季節はあっという間に流れ……3月。
多くの学校では卒業式シーズンを迎え、1年もの間学校を引っ張ってきた3年生たちは、長らく世話になった学び舎と、そこで出会った友人達に別れを告げ、各々の未来へと歩んでいく。
――――それは、ここ東京武偵高も例外ではない。
武偵を養成する総合機関といっても、武偵高は名目上、あくまで高等学校。故に、卒業もある。
在校生は笑って卒業生の旅立ちを見送る。それが、卒業式のルールだ。
もっともそれは、普通の学校の話でしかないのだが……。
――東京武偵高の校長である緑松尊の言葉を最後に式は無事終了し、3年生はこの武偵高を卒業した。
とはいっても、まだまだ思い出があって武偵高を去れない卒業生が大勢いる。しかし、彼らの纏う雰囲気は下級生とは違い幾度となく死線を越えてきた強者のそれだ。「卒業おめでとうございます」、と気軽に声をかけるどころか、おいそれと近寄ることさえ躊躇わせる。
そんな中、俺の携帯に一通のメールが届く。金一さんからだった。
『今日午後5時、強襲科の闘技場(コロッセオ)に武装して来い』
メールには、それだけが書かれていた。
――そして、夕方5時。
俺は一度寮に戻ってP2000と雲雀を整備して、万全の状態で闘技場に着くと、そこにはカナの姿があった。
その姿は制服姿ではない。漆黒のコートを着込み、手袋まで着けている。いくらなんでも3月に着る服にしては違和感を感じざるを得ない。何かあるのだろうか。
「よう、カナ」
俺はとりあえず闘技場に降り、カナと相対する。だが、その雰囲気はいつものものではない。もっと、殺気のようなものを滲ませている。
「来たわね、響哉」
「そりゃ、呼び出されたんだから当たり前だろ。今日はこんな所で一体何をするんだ?」
「私と闘いなさい」
カナの放った衝撃的な一言に、しかし俺は思いの外落ち着いたままいられていた。
時期と場所から、こう言われることはある程度予測できていた。最後に俺の成長を確かめるために、カナは俺と1対1の勝負を挑んでくるだろうと。
ならば俺は、それに答えなくてはならない。言葉ではなく、闘いによって。
(見せてやるよ、カナ。俺の1年間の成果を――!)
スゥっと大きく息を吸い、そしてゆっくりと空気を吐き出す。カナにこれを見せるのは2度目になるので、俺の雰囲気の変化には大して驚いたような素振りは見せない。
「練気法……あなたはやっぱり、成長が早いわね。私も少し、本気を出してみようかしら」
カナがそう言った直後――――凄まじい寒気が、俺の背中を走った。
さっきから感じていたカナの殺気めいたものが、一層強くなって俺に襲い掛かってくるようだ。
「さあ響哉、銃を抜くのよ。そして、この1年でどれほど成長したかを……私に見せてみなさい――――!」