3人はバラバラの方向に飛び退き、物陰へと一時避難する。それと同時に、倉庫から出てきた車――――『トヨタ・ハイラックス』の荷台の銃架に固定された『ブローニングM2重機関銃』が火を吹いた。

 

 これ(M2)は第1次世界大戦末期に制作され米軍に1933年に採用されて以来、21世紀の現在に至ってもその信頼性と完成度の高さから、今だに世界各国の軍隊で採用、生産されている世界で最も有名な重機関銃である。

 現在ではFNハースタイル社が改良型として空冷式ヘビーバレルの通称HB型から銃身交換が容易なCQB型への改修をしているが、今回荒川組の持ち出してきた物は旧型のHB型であった。

 使用する弾薬は対物(アンチ・マテリアル)ライフルの代名詞である『バレットM82』のそれと同じ12.7mm弾で、人体に掠っただけで着弾部位がもげるほどの高火力を有しており、その汎用性も相まって固定させているハイラックス同様、テロリスト集団や民兵組織にも重宝されている。

 

 そして、近年イギリスの国営放送局、BBCが番組内で検証したことでその頑丈さを世界に知らしめることになったハイラックスは、新興諸国の間で広く普及しているピックアップトラックだ。

 ハイラックスのアピールポイントは本来、乗用車並みの豪華さを持ったトラックであったが、どれだけ長い距離を走ろうが海水に沈められようが瓦礫に潰されようが火を放たれようが、簡単な工具と潤滑剤さえあれば滅多なことでは走行不能にならないその頑丈さが評価され、戦闘用車輌としてやはりこちらもテロリスト集団や民兵組織がこぞって使用していることで有名な車輌である。

 

 

 

「チィッ! こいつら、戦争でも始める気かよ!?」

 

 M2の掃射を倉庫の物陰に隠れながらやり過ごしていた冬威は、既に10発ほど撃っていたPx4の弾倉を交換しながら毒づいた。

 

 

「おい2人とも、被害状況は?」

 

 苛立ちの募った声色で、冬威はインカムで結衣と夏風の安否を確認する。

 

 

『私は問題ないよ』

『こっちも大丈夫……秀、今の状況が分かるか?』

 

 2人とも比較的落ち着いた様子で応答し、夏風の問いかけに指揮通信車でラジコンヘリから送信される情報をまとめている秀が少し遅れて伝達する。

 

 

『M2の存在もさっき確認した。祐希、麻弓にも繋げ』

 

 彼らの使用している無線は、指揮通信車によってオンとオフの切り替えができる。実動班の中では基本的に、A班の無線はA班の班の中でのみ、B班の無線もB班の中でのみしか聞こえないようになっている。

 今回のような複数の班による作戦の場合、その無線の内容を一手に請け負っているのが通信手の祐希だ。A班、B班の無線の内容を聞き取りつつ、秀の指示で別の班へ無線を繋げたり秀の代わりに指示を出すのが彼女の役割だ。

 

 今はA班へ大まかな指示を出しているため、冬威率いるB班の無線には自分の音声をオフにしつつ、1人対岸にいる麻弓の無線へと回線を繋いでいる。

 

 

『そこにいるのはM2を積んだトラックが1輌と13名の短機関銃で武装した構成員だ。ヘッドライトで照らしながらゆっくりと距離を詰めている』

 

 無論、3人の中で最も前に陣取っている冬威には、ヘッドライトの光源と荒川組の構成員の足音が徐々に近づいてきていることくらいわかっている。

 

 

『麻弓がヘッドライトを狙撃して再度暗闇を作る。その隙に冬威と結衣が構成員を無力化。夏風はトラックのタイヤ、次にフロントグリルを狙い撃て。援護射撃は麻弓が行う。射線に入らないよう通路の端に沿って動け。麻弓、狙撃しろ』

 

 3人の同意も得ないまま、秀は麻弓に狙撃命令を下す。だが、これは彼が先走っているのではなく、仲間を心の底から信頼しているからこそできる指示だった。

 

 

 事実、埠頭から約400メートル離れた対岸にある集合住宅の屋上から、連続で放たれた2発の銃弾がハイラックスのヘッドライトを正確に撃ち抜くのと同時に、冬威と結衣は行動に移っていた。

 

 ヘッドライトの明かりを頼りにしていた荒川組の構成員らは不意を突かれて混乱し、とにかく正面に向かって弾幕を張ろうと銃火器を構えようとする。

 だが、その一瞬の間に麻弓の狙撃によって数人の手から獲物が弾き飛ばされてしまう。

 

 この連続した精密な狙撃は、昨年度のアドシアード射撃競技(スナイピング)部門3位の麻弓の腕もさることながら、使用している狙撃銃も非常に高性能な代物であるからこそ成り立っている。

 

 

 彼女の使用している狙撃銃は、H&K社が開発した軍用セミオート式狙撃銃『MSG-90』である。日本でも海上自衛隊を始めとし、各国特殊部隊でも運用されているこの狙撃銃は、同社のアサルトライフル『G3』の20発マガジンを使用でき、また命中精度もセミオート式狙撃銃としては非常に高い。

