緋弾のアリア 不屈の武偵   作:出川タケヲ

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Oh My God

 俺が武偵高に来てから早1週間。長いようでものすごーく短かったと思う。

 

 その短い間に微妙にヒビの入っていた同居人との友好関係を再構築できた俺はきっと大物なのだという事にしておこう。

 

 

 

 現在、俺は食堂で強襲科寮の同居人である榊原龍(サカキバラ リュウ)、八雲戒(ヤクモ カイ)、御薗春樹(ミソノ ハルキ)の3人と共に昼飯を食べている。

 俺と春樹はサンドイッチ。戒はハンバーガー。龍はBLTサンドと見事にパン系で統一されている。日本人の米離れは本当だったと信じざるを得ない。

 

 

「響哉、今日から民間からの依頼(クエスト)受けれるんだろ。すぐに行くのか?」

 龍がその大きな口でBLTサンドを頬張り、横の頬に詰めながら言う。リスかよお前は。

 

「口に食いモン入れながら喋んな」

 俺は携帯電話を取り出し、昨日金一さんから届いたメールを3人に見せる。

 

 そのメールの内容は、至極簡単。

 

『明日からお前も民間の依頼を受けられる。よって、お前を俺の行く依頼に同行させる。待ち合わせ場所は後で連絡する』

 たったこれだけだった。

 

「くっそー。いいよな響哉は。Aランクだし、滅茶苦茶強い戦兄(アミコ)がいて」

「本当だな。俺達はまだ簡単な依頼しか受けられないのによ」

 龍と戒が愚痴をこぼしているが、俺はそれを華麗にスルーしてケータイをしまう。

 

「でも、それだけ危険が伴うんだから一概に羨ましいとは言えないね」

 おお! ナイスフォローだ春樹! もっと言ってやれ!

 

「だったら、1日でも早く死んでくれ」

「日じゃなくて秒だろ」

 

 …………また始まったよ。強襲科(死ね死ね団)の悪い癖が。

 

 

 

 俺や金一さん、春樹はそうでもないが、強襲科のヤツらはまるで挨拶のように死ね死ね言ってくる。もう聞き飽きたんだよ、そのネタは。

 

「一体お前らは1日に何回死ね死ね言ったら気が済むんだ。たまには死ね以外言えないのか?」

「じゃあくたばれで」

「そういう事を言ってるんじゃねぇんだよ!」

 

 まったく、これだからこの2人は。テレビのリモコンの争奪戦もこの2人だけがやってるし、おまけにその時に絶対と言っていいほど拳銃を抜きやがるからリビングにはパテで埋めた弾痕がいくつも残ってやがる。おまけにこの前そのテレビをぶっ壊してしまったのだから鬱陶しいこと山の如しだ。

 

「ま、まぁまぁ…………響哉君も落ち着いて」

 ホント、春樹くらいしかまともなヤツはいないよ。いや、この学校でまともなヤツを捜すのがそもそも間違いなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 昼飯を食べ終わった後、俺は3人と別れてモノレールの駅に向かう。

 そこのホームが、金一さんに指定された待ち合わせ場所なのだ。

 

 約束の時間の30分も前に着いてしまった俺は、ホームの椅子に座って時間が経つのを待っていた。

 

 ……コクン…………コクン…………

 

 どうやら最近の金一さんによる無理な訓練の疲れが溜まってきているのだろう。猛烈な睡魔が俺を襲ってきた。

 

 俺はその睡魔に勝てず、意識を手放してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……や……きょ……や…………響哉!」

 

 誰かが、俺の名前を呼んでいた。

 

「――っは!」

 俺はどうやら転寝(うたたね)してしまったらしい。すぐに胸のホルスターのP2000を確認する。寝てる間に盗られていたら大変だ。

 

 

 …………よし。拳銃は大丈夫だ。

 

「響哉、武偵がそんな無防備に寝ちゃダメ。武器を盗られたりしたら大変なのよ」

「す、すいません」

 

 正論だ。魔が差してっていうのも有り得る。凶器を持つ者はそれだけの義務があるのだ。武偵法9条も同じ。拳銃や刀剣を扱う者は、それ相応の責任を感じなければならない。

 

 

「次からは、気をつけなさい」

 

 ……ところで、さっきから気にはなってたんだが…………誰、この人。

 

 

 長い茶髪の三つ編み、薔薇色の唇に碧眼。目が覚めるような美人。そして着ている服は武偵高の制服。こんな娘、武偵高にいたっけ…………?

 

 

 

 なぜか、このタイミングで第六感がある人物の名前を引っ張り出してきた。

 だが俺はそれを真っ向から全否定した。というか、信じたくなかった。

 

 目の前にいる娘は、俺が今まで見た中でもっとも綺麗で可愛い、まさに絶世の美女だ。今まで俺が見てきた女子が、極端に言うと大根に見えるくらいの。

 

 

 だからこそ、信じたくない。受け入れたら、俺の今までの大して長くも無い人生を呪いたくなってしまう。

 

「返事は?」

「あの~、あなたはもしかして、その…………」

 

 

 

 

 今日ほど、第六感が間違いであってほしいと思った事は未来永劫ないであろう。

 

 

 

 だが、現実はいつだって残酷なものだ。何かの漫画でそんな言葉を見た気がする。

 

 

 

 

 

 

 

「遠山、金一さんですか…………?」

 

 

 

 

 

「えっと、うん」

 目の前の娘は、少し考えてからコクリと頷いた。

 

 

 

 

 

「………………」

 俺は、今日この日……

 

 

 

 

 

 神はいないのか、もしくは死んだのだと確信した。

 

 

 

 

 


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