緋弾のアリア 不屈の武偵   作:出川タケヲ

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Hysteria Savant Syndrome

 

 中学の時、俺の家の3軒隣に住んでいた大学院生の人が、こんな事を言っていた。

 

「オカマとかオネエってイケメンなヤツが多くない?」

 その時俺は、「そんなバカな」と笑っていた。オカマと言われて想像していたのがイケメンの双子の方ではなく、砂漠の砂で汚れたラクダの方だったからだ。

 

 

 だが、俺は今日この日、その戯言が真実であったと認めざるを得なかった。

 

 

 

「この姿の時は、私の事は『カナ』って呼んでね」

「……はい」

 

 現在俺と金一さん……いや、カナはモノレールに乗っている。平日の真昼間という時間なので、乗客は少ない。

 

 

 

 金一さんは、誰が見てもイケメンだと思うだろう。そして、今俺の目の前にいるカナも、10人いれば10人が可愛いと言うだろう。

 

 だが、1つ解らない。それは…………

 

 

 

「なんで、女装してるんですか?」

 これは、絶対に訊かなければならない事だとその時俺は思った。

 

「公共の場で女装してるなんて言わないで。

 うーん……話せば長くなるんだけど、いいわ。戦兄弟(アミコ)同士で隠し事は無しよ。教えてあげる」

「そりゃ、恐縮です」

 どうでもいいけど、なんで声も口調も女性のソレになってるんだ? 特に声はどうやって変えてんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響哉は、『サヴァン・シンドローム』って知ってる?」

 

 

 ……サヴァン・シンドローム。たしか、脳の一部が損傷したりすることで、他の部分の活動がその損傷した部分を補うために活発になり、結果として一部の能力が飛躍的に上昇する症状の事だったか。高速で暗算ができたり、目で見た物を一瞬で憶えたりするなんてのがあったな。

 

 昔見た洋画でそんなことを言っていた気がする。

 

 

 

「多少は」

「私達遠山一族は、ソレを血………つまり、DNAとして先祖代々受け継いできているの。私はその事を『ヒステリア・サヴァン・シンドローム』、通称『HSS』と呼称しているわ」

「ちょっと待って下さい。そのHSSっていうのと、あなたが女装しているのはどういう関係があるんですか?」

 するとカナは「しーっ!」と周りをキョロキョロと気にし始めた。どうやら自分が女装していると周りに知られたくないらしい。うん、普通の反応で逆に安心した。

 

 

 ……それにしても、そんなに大きな声で言ったつもりはないのだが。

 

 

 

 

 幸いな事に、この車両には他の乗客は1人しかおらず、その1人もぐっすり眠っていたので大丈夫だろう。運転手が聞き耳をたてていたとしたら、どうか分からないが。

 

 カナはほぅっと心底安心したように胸をなで下ろし、「人前でそういう事は言わないで!」とお叱りを受けた。だったら始めから女装(そんなカッコ)しなけりゃいいのに。

 

 

「それは、今から話すわ。HSSは、その能力を発動するのに条件がいるのよ」

「……条件?」

「そう。血中のβエンドルフィンが一定以上になる…………つまり、『性的興奮状態に陥る』と、常人の約30倍の量の神経伝達物質を媒介し、大脳、小脳、脊髄といった中枢神経系の活動を劇的に増進させるの。その状態になると、理論的思考力、判断力、反射神経などあらゆる能力が――――」

「ちょ、ちょっと待った!」

 これ以上は俺の脳がパンクしかねない。一気にどんだけ難しい事をペラペラ言ってくるんだこの人。

 

「つまり、さっきの話をまとめると……遠山一族にはHSSと呼ばれる遺伝的体質があり、性的興奮を味わう事でその状態になり、いろんな能力が飛躍的に上昇する、と?」

「まあ大体そんなカンジね。正確には30倍くらいに上昇するんだけど」

 

 おいおい…………つまり、この人が女装してるのはそのHSSになるからで、その状態だと普段の30倍、つまり俺が入試の時に闘ったあの金一さんよりも、今の金一さん、つまりカナは30倍強いのかよ……! どんなチート能力だ。ナルトの影分身の術や悟空の界王拳やスーパーサイヤ人並に卑怯だ。普通に考えて同じ訓練をしても常人の30倍のペースでそれが実るんだから。

 

 

(ちょっとからかってみたくなってきた)

 

 

「でも、なんでそんな変態の極地みたいなDNAが存在するんですかねぇ?」

「……確かに普通じゃないとは思うけど、そのDNAを持ってる当人の前では言わないでほしいわ…………」

「H(ヘンタイ)S(サヴァン)S(シンドローム)」

「それ以上は言わないでね」

 カナは腰のホルスターからコルトSAAを…………って危ねぇ!!

 

「すみません悪ふざけが過ぎましたどうか命だけはご勘弁を!」

 第六感が危険を察知し、俺は即座に席から跳んで空中で土下座の姿勢を作り、そのまま着地して床に額を付ける。この1ヵ月で編み出した俺の必殺技、『フライング・土下座』である。全くもって要らんモンを作らされてしまった。これも生存本能の成せる業か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カナはさっきの事を許してくれたらしい。ただ「今度言ったらハチの巣になるよ」って言っていたので俺はこれ以上HSS類でこの人をからかうのはよそうと心に決めた。

 

 

 

「ところで、今日の依頼ってなんなんですか?」

 今回の依頼は金一さんが持ってきたのだが、俺はその内容について全く聞かされていない。よって、これからどこに何をしに行くのか全く知らないままついてきたのだ。

 

「あー、まだ言ってなかったわね。でも、もうちょっとで着くから。現場に行けば解るはずよ」

「……?」

 その時、俺はカナの言っていた言葉の意味がわからなかった。

 

 

 


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