 

 

 そんな高性能な狙撃銃で精密に狙撃してくる相手に、荒川組の構成員たちは更なる混乱を隠し切れない。

 そんな統率を失った集団に襲いかかるのは夏風のミニミによって放たれる銃弾と銃声だ。暗視スコープで夏風からは丸見えだが、相手からはマズルフラッシュこそ見えるものの弾幕に萎縮し夏風に牽制すらできないでいた。

 

 夏風は秀の指示通りハイラックスの前輪をパンクさせると、すぐにフロントグリルに銃口を上げ引金を引き直す。

 

 いくら頑丈なハイラックスとはいえ、フロントグリルは車の共通の弱点だ。弱装弾でこそあれ、5.56ミリ弾を受けて変形、破損しないわけがない。

 鉄の塊であるエンジンを破壊する事こそ難しいが、しかしボンネット内部のバッテリーや、それに繋がっているケーブルなどは比較的容易に破損し、車内にもその音が響き渡る。

 

 

「うわあああ!」

 

 ドライバーはハイラックスが爆発するとでも思ったのか、転がり落ちるようにして運転席から外に脱出して走り去っていった。

 それをすぐ後ろで見ていたM2の射手も、危険を察知して荷台から飛び降り慌ててその場から離れようとしている。

 

 だが、冬威と結衣はそんな彼らを見逃してはくれない。

 

 麻弓の支援もあってすぐに周囲の構成員も無力化した2人は、完全に戦意を喪失した運転手と射手の手首を掴み上げ、手錠をかけて無力化した。

 

 

 

 ――一方その頃、埠頭の反対側。

 

 響哉たちA班の3人は、M2重機関銃を荷台に積んだ2輌(・・)のハイラックスに即座に対応し、既にその場を制圧していた。

 想定外の急襲を受けても取り乱すことなく、冷静に、相手に主導権を与えることのない、完璧とも言える作戦行動を彼らは取ってみせた。

 

 その先駆けとなったのは、他でもない朱葉響哉である。

 

 飛び出してきたハイラックスの荷台にM2重機関銃が積まれているのを確認すると、彼は荷台に飛び乗り射手の顔面を殴り飛ばして荷台から落とし、直後に運転席から運転手を引きずり下ろしてしまったのだ。

 

 それに並行し、一色と玄田ももう1輌のハイラックスに反応する。

 まず一色が拳銃(XDM)でハイラックスのタイヤを撃ち抜きパンクさせると、車体が揺れM2の照準が乱れた隙に玄田が肉薄し、片腕で日本刀を振るい射手を怯ませ、射手の襟元を掴んで自分も荷台から飛び降りた。

 ハイラックスはタイヤをパンクさせられたせいで急ブレーキも意味をなさず、倉庫の壁に正面からぶつかってしまうと、よろよろと這うようにして運転手がドアを開けて降りてきた。

 

 

「全員、武器を捨てて投降しろッ!」

 

 一色は1発、威嚇のために空に向けて拳銃を撃つ。.45ACP弾の大きな銃声が響き渡ると、切り札(M2)を失った残りの荒川組の構成員は獲物を足下に下ろして両手を上げた。

 

 彼らの意思は決して固くない。圧倒的な戦力差を見せつけさせれば、無抵抗に武装解除をしてくれる。80年代、全国各地で暴力団が勢力争いを繰り返していた頃と同じように、ほとぼりが冷めるまで刑務所に隠れていたいと考える構成員が数多くいるからだ。

 

 

 だが、場を収め、一呼吸入れた玄田と一色とは対照的に、響哉だけはどこかうかない表情を示していた。

 

 

(嫌な予感がするな……)

 

 一色の指示で、投降した荒川組の構成員らが一箇所に固められている間に、響哉は足下に転がっていた拳銃を拾い上げ弾倉を取り出してみる。

 装填されていた銃弾は恐らくロシアか中国で製造された物で、長い間使われていなかったのか所々錆ている部分があった。弾にも鮮度というものがあり、一流は自作までするのだが、しかしいくら何でもこれでは動作不良を起こしかねない。

 まさかと思い、響哉は倉庫の中に隠されていたカバーのかかった中型トラックの荷台に積まれていた商品の中身を確認する。案の定、それも所々錆の見受けられる古い安物の銃弾だった。

 

 響哉が不自然に思ったのは、このような不良品を扱う業者から荒川組が弾薬を購入していた点だった。海を越えてまで検閲の厳しい代物を密輸してくる組織が、こんな粗悪な商品を取り扱っているものなのか、と。

 

 そして、商品が粗悪だろうが購入し続ける理由。安直に思い浮かぶのは、値段だ。

 しかし、海運での長距離輸送はどんな業者でも追加料金を要求してくる。これが公で購入する物ではなく、警察機構に見つからないようにごく少量の商品を取引しているのだから尚更だ。

 

 ならば、その出処は――――日本国内。

 

 

(俺の思い違いだったらいいが……)

 

 心の奥底でそう願いつつも、響哉はこの件を陰で操っていた黒幕の正体に、ある程度の目星を付け始めていた。

 

 




次回:年内(目標)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